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―診療所―
[水桶を返す音。何度かそれが響いた]
迷うこと、ないでしょう。
一番大切なのが何かを思えば。
[独り言は力なく。俯いた視界に大きな筋が映った]
……大馬鹿者ですね。
[胸から腹に掛けて走る暗色の傷痕。
助かったのは奇跡だと言われた。一月で回復できたのは自分でも驚いた。今はそれがどうしてなのか分かっている]
[迷うわけではなかった。
だが「終わらせる」ことは躊躇った。
前日の鉱夫が熱を出したりしたのもあり、余裕が出来たのはもう日も暮れようという時間だった]
避けているわけにもいきませんよね。
[溜息をついて立ち上がる。始めに向かった先は宿。
ミリィの所在を確かめて愕然とする。慌てて家へと向かい走る]
ミリィ。ミリィ?
[少し焦って扉を叩いた]
――それは失礼。
喧嘩をする心算はなくても、挑発したのは認めるよ。
そういう反応は人間らしいね、若者。
[イレーネの言葉に眼を眇め、相変わらず反省の無い色で、ユリアンに対して謝罪とも言えない謝罪を返した後、今度こそ上の姉に止められて、其の場から引き離された。
改めてエルザからの謝罪が二人に向けられて、代金をまけるなどという話もされたようだったが、遠巻きに見やるのみだった。
人が一人死のうとも、時の流れに変わりはない。
生けるものが何をしていたかなどという事は些細な事で、やがて、普段と同じに見える夜明けが訪れた]
[一心不乱に。
そうまさに、一心不乱にミリィは絵を描き続けていた。
眠ったと言えるのは、オトフリートに会えた安堵により気を失ったあの時以来、無い
食事と言えるのは、両親がいなくなった日、スープを一口飲んだことが最後。
眠りを体が必要としてなかった。眠ることが出来なかった。
食事を体が受け付けなかった。水さえ飲むことは許されていなかった。
いつか、イレーネから受け取った痛み止めを飲もうとして、即座に吐き出してしまったのを覚えている。
もしも、生きながら死んでいく、ということがありえるのならば、まさにその状態だった。
それを、誰にも気づかせなかったのは、あまり人と会わなかったせいか、
それとも、ミリィが、そのことを端にも見せることのない、強い少女だったからか。
―――そして。
そんな少女の全てを描けた絵が、
今まさに、
完成した]
……出来た。
[ミリィが満足げに微笑む]
半人前の私にしては、良く出来たほうだよね……?
[ミリィの眼前に出来上がった絵。
それは、村の人達全てが笑顔を浮かべながら一緒に立っている絵だった。
そこには、あの時いなかった人達。
オトフリートや、ハインリヒ、他にも仕事の都合で出れなかった村の人達なども違和感無く、溶け込むように付け加えられていた。
その上に描かれた―――空。
一見して、ただの青い空のようにしか見えない。
いや。その時点ですら、まさしく空の一部を切り取ったかのような鮮やかな青い空。
だが、それはそれだけでは終わらなかった。
角度を変えて見ると、真っ赤な夕焼け空。
更に角度を変えると、闇の帳に満ち、星が満天に降り注いでいる夜空。
また角度を変えると、夕焼けが終わる一瞬、誰にでも見れるわけではない、幸せをもたらすという緑色の空。
とかく、角度を変えるたびにその色を変えていく空は、まるでこの村の特色であるオパールのように虹色に光っていた。
ミリィは自分のことを半人前と称していたが、このような空を描ける人間は、世界を探しても、いるかどうか。
人の領域を超え、神の領域に踏み込んだものでしか描くことの出来ない絵だった]
この絵で、みんな幸せになってくれると嬉しいなあ。
[微笑みを見せる、ミリィの顔が青い。
精根尽き果てた。
確かに、このようなものを描いたのならば、その表現が一番だろう。
だが、そうではない。
この絵はまさにミリィの全て。魂を削り、描かれた絵。
神の領域に踏み込んだ対価は、支払わなければいけない。
対価―――それが、ミリィの魂だ。
左手の傷。そこから、ミリィの魂は少しずつ抜け落ちていっている。
あれから、長い時が立っている。
すでに、限界は迫っているのだ]
―――ああ。そだそだ。
最後にもうちょいメモって、覚えておきたいことがあったんだ。
[ゆっくりとした動作でミリィが立ち上がり、絵の裏に回ると、ペンで何か文字を書いていく]
【オトフリート先生
私の最愛の人。この人を好きになれて良かった!
私のおまじないで、ずっと幸せになってね】
【イレーネ
私の最高の親友。イレーネと出会えて良かった!
例え、私が見えなくなっても、いつも一緒にいるよ】
【ブリジットさん
言葉は難しいけど、いつも面白くて、とても優しい人!
いつか、理解できるようになって、色んな話をしてみたいなあ】
【―――】
[本当は。
村の人達全員分を書いておこうと思っていた。
だけど、ブリジットを書き、次の人物を書こうとした瞬間、全身から力がスーッと抜けて、横一直線の線を描いて、ミリィが倒れた。
もう……時間切れだった]
……あ…れ?
