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…あるがままの―――死。
[がり、と地面を削る足から白い粉が生まれて風に運ばれていく。]
[鳥に――風に、なりたい。]
[頭に咲いた黒百合が白く、白く。]
[聞こえた声。風が吹く]
あるがままの死でも、この病気は、残酷だわ。
でも、アーベルさんは、そうしたかったのね。
[ヘルムートに名を呼ばれ、大丈夫、と首を振って]
風に、なりたかったの?
[壁際に寄って、一つ一つ、機器を辿る。
右の光が失われている分、視野は狭い]
……あの性格だと、まず、普通に『わかる』ようにはしないはず。
何か……違う形の、目印があると思うんだが。
[零れる呟き。
届く、妖精の声>>234に振り返る。
霞む視界は、その示す位置を捉えきれない]
……どこ……だ?
[問いは自然、傍らのナターリエへ]
[子供と言われて頬をふくらませかけ。]
ライヒならいいか。せいぜい甘えさせて。
[笑って。奥の機器へついて行った。
問われるまま、妖精の指差す先を示した。]
ここよ。
もしそうなら。私と一緒なの。
今は違うけれど。
風は、自由だもの。
色んな世界を、見てみたかったから、風になれたら、視られるのかなと思ってた。
[幼いころの、夢。理由は違うのだろうけれど。
生き
征きなさいと、声が聞こえた ]
行き
行かなきゃ。生きるために。
[白い花を巻き込んだ風は、盲目の少女へ向けて流れる事は無い様子。ヘルムートは、見開いた両眼をカインに向ける。]
──消えるのは、待て。
アーベルは、
ピューリトゥーイを投与された彼は、
死んでも。
囚われてたまま なのか?
[記念写真が最初の写真だと虚ろな声で言ったアーベル。彼は、ファインダーに切り取られた時間の中に。石像の中に。永遠に?]
『なりたかったんじゃないわ───探していただけ』
[指差した先へ風は流れていく]
[道標を作るかのように]
『───ありがとう、やさしいひと』
[白い花と茨]
[その茨と花を]
[風は求める]
[少女を壊さぬように]
[編み上げる茨の冠]
[これがあればもう]
[風は十分だった]
[薄れていく――消えていく、姿に
いばらの葉色した眼を哀しげに細める。]
……―― …
[うまく、声が出なかった。
いきなさい。
花びらが、はたり はたりとおちた。]
『アーベルはもう───大丈夫よ』
『私が連れていく』
[ヘルムートにこたえる声]
[茨の冠を己の頭上へと戴き]
『アーベルにとって───死は解放』
『この世の痛みと柵から解き放たれること』
『荒野の先にある安息の地』
……まったく。
[甘えさせて、という言葉。
返したのは大げさなため息、一つ。
示された先には、一角獣のエンブレムが刻まれていた。
癒しの象徴。
細められる天鵞絨]
……どこまでも、いい趣味だな。
[呟きながら、エンブレムの周辺を辿る。
指先はやがて、隠された端末を開くスイッチを探し当てる。
開いた端末、小さなモニター。
高速で流れていくのは、記号の如き文字の、羅列]
[瞳を開けば新緑の欠片、まだ見える。
足もちゃんと地面についている。]
アーベル…――
[連れて行くという声。
その主の姿は消えゆくままに。]
[頬を擽る風に髪を耳にかけて]
風が吹く時…
貴方を思い出すわ。
[黒百合の少女から眼を離せないで。
巻き上がる風に亜麻色は揺れ、いばらの冠が編みあがる。
蒼い風は
金の少女の髪を、
誇り高き者の黄金を、
星を詠む者の黒髪を、
天鵞絨の眸の青年の髪を
寄り添う女性の金色を
石と化した写真家の頬を撫で
行く先を指し示す]
[ ――黒百合の少女は頚を横に振る。
それを確かめた、ブリジットは
ふ、っ と
風に髪を揺らし 花びらが舞い散るように
その場に斃れこむと
白い花を胸元に咲かせて
*眼を閉じた*]
……お前が、何のために作られたのかは、知らんが。
[語りかけながら、端末に触れる。
プログラム的な操作は、石と化した少女の方が得意だろうに、と思いながら]
……とめさせてもらう。
先へ、進むために。
……とまった時間を、進めるために……。
[手を動かしてゆく。
知る限りを駆使しての、強制終了操作。
いくつかの抵抗を抜けて。
要求されたパスワードに、しばし、思い悩み。
打ち込む単語は、思いつきの導いたもの。
『Rosa multiflora』]
『旅立つ者に───清浄なる茨の王《ピューリトゥーイ》の祝福を』
[ひとつ][ふたつ]
[ほんのりと輝いて消えていく][幻想種達]
『失われた片方の翼』
[緩やかになった上昇気流に乗って]
『今は、安息の場所へ飛び立つための───翼であり風』
[───わらって]
『ありがとう』
[風は消える*]
[連れて行く、という声。寂しいと思った]
アーベルさんのこと、忘れない。
カ、インさんのことも。
[足はノーラのほうへ。たどり着くと、その身体を支えた]
[風が示す道筋を見た。]
カインが
アーベルを、
連れて行けるのなら、良い。
[随分と重くなった足は、示された道へと一歩進む。
──吹き抜ける風に、黄金の髪が乱れた。]
[不意にカインを見つめ、口の中でだけ、言った。
アーベルとカインの事も忘れないから、と。
カインが消えればライヒアルトの手を見てにこにこしている。]
[ “ありがとう”
そう聞こえたのは、 きっと
幻聴でも、 まぼろしでも なかった。
いばらは咲く。――咲いて、舞い散る。
身体が重い。
重いけれど、でも。
――薄く開いた霞がかった眼に 滲んだのは涙]
[胸に白い花を咲かせて倒れたブリジットの身体を抱え上げる。
ベアトリーチェとノーラが、寄り添いながら前に進む姿を横目に、随分と遅くなった足取りで、ライヒアルト達が居る方へと──。]
[打ち込んだのは、野茨を示す、学名。
直後、感じたのは、風の流れ]
……ん。
[いろを失わぬ天鵞絨は、消えゆくものたちを捉える。
じゃあな、と。
小さな呟きを、心の奥に、落とした]
[再度、向き直るのはモニター。
パスワードは、受け入れられていた。
終了の是非を問う、表示。
選ぶのは──終わりを、ねむりを、導く選択肢。
流れてゆく文字の連なり──それは、やがて、消えて。
銀なるものは。
その動きを、止めた]
……止まった。か。
[空白を経て、零れたのは、小さな呟き]
笑ってるのね。よかった。
よかった、のかな。
[涙がこぼれる。又いなくなってしまったと、思い]
ノーラさん、もう少しで、きっと治るから。
エーリッヒさんも、笑ってるかな。
[身体が浮いた感覚があった。
ぼんやりと、眼を開く。呼びかける声があった。]
……―― 、 ―ッ…、…
[頷き返そうとして咳き込み押さえる手のひらに
花びらと棘が落ちた。それがおさまれば、
手を握り締め小さく頷いて]
…… ――大事 ないの よ
[はたり、と 落ちる。
落ちる、落ちる 落ちる涙。
深く俯けば亜麻色の髪に隠れて見えないだろう。
眼を閉じて、流れるに任せる。
声を殺して、
しずかに。
静かに。]
…えぇ。
[ベアトリーチェの零れ落ちる涙を
そっと掌で拭ってあげようと手を伸ばす。]
きっと、良かったのよ。
[静かに諭すような声色で]
エーリッヒは…
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