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集会場は不信と不安がない交ぜになった奇妙な空気に満たされていた。
人狼なんて本当にいるのだろうか。
もしいるとすれば、あの旅のよそ者か。まさか、以前からの住人であるあいつが……
どうやらこの中には、村人が6人、人狼が2人、占い師が1人、霊能者が1人、守護者が1人、狂信者が1人含まれているようだ。
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。
この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。
当日、現場に出入り出来たのは今ここにいる者で全部だ。
とにかく十分に注意してくれ。
[男の唇が動き、何事かを囁く。]
[無意識のうちにだろうか、震える指が緋色の男の腕にのばされ、探るように縋るように膚の上を這った。*]
おかしいかな?
[シャーロットとキャロルの会話に
一瞬視線を向け、手元に引き戻す。
言葉と共に曲がった線は机の角を描いた]
好き、っていうか。
そのほうが、掴みやすいんだ。
見えるもの聞くものをそのまま受けとるより、
自分のものとしたほうが。
[それは絵を描くという行為とも通じるもの。
己が目の映した光景を己が手で写し取る。
色彩を失った世界は、紙の上に閉じ込められたよう。
鉛筆を置き、拳を握り、広げる]
あ、また来たんだ。
オレも行こっかな。
[言い出したのは、男が出て行った後の事。
スケッチブックを閉じ、腰を上げ
紙に包んだ鉛筆をポケットに入れる。
追いかけようと踏み出した足が、
シャーロットのあげた声に止まった]
いろだけが、見える?
[復唱して、二人に近寄る。
少女らの手と手が離れたところで、
横合いからニーナの顔を覗き込む。
少女の瞳を捉える丸い眼は硝子に似ていた]
へえ――確かに、不思議だね。
……どんな感じなんだろう。
[まじまじと見つめ幾度か瞬いて、離れた。
少しの溜めの後に発した声は余韻を残す。]
さってと。
それじゃ、いってくるねー。
[暢気な物言いで、広間を後にする。
画材は離さず手にしたまま。
灯りの傍らに佇む番人に問えば、
返るのは淀みない、機械的な答え。
指の示す闇の先へと、*歩みゆく*]
[ナサニエルのことを持ち上げた後だった]
[男は、その唇が動き、何かを言おうとしたのを見る]
[蝋燭の淡い、闇を照らすわずかな光をもって、男はその顔を見た]
[足の方は任せていたから、頭の方を抱えた腕に、持ち上げられた手が伸びる]
――寝ていろ
[震えから何かを感じたのか、男は身を屈め口にした]
[声音は静かに、労わりを持つようであった]
[手を拒むことはない]
[足音が届いたのは、そこを離れてすぐであった]
[止まりはせずに、その方向へと近付く]
[やってきたラッセルに、倒れていた旨を話し、広間の戸を開けることを頼んだ]
降ろして開けるつもりだったが
[やがて広間に辿り付き、ソファを拝借し、そこにナサニエルの体を下ろした]
[状況の説明は端的に、廊下に落ちていたことのみ]
見つけたのは、そいつだ
[それ以上の説明は押し付けるのか、ケネスを目で示す]
[それから、触れていた手を外させ、その手で眠る頭を一度撫でた]
看病してやってくれ
悪い夢でも見ているようだぞ
[暫し、男は彼らから離れた]
[窓の外を見る]
[いつしかあたりは暗く、夜となっていた]
[丸い月が空に昇っている]
[森を、花を、城を、泉を]
[月は照らし、小さな泉は緋を映す]
[男の目はそれを捕えられず、そして誰の目にもそうであろう]
[扉の軋む音が聞こえた]
[新しい――そして最後の客人だと、知るのはアーヴァインだけ]
[灯は番人の顔を照らし、陰影を作りだした]
[唇が開き、*話が始まる*]
変って意味でのおかしいとは言わないけれど。
呼び方が変わってるな、と思って。
[ラッセルへの返答は小さな笑いを含んだもの。続く説明には、ふぅん、と小首を傾げながら聞いて。広間を出る前にニーナの顔を覗き込む様子を見やった]
色だけ見えて、形がはっきりしないってことなのかしらね。
物の輪郭がぼやけてるとか。
[不思議、と自分の言葉を繰り返すようなラッセルの言葉にそう返して。彼が広間を出て行くのを見送った]
[ややあって再び扉が開かれる。そこには先程広間を出て行ったラッセルとクインジー、抱えられたナサニエルに更にもう一人、クインジーが新たなる客人と言った人物なのだろうか、男性が続いて入って来た。無精髭の男性に名乗ってから、クインジーの説明を聞いて]
……廊下に落ちてたって。
その様子から行けば倒れてたの方が正しそうね。
頭打ったりしてないかしら。
[必要だろうか、と濡らしタオルを持ってくるべく一度広間を出る。間取りは先程イザベラから見せてもらったので、タオルがありそうな場所の予測はついた。タオルを見つけるとキッチンへと向かい、それを濡らして広間へと戻って来る。それと同時に広間の扉を開けたのは、この城の番人であるアーヴァインと、彼に連れられた眼帯をした青年だった]
……話?
私達がここに居る理由でも教えてくれるのかしら。
[少し皮肉げに言いながら、濡らしタオルをナサニエルの額へと乗せた。その傍に居る状態でアーヴァインを振り返り、告げられる言葉を聞く]
[端的な説明と頼みを受け、程無く広間に戻り、
今は男の眠るソファの側面に居た]
疲れちゃったのかな。
[肘掛けに組んだ腕を乗せて、
目蓋を閉ざした男を見下ろす。
窓辺に程近い故に、灌ぐ仄かな月明かりが、
尚、色を失って見せた。]
[扉の軋む音。
入って来た二者――そのうちの見知らぬ男に
声を投げるより前、番人が口を開いた。]
わ。アーヴが喋った。
話があるってことは、これで全員ってこと?
[シャーロットが寄るのに呼応して身を起こし、
壁に凭れかかり足を伸ばした。]
[静かに門は開き、重く言葉が発される。
終焉を齎す使者。力を振るうもの。
お伽噺めいた話は、平坦な語りだった。]
――終わり?
[問いは短く、幼くすらある。
止まった時計の針が、*一つ時を刻んだ*]
[行った者が戻り、新たな者が現れる。
窓の一つを今の寄辺と定め、看病には手出しする事なく、その様子を眺めていたが]
……話?
[『番人』の言に蒼氷は険しさを帯びる。
語られた事。
その意を認識するのと同時、左腕の紅を掴む手に、力がこもった]
……は。
中々……笑えない話だな。
[数拍の沈黙を経て、こぼれたのは吐き捨てるよな呟き。
力を込めて握ったためか。
左腕の包帯に、新たな紅が色を移した。**]
[広間に戻って来た、或いはやって来た人々を見る。
片手が上がり口元を覆い、息を飲んで動きを止めた。
動けずにいる間に周囲の人々も反応し動いて。
何をすることも出来ぬまま、最後に入ってきた番人の話が始まる]
のぞまなくても…。
のぞまないのなら…?
[口の中で呟くように繰り返す。
胸の前で重なった手も、常盤の房も、小刻みに*揺れていた*]
[話を聞き終えた男は、視線をアーヴァインから室内の存在へと一周させた]
[最後はアーヴァインに留まり、黒紅の目が細められた]
終焉の地に人狼――何が言いたい、番人
周りくどい言い方をするな
……殺し合いをしろとお前は言いたいのか?
馬鹿馬鹿しい。
[突いて出たのはそんな言葉だった]
何よそれ?
そんな与太話を信じろっての?
そのために私達はここに居るって言うの?
訳も分からないままここに居て、何か情報を得られるのかと思ったら。
ここが終焉の地で、人狼とか言うのが居て、終焉を望まないのなら人狼を探して殺せ?
急に言われて、信じろって方が無理な話だわ。
[紅紫の瞳は睨むかの如くアーヴァインに*注がれた*]
[番人の口は開かない]
[蝋燭が揺らめき、影が揺れた]
[窓の外で風が鳴る]
[男の口は、暫し閉ざされ、シャーロットの声に彼女の方へ向いた]
同意だな
とんだ茶番だ
だいたい誰が終焉なぞ望むというんだ、お前は――
[ぷつりと言葉は途切れた]
[男は息を落ち着ける]
[窓の外、月は明るい]
[木の葉の触れ合うざわめき、華がぶつかり合う悲鳴が、古い窓の隙間から風となって*入り込んでくるようであった*]
[案内されたのは、見知らぬ者が居る、広間。
既にそこに居たという人間の様子を見つめ、小さく眉根を寄せる。薄汚れた革製の眼帯が、小さく掠れた音を立てた。]
これはこれは、どうも。ご機嫌麗しゅう。
この私めも、この城に招かれた客のようです。
願わくば、末席にでも加えていただけますよう、お願い申し上げます。
[刹那、警戒の色を薄め、おどけたような表情でレヴェランスの仕草を見せた。]
……ところで、何故俺達はここに居るのだろうか。
番人さん。お前は何か知っているのか?
[落とした片膝の位置を元に戻し、彼は番人の方を振り返った。「番人」と名乗る男の口から「終焉」を告げられると、彼の表情から笑みが消え、琥珀色の右目は怪訝の色を浮かべる。]
「終焉」……?
これが何の終焉で、何故ここが終焉の地なのか。
まして、何故人間を殺さねばならぬのか。
「処女の精霊が、恋を裏切った男を死ぬまで踊らせる」…という物語でもあるまい。そこには何か理由が無ければならぬはずだ。
それが見えぬ限りは、「戯れ言」とやらいう言葉の他に、お前に掛けることばが見つからない。どうだろうか、「番人」の御方。
[蝋燭片手にナサニエルの膝を抱えて運ぶ。赤毛の男や青毛の女の名乗りにも気のない生返事だけで立ち去り、最後の客人を連れた番人と廊下をすれ違い声をかけられても無視。狭い地下室にたどり着くなり床に座り込んで酒瓶の蓋をこじ開ける]
ったく面倒かけやがって。
[薄暗い地下室には月光も届かない。埃と黴と酒の入り混じった空気を揺らして折れたコルクを投げ、残りを瓶に押し込んで濃厚な赤を流し込む]
…ぷはー、うめえ!
働いた後の酒は格別だぜ。
なーんの話か知らねえが、あんな陰気な顔と顔突き合わせてだーれが飲むかってんだ。
酒さえ貰えばさっさとおさらばさ。
[口に残ったコルクの欠片を冷たい石の床に吐き出す。無精髭に伝う葡萄酒を拭いもせず一瓶を空にし、また次に伸ばす手を蝋燭一本の弱い光が照らす]
[横合いから覗き込んでくる赤い色に、わたしはまた瞬きました。]
不思議…ですか?
[首を傾げて、ただ赤を見つめ返します。
暫くして、赤色は離れて行きましたが、わたしは暫くその色を見つめていました。]
ええ。
そんな感じ、です。多分。
[青い色の少女の言葉には、もう一度頷きました。
それから扉が開く音と閉まる音が、幾度繰り返した頃でしょう。
『番人』の声が、語り出しました。]
…終、焉?