[視界が徐々に狭くなっていく。
意識が地球に呼ばれ、同化していく]
……怖いな。一人で死ぬのは。
うん……とっても怖い。
[言いながら、ミリィがそっと自分の唇に触れた。
感触はもうあまりない。けれども、思い出だけは残っている]
もし……もしも、もう一度、先生に会えたなら……最後に言葉……伝えたいな。
[手当ての間の小言には反論せず、傷の痛みもあり、大人しくしていた]
……ああ、それは昔からよく言われるなぁ。
表情がかわらんから、何を考えているかわからない、ってね。
[何を考えているのかわからない、というユーディットに冗談めかした口調でこう返し。
続いた言葉には、気をつけましょう、と笑って見せた。
食事の後、部屋に戻り。
机の上に置いたままの短剣を改めて見る。
血を取り込んだファイヤーオパールは、闇の中で色彩鮮やか。
それを、しばし、見つめ]
……親父殿。
俺は、あなたのようにはできん。
けれど。
[やれる事はやるさ、と。
小さく呟いた後、疲れから眠りの底へと導かれる]
[今まで以上に、村は静かだった。
商店の集う場所ですら同じで、人狼の存在を恐れて、幾つかの店は閉まっていた。外との行き来が侭成らないのだから、仕方がないとも言えようが、開いている店も“容疑者”の姿を見れば、店仕舞いの素振りを見せる。
――あの、死の気配を思い起こす。
それに似たものが薄く村中を包み込んで、少しずつ蝕んでいくような気がした]
[反応が無い。胸騒ぎがする。
それはあの夜と同じような、それ以上に不安を呼び起こす]
…ミリィ。
[扉に手を掛ける。鍵が掛かっている。当然といえば当然。
だから同じように裏へと回った。段々と外が暗くなってくる。それは何の障害にもならなかった]
ミリィ!!
[登った木の上、覘いた部屋の中、倒れている少女。
やはり同じように空いていた窓から中へと転がりこみ、その身体を抱き起こそうとした]
[人間らしいね。
発された言葉に眉を顰める。
相手が誰に対しても疑ってかかると言うのは先程聞いた。
だからと言って、疑われるのは気分が良くない。
青褪めながら周りを疑うと言ったイレーネと対照的に、反省の色無く言うアーベル。
印象は最悪だった]
[アーベルが女将によって引き剥がされ、謝罪を向けられると「……お気になさらず」と形式的な言葉を述べて。
代金をまけると言う話も丁重に断った。
やや後に、イレーネの様子を案じながら宿屋を後にすることだろう]
[明けて翌日は、前日の疲れが出たのか見事な寝過ごしで。
どことなく残る気だるさを持て余しつつ、まずは左腕を確かめる]
ん、動くな。
[それを確かめて、最初にやるのは、譜面を開く事。
仕事が仕事として成立する可能性は大分低いが。
書きかけの曲は、完成させたい、という思いは強かった。
譜面を辿り、右手で鍵盤を叩く。
それは、いつもと変わらぬ日常。
もっとも、村全体から見れば、異常な状態なのかもしれないが]
……?
[狭い視界の中に、何かが飛び込んできて、自分の体を抱きしめてくれた。
なんかもう、感触があまり無い。
食事とか取ってないから、すっごい軽くて、驚かせちゃうかもしれないなあ。
そんなことを思いながら、その目の焦点を合わせてみると、そこには、先程会いたいと望んでいた、オトフリートの姿。
嗚呼。神様は、もう一度だけ、願いを叶えてくれたんだね]
……やっほー、先生。
そこ、玄関じゃないんだけどなあ……てか、身軽だね、せんせ。
[いつものような調子で話しながらも、嬉しくて、笑みが止まらない]
あ。そうだ、せんせ……。
絵。完成したんだ。
イレーネに真っ先に知らせてあげるって…約束してたから……教えてあげてもらえるかなあ?
