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[その場から立ち去りゆこうとする背に、聞き覚えのある声がかかる。風が吹いて髪を乱すは、主が為に引きとめんとするかのよう]
『…かぜの』
[唇を動かして、小さく頭を下げる。
既に人間と知るが故に、近づくか、近づかぬか…しばし迷う。
その間に疾風の男は近づいていて、私は少しだけ首を竦める。
彼の仔は肩の鳥を興味深げに見つめようか]
『……ええ もう やすみましたゆえ』
[風に愛されし男には、口の動きだけでも滑らかに通じようか]
[首を竦めるのが見えれば、必要以上には近付かず。手を伸ばしても触れない位置辺りで立ち止まる。動く唇、されど発されないその声に僅かに目を見開くか。それでも何を言いたいのかは風がその補助をしてくれて]
そか。
…あんまり疲れは取れて無いみたいだな。
喉も、痛めてるみてぇだし。
[自分の喉を示しつつ。肩の鳥は興味を示されればぱたぱたと羽ばたき己を見つめる従魔の前に舞い降りる]
[恩人に癒してもらえば、とも思ったが、彼の娘はここには居らず。この者を一番心配するであろう流水の猫も居なくて。人間を恐れるとも知っているが故にどう声をかけるか迷っているのが目に見えて判るだろうか]
[歩みの止まる足。私は僅かに申し訳くなりて柳眉を下げる。
僅かに見せる驚きには、少し視線が揺れやも知れぬ]
『……そう みえまするか…』
[疲れているのは事実ではあれど、人目見て言われるは流石に堪えて。私は僅かに眉を寄せる。
なれど風の男の困った様子に、視線が揺れて…黒の猫へと移る]
『あの子は エィリ殿の 仲良き子』
『…探しているので しょうか…』
[そう告げる傍ら。
彼の仔は近づく鳥を触ろうとして、手の中の荷に困り顔]
[何もしないと言う意思表示のように両手はジーンズのポケットへ。尤も、いつも立ったり歩いたりする時のスタイルでもあるのだが]
人型が完全には保てて無いみたいだからな。
そう、思った。
[眉を寄せる様子に簡単に説明して。獣族の詳しい生態までは知らず。憶測で言葉に出したのではあるが。揺れる視線が黒猫へと向かえば、自分もそちらへと視線を転じ]
ああ…道理でさっきからうろついてると。
見えぬ姿を探し彷徨うか。
…居なくなったと言うのが分からないのか、信じたくないのか。
[大抵の猫ならば反応する例の音に飛びつかなかった黒猫。ナタ・リェの言葉にようやく合点がいった]
[パタパタと従魔の周りを舞った鳥は、困っているらしい様子を知ってか知らずか。従魔の肩へと降り立った]
─厨房─
……おかしいなあ、じゃなくて、ね。
[ブリジットの説明にはあ、とため息をつきつつ、徹底指導開始。
それでも、何かに安堵らしき物を感じているのか。
傍目、表情は穏やかに見えたろうけれど]
まあ、うん。
失敗なくして上達なし。これから頑張ればいいよ。
[彼のためにも、ね、と。冗談めいた言葉に無垢な影精は、どんな反応を返したやら。
いずれにしろ、陽精に後を託して厨房を離れ]
さて、と。どちらにおられますかね。
[呟き、気の流れを辿るよに歩き出す。追いかけるのは、雷撃のそれ]
[「人型が保てていない」
さすが情報を扱うだけはあるのか、図星のそれに瞳が揺れる。
乏しい表情と異なり雄弁は獣の耳は、明らかに動揺していよう]
『……いずれにせよ さみしいのだと』
[足元に来た黒猫へと手を差し伸べ、撫でようとする――その目の前で黒猫は黒い髪の子供に変化した]
―屋敷の外―
