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求める方の元で咲けるのならば、薔薇も本望でしょう。
[微笑を湛えたままの顔、口唇から紡がれる言葉は、
真意を読み取らせないかの如くに淡々として]
……御存知ですか?
ここの薔薇は、元々は全て白かったんですよ。
[無残な断面を撫ぜる青年の横顔を見ながら、笑みを深める]
それが時を経るうちに、徐々に黒い薔薇が咲くようになったと。
……薔薇の気持ちがどーかまでは、俺にはわっかんないけどさ。
育ててる身としては、悲しくない?
[つ、と輪郭を撫ぜる。軽く押し離せば、茎が僅かに揺れて。
続く言葉に、蒼の瞳を見開く。
す、と囲まれた薔薇を眺めれば、眉を顰めて]
黒と白、ってのもキレイっちゃーキレイ、だけど…。
……突然変異にしたって、変な話だ。
悲しい、ですか?
残念ながら、私はそれ程に優しくはないもので。
ただ、手折るならば黒よりは白を、というのはありましたが。
[視線をモノトーンの花から逸らすと、片手を額にやりつ月を仰ぐ。
孔雀石の瞳はレンズ越しに雫を受け、鮮やかな緑を見せた]
ええ、奇妙な話です。
もしかしたら、“何か”があったのかもしれませんね。
……紫陽花の下に死体が埋まっていると、
赤紫に染まるなどとも言いますが。
俺だったら、…悲しい、かな。多分。
生憎、植物を育てた経験は無いからハッキリ言えないけどさ。
色の違いに、深い意味があるなら別かもだけど。
[僅か肩を竦め、相手へと視線を向ける。]
何か、ね。 あまり考えたくないなー…。
紫陽花は…科学的に酸性濃度の関係らしいけども
薔薇は、終ぞ聞いた事が無いな。
―――掘り起こしてみる?
[最後の一言はくつりと、何処か冗談めいて]
深い意味、ですか。
ええ、 ――……まあ。
[珍しく、曖昧に濁された言葉。
青の視線を感じ取ったか、顔を地に水平に戻ると、
傍らの客人にくすりと笑みかけた]
後始末が大変になりそうですので、遠慮しておきましょう。
科学的に解明出来るものならば宜しいのですが、
呪いなどであれば、どうしようもありませんから。
[返す執事の口調も冗談めいてはいたが、本気とも取れたか]
事実は小説より奇なり、とも申しますしね。
そっか。
[濁された語尾に、僅かに眉を上げるものの
言葉と共に一つ頷けば、追求せずに。
孔雀色の光と視線が合えば、くつくつと笑う。]
確かに。
…後始末の労力を惜しんでまで解明する事でも無いか。
苦労して掘った挙句に、呪いが出てきたらシャレにならんしね。
[けらり、と笑みながら目の前の一輪を撫でる様に弾いて。]
または、知らぬが仏。ってか。
ええ。
[どの言葉にか、にこやかな表情で首肯する。
弾かれて揺れる花弁を、目を細めて見つめ]
私はまだ少々ここにおりますが、シード様はどうなさいますか?
んー…じゃ、俺は中に戻ろっかな。
折角用意してもらった食事が、冷めたら勿体無いですから。
[に、と口端を上げれば、邸内へと身体を向ける。
あぁと思い出したように顔を上げれば、ひらりと手を上げて]
夜も遅いと、身体冷えるから。
…風邪ひかないように、気をつけて?