[何処か物語のような話、わたしは鸚鵡返しにその言葉を繰り返します。
すぐに理解はできませんでした。]
茶番、か。
[聞こえた言葉に小さく呟く]
まったく、とんだ与太話だな。
とはいえ。
[如何なる言葉を紡がれ、向けられても『番人』は口を噤んだまま。
これ以上は何も話す事はない、と言う所か]
……これ以上は何も話す気はないようだし。
馬鹿らしい、と切り捨てるにせよ、戻るべき場所も手段もわからない、か。
……厄介な。
[吐き捨てるよに呟いて、視線を窓の向こうに浮かぶ月へと向けた]
ああ。
[与太話。茶番。戯れ言。
重なり聞える単語に詰めていた息を吐く]
こわいおはなし。
[翠を半ば隠すように瞼を伏せた。
膝へと下ろされた手はしかし握り合わされたまま]
戻るべき場所。
…戻るべきなのでしょうか。
[吐き捨てるような言葉に、不安を滲ませた問いを投げる]
[戻るべきなのか、という問いに蒼氷は月から常磐へと向かう]
……さて、ね。
それこそ人それぞれ、という所じゃないのか。
思い出せない以上、考えても無駄なのかも知れんが。
戻る場所……
しかしいったい、戻る場所とは何処なのだろうな。俺にはわからない…。
[ちいさな溜息をひとつ吐き出し、誰に聞かせるでもなく独り言を呟いた。]
……少なくとも「舞台」の上でないことは確かだ、ということ以外は……
[ナサニエルの額に乗せた濡れタオルをひっくり返しながら]
戻るべき場所も分からず、ここに居てやるべきことは茶番染みたもの。
茶番に乗る道理もない。
為す術なしとはこの事かしら。
[言いながら、ふいと紅紫の瞳を眼帯の青年へと向ける]
「舞台」って?
そう言えば、入って来た時もなんだか仰々しい振る舞いだったわね。
むしろ、わかってる奴がいない気がするが。
[微か、聞こえた呟きに答えるともなく呟いて]
俺は……そも、そういうものがあるのかも怪しいもんだが、ね。
[蒼氷は刹那、滲む紅に落ちる]
戻る場所、ですか。
[思い出せないそんな場所が、わたしにもあるのでしょうか。]
舞台?
[眼が見えない分、耳はそれなりに利くのです。
男のひとの声に、小さく首を傾けて、眼をその方向へ向けました。
相変わらずその表情までは捉えられませんが。]
[向けられた蒼氷はその色のままの温度を感じさせて。
一瞬だけ絡んだ翠は、怯えるように逸れてゆく]
そう、私も知らない。分からない。
けれど…。
[もどりたくない。
空気を揺らさず、薄桃だけがそう動いた。
追って常盤の房が小さく揺らされ、舞台という言葉を問う人々の視線を辿り、翠もまた舞人たる青年へと流れる]
まったく。迷惑な話ですよ、ほんとうに…。
[さらさらとペンを走らせる手に力が入る。]
終焉がどうのという話。そこを否定したら、
話が進みませんね。わかりました。受け入れましょう。
[びびぃ、とページの破ける音。]
嫌なんです。舞台に立たされるのが嫌なんです。
傍観者の位置ならともかく、演者にまわるのが。
[左眼がぐるんと動いた後、右眼に揃って
ついに、同じところに視線を集め出す。]
さぁ………
[眼帯の奥の疼きを、指でそっと抑える。]
分からない……。ただ、「舞台には立てない」ということだけが、俺の脳裏に刻まれているだけだ……。
そして……
[眼帯を抑えていた指を顔から離し、緩慢な動きで腕を正面に伸ばす。腕の筋肉が微かに軋む感触を覚え、彼は右目をゆっくり細めた。]
どういうわけか、自分の身体が――筋肉が疼くのが抑え切れないことがあるんだ……。
俺の身体には「舞踏」を求めて止まらなくなる「何か」だけが、在る。それだけが確かな「記憶」さ。
[逸れる翠の怯えは気に止めた風もなく。
蒼氷は、あっさりと受け入れを宣言したイザベラに、呆れたような感心したような、何とも評しがたい感情を込めた視線を向けた]
……シンプルだな。
[演者の立場を厭うという言葉に、こんな呟きが零れた]
気に入らないけど。そこも否定しては立ち行かないのですね。
論拠さえ示されるという条件なら、演じきってみましょうか。
[笑い声と同じリズムで、喉から渇いた音がする。]
尤も、論拠が示されるというのは、実際に事が起きると同義。
私は死にたくないですよ。降り掛かる火の粉は払いますから。
[再び、左右の眼はそれぞれ独自の路線を歩む。]
少なくとも、興味を持たせる命題ですね、「終焉」。
[目蓋がぴくぴくと痙攣する。]
[室内の僅かな光にもたじろぐように、数度瞬きを繰り返す。]
[そのうちに徐々に眼が開き、]
[うっすらと眸。]
[紙が破れる音が、彼の鼓膜を鋭く刺激した。伸ばした手をそっと下ろし、声の主の方に右目の琥珀を向けた。]
舞台に上がるのはお嫌いですか……?マダム。
泉の静かな光と、森の闇。それから、夢幻の緋色の照明……。最高の「舞台」装置と言わずして、何というのでしょう……。
――そう。
ここが本当に「終焉」とやらでないならば。
勿論、現段階ではオカルトの類ですよ。
自分は無から金を産み出せるであるとか、
無数の矢が貫こうとも、自分は死なないとかと同じ。
[呟きが聞こえたか聞こえないか、
鋭い左眼がハーヴェイを射ぬく。]
だけど、彼の言うことは興味を引く魅力があります。
与太話でも、大口で耽美に語れば勝ちなんじゃないかしら。
このまま、無為に時間を潰すのは生産的じゃないわね。
なら、退屈しのぎに彼の話に乗るのも悪くないと思うわ。
[くすくす、と笑みが漏れる。]
舞台に?
舞をやっていらしたのでしょうか。
[先に知らないと言われていましたから、答えは求めていませんでした。
ただ思ったことを言葉にしたに過ぎません。
眼は別のほうへ。]
終焉。
それが嫌なら、人狼を…でしたか…
[受け入れるということは、それを行うということ。
声のした方向を、見つめました。]
演者、傍観者、舞台…。
[話を受け入れると言うイザベラの言葉。更に紡がれた言葉を反芻する]
…ここが、舞台。
…私達が、演者。
[そう言うことなのだろうか、とふと思う。では傍観者とは? 疑問は口には出ず、その答えも得ることは出来ない。しばし考え込んでいたが、ふるりと首を横に振った]
…馬鹿馬鹿しい。
[そう呟いたが、何故かしっくり当てはまるような感覚に陥った]
「舞台には立てない」、けれど「身体は舞踏を求めてる」?
[じぃ、と眼帯の青年を見つめる。緩慢に動く腕の動きを眺め、続き紅紫の瞳は眼帯が据えられた瞳へと]
ええ、嫌いね。そういうのはもっと貌の良い人がやればよい。
[問いに対して、自嘲混じりに]
私が殺したり殺されたり。絵にならないのではない?
顔かたちを思い出せないけど、そう思うのです。
むしろ、そこのシャーロットさんあたりの方が、
「らしい」のではないかしら。フフフ。
そちらの方が、殺すにしろ殺されるにしろ……
[非対称の視線が不気味に上下する。]
観客のハートに訴えると思いませんか?
実際、オカルトのレベルだろ。
「終焉」を齎す者だの、力ある者だの、作り話じゃよくあるさ。
[鋭く射抜く左眼を、臆する事無く見返して言い放つ]
……しかし、そんな与太話も言った者勝ち、か。
純粋に退屈しのぎ、で終わるなら、それも悪くはなかろうが。
[言葉を遮るのは大げさなため息。
蒼氷はちらりと『番人』へ流れ]
……こちらさんを見てると、単なる退屈しのぎじゃ終わらん気がするのが、なんとも、ねぇ。
[うら若き乙女たちの言葉の響きに、口許を歪めた。]
どういうわけか、「舞台」が遠のくにつれて、「舞踏」が妙な迫力をもって俺の目の前に現れてくる。それだけさ。
[そこで、ひとりの乙女の瞳が、己の顔を塞ぐ薄汚れた眼帯に向いたのを感じた。男は――どういうわけか――無言で眼帯を手で覆った。]
[宙に伸ばされる腕を、翠は追いかける。
どこか羨ましそうな表情が掠めていった]
死にたくない。
私も、死にたくは、ない。
[下ろされた腕から外れた視線は、その言葉を発した主に向く前に別の場所へと止まる。
ぼんやりとした瞳を見つめたまま動きを止めていたが、相手を気遣う声に目を瞬くと、ゆっくりと視線を逸らした]
う゛ー…
[ごろりと寝転がり手が布を探す。温度の変化が少ない地下は酒にはいいが寝場所には向いていない]
…ぶえっくしゅっ!
あ゛ー…やけに冷えやがると思ったら酒が切れたか。
[番人の語り]
[ざわめく室内に関わらず、女は唯紅茶に口を付けた]
[リィン]
[最後の一口が終わり、陶磁器がソーサーに戻される]
番人殿は、どうなされるのでしょうね。
[そうして、碧眼は辺りを見る]
そうして、皆様はどうなされるのか。
[くれないは笑みの形を模ったまま]
[席を立ち、一礼を]
[部屋の扉を開け、廊下へと出た]
[周囲の人間達の話す声が聞こえる。
否、耳に入っているのだが、言葉としては認識していない。
それは、暖炉で火の燃える音と同じく、純粋な音、だった。]
もっとはっきり言いましょうか?
彼はきっと、患っているのよ。その…頭を。
[虚ろな方の右眼が、「番人」を捉える。]
その言葉を、頭ごなしに否定しても何もないし、
第一、このままでいるのもつまらないでしょう。
[「番人」を蔑むように。]
なら、一緒に遊んであげましょうよ。
きっと、満足したら何かあるわよ。きっとね。
少なくとも、信じられないと言って、
時間を浪費するよりは楽しいと思わない?
[眼帯の青年が紅紫の瞳を向けた先を手で覆い隠す。その仕草に一度小首を傾げ]
もしかして、気にしてた?
気分を害しちゃったかしら、ごめんなさい。
[視線を外し、軽く頭を下げる]
マダム。
「美は神が与え給う、究極の才能である」という話を聞いたことがあります。
――ですが。
過ぎた「美」は、人間の血の熱さを表現する機会を奪ってしまうのも、また然り――…。俺はそれ故に、完璧なる「美」は好みません。
血がたぎり、筋肉が軋み、汗を流す――そんな美醜を兼ね備えた人間の「舞踏」ほど、この世で人間の魂を震わせるものはございますまい。
そこにいらっしゃる乙女達のそれは勿論――…マダムもまた、それ故にこの「舞台」に選ばれたのではないですか?
全てのことを冷静に感知し処理する貴女の血が沸騰する瞬間は――さぞや美しいのでしょう。
[琥珀色の瞳を細めて、笑った。]
[見知らぬ娘の顔に一瞬ぎくりと身を強張らせたが、]
[ゆっくりと理解がのぼり、それがこの城の前で出会った娘と解った。]
[そしてここがどこかも。]
――ここは……
[男はゆっくりと辺りを窺いながら身を起こした。]
んん。
[壁に凭れかかり立てた膝の上に手を置いたまま、
交わされる会話を聞いていた。
暖炉には、番人の手によってか、
いつの間にか火が点されていた。
低い位置から、揺れる焔を見据えている]
そもそも、終焉――終わりって、なんなのかな。
……はっきり言うもんだ。
[蔑むようなイザベラの言葉に、口をついたのはこんな言葉]
そこの『番人』だけを見るなら、そう言いきれるだろうが……。
[現実的に考えたなら、彼女の解釈は理に適っていて。
しかし、そのまま受け入れるに至らないのは、霞がかる記憶と、唐突にこの場所に現れた、という状況故]
ま、何にせよ……ここで文句だけ言ってても始まらん、か……。
[そこには彼の見知らぬ人間が大勢――少なくとも10人以上――居り、何やら話し合っている様子であった。]
私は一体、
[額に指を当て、眉を顰める。]
城の広間よ。
ナサニエル、貴方廊下で倒れてたらしいわよ?