[時空竜が自分を捜しているとは知らずに、アーベルを探して、屋敷内をうろついた後、外へと出て来た。まだ少し、動きは鈍いと彼を良く知る者ならば見て取れるか]
んー、やっぱどっか行っちゃったのかな。
それとも…
[地下の方なのか?と視線を地面に]
[まだ少し、歩みは覚束なく。
後でまた、刻の旋律を借りるようかな、と思いながら、歩き回り]
─…→屋敷の外─
……と、あ。いたいた。
[外に出てほどなく、地面に視線を向ける姿を見つけ出し]
起きてて、大丈夫なんですか、と。
[お前が言うか、と突っ込まれそうな言葉を投げかける]
[震え伏せられる獣の耳。己が言ったことが図星であるのが分かる。何だかさっきから相手の気持ちを沈ませるようなことばかりしてるような、そんな風に感じ、ポケットから引っ張り出した右手でぼり、と頭を掻いた]
…だろうな。
[寂しい、その言葉に短く返し。聖なる獣が黒猫を撫でようとするのを眺める。その瞬間、黒猫は子供へと変化し。その様に呆気に取られるような表情になる]
……いや、うん。
アイツの猫なんだからただの猫では無いか、うん。
[平静を取り戻すべく、ここでは人間界での常識が当てはまらないんだ、と言い聞かせる。ぺしょりと座り込んだままの黒髪の子供は、寂しげにこちらを見上げる。聖なる獣は伸ばした手をそのままその子供の頭に乗せ、慰めるように緩やかに撫でるか]
―屋敷前―
[声をかけられて振り返る]
寝過ぎると目が溶けるって言うし。まあ、寝てる場合じゃないでしょう。
[お互いに、と言外の意は伝わるか?]
確かにね。
[言外の意は伝わったか、くすり、と笑って]
にしても、昨夜……一体、何が?
広間の様子は、大体把握してたけれど……。
[消えた者たちとの間で何があったのか、と。問う時には表情は、静かなそれへ]
[「アイツ」
親しげに聞こえる呼びかけに、私は問うよに風の男を見やる]
…そなたら、知り合いなりや?
[黒猫であった男の子は、撫でられるまま。
黒猫の主が誰とは知らず、ましてやフルボッコ仲とは知らず、不可思議そうに問いかける]
いや、運んだのは俺じゃなくて、アーベル。
俺は、腕、塞がってたからね。
二人は……消えたと。彼からそう聞いたけど。
その前段階の君の負傷については、さっぱり。
[従魔は鳥が肩に止まると瞳を輝かせ、触れない代わりに頬を摺り寄せる。鳥もまた相手のその仕草に目を細め甘んじた]
ん、あ、いや。
直接の知り合いってわけでも無いんだが。
コイツの飼い主と、ちょっと昔一悶着あって、な。
[僅かに動揺したためか、誰の飼い猫であるかを言いそびれた。無意識に口に出すのを拒んだのかも知れない]
―屋敷前―
アーベルが、ですか?
[丸く目を見開いて、問い返す。見逃してくれた?のか、とは思ったが、まさかそこまで面倒見られてるとは予想外]
本当に、何も考えてないんだなあ…
[ぼそり]
ああ、ええと怪我は単なる家庭争議です。エーリッヒ殿に叱られました。
[説明になってません]
―森林地帯・北西部―
[銀に装う樹林の合間を、さく、と。踏みしめて。
水墨の世界に満ちた白の絨毯に、足跡を一つ残した。
小さく零した溜息は雪煙と変わって、消える。]
…――まるで、牢御所を模した様だな。
[くつりと、苦笑を零す。
少年の蒼を通して、見識っては居たけれども。
『封印』の領域を司る氷破の声の響く場所ならば、
そう感じるのも――或いは偶然では無いかも知れない。
頭の端で薄らと思いながら、僅かにその身を屈めて。
さらりと雪上へと零れる灰銀を気にも留めず、
掬う様にして、指先に真白を乗せた。]
[目を見開く様子に、軽く、首を傾げ]
ああ、そうだけど……。
何も考えてない……って?