[返った言葉に、笑みを向けて。
ゆっくりと歩を進めれば、その姿は邸内へと消える。
そうして遅れ晩餐へと混ざれば、
他の客と他愛ない雑談を交わしながら食事へと*有り付いて*]
[影が角を曲がり、その先に消えていくのを見届けると、
執事は再び、黒と白の一角に緑の視線を向ける]
呪いでは、ないんでしょうが。
[咲きかけの白の薔薇に、白の手袋を嵌めた手が触れる。
――ふわり、と。
花弁が綻び始めたかと思うと、時を早送りにされたかの如く、
数秒のうちに開ききり、清廉な色を映し出した。
茎に指をかければ、それは難なく茂みから引き抜かれて。
痛々しい折り痕すらも、そこには残らない]
何事も起こらなければ、いいが。
[一度は心の内でした呟きを声に出す。
それで何が変わる訳でもないのだが。
憂いを一時忘れようとするかのように目を伏せると、
白い花弁を口許に当て、束の間*その香りを楽しんだ*]
─2階・客室─
[光を感じて、目を覚ます。
しばし、ベッドの白に身を預けたまま、ぼんやりと目に入る天井を見つめた。
階下から微かに響く慌しい物音は、食事会の準備の最後の追い込みだろうか、などとぼんやり考えて]
……ああ……今日が、お披露目……か……オルゴールの。
[どこか、ぼんやりとした声で、ぽつりと呟く]
オルゴール……。
……さなくては…………を…………に…………。
[不意に、掠れた声が零れ落ちる。
それは、彼の声ではあるけれど、彼のものではないようで。
それを聞きつけたカーバンクルがきゅきぃっ! と。
まるで、警戒するような鋭い声を上げた]
……っ……。
[その響きに我に返ったかのように、ぼんやりとしていた翠の瞳がはっと見開かれ。
数回の瞬きの後、ゆっくりとベッドの上に身体を起こしてきつく頭を振る]
……まったく……。
[はあ、と。
零れ落ちるのは深い、ふかい嘆息]
……大人しくしろって、言ってるだろうがっ……。
[それに続いて吐き出される言葉は、はっきりそれとわかる苛立ちを帯びていて]
……俺は、『お前』の目的なんか知らない。
そのために、ここに来た訳じゃない。
俺がここに来たのは、あくまで、自分の研究のためだ。
……『お前』の……勝手に人に棲みつくヤツの都合なんか、知った事じゃない……。
[だから、と言いつつ、握った右手を胸元に当てて]
……だから……大人しくしろ、『 』。
[苛立ちを帯びた言葉は、言った相手に伝わったのか。
やがて、険しかった表情が、疲れたような、それでも安堵したようなものへと変化する。
はあ、と。
嘆息が零れて。
その様子を見つめるカーバンクルは、不安そうな声を上げつつ、白い尻尾を落ち着きなく振っていた]
ん……心配ない。ちゃんと抑えるさ。
……抑えないと、な……こんな厄介なもんは。
[最後の部分は、自分自身に向けるように呟いて。
不安げなカーバンクルの頭を、*安心させるようにぽふり、と撫でた*]
―客室―
[明け方、ふると睫が震えた。
長いその下から、色を見ることない双つ石が現れる。]
……薔薇。
[呟きはほんの微かな吐息のように。
彼女の指が何かの形を宙に取る。
それは意識があるのかないのか――ただただ空]
[そのまま手は小さく音をたて布団に沈む。
閉じられた瞳は何も見ることはなく。
次に目が覚めたなら、忘れぬようにと一度はなぞったその線を、*紙の上へと写すのだ*]
−客室−
[朝の光がカーテンの隙間から零れる。
女は未だ起きることなく、真白なシーツに包まりまどろみの中]
…ァゥ…ン…
[真白に転々と散るは黒の花弁。
それを毟られた後の残骸は、*屑篭の底へと転がって*]
……ええ、そのように。
[流石に食事会ともなると普段より気合も入るのか。
執事は手筈の確認を他の召使い達と行っていた。
とは言え、メイド長などは執事より経験がある為に、
本来ならば殊更口出しをするような事はないのだが]
ワインとビールの準備も怠らずに。
ローテグリュッツェの仕上げは、私の方で。
[幾つかの言葉を交えた後、執事は厨房を後にして、
硬い靴音を鳴らして階上へと歩んでいく]
[オルゴールの仕舞われた部屋に辿り着くと、
その前に立つ侍女に声をかけ、交代の旨を告げる。
まだ勤めて年数の浅い彼女は慌てた様子で頭を下げ、
服の裾を翻して階下へと走っていった。
孔雀石の双瞳は暫し小さくなりゆく背を眺めていたが、
完全に見えなくなると、扉の方へと視線を揺らめかす。
厳重に鍵の掛けられたこの先は、主の許可なしには、
執事にも無断で入る事は許されていない]
――音色は。
聴いた事があっては、ならないんですよ。
[それは、先日の客人の問いかけに答えだろうか。
当人はその場にはおらず、聞こえるはずもないが。
細められた緑は、親しいものに接するが如く柔らかくも、
或いは、警戒を示す鋭い色を持つかのようにも*見えた*]
−客室−
[白い肢体をベットに横たえたまま、女の意識は空を彷徨う]
『…いよいよ今夜ネェ。
こんなにももったいぶっておいて、つまらない物でしたらァ…
酷い目に、あわせてさしあげてよォ?』
[執事の答えは女に届かない。
ただただ、誰も聴いたことの無い音への興味は募りゆくばかり]
[素足を絨毯へ下ろせば、はらりと黒の花弁が舞い落ちる。
気だるげにガウンを引き寄せ、袖を通してからカーテンを開く]
…ァァン、眩しいわァ…。
日が落ちるまではァ、中で過ごした方が良さそうネェ。
[目を細めて呟き、窓を開いて空気を入れ替える。
女は床の花弁が風に揺れるのも見ず、*身支度を整え始めた*]
[ベルを鳴らして召使いを呼び、軽食を取った後。
女は邸内を散策するべく部屋を出た。
退屈な時間を潰す為だけに、当ても無く邸内をそぞろ歩く]
…ァラァ、こんな所で何をなさってるのォ?