クインジーと……あら、あの人なんて言ったかしら。
その二人が運んで来てくれたの。
[ナサニエルが起き上がることで額に乗せていた濡れタオルが落ちて来る。それを受け止めながら声をかけた]
どこか痛むところとかは、無い?
[紅紫色の視線から眼帯を逸らすべく上げた手を、そっと外した。]
いや……それほどではないさ。
ただ、この場所が時折疼くだけのこと……。
気がついたら、これは俺と共にあった。
俺にとっては、最初から目はひとつだった……。
それしか覚えていないのだから、仕方ないのさ。
キャロル様?
[鈴の音に振り向けば、女性は立ち上がりこの場を去る様子。
一瞬身体が動きかけるも、途中で止まり頭を下げ返すに留まった]
あら。貴方は良い思想をお持ちなのですね。
実は美学の専門家などではないかしら?フフフ。
[眼帯の青年に、感嘆の右眼を向ける。]
高度なご意見だと思います。実に興味深い。
…。
[周りで交わされる言葉を解するのが、だんだんと難しくなっていきます。
疲れているのでしょうか。
ふと、意識を戻したのは鈴の音。
金と赤の鮮やかな色が、遠ざかって行くのを眼で見送りました。]
[額からずり落ちたタオルがぽとりと胸に落ちる。
それを受け止めてくれた少女に感謝の視線を向け、]
そうでしたか……。
お手数を掛けてすみません。
痛い……かどうかは。
すみません、よく分からないのですが多分大丈夫です。
[初めて聞く男のひとの声が一つ。
そう言えば少し前に、倒れたひとがいると運ばれていたのを思い出しました。]
目、覚めたのですね。
[周りの様子からそれを悟り、そちらを向くと青い色が見えました。]
眼帯の目が疼く、か。
傷でもあるのかしらね。
同じ隻眼でも、傷をそのまま晒してる人も居るけれど。
[視線はふともう一人の隻眼の人物へと向けられる]
気付いたら、ね。
まるでいつの間にかここに居た私達みたいな感じだわ。
それでも、なんだか厭うような仕草だったから。
謝罪だけは受け取って頂戴。
ぷはー!
なかなかの葡萄酒じゃねーか。
だがどうせ貰ってくならもっと強い……
[空になった瓶を投げ捨て、消えそうな蝋燭の灯りを頼りに広くない地下室を探る。片隅に置かれてた瓶を持ち上げて炎に照らし口笛を吹く。焦茶の目に映るブランデーの深い色]
あるじゃねーか、いいヤツが。
二、三本いただいて…あ゛ー、気付けとか言ってたっけ。
もうどーせ起きてるだろうしいいか。
[小さめの瓶を一本ポケットに突っ込み、二本小脇に抱えて地下の階段を上がる。扉を閉めた弾みで残された蝋燭は消え、暗闇に煙が細く揺れた]
くすくす。まぁ、受け入れるとは言っても、
すべてを額面通り受け取っているわけでは。
全面的に信頼するには、ナンセンスですから。
[メモを取るペンが鈍く光る。]
たとえば。あくまでも、架空の物語ですよ。
私が、今ここでこのペンを振り回して。
虚を突かれて、みんな餌食に。有り得そうですね。
[思案するばかりの一同を見回しつつ。]
美学の専門……どうなのでしょうか。
ただ俺は、神が与え給うた「美」を素直に享受できないだけの、愚者かもしれません……
[奇妙な動きをする右目に、静かに声を掛けた。]
お礼は私よりクインジーに。
頭をぶつけたりとかしてなければ良いのだけど。
良く分らないと言うのも不安だけれど、大丈夫なら良いわ。
[受け止めた濡れタオルを手元へと引き寄せたたみ、視線を向けて来るナサニエルに微笑んだ]
そう卑下しなくてもいいと思いますよ。
貴方は私の興味を引いた。誇ればいいです。
[眼帯の男に笑みを向ける。]
貴方とは有意義な話ができそう。とても。
そうそう。
名を名乗るのを忘れていました。
俺の名は、「ギルバート」……
おそらく、自分の名をこれと認識しているようなので、これが俺の「名前」なのでしょう。
以後、お見知りおきを。
[恭しく、一礼。]
そう言ってもらえるなら。
気も楽になるわ。
[笑み返してくる眼帯の青年にもくすりと笑みを返した。そう言えば、とその青年に自分の名を告げ、相手の名を聞き出そうとする]
[困惑したようなナサニエルの言葉にまずは頷きを返して]
ええ、ここに居る人は皆同じ境遇らしいわ。
番人を除いてね。
話は……信じるのも馬鹿らしい話ではあるのだけれど。
[そう前置きをしてから、アーヴァインから聞いた話をそのままナサニエルへと告げた]
[誰に断る事も無く、女は廊下の先を行く]
[チリン]
[鈴のか細い音色が、足を留める動きに合わせて鳴った]
ごきげんよう。
[ブーツの重たい音にも、女は唯くれないを横に引くのみ]
[二度三度と首を振る。
翠は揺れたまま、意識して逆の方向へ。
転じられた先は窓の外に輝く望月]
あんなにきれいなのに。
[会話から外れた呟きが毀れた]
[覚えのある声に、そちらを見やる。
先に担ぎ込まれたナサニエルが目覚めたのを見て取り、そちらは他に任せればいいか、とすぐに視線を逸らした]
……きれい……?
[それから、ふと耳に届いた呟きに、蒼氷はそちらへと]
ギルバートさんね。私はイザベラ。
[ギルバートのことをメモに残す。]
さてね。彼の話はどうあれ、今後のことを
みんなで考える必要があるかもしれないわね。
集団生活には、ルールが必要ですから。
ありがとうございます、マダム。
お褒めいただき光栄にございます。
[イザベラに微笑み、そして周囲に視線を向ける。]
――ところで。
先ほど赤毛の青年が言った通り、この「終焉」とやらは何の終焉なのだろう……ひどく、奇妙だ。
「終わり」は、「始まり」が無ければ終わりはしない。「始まり」の無いものは、ただ漫然とそこにあるだけなのだ……ということを忘れてはいけない。
「始まり」を提示されていない「終焉」は、何の「終わり」なのだろうか――…
このまま「番人」の御方からの説明が何も無いままならば、答えは極めてシンプルだ――…
[僅かに頭を傾け、今聞かされた内容に考えを巡らせる。]
では、端的に言って、彼は私達に殺し合えと言っているのですね。
[思慮深い、平静な表情。]
[玄関を目指す方向から聞こえていた鈴の音にもブーツは止まらず、待ち受けていた女の紅が刷く形を見る]
よお、ご機嫌は悪くないぜ。
食いもんもあればもっとよろしくなるがな。
[右から左へと足にかける体重を移し、体を揺らして前に出る]
ペンを?
[女のひとの声に、また視線を動かします。
ペンの形は見えませんが、そのぎらりとした光は見えた気がしました。
思わず眼をぎゅっと閉じます。]
まぁ、そう言うことになるわね。
その話を信じるならば、なんだけど。
[ナサニエルの言葉には少し肩を竦めるような仕草]
イザベラが言うには、信じないことには話は進まない。
確かにそうかもしれないけれど、信じるにはちょっと、ねぇ。
[ギルバート、と名乗った男から投げられた問いに、微かに眉を寄せ。
思案するよに腕を組む]
……「始まり」のない「終わり」はない、か。
「始まり」が、俺たちがここに来た事……と定義できるなら。
そこから繋がる「終わり」は、俺たちがここから立ち去る……居なくなる事、と読めるかね。
……その手段や在り方はともかくとして、な。
「始まり」は此処にはなく、私たちがこの城へと現れた時、集った時にはもう決められていたのでしょう……
その答えを我らが忘れているだけで。
[男は半眼に目を閉じ、そっと呟いた。]
[その後もあちらこちらで、何やら話は続いていましたが。
わたしは何だか疲れてしまって、眼を閉じたまま椅子に*凭れました。*]
[思案する男の呟きに頷いた。]
……おそらく。
「始まり」の定義が曖昧なこの場所で起こりうる「終焉」とは、いつの間にかただそこに在ったものが「消える」ことなのかもしれない……。
その方法は、ともかく。
「消える」のは、命かもしれないし、我々が立つ地そのものかもしれない……。
フフフ。あくまでも、架空の物語です。
気にしなくていいですよ、弱視のお嬢さん。
[ニーナに向かって満面の笑みを浮かべる。
笑顔のとき、彼女は非常に糸目になるようだ。]
お嬢さんの心優しさには、思い及ぶ限りの
讃辞を贈りたいと思います。フフフフ。
自分では見えないかもしれないけど、
貴女はかなり綺麗な顔立ちをしていますね。
視力の弱さをいいことに、世の殿方たちが
良からぬ想像に支配されそうなくらい。
[つか、つか、とニーナの前に出る。]
実際は知りませんが、実質初対面の我々です。
私たち全員を、「善人」として全面的に
信頼できる論拠を貴女はお持ちのようで。
後学のために、私に是非御教授願いたいものです。
それは良かったですわ。
佳い夜でございますものね。
――外へ行かれますの?
[留めた緋の靴を同じ方へ向ける]
残念ながら、食べ物は。
私は、この身一つしか持ちませぬゆえ。
[視線に動じる事無く、繊手の指先は胸の合間に触れる]
今このお嬢さんに言った通りですよ。
[シャーロットの方を向いて。]
シャーロットさん、貴女を含めてほぼ全員が初対面と
同じ状態です。そうですよね、違いませんね?
[左眼がギロリとシャーロットの方に。]
ですが、貴女は初対面の我々を「善人」と
仮定して接しているように思うのです。
そんな保証はどこにもないのに……。
それができるのなら、その与太話を一応は
受け入れてみることもできるのではないかしら?
きれいではありませんか?
[月を見つめたまま、届いた声に応える]
かけたることなきもちづきの。
たとえかけるさだめであれど。
[意味を取りにくい抑揚の声が続く。
翠が一度隠れるまで]
ハーヴェイさ、んは。
月はお嫌いですか?
[再び現れた翠はまた少し揺れて。
けれど今度は蒼氷から逸らさずに尋ねていた]
[ギルバートの言葉に、軽く肩を竦め]
発生の対は消滅……って所かね。
問題は、それで「消える」のが何か、って事だが……。
『番人』の物言いからするに、「命」である可能性は限りなく高い、と。
[「終焉」を望まぬならば、それを齎す者を殺せ、と言った『番人』の言葉を思い返し、呟く]
信じる信じないはともかくとして、我々は彼の、
[と男は「番人」と称する壮年の男性に目を遣り]
定義した枠の中に存在しているのです。
記憶を持っていない我々はそれに抗う術が無い……
[細めた双眸は黝の色に沈んだ。]
[「終わり」についての会話。頭を捻ったところで思いつく言葉も無く。ただ周囲の言葉を聞くだけとなる]
……消える、か。
いまいちピンと来ないけれど。
この地から消えるだけで良いのであれば、今は分からない元の場所に戻りたいものね。
番人の言う「誰かを殺す」ことなんてなく。
[その言葉はどこか皮肉めいたもの。現状を享受出来ぬが、その歯車の一つとして自分が居ることを無意識に悟っていた]
[イザベラが向けて来る言葉には細めた紅紫の瞳を向けて]
…何か勘違いしていない?