[呟きに不思議そうに問いつつ。続いた説明?には]
家庭争議でする負傷ですか、あれが。
[きっちり突っ込み]
[彼の仔と小鳥の戯れに目を細めつ、風の男の様子には首を傾けるのみ]
『…なれば、この子を連れて行ってあげて下さりますか』
[昔の一悶着=現在仲良しの方程式かと、私は男にそう願う。
飼い主たれば、恐らく慰めてくれるであろうと。
それから、ふと私は大切な事を思い出す。
消えた者達を助け、今ある手掛かりを守るための事を]
―屋敷前―
邪魔者は排除する、と、言っていましたから。
自分の意志でやっているなら、僕を助けるのはどう考えても不自然だ。
[時空竜の目をまっすぐに見つめる]
アーベルは、機鋼竜に関わる者、ですよ。彼の介入で、二人が消えるのを見ました。
――…、
[冷やりとする感触に、僅かに眉を寄せて。
しかし其のまま、そぅと掌へと握り込む。
数時間と立っていた所為か。
指先が既に冷えているのか、水へと変わり成る事は無く。
薄暗い空にを見上げ、ゆるりと、蒼を瞬く。
灰銀へと、止む事の無い新たな真白の欠片が舞い降りた]
……模した物とは言え。
失うには、惜しい場所だな。
[ゆるりと、静かに呟いた言葉は、雪へと吸い込まれて。]
[聖なる獣の申し出に、う、と言葉を詰まらせた。昨日の今日、あの天敵と顔を合わせるのは正直辛い。殴られるかもしれないから]
あーうー……分かった。
[しかしそれを断るわけにも、と思い直し。殴られる覚悟をしつつ承諾の意を示す。子供に「行くか?」と声をかけた]
お前さんはどうするね。
もう少しここに居るかい?
[それを口にするより早く、口を開いたのは黒髪の子供であった。
雷の人が怪我して、猫がびりびりして、子供がぺしゃってして、猫と子供が消えちゃった。
そんな事を言って、また黒猫へと戻ってしまう。
飼い主の元に戻りたくない心境なのか、単に風の男が嫌いなんかはわかりはせず。
その気紛れに揺れる尻尾を、傍らの子はじっと見ていた]
[あ、スルーしやがった、と思いはしたものの。
告げられた言葉は、それをひとまず横に置かせて]
彼が、か。
……セレスも、彼には何か感じていたようだけれど……機鋼竜と関わりがあったというなら、納得も行くかな。
しかし、邪魔者は排除する……ね。
なら、そうしなかったのは、君をそれと認識しなかったから、というのもあるのかも知れないが。
[確かにちぐはぐ感はあるかな、と呟いて。
それから、ふと、昨夜の違和を思い出す]
……そういや、彼って。
軽口叩くとかそういうの。今まで、やった事、あったかな?
−北西部:針葉樹林−
[集う粒子][人の形を象る][青の青年]
[何故、其処に現れたかはわからない。]
……、
[座標を誤ったか]
[三対の一に惹かれたか]
[懐かしき気配を感じたか]
[深い色の中、淡い色彩がちらつく]
最初から、違和感はあったから、僕にとっては今更なんですが。
機鋼の精霊力を強く感じるのに、封じられたものが別にあるような…いや、別に、じゃないのか?…説明が難しいですけど。
[もどかしげに頭を掻いて、時空竜の軽口という言葉には、首を傾げた]
は?軽口?アーベルが、ですか?
軽口どころか、まともに喋るのもたまにしか聞いてませんが。
[黒髪の子供が告げた言葉は昨日風により齎された情報と一致していて。そう言えばこの子も傍に居たのか、と思い出す]
ユリアンが怪我…大丈夫なんかね。
[彼の者も自分のことを心配していたとは知らず。同じように無事だろうかと考える。その話を聞いても、特に驚く様子は見せないか]
[黒猫に戻った子供がこちらに背(尻尾?)を向けるのを見れば]
…やっぱ嫌われてるかな…。
[処置なし、というような様相で息を吐いた]
[さく、][ざく、]
[薄い白を][落ちる緑を][踏む]
[鎖の音は柔らかなものに飲まれて]
……、冷えるよ。
[人影に声を投げた。]
[彼の服装では説得力など無いけれど]
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