[晩餐会の準備に活気付いた屋敷内の中。
静かな方へゆらゆら進み、その一角に立つ執事に甘く声を投げる]
フゥン…そうなのォ。
それでは御楽しみは後に取っておくとするわァ。
[執事から返ったのは、差し支えない程度の説明。
けぶる睫毛の下で深紅の瞳を揺らめかせ、淡く色付けただけの唇に指先を添えて微笑む。まるで内緒話でもしたかのような仕草]
―客室―
[寝台から身を起こす。幾度か瞬くうちに、蒼い眸は焦点を結んだ。]
[其処から降りはせずに縁に腰掛けたまま、窓の外を眺める。]
今日、だっけ・・・
[乏しい表情の代わりに声は楽しそうな響きを帯びた。]
[瞬間、隠れがちの二つの蒼が薄く紅く染まったことに、自身ですら気付いてはいない様。]
[瞬いた次には、既に何時もの蒼へと戻る。ゆっくりと寝台から降り、身支度を整えた。]
[何時もの逡巡は今日は短い。慣れたのか、昨日友人の少女に会えたことも影響しているのかも知れない。]
[扉を開き、そっと踏み出す。]
―客室→2階廊下―
[今宵の準備で忙しいだろう邸宅の主の部屋は訪ねず、そのまま階段を下りて行く。
踊り場でカツンとヒールを鳴らし、更に下へと降りていこうとターンすれば、視線が捉えるのは鈍い銀色の髪]
…アラァ、御機嫌よゥ…イレーネ?
[手すりにしな垂れるように小首を傾げ、微笑みと声を投げる]
[不安気ながら、忙しく動き回る使用人たちの邪魔にならないようにか廊下の端のほうを進む。]
[不意に掛けられた声にはやはり驚いたようで動きを止めた。]
・・あ。
こ、こんにちは・・・
[赤い女性の姿を見つけ、俯きがちに挨拶を返す。]
[俯きがちに挨拶を返す少女に、艶やかな笑みを向けたまま]
ハァイ、どちらに行かれるのかしらァ。
差し支えなければァ、ご一緒してもよろしくてェ?
[少女がどこを見ているのか知ってか知らずか、なんでもないことの様に問いかける。
重たげに伏せた瞼の下では、興味本位な瞳が煌く]
どちら・・・って、・・特には・・・
[本当に考えていたわけではないようで、眉を寄せて悩む様子。尤もそれは前髪が隠して女性からは見えないかも知れない。]
ええと・・・
・・エルガさんは、どちらへ?
[結局質問を返す形になった。視線は女性を見ているようで、背後の階段へと微妙にずらされている。]
…フゥン、そうなのォ。
[つまんないとでも言いたげな様子で薔薇色の髪を弄る]
私もォ、目的の場所は無いのォ。
…そうネェ、ホールにでも行ってみようかしらァ。
[少女の目的が上への階段なら、既に女は訪ねた後。
ならばと階下へと行くかのように言葉を選ぶ]
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