私は一度でも貴方達を「善人だ」なんて言ったかしら。
煩わしいことなく事が済めば良い、そう思っているだけよ。
[向けられるイザベラの鋭い左眼にも、今は臆することなく見返している]
[真っ直ぐ向けられる翠と、問い。
蒼氷は一つ瞬いて]
……ああ、月、か。
嫌い、じゃないな……むしろ、陽よりも月の方が、性に合うかも知れん。
[語る口調からは僅か、氷の冷たさは和らいでいた]
[か細く悲鳴をあげる風の音]
[男の視線は室内の人々をとらえ、口々に上らされる言葉を聞く]
[戻る場所という言葉に、頭を片手で押さえる]
[頭痛を覚えたのか、しかしほんの少しで元に戻った]
舞台ね
くだらない
[低く呟いて、黒紅が番人を睨んだ]
[だが、イザベラの言うこと>>55に同意なのか、再び窓へと目は向いた]
[暫くの後、名が届き目をやると、ナサニエルが目を覚ましていた]
[話に入ることはせず、向けられたシャーロットの視線>>70には、にやりと笑うのみだった]
あ゛あ? もう夜か…どうりで冷えたはずだな。
外へ――は、
[胡乱な目がキャロルのたおやかな手の動きを追い、口を笑みの形に歪める。緋色の爪先が鳴る音に下を見、逃亡を観念して竦めた肩がシャツに更なる皺を寄せた]
行くつもりだったんだが。
夜露を凌げる屋根といい女の魅力にゃかなわねえな。
食いもんがねえのだけが残念だ。
例えアンタを食っても腹は満たされねえし。
[髭だらけの口が品のない笑みを刻む]
ハハ。それは結構なことです。
[シャーロットの言葉に、ぽんぽんと手を打つ。]
私なりに彼の「終焉」について考えてみたのですけど。
[そう言って、メモを開く。]
彼の言うことは、現実的事象を象徴的に表現したもの
なのではないかしら、こう考えてみてはどうですか?
たとえば「番人」の方には記憶があるのです。
我々の中に、世間を騒がせている殺人鬼がいる。
つまり、殺人鬼を「人狼」と比喩していると。
[ご満悦そうな饒舌。]
では「終焉」とは何か?
おそらく、皆殺しということではないかしら。
現実の殺人鬼が、我々を嬲り殺そうとしている。
そのことについて、「番人」は象徴的に警告した。
[男は横たわっていたソファから床に足を下ろす。]
さて、戻る場所が果たして我々にあるのでしょうか。
この地が消え失せたとして、私たちが元いた場所に還れるものでしょうか。
――そもそも「元々存在していた場所」自体が本当に存在している保証もないのに。
我々の存在は突然、この世界に現れた瞬間に生み出されたのだと、どうして言えない訳がありますか?
[穏やかな、けれども人間味を欠くほどに平静な声音]
よかった。
[薄桃が微かな弧を描いた]
分からないことだらけです。
終わりも、始まりも。
[終焉についての見解を聞きながら、出せたのは結局そんな言葉]
[イザベラの解釈を頬に手を当てながら聞き]
……辻褄は、合うわね。
でも象徴的に言う意味は?
殺人鬼が居ると言うのなら、そうだとはっきり言えばこんな頭を悩ますことも無いじゃない。
それともこうやって私達が頭を悩ませて居るのを見て楽しむのが番人の趣味なのかしら。
もう一つの疑問。
番人に記憶があるのは良いとして、どうして記憶があやふやな人達だけここに居る?
それとも偶然、記憶が無い人の中に殺人鬼が混ざっていた?
でもそうだとしたら、何故私達はここに集められているのかしらね。
疑問は尽きないわ…。
殺人鬼ね
一人殺せば「殺人犯」
幾人か殺せば「殺人鬼」
多数を殺せば、ある種の「英雄」だ
殺人鬼といえ、ここの全員を殺すのは簡単ではないと思うがな
現実的に考えれば、それもない、とは言えんかも知れんが。
それはそれで、わからん部分が多すぎるな。
[イザベラの解釈に、零れたのはこんな呟き。
それは、シャーロットが口にした疑問と同じものなのだが]
……そうだとしても。
それこそ、なんのために、わざわざ「生み出された」んだよ?
[ナサニエルの語る定義には、こんな疑問を投げていた]
……ナサニエルの言うことも尤もね。
記憶が無い今、元の世界があると言う保証はどこにもない。
ここに居ることに気付いた時に生み出された可能性もある。
けれど。
番人が告げたことのためだけに生み出されたと言うのは、御免蒙りたいところね。
「殺し合い」のためだけに生み出されただなんて…。
[親指の爪を噛み、苦虫を噛み潰すように表情を歪める]
[足を留めた男に距離を寄せ]
[胸に当てた手を、その腕を取るように伸ばす]
外に、連れて行ってと言ったなら、叶えては下さいますでしょうか?
[ことり]
[首を傾げて、身を寄せた]
食べて満たされるのならば、それで構いませんのに。
[くれないは音の無い笑みを浮かべるのみ]
そう……そこに論理をつけるのが難しい。
[大きな顎に手を添えて、思案する。]
論理をつけないとすると、彼が非常事態に似つかわしくない
行動をとる類の人種。つまり空気の読めない人ということ。
もしくは、単に殺し合いを傍観者の立場で見ることが
好きな人……これくらいしか思い当たりません。
本当に、頭を患ってそういう言い方しかできないとか。
[首を捻ると、同じ軌道を左眼も描く。]
後者は…記憶のない以上、JOKERを引いたという解釈しか。
別に、集めるのは誰でも良くて。
たまたま、ハズレを引いた我々が集まってしまった。
その中に、偶然のっぴきならない人間がいた…くらいかしら。
[薄桃の描く微かな弧。
そこまでのものか、などと思いは掠めても、口にはせずに]
むしろ、わかってる奴の方が珍しいだろ、この状況。
[分からないことだらけ、という言葉には、ため息と共にこう呟く]
終わりも始まりも、他人が決めるもんじゃないだろう
一番簡単、誰にでも共通した終わりは―― 死
[ネリーの言葉に対してか、男は僅か間を開けて告げた]
[そうして、イザベラの言葉を聞いて、それが一番ありえそうだなと茶化すように言った]
あら、そうかしら。仮に殺人鬼が男性だったとしましょう。
我々のうち、5人が女性です。腕力ではとてもとても。
[第一に、ということを表すように人差し指を立てる。
そして、今度は中指を立てて。]
さらに、クインジーさんとギルバートさん。
貴方たちには、死角が存在するのではないかしら?
虚を突けば、女性でも殺せるのではないでしょうか。
[薬指を立てて。]
どうやら、手負いの方や半病人の方もいらっしゃいます。
つまり、健康な男性と比べるとハンディキャップがありますね。
……もしかして、殺しやすい人を集めたのでしょうか。
ともあれ、ここで額を突き合わせていても、何も解決はしませんよ。
我々の知らないことが多過ぎるのですから。
もう少し後で考えても……遅くは無い。
[男は片手でソファのアームを掴み、慎重に立ち上がろうとして少し蹌踉いた。]
死角が無いわけはないだろう
この目は使い物にならない
だがそう簡単に、殺されてやるつもりもないがな
[男はイザベラの言葉に、振り返り口元をゆがめ笑う]
生か死かならば、己は生を選ぶ
殺さねば生きられないなら殺すまでだ
――尤も、今はそんな状況にないだろうが
論拠はありません。
ただの勘、ですね。
しかし、我々が記憶を喪ったのは、「忘れたい何か」があった所為ではないかと思うのですよ。
それ故に、この世界に選ばれたのだ、とも。
ナサニエルさん…ですね。
物覚えが悪いので、メモを取らせてください。
[そう言って、メモにペンを走らせる。]
単に暇つぶしに考えているだけです。
そこまで豊富に娯楽があるわけではないですから。
[クインジーの言葉には目を細めて。]
それは結構なことです。
[距離を詰める姿に笑い声を収め、腕に絡む白い手を黙って眺める。キャロルの唇が囀る音の意味が酒精で霞む頭では判断できず、胡乱な目で傾く首と流れる豊かな金の髪を見た]
外に行きたきゃ勝手に出ればいいだろ。
それとも…閉じ込められでもしたのか?
[寄せられる体は柔らかく冷えた体には熱いほど]
アンタほどの上玉ならいくらでも尻尾振る男はいるぜ。
…さーて甘い話にゃどんな裏があるのかねえ。
手負い……ね。
ま、否定はせんが。
[イザベラの言葉に、自身の左腕に視線を落とす。
包帯に滲む紅は、未だ色彩を違える様相はない。
それが痛みを与えているか否かは、外見からは推し量れはしないが]
……だからと言って、唯々諾々と殺されるほど、軟なつもりはないんだがね。
結局のところはっきりとした回答は無し。
全てあくまで仮定。
仮定ばかりを並べ立てても真実には届かない。
…考えるのが面倒になってきたわ。
[イザベラが並べ立てる番人や自分達についての仮定。全てを並べ立てても答えには遠く届かないような気がして、小さく溜息が漏れた]
悪いけど、私はこの目で見たものしか信じないわ。
だから今齎された話も全て、「仮定」でしかあり得ない。
「事実」に繋がる何かを手に入れるまでは、あの話も許容出来ないわね。
[宣言するかのように言葉を紡いだ。燭台に立てられた蝋燭の炎が人の動きに合わせゆらりと揺れる。その陰影のためか、少女の紅紫の瞳が暗く滅紫へ転じた]
そうですね。
一番ご存知であろう方は答えて下さいませんし。
[言いながら翠を向けるが、やはり番人は何の反応も示さず]
死で終わるのは…。
終わりたくはありません。
[扉へと向かう人には数拍遅れてからそう声を投げて]
ふむ……実に興味深いご指摘ですね。
[ナサニエルの意見を、メモにとる。]
「忘れたい何か」があるから、選ばれた。
なるほど、それは興味深い考察ですね。
もしかしたら、実際忘れているかもしれないわけです。
[首を捻りながら、メモを眺める。]
お前もそう死に急がないことだ
[イザベラに言いながら、丁度目に入ったナサニエルへと言葉を投げる]
倒れていたんだから、休んでいたらどうだ
今すぐに何か起きることもないだろう
そこのお前も
[向かう視線はハーヴェイへ]
血の臭いをいつまでもさせているな
もし万が一、人狼が居るとして――お前は良い餌になるんじゃないか
忘れたい、何か。
[小さく呟き、左の腕を押さえる。
刹那、浮かんだ翳りを振り払うよに、蒼氷はしばし閉じられる]
『番人』には、これ以上は何も期待できそうにないだろ。
言うだけは言った、って感じだしな。
[開かれた蒼氷は、常磐へと向いて。
それから、窓の向こうの月へと向かう]
……少し外、歩くか。
[零れたのは、小さな呟き]
それは結構なことです。
少なくとも、仮定の域を出る推察をするには、
未だ必要とする情報が足りないのですよね。
[シャーロットの言葉を受けて、諦めたようにメモを閉じる。]
貴方。見たところ、優秀そうな印象を受けます。
そのような優秀な遺伝子が、血液という形で
外部に流れるのは大変勿体のないことです。
飲み干して、貴方に肖りたいものです。
その方が、有益な気がしないでもありません。
[にこりとハーヴェイに。]
夜は冷えますから。
[呟く言の葉は、何処までが真実か]
[熱は与えるのみ。奪う事は無い]
さあ。
作為など、何一つございませんが。
[碧眼を伏せ、身体を離す]
――では。
[かけられた息をかわす様]
[女は、歩みを始める]
[それは外へ向かう*方角へ*]
……大きなお世話。
[クインジーに返すのは、吐き捨てるよな一言。
彼が扉の方へと向かったが為か。
外へ出るために、そちらへ向かう、という選択肢は選び難く、しばしその場で逡巡する]
そりゃどうも……と、言う所かね、ここは。
もっとも、そう言われてはいそうですか、ではどうぞ、と分けられるもんでもないが。
[イザベラに対しては軽く、肩を竦めて見せた]
そう言うことよ。
現状はあまりにも漠然とし過ぎてる。
[メモを閉じるイザベラに肯定の言葉を返し。人が散開するような様相に、使用されたティーセットを片付け始めた]
私は少し休んでこようかしら。
考え過ぎて疲れちゃったわ。
ああ、残ってるクッキー、食べたい人が食べてしまって良いから。
紅茶も残ってるけど、冷めてると思うから飲みたいなら淹れ直してね。
[ポットとクッキーの皿の横に未使用のティーセットを並べ、使用済みのティーセットをトレイに乗せて立ち上がった]
[ともあれ、ここにいても何が変わる訳でもない、という思いはあり。
逡巡の後、手をかけたのは、窓]
……ああ、悪いが、中から閉めといてくれ。
[広間にいる者たちにこう、声をかけ。
返事を聞くより早く開け放つと、窓枠を身軽に乗り越え、月の照らす世界へと*飛び出した*]
忘れたい、何か。
[落ちた視線は布に包まれた足に向く。
踝の痕は翠からも隠されている]
足掻いて、抗って。
そうすれば違う終わりを迎えられるでしょうか。
[口元だけで笑う男に投げた言葉は、確認の響きを帯びて]
その通りのようです。
私も少し…。
[立ち上がり、一瞬の停滞を挟んで椅子の傍を離れる]
死に急いでいる心算はありませんよ。
自分の限界は知っています……その筈です。
ああ、すみません。
意地を張っているのではないですよ。
目眩さえ治まれば……多分。
それに幾分かましになってきました。
[少しまだ疲れの残る顔に刷毛で刷いたような脆い笑みを浮かべた。]
あ。
[窓から抜け出してゆく青年は止めるまもなく。
残された声に何となく従い、開け放たれた窓に近寄り閉じた]
…失礼します。
[それから広間に残っている人々へ礼をして。
ゆっくりと扉から*出て行った*]
[部屋を出てゆく面々を見送り、軽く会釈をする。
それからゆっくりと大きな息を吐き、]
[どさり、とソファに倒れ込むように深く身を委ねた。]
ふーん、作為ねえ…。
[かわされた白い面で長い睫毛が伏せられ、離れていく姿を見送る。与えられた熱が消えて行く]
あーあ、行っちまった。
素直に乗りゃ美味しい思いが出来たかねえ?
惜しいことしたかも知れねえが…今はお前が一番さ。
[抱えた酒瓶の一本を持ち直し、音高く口付ける]
あ、ちょっと。
[窓から出て行くハーヴェイに声をかけるも、既にその身は外へと躍り出て]
…一階だから良いものを。
二階とかだったらどうするつもりだったのかしら。
[一度トレイを置いて窓を閉めるかとも思ったが、それはネリーがしてくれたようなのでそのままその様子を眺め。広間を出て行くクインジーとネリーを見送る]
ナサニエルも、眩暈が治まらないようならそこで休んでおくのよ。
また途中で倒れたりされてもかなわないわ。
[ソファーに身を委ねる様子を見やってから、「それじゃ」と告げて自分も広間を辞した]
女の尻追っかけるのも悪くねえが、一晩の宿の為に貸しでも作っとくか。
[外への扉を一瞥し、重いブーツを前に動かす。途中見かけたクインジーに内心の冷や汗を隠し、シャーロットとすれ違いに広間へ戻る]
ほらよ、気付け持ってきてやったぞ。
[ソファーに沈む青年に場違いに緊迫感のない声を投げ、無遠慮に踏み込んで面々を見回す。ぼさぼさの髪と同色の髭面が呆れを示した]
…おいおい、何そろって湿気た面してんだ。
この世の終わりでも来たわけじゃあるめえしなあ?
[物憂げに、仰のいていた顔を髭面の男に向ける。
瞳は暗い青に沈み、視線に力は無く、]
[掲げられた酒壜にだけ、口の端を僅か持ち上げた。*]
[キッチンへ向かおうと廊下を歩くと、反対側からナサニエルを運んできたもう一人の男性が歩いてくる。あ、と声を出しかけたが、それは漂ってくる特有の匂いにより飲み込まれた。暗がりの中、眉根に皺が寄っていたのは果たして相手には見て取れただろうか]
……お酒くさーい!
どれだけ飲んだらああなるって言うのよ。
[その言葉を発したのは、もちろん相手の姿が見えなくなってから。ナサニエルの恩人と言う認識から一転、酒臭い男として認識された]
[その後はキッチンへと向かいティーセットを片付けて。全て終わると階段を上り空いている部屋を見つけて中へと入った。疲れのみならず、話を聞いての緊張もあったのだろう。それが解けると共に睡魔に襲われ、ベッドへと横になると直ぐに意識は*闇の中へ*]
[終焉。
己が発した疑問を切欠に、頭上で飛び交う話題。
物思う瞳は何も語らずにいたが、
話題が収束する頃、顔を下へと向け、
伸ばした爪先を弄びながら呟きを落とす]
終わりの刻の為に、選ばれた。
それは、誰の為で、何の為で。
[言葉の群れから、一つ一つを掬い取る。
けれど、掴み取れはしない。
音もなく、滑り落ちていく]
……やっぱり、よく、わからないね。
[疎らに人の散りゆく室内に、視線を走らせる。
薪の爆ぜ、朽ちていく音が鼓膜に響く。
焔を生み、黒く染まり、潰えるさまを見送った]
[傍らに置いていた画材を拾い上げ、
立ち上がり埃を払う]
ん、さみしくなった。
[少なくなった人気に独り言ちる頃、男が一人、入って来る。
名は知らぬから呼ぶことは叶わなかったが、
能面とも異なる、しかし表情の薄い顔を向けた]
この世の終わりは来るか知らないけれど、
あなたの終わりは来るかもしれないよ。
そういう話を、していたんだ。
[ほんの一部だけを拾って、言葉を返す。
直後、僅かばかり眉根が寄った]
……変な臭い。
[瓶が差し出される先、
ソファに身を預ける男へと視線を移す]
美味しくなさそう、薬?
[掠めるような笑みは目に入らず、疑問を発した]
ナサニエル――だっけ。
ナットは、きちんと飲んで、ゆっくり休んでね。
治らないで動けないのは、辛いだろうから。
[様相を暫し見詰めた後、勘違いをしたまま広間を出て行く。
薄暗い廊下を歩む足裏に、古びた城の冷たさが*伝わった*]
あ゛ーん、俺の終わり?
人形見てえな面して言うことが穏やかじゃねえな。
[薄暗がりで見たシャーロットより格段に表情のないラッセルの言にも大して衝撃を受けず。ナサニエルへ歩み寄り手にした瓶の小さい方を差し出す]
ほらよ、その顔なら自力で飲めんだろ。
[戻す手で自分も瓶の蓋を開け、一口含んで髭面を歪ませる]
くはー、最高に効くぜえ。
変な匂いもまずそうな味も、薬ってなら納得かい?
[ラッセルの方に酒臭い息を吐き、テーブルにあったクッキーを鷲掴んで大口開けて放り込む。噛み砕きながら暖炉に目をつけ、その傍に胡坐をかく]
まあまあじゃねえか。
しっかし何の統一感もねえ連中だな。
一体なんであんたらこんなところに集まってんだ?
[図々しく暖を取りながら上げた声は現状をつかむ為ではなく*単なる興味本位でしかない*]
信頼?
[近付く気配と声に、閉じた眼を開いて顔を上げます。
声の主がどんな表情をしているかは分かりませんから、それが純粋な疑問なのか、皮肉なのかもまた分かりません。
尤も、見えていたとしても分からなかったかも知れませんが。]
信頼は、…分かりません。
でも初対面だからこそ、何も起こっていないうちからいきなり変に疑うのも失礼じゃありませんか。
それに、
[一度言葉を切りました。
人差し指で眼を示しましたけれど、少しずれていたかも知れません。]
わたしは、これですから。
誰も彼もを敵にしていては、生きていけないんです。
さあ……何故でしょうね。
色々と理由は考えられるとは思いますけれど。
[薄く微笑みながら、蓋を開けようと]
ところであなたはここに来る前の記憶をお持ちですか?
此処に居る我々全員、あの森に現れる以前の記憶を持たないようですよ。
[さらりと無精髭の男に告げて、壜の酒を少し含んだ。]
[理由は他にもあったのですけど、それ以上は口にしませんでした。
幾人かが去り、新たに現れた色のひとからはお酒の臭いがしました。
あまり好きな臭いではなかったので、眉が寄ってしまっていたかも知れません。]
分かりません。
[質問には、それだけを伝えました。]
[だから、というわけでは決してないのですけれど。
わたしは杖を頼りに、椅子から立ち上がりました。]
済みませんが、灯を貸していただけませんか。
此処のことを知っておきたいのです。
[番人がいると思しき方向に眼を向けて、尋ねました。
灯があれば色が見えますから、時間は掛かりますが、独りでも歩くことはできます。
危険なものや細かい障害物は分からないので、少し不安もありますけれど。
他人に頼ろうと思わなかったのは、先程の言葉もあったからかも知れません。]
それだから、これからどうしたものかと話し合っていたのですよ。
[指で唇を拭い、]
私も詳しくは知りませんが、自称・番人氏が言うことには、何でも此処は「終焉の地」であるとか…。
[静かにシャーロットから聞かされた話を説明し始めた。*]
[話しながら、杖を持って立ち上がるニーナを不思議そうな顔で見た。
彼女にはものの形が判らないのだということを彼は知らない。]
[木の杖を右手に、差し出された灯を左手に、扉のあるほうへ歩き出します。
背後では先程の説明を繰り返す声が聞こえました。
ふと、視線を感じた気がして扉より少し手前で振り返ります。
青い色が見えました。]
[黒の門の軋む重い音]
[押し開くのに合わせ、鈴が揺れた]
[冷たい外気が膚の熱を奪い、その白さを覚まさせる]
うつくしい月。
[空を仰ぐ姿勢は変えず、緋の靴を道の先に進める]
[纏う緋は徐々に花の緋に紛れた]
[窓から飛び出し、門を抜けて、外へ。
月下の緋色は美しく、しかし、どこか疎ましく]
……は。
いい趣味。
[吐き捨てるよに呟いた後、左の腕を押さえる。
右手の下にあるのは、微かな熱と疼き。
その熱を厭うように、歩みは自然、泉の畔へ]
[月の皓を宿す緋は、現実よりも幻想に近く]
[時折、戯れに女は花弁を引き抜き放った]
――あら。
[泉へ向かう道なりに行くと見える人影]
[リィン]
[鈴の音が存在を主張する]
何処かで擦れ違われましたかしら?
…何か?
[少しの間の後、問えば返事はあったでしょうか。
わたしがその部屋を出たのは、それから*暫く後のことでした。*]
[耳に届く鈴の音に、ふと歩みは止まる。
振り返った先には、鮮やかな金の髪]
玄関通ってないから、すれ違いはしてないと思うが。
[疑問の声には、端的な答え]
[緩やかな動きで女は首を傾げ、青年を見た]
[豊かな金色が、背より流れ落ちる]
手品でしょうか。
或いは、魔法?
[窓からという考えは、女には無い]
[問い掛けつつも、緋色の靴は泉への道を踏む]
手品や魔法、か。
……そんな洒落たものが使えれば、退屈もせずに済むんだろうが。
[軽く肩を竦めた後、泉へと歩みを進める]
答えは、窓。
月に誘われた気分でね。
[口にするのは、実際の心理とはかけ離れた理由]
[女は泉の畔で足を留め、膝を折る]
[緋色のドレスが濡れる事の無い様に片手で押さえ]
[逆の手で、水面にネイルを塗った爪先を差し入れた]
[広がる波紋]
退屈ですか。
これほどにまで、うつくしい景色があると言うのに。
[くれないから落ちる言の葉は憐れみの色を帯びる]
手品でも魔法でもなく、軽業でございましたか。
――月ならば、退屈はしのげそうでしょうか。
女でもなく、酒でもなく、面白い御方なのですね。
景色は悪くないが……どうにも、この満開の花が、ね。
[広がる波紋を見つつ、ため息と共に呟きをもらす。
憐れみの響きは、気にした様子もなく]
月を眺めるのは、嫌いじゃないらしい。
……面白い、のか?
[言葉の最後の部分には、やや、首を傾げる]
[泉にうつる望月を歪ませる前に、波紋は薄れて消えた]
あかは、御嫌いですか?
それとも謂れがなのでしょうか。
[女は立ち上がり様、濡れた指で顔の横に垂れた金の髪を耳へと上げる]
[指先についた雫が首筋を通り、鎖骨に落ちた]
ええ。
雅を理解なさる殿方は珍しいと。
[くれないを横に引き、女は青年の傍らへと足を進める]
色彩がどうとか、じゃないな。
……多分、花の謂れか……。
[蒼氷はしばし、瞑目する]
花にまつわる「何か」が、あったから……かね。
[呟くよな言葉と共に蒼氷は開き、右手が左の腕を抑えた]
月が好みなら、雅、になるのか?
考えた事もなかったな、多分。
[抑えつけるよな仕種と裏腹、口調は軽く、冗談めく]
[黒き門の傍らに、佇んでいた。
肩に羽織ったブランケットが、
薄い外套のように風にはためき波打つ。
絶えず陰影を変える布から、
彼方まで続く花の海に視線を転じた。]
ん――誰か、いる?
[木々の作る道の先に、ちらつく影。
首を傾げて考え込む間を置いてから、歩みを向ける。]
[緋色を纏う女は、青年の答えに口許のくれないを笑みの形に変える]
花の…?
欠けた記憶の裡にでございましょうか。
何をか、思い出されはいたしましたか?
[伏せられた蒼氷]
[見えぬはずのその色彩を覗き込むよう、女は顔を近付ける]
私はその様に思いますけれど。
[リィン]
[持ち上げた手は、青年の腕を取ろうと伸び、止まる]
この色は?
[あかに見える色彩に、女の関心は寄せられる]
……思い出した……訳ではないが。
何か、引っかかるものがある……って、所か。
[呟きはどこか独り言めく。
雅の解釈には、そういうものか、と呟いて]
これは、まあ。
……見たとおりのもの、としか。
[腕に伸びて止まる手。
色彩の意を問う言葉には曖昧に返し、蒼氷を女から逸らす。
逸らした視線は、緋の中の道を歩む姿を捉えた]
……月夜の散歩は、流行なのか……?
[花咲く流れに抗い進んでいく。
縮れて寄り添う花弁は反り返り、
長く伸びた蕊は彎曲し天の光を受け止める。
立ち去る者を惜しみ愚図る幼子のように、
微かな風にも頭を揺らしていた]
戻るから、平気だよ。
[かけた言葉の意味を、花が理解することはあったか。
ふと風が止み、かれらの動きは止まった]
あ。
ヴィーに、キャロ。
[月明かりに照らされる二者の姿を認め、歩みは早くなる]
何、してるの。
……秘密の話でも、していた?
[半ば足を覆うズボンが土に塗れるのも気にせず、
泉の傍らに寄り、問いを投げた]
[呟きめいた言の葉を、静けさに満ちた月下の世界で聞く]
厭な記憶ならば、戻らぬままの方が良いでしょうか。
[曖昧な答えが二つ]
[蒼氷が逸らされても、碧の色は腕のあかから外されない]
[未だ腕は中途な位置に留まったまま]
ラッセル殿。
[新たに増えた声に、ようやく碧眼は向きを変えた]
別に、何、と言うわけでもない。
月に惹かれて彷徨い出てきたら、たまたま同道した、という所かね。
[やって来たラッセルの問いに、軽く返す。
他に理由がないとは言わぬが、他者に言うほどのものでもなく]
……さて、記憶に関しては。
どちらがいいのか、今の俺には皆目見当もつかないね。
[キャロルの言葉には、呟くよに返して。
碧が逸らされた紅を隠すよに、左の上に右を重ねて腕を組んだ]
[何を、と問われ、直前に聞いた言の葉を口にする]
月夜の散歩でしょうか。
ああ、いいえ。
たわいもないお話を。
月や花や雅や、その様な事を。
[思い出したかのように、女は再度くれないを開く]
ラッセル殿は、この花は御嫌いでございますか?
[密やかな花は、主張はせねど、微かに香を漂わせる。
仄かに甘いような、饐えたような。薄く、包む匂い]
ヴィー、まだそのままなの?
クーに叱られるよ。
[自分は寒さ対策をして来たのに、と言うように、
白の布を掴んで揺らしてみせる。
尤も、後者の遣り取りは当人同士しか知らない事だが]
オレは、絵描こうかと思ったんだ。
そしたら、誰かいるみたいったから。
[布の下に隠れていた左手を露にする。
言葉の通り、一冊のスケッチブックがあった]
月は確かに、誘われるような気がするよね。
秘密の話じゃなくて、残念だけれど。
[花へと話題を導かれ、視線が動く]
この花?
うーん……、嫌いじゃないよ。
変わった形、してるよね。
[左手を下ろし、右手が花弁に伸びる。
微か湿った表面を撫ぜるように、宙を指が滑った]
そもそも、花はすぐに散ってしまうから。
好きでもないけれど。
……叱られても、正直困るんだがな。
[広間で向けられた言葉を思い出し、微かに眉が寄る]
俺がどうなっていようと、別に、俺の勝手だと思うんだが。
[何処か投げやりに言い放ち、泉の畔に膝をつく。
周囲の緋が、微かに揺れた]
記憶が戻らぬ間では確かに、無益な問いでしょうか。
[重なる腕の気配に、伸ばしていた手を引く]
[チリン]
此処以外の何処かに自分が居た。
それすら確信を持てないのは…、
[ひそりとした言の葉は、最後まで語られる事が無い]
困るなら、叱られるようなことしなければいいんだよ。
人が人と関わり合う以上、
一人の行動が、自分だけの勝手って、
ないんじゃないかな。
何かしら、影響は与えるもの。
[語調は変わらず、平坦な言葉を並べる。
視界の端での動きに花弁から泉へ流れた視線は、
水面に揺れる月の姿を見て取った。
歪む、円。]
[碧眼は、関心の色を帯びてスケッチブックへ向けられた]
[緩やかな動きで、女は少年の元へ歩みを進める]
それでは今から、秘密の話しだった事にいたしましょうか。
[感情の薄い声]
[指先を伸ばし、少年のあかの髪を掬う]
……必要な事なら戻る、無用なら戻らない。
記憶に関しては、そんなものと思うしかないんじゃないかね?
[引かれる手と、それに伴う鈴の音を聞きつつ、こう返し]
確信なんて、恐らく、誰にもない。
……なら、そこで考えすぎても仕方がないだろ。
[言葉と共に、水面に伸びる。
紅を滲ませる白に包まれた、左の手]
……そういうもの、かね。
[並べられる平坦な言葉に呟きつつ、指先を水面に触れさせる。
波紋が揺らぎ、冷たさが伝わる。
これに浸せば熱は和らぐか、などと思いながらも。
他者の居る場でそれを行うのは、躊躇いが先に立った]
[寄ってきた女に、見る?と差し出しかけ、
掬い損ねた髪が他を揺らし、片目を細める]
それはそれで、どんな話だったか、
気になってしまいそう。
ああ、そもそも花の命の短さが。
[確認の様に、吐息混じりの反復を]
儚いものが苦手でいらっしゃいましたか?
それこそを佳いとする者も居る様には思いますが。
そういうもの、じゃないのかな。
オレよりあなたのほうが、
きっと、知っていると思うけれど。
[波紋は円を崩していく。
水面に映し出された月が、
形を保とうと揺らめいていた]
ヴィー、寒くない?
それとも、熱い?
必要ならば。
けれど、大切なものほど失い易いとも。
それはきっと記憶であれ。
[碧は瞼の裏に隠れ、長い睫毛が落ちる]
[くれないは弧を描いた]
それでも貴方ならば、また拾うだけ、思い出すだけとおっしゃるでしょうか。
[声はいつまでも問うばかり。けれど、裏腹な同意]
仕方無いもの。そうかもしれませんね。
苦手――に、なるのかな。
すぐにいなくなってしまったら、詰まらないもの。
それに花は動かないし、あたたかくもない。
[視線は水平へ。
音を紡ぎ息を漏らす、女の唇を映した。
描かれる弧を。]
キャロは佳いと思うの?
この花が、好き?
さて、それはどうだかね。
[知っていると思う、と言われ、口元に掠めるのは何処か冷たい笑み。
波紋に揺らぐ月に蒼氷を細めつつ、結局、手を軽く浸すに留めて水から離れる]
別に、寒くもなければ、熱くもないが?
[問いへの答えは、一部は偽り。
しかし、熱を感じるのは一部のみ故に、完全な偽りとも言えず]
冷えますよ。
[先程泉に浸した指は、風にも熱を攫われて、克明な白さ]
[同じ様、泉に触れる青年に短い声を]
見ても構いませんか?
[差し出されたスケッチブックに意を察したか、少年へと問い掛ける]
[また一房あかを掬い]
それでも秘密にしなければ。
そういうものでございましょう?
[大切なものほど、という言葉。
それに、紅の源が疼いたのは気のせいか、それとも]
……それで、正解。
必要であるなら、取り戻し、留めるだけだろ。
[肯定の言葉はさらりと軽く。
水を離れた手から落ちた雫が、複数の波紋を水面に浮かべた。
冷える、との言葉には、ああ、と気のない声を返すのみ]
[眼に映るは女の笑み。
泉に映るは男の笑み――
それも、波打つ水の合間に消える]
そうそう、冷えちゃう。
[キャロルの言葉に、同意を示す]
熱くないなら冷えたら寒いし、
熱いなら冷やしたいのかと思った。
ふふふ。
退屈を嫌われる方が、こちらにも。
温かく、動くもの。それがラッセル殿の好きなものでしょうか。
[静かな笑み。その形は変わる事なく]
――はい。
[少女のような、聖母のような、娼婦のような印象を兼ねた微笑]
[恭しい声が、短く肯定を返した]
秘めなければ秘密じゃないものね。
秘めたものほど、知りたくなってしまうけれど。
[女を真似てか、微か口端を上げた。
許可を口にする代わり、
髪を掬う手を取り、
己の手にする冊子の上に導く]
冷えたからって、凍りつくわけでもないだろうに。
[大げさな、と言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
少年の言は正鵠を射ており、言い当てられたが故にか、冷笑は苦笑に転ずる]
……さて。
それじゃ、俺はもう少し、月に惹かれて彷徨うか。
[蒼氷を天に座す月に向けつつ、言って。
ふらり、緋色の中へと*歩き出す*]
こちらにも?
[確認めいた言葉には曖昧に頷きを返す。
己にも確かではないものであるから。]
……キャロは好きなものが多いんだね。
[連なる印象を紐解くように、言葉を重ねた。
渡したスケッチブック、
その紙の上に描かれるのは、
白と黒で綿密に写し取られた世界。
其処には城があり、空があり、花があり、
しかし、人だけは何処にも居ない。]
[頭を垂れたその姿勢のまま、女は青年を見送り]
[またあかを掬おうとした手に、温かい掌が触れる]
ありがとうございます。
[その場に屈み、端を折らない様、丁重にスケッチブックを捲る]
私の好きなものはたったひとつで、そして沢山。
[捲る動きの度、鈴が揺れる]
[人が居ない絵画ばかりである事に女が気付いたのは幾枚目の事*だったか*]
冷えて直ぐに凍るわけではないけれど、
冷えて冷えて、冷え切ってしまったら凍るかも。
[彼方へと向かう背を見送る。
視線はそれより、少しずれた位置だった]
ひとつで、たくさん。
全ては同じものなのかな――
[繰り返す。
絡み合った糸は未だ解けない。
鳴る鈴の音を聞きながら、天と地、二つの月を眺めていた。
手は届かず、届いても得られないもの。]
戻ろうかな。
[程なく時が経った頃、そう呟く。
景色を描くことはなかった。
やがて女を誘い、古びた城へと舞い戻る。
揺れる花は、よろこびに*ざわめくようだった*]
……いえ。何でもありませんよ。
[振り返ったニーナに手を振って微笑み――彼女には表情は判別できないのだが――、彼女が出てゆくのを見守った。]
[盲目か……否、恐らく弱視なのだろうと判断し、それ以上触れはしない。
色でものを見ているのだとは、知る由もない。]
―客室―
で、使って良い部屋はあるのか
[そう番人に聞いて、教えられた部屋の中、男は軋む音を立てたベッドに腰掛けていた]
[布団は悪くはないが古風なものだ]
[無骨な手が、今は左の、傷の走る目を押さえていた]
[力が入っているのか、指の下で巻き込まれた緋の髪がくしゃりと音を立てた]
――…
[何かを思い出したのか、口は小さく誰かの名を紡ぐ]
[閉じられた目に映るものが何であったかなど、わからない]
[風が幾度か窓を叩き、手が外れ、黒紅があらわになると、男は立ち上がった]
[戸棚を開くと水差しがあり、中に水はなかった]
取りにいくか
[窓の外は明るい]
[水差しを持って男は部屋を出た]
[キッチンの場所などわかるわけもなく、階下で立ち止まることとなったのだが]
[生のままでからだに流し込んだ酒は胃の腑で熱い火を点すよう。]
……効きますね、これは。
[呟いて、じんわりと頭の芯に拡がる平衡感覚の狂いを味わう。]
終焉ねえ…どんな与太話だよ。
ああ、いやいやなんでもねえ。いい酒だって言ったのさ。
[番人から酒瓶を庇い、動き出したニーナへ逸らした目線を向ける。眉を寄せられるのも慣れた風に無視するが、ここに来る前もそうであったかは記憶にはない。手を貸すことも問うこともせず青い髪の二人のやり取りを眺めた]
[女と別れたのは、何時の事だったか。
城に戻れど部屋には入らず、
ブランケットを羽織った侭、
廊下で足を止め窓の外の景色を眺める。
硝子に似た瞳は見るものを映す。
それが自身というフィルタに既に歪められているとは知らぬ侭]
違うか
[一つ目の扉は違った]
[男は息を吐いて、次を探す]
[結論としてキッチンは見つかった]
[扉を開けたまま、中に入る]
ええ。くらくらしますよ……
[体内にともった火を持て余すように、先程までは蒼白だった顔色を仄かに朱に染めて、熱い息を吐いた。]
病み上がりにはすこしきついですね……
くらくらするのがいいんじゃねえか。
それにさっきよりゃ色男になってんぜ。
ああ、きついってんならほどほどにしとけ。吐いたら勿体ねえ。
[ナサニエルの顔色を揶揄し、心配するのは青年でなく酒の方]
ま、病人ってんなら先になんか食ってからかねえ。
空きっ腹にゃ回るからな。
ブランデーの肴にゃクッキーは向かねえが、茶に垂らせばいけるんじゃね?
そうですね。何か腹に入れないといけませんね。
[少し残ったクッキーを見て、]
とりあえずこれを食べて、落ち着いたら食料を探してみますよ。
[ソファから身を乗り出し、長い指でひとつ摘んだ。]
[指先が羽織ったブランケットを掻き寄せる]
冷えたかな。
[呟いて、視線を引き剥がし歩みだした。
程無く、部屋から漏れる灯りを見出す。
其処がキッチンであるとは、知っている。
あたたかなものを求め、覗き込んだ]
おお、食え食え。
落っこちんなよー。
[ソファーから身を乗り出す姿に呑気な声を発し火かき棒で暖炉を弄る。火花が散り赤い炎が背を伸ばす]
…ハムかチーズが見つかりゃ炙って食えるな。
探しに行くんなら俺も行くぜ。また行き倒れたくねえだろ。
[酒壜を脇に置き、冷め切った茶の入ったティーカップを大儀そうに取り上げる。
それにクッキーを浸しながらもそもそと飲み込んだ。]
それにしてもあなたは楽しそうですね。
不安にはなりませんか。
皆訳も分からず此処に居る所為で落ちつかないと言うのに。
[こぽこぽと音を立て、水が入ってゆく]
[男は気配を感じてか、振り向いた]
[現れた緋に、手元が僅かに狂い、水が陶器を伝う]
……ラッセルか
何か食いに来たなら残念だったな。何も作られてないぞ
[すぐに水は、水差しに注がれ始めた]
クー。
[中に入る。
乾いた足から、土の欠片が落ちた]
ううん、食べに来たんじゃないよ。
ただ、少し、冷えたみたいだから。
[落ちゆく透明な液体]
それは、ロッティの淹れていたのとは違うよね。
[いくつかやっとの思いで飲み下すと、指先の粉を払い、そろそろとソファーから立ち上がる。]
やはりもっと食べやすいものが欲しいですね……
探しに行きましょうか?
これはただの水だ
お前……目が?
[それから視線を足元へと向ける]
[男の眉が寄った]
好きではないからと履かないと余計に冷えるぞ
――温かいなら広間の方が良かったんじゃないか
…あ゛
まあ喉に通りやすいならいっか。
[茶にブランデーを垂らすのでなくクッキーを浸す青年に変な顔になるが、気を取り直し口を拳で拭う]
不安ねえ…酒もあるし屋根もある、ついでにいい女も見た。
きな臭え話さえなきゃ最高じゃねえか。
どこにいようと大した違いはねえ…いや、あるようには思えねえってところか。
[絶対にそうだという記憶はないので首を捻って言い直す]
不安も落ち着かねえのも飲めば関係ねえ。
記憶があったって忘れられるから一緒さ。
ああ、そうだよね。
湯気たってないし、香りが違うもの。
目?
オレは両方、見えるよ。
[傍に身を寄せ、男の手元を見、振り仰ぐ。
男の目を捉え、はたりと一度、瞬いた]
そんなこと言われても、靴、ないしさー。
広間にはさっき、休んでる人もいたから。
それに今はあたたかくなったから、平気。
そうだな、ここにいたって食いもんからやってきてくれる訳じゃなさそうだし。
[番人をぼさぼさの前髪の影で見て、立ち上がる]
行くか。
紅茶には色があるだろう?
色が見えないのか?
[問いかけ、それからキッチンの中を見回す]
火くらいおこすか
座っていろ
温かくなるようなものもないだろう、今のここには
見えるよ?
でも、水とそんなに変わらないよね。
暗かったからよくわからなかったんだ。
[自覚の薄い物言い。
促されるままに、椅子に腰を下ろす。
狭い場所に膝を立て、
掻き寄せた布を口許まで引き上げた]
誰かがいたら、あたたかいよ。
[ナサニエルより先に重いブーツを踏みしめ扉を開ける。呑んだ量よりは幾分まし程度の足取りで廊下を進み、適当に角を曲がる]
どーこだっけなー。
番人に聞いて出てくりゃよかったか。
[背後についてきてるか振り返らずぼやき、それと程なくして扉から漏れる灯りと話し声に口笛を吹く]
ちょーどいいや、聞いてくか。
おーい、食料ある場所しらねえか?
[中の様子も気にせず髭面出して問いかける]
[暖炉に薪を、そして火をおこす]
[やがて火は大きくなってゆくが、最初は僅かに手に陰影が濃くなるだけ]
暗くとも十分変わる――とは思うが
[火が薪を這い、範囲を広げてゆく]
[ラッセルの言葉を聞いて、少し驚いた顔をした]
[それはすぐに、笑うことによって*消えたが*]
そうか
お前は変わった奴だな
―廊下―
[ギルバートは、上半身には眼帯以外を纏わぬ姿で、廊下に姿を現した。]
[男は、手すりにそっと手を置き、背筋を伸ばした。
唇が、掠れた声で数字を数える。ふたつのつま先をそれぞれ左右の地平線に向け、膝の間をしっかりと締めて立つと、緩慢な仕草で右手を胸の下へと引き寄せた。]
[膝の間を開き、浅く、深く、腰を落とす。
その動作を幾度は繰り返した後、今度はゆっくりと胸を反らした。
男は、其れをいつもの習慣としていた。
その理由は、彼自身にも分からなかった。
ただ其れが、彼が唯一強い記憶として持ち合わせている
「舞踊」と深い関わりを持っていることは確かだった。]
[深い、呼吸。
彼の膚にはうっすらと汗が浮かび、
汗は廊下の冷えた空気と交じり、湯気となって天井へと昇る。]
ゲ。
…ああ、いやいやなんでもねえ。
[顔を出した先にクインジーの強面を見つけ呻くが、よそ者の立場は同じと腹をくくる。ラッセルの問いには都合のいい部分だけ飛びついた]
ここにあんのか?
そりゃついてる、火もあるし。
おーい当たりだったぜー。
[最後の部分は後ろのナサニエルに言って、いそいそと食料を漁り出す]
[しばらくその動作を続けた後、彼はそれを止めて歩き出した。]
水……喉渇いた。
[タオルを首に掛け、歩き出した。
膚の上には、まだ汗が残っている。]
[少々足元が覚束無くなっていそうな先導者――ケネスの後ろを慎重に、時々壁に手を突いてゆっくりと進む。
結果として遅れ気味になったが、明かりの洩れる扉に辿り着いた辺りでその背に追いついた。*]
[廊下を歩いていると、広間とはまた違う場所から人間の声が聞こえてきた。]
何だ?……ネズミの群れにしちゃあデカイ声だ。
しかも人間の言葉を喋っている。
[灯りのともっている場所を、そっと覗いてみる。
どうやらそこはキッチンらしい。]
呑んだら食うのは当然だろ。
ってか腹へらねえのは聖人くらいじゃねえのか。
[ラッセルに答えながらチーズの塊を引っ張り出し口笛]
いーのがあるじゃねえか、あとは…干し肉か。
そっちの青毛にゃ食べにくそうだな。
オイ、てめえで作るか誰かに頼めよ。
[粥の材料になりそうなものを引っ張り出し、チーズの塊を抱き干し肉咥えて振り向いた]
…いかにも。
ただし「ギ」と「ル」の間に、そこまで長い空白は無いけれども。
[赤毛の青年に、悪戯っぽく微笑んだ。]
水。ここで飲めるよな?
グラスはどこ……だ……
[グラスを探すギルバートの視界に、チーズと干肉を抱える髭面の男の姿が入った。]
……ネズミ、か?
[ケネスの滑稽な言い草に苦笑しつつキッチンに入る。
入り口近くの壁に寄り掛かったところで、ふと覗いた茶色の癖毛。]
ギル……ああ。
先程はどうも。
[広間に居た眼帯の、どこか芝居じみた大仰な動作の男だと気が付いた。
自然、目は汗の浮いた裸の上半身に向けられる。]
もう食べたのかと思ったんだ。
せーじんも、お腹は空くかもよ。
[なんとなく立ち上がり損ね、足を揺らす。
料理の作り方は知らず、他の二人――
クインジーとギルバートに、視線がさ迷った]
ちゃんと聞いてなかったんだもの。
お風呂上がり?
[言い訳染みた台詞を誤魔化すように、
露な上半身を見て疑問を付け加えた]
鼠じゃないよ、人だよ。
でも鼠にも似てるかも。
兄さん。
身体の具合はどうだい?相変わらずか?
メシでも食えば落ち着くかな。
[先ほどまで、青い髪の乙女に介抱されていた男に微笑む。]
なぁに、風呂上がりじゃないさ。
ちょっとばかり身体を暖めていただけだ。
ウォーミングアップってヤツだな。
いや。
ネズミにしちゃー酒くさいし、何より器用に酒飲みの好みそうな食い物ばっかり選んでるな……
やっぱり、人間か。
ところで、赤毛のキミの名は?
俺はまだ、キミの名前を聞いて無かった気がするんだ。
[静寂を破ることはしなかった]
[やがてやってきた男たちに、目を向ける]
女じゃなくて悪かったな
[つい本音が出たようなケネスの声に、男は低く笑った]
[その後ろからやってきたナサニエルを見て、目を細める]
[問いはラッセルが先に口にし、もう一人やってきた男へと目をやった]
水はそこだ
水差しのは飲むな
[入れなおすのが面倒だと嘯いた]
[食事を作る旨の言葉には軽く肩を竦める]
やってやれないことは無いが、病人食は作れないぜ
焼いて混ぜるくらいなもんだ
そうなんだ。
動かなくなったら冷えちゃわない?
[ギルバートの説明には、少しずれた返答。
座り直しかけたところに問いが投げられ、
がたりと大きく椅子を揺るがせた]
オレ?
あ、そっか、言ってなかったね。
オレはラッセル、だよー。
……ん?
何故水差しのはまずいんだ?
まあ、いいや。
飲んで変なことにならない方がいい。
ありがとう。
[コップに注いだ水差しの水を捨て、安全と言われた水を汲み直した。]
さっきいれたばかりだからだ
もう一度入れなおすのが面倒臭い
いれとけよ
[理不尽なことを言って、男は笑う]
[ラッセルの要望にそちらを見ると、尋ねる]
あたたまるものがいいのか、お前は
何があるのかわからんが、湯を沸かすくらいなら軽く出来るぞ
お気遣いありがとうございます。
[小さく会釈。]
[ギルバートを見る目つきは少しだけ楽しげだ。]
料理は…多分、できる、とは思うのですが。
酒の所為で少々手元が怪しくて。
怪我をしても何ですから、もう少し落ち着いたら自分で何か作りますよ。
[まだ少し赤みの残る頬で壁に凭れて囁いた。*]
なんでもいいよー。
[自分で淹れる気はないらしく、
椅子に手を突いて足を伸ばす]
あ、でも、薬は厭だな。
美味しくなさそう。
[次いだ言葉は、ケネスを見ながら。
未だに酒とは気づかぬ様子だった]
なるほど、キミはラッセル…か。
ああ、俺は別にしばらくはこのままでも問題は無い。そのうち服を着るさ。ご婦人方が嫌がるようなら、すぐにでも着るべきなのだろうが、な。
[片目を閉じたままの男の言葉に、肩を竦めて緩く笑った。]
そいつは随分とまた理不尽な。
水も飲めばいつか無くなるだろうに。
……まあ、お言葉には従いますとも。
[水差しを手に取り、その中身を再び満たしてやった。]
入れたばかりだぜ
水差しに入れるのは得意じゃないんだ
[と言いながら、ラッセルの視線を追い、再び少年に目を戻した]
薬?
そんなもの作れないから安心しろ
で、お前らは?
ついでだからいれてやる
[言いながらも、棚に目をやり、茶葉の入っているようなものを探す]
[多くあるようで、黒紅が嫌なものを見るように細められた]
ああ、俺の分も頼むよ。
[片目の男に手を上げて合図を送る。]
酒か、よほど珍妙な味がする茶でなかったら何でもいいよ。酔っ払うと、身体が思うように動かないからな。まだそんな時間じゃあない。
ああ、ええと……確かまだ名を聞いて無かったかな。
[片目の男を、じっと見つめた。]
薬はねえ、
其処の人と、ナットが飲んでたの。
変わった臭いがしていたんだよ。
[足先を曲げたり伸ばしたりを繰り返し、
膝を曲げ、片股の上に乗せ、
爪に入り込んでいた土を削る]
いいや、ラッセル。まだご婦人方は居ないが、そのうちキッチンに入ってくるかもしれないだろう?俺はそのことを言ったのさ。
何せキッチンは女性達の戦場だ。いつ戦士たる女性が入ってくるかは分からない。
……不埒な姿で突っ立ってたせいで、戦士に叩きのめされるのは御免だな、という、くだらない妄想だよ。
[仕方ないと、火をつけた上に水を入れた鍋を置いておく]
[音が鳴り出す前、聞こえた内容に吹き出した]
ご婦人ね
あの女たちが何と言うか楽しみだ
[クツクツと笑いながら、求められるままに口を開く]
己はクインジーだ
そういうお前は?
[自分を見る目を、ぴたりと捉えて尋ねた]
珈琲か
[とりあえず茶葉だと思わしき入れ物を取ると、中にあるのは珈琲豆]
[そのまま目をラッセルへ向けた]
――飲めるか?
ううん、そうじゃなくて。
この建物の中に、ご婦人っていたんだ、
って思ったんだ。
[あっけらかんと言い放つ。
皮肉でもなく、何処か不思議そうに]
うわぁ、戦場なんだ。
それなら早く逃げないと。
[立ち上がり、ブランケットを纏い直す]
[くちゃくちゃ音立てて噛んでた干し肉をなんとか飲み込み、かなり遅れてギルバートに鼻を鳴らす]
誰がネズミだ。こんなでかいネズミがいてたまるか。
そこのでかいのも笑うな。
[喉を鳴らすクインジーを一睨み]
俺の名前は……「ギルバート」。
何故かここに来る時にその名を覚えていたのだから、多分それが俺の名前なのだろう。
踊ることに比べたら、あやふやな記憶でしかないが、名前が無いよりマシだろう?……という程度の「名前」さ。
[目が覚めてしばらくは、光の無い部屋の天井を見ていた]
………。
[眠る間、何かが過った気がしたが、それが何なのかは分からず。思い出すことも出来ない。しばらく考えていたが、直ぐに考えるのを止めた]
…休んだ意味が無いったらありゃしない。
[小さく息を吐いてから上半身を起こした。どのくらい眠っていたかは分からない。けれど少しではあったがすっきりした感じはしていた]
[ベッドから降りると服を直し、髪を整え。そのために鏡を探したが、この部屋にも鏡は無かった。仕方なしに直せるだけ直し、部屋を出る]
[鏡があったのであれば、瞳が滅紫に染まっていたのに気付いたかも知れない。けれど鏡は備わっておらず、また滅紫も部屋を出る頃にはいつもの紅紫へと変じていた]
……あれが、酒なんだ。
「命の水」、って言うんだよね。
[信じられないといった様子で幾度も瞬く。
クインジーの問い掛けに鼻を動かす。
酒とは異なる、深い匂い]
んー……
飲んだことないけれど、くれるなら飲むー。
いやいや、「戦場」っていうのは「ものの例え」さ。本当に銃弾が飛び交う訳じゃあない……。
ラッセルには、そういう類いの例え話は合わないのかな?……なるほど、了解。
[露台に佇み手を伸ばす。
空に輝く月は遠く、どれだけ手を伸ばしても届くことは無く]
たかいところへきても。
とどかない。
[溜息を吐いて腕を戻す。
下ろされた視界に入るのは湖。
月をうつして、緋をうつして]
きれいなのに。
ああ、やっぱりネズミじゃ無かったか。
チーズと干肉と酒と、それから人間の言葉。
………なるほど、人間だ。
これはこれは失礼をば。
[干肉を喰う男を見て、恭しく一礼した。]
俺はコイツがあるからいらねえ。
[料理に関しては出来るが作る気がないから黙り、飲み物の勧めには手を横に振る]
そっちのちびも呑んでもいねえ内から文句垂れてんじゃねえよ。
茶に垂らすとあったまるんだぜ?
オマエの場合はミルクの方がよさげだがな
[ラッセルに瓶を揺らして見せ、無精髭に囲まれた口を歪ませる。ミルクはネズミ呼ばわりの意趣返し]
可笑しい言い方だと思っただけだ
良いと思うが、ねずみ
[鼠に対しての笑いは、ケネスを苛立たせるだろうが、男は気にすることもなかった]
[珈琲をいれるのも適当に]
[慣れた者が見たら、適当すぎると文句をいうだろうが、コトコト音を立ててやがて沸騰した湯を淹れ、注いだ]
砂糖がある場所はわからん
飲むなら飲め
[カップに移すのは望まれた分だけだった]
[どれだけそこで過ごしたか。
やがて常盤を揺らして露台を離れる]
何かするべきことがあれば。
気も紛れるのでしょうか。