[翌日。
いつも通りに起きて用をしているうちに、部屋からピアノの音が流れてきてエーリッヒが起きたのを知る。]
あら、思ったより早かったですね。
[呟いて、昼食寄りのブランチを持ってエーリッヒの部屋へ行く。
こんこん、といつものノック。]
おはようございます。食事をお持ちしました。
[ノックの音と声。
それにも、手は止まることはなく。
弾むように連なる音を幾度か繰り返す]
ん……ああ。
鍵、かかってないから。
中に適当に、置いて行って。
[手が離せないから、というのは既にいつもの事と言えるので、言わず。
左手は、いつもよりはゆっくりとだが、音符を消したり書き足したり]
ミリィ、どうしたんですか。
[一瞬、動かしてはいけないと思って手が止まった。
だがミリィが反応を示したのを見て改めて抱き起こした。
その身体はありえないほどに軽かった。
いつも元気な少女には似つかわしくない、儚さを感じさせる]
緊急事態ですから。
[固い口調で返しつつ、視線を画布の方へと向ける。
思わず息を飲んだ。その位に力強い絵だった]
凄い…。
ああ、イレーネにですね。分かりました。
でも今はとにかく。
[横抱きに抱えて、立ち上がろうとした]
はい、わかりました。
[中に入れば机に食事の乗ったトレイを置き、そーっと音を忍ばせて、エーリッヒが向かうピアノの方へ。
書きかけの譜面に目をやった。]
前に見たときよりも進んでますね。
[それだけは見てとって、邪魔にならない程度の声で言った。
それから窓へ向かい、カーテンを綺麗に整えた後、もう一度エーリッヒの方へ向かう。
あまりに真面目な顔でピアノと向き合っているのでどう切り出したものか多少迷ったが、結局古典的に空咳をしてみることにした。]
……あの、お仕事中にすみません。
私、実はエーリッヒ様に教えてないことがありまして。
[と、言い出しかけて、本人もその場に居たほうが何かと都合が良いのではないか、と遅まきながらに思いつく。
だがもう話し始めてしまった、ええいもういいや、と腹を括る。]
アーベルのことなんですけれど。
-娼館-
[あのあと、良く味の分からない食事を食べ終え、ユリアンに送られて娼館へと戻った。
夜いつも聞こえる声は、あまり聞こえない。
状況が状況だけに当然かとも思いながら、なかなか寝付けずにいた。
それでも翌日はいつもの時間通りに起きて、何時もと同じ仕事をこなす。
色々終わった頃には夕方も近く、窓辺の椅子に腰掛けてぼんやりと空を見ていた。
青から赤、そして黒へと変わりゆく空を。]
[譜面に対する言葉には、多少だけどね、とだけ返して、また音の流れを確かめる。
そのまましばし、新しい連なりを確かめていたものの]
……教えていないこと?
[唐突な言葉に、一つ、瞬き。
手が止まり、緑の瞳がユーディットヘと向けられる]
アーベルが、どうかしたのか?
うん……お願い。
[視界が上昇する。
持ち上げられたのだろうか。
それすらも、よく分からない。
意識が混濁してくる。
光が、目の前を照らす。
まぶたが重い。
せっかく、最後にもう一度会えたのに、何を言えばいいのか、思いつかない]
先生。
先生は……この村が好き?
この村に来て、良かったと思ってくれてる?
[声が紡ぐのは、今まで思っていたこと。
拒絶されたら、怖いと思っていたこと]
……私は、大好き。
この村に生まれて、良かった。
イレーネや、ブリジットさん、エーリッヒさん、ユーディットさん、ハインリヒのおじさん、ユリアン、ノーラさん、ティル君、アーベルさん……他にも色んな人達に会えたから。
[イレーネを送り届けてからは工房へと戻る。
明かりのついていない作業場。
技師が戻って来た気配は無かった]
……結構、来るなぁ……。
[誰も居ない工房の中でぽつりと漏らした。
いつも工房には技師が居た。
それが当たり前だった。
その当たり前が、無くなった。
ただそれだけなのに、何だか少し苦しかった。
部屋へは向かわず、外に出たまま天を見上げる。
空の色の変化が、時の流れを物語っていた]
[立ち上がり、まずは寝台へと移動させようとして。
視界に入った絵画に再び動きを止めた。
鮮やかに印象を変えてそこにある絵。目を奪われるというのはこういうことかと、無意識の中をかすめていった]
村の全員…。
[絵画を見つめて呟きを零し]
ええ。でなければ、残りませんでした。
おおらかな人々、余所者であるのに受け入れてくれた人々。
そうでなければ、どうして残れたでしょう。
残りたいと思った。それは、私自身の意志です。
はい。
[頷く。]
実は、この間酒場のキッチンにお邪魔したときに、アーベルと少し話したんです。
そのときに、アーベルが……自分も、イレーネと同じに、人狼を見分ける力があるんだ、って。言ったんです。
黙っていてすみませんでした。
でも、もしそれが本当なら、迂闊に人に言えないと思って。
名乗り出たら人狼に襲われる危険があるから、アーベルは表には出ないようにしているみたいですし。
あの時。回復しながらも、まだ動けなかったとき。
貴女の笑顔にどれだけ励まされたことでしょう。
まるで生命の象徴のようにも見えたのです。
…それを厭うことなど。
どうしてできるでしょう。
[どこか苦しさを滲ませて、それでも確かに]
貴女がいたから。
貴女の傍に居たいと思ったから…。
[オトフリートのその言葉に、ミリィが大きく、心から微笑んだ]
良かった……。
先生、みんなと仲良く…ね。
ありがとう―――大好きだよ、先生。
[最後にもう一度、微笑んで、そのまま、まぶたを閉じる。
そして、その紅玉色した瞳は二度と開くことは無い。
少女が静かに息を引き取り、17年という短い生涯に*幕を告げた*]
[訪れたのは、見計らったようなタイミング。
メルクーア宅の前――此処に来るのは何時振りだろうか、などと考えながら、数度、強く扉を叩く。
長めの青に隠れつつも、白金の煌きを放つ石が在った]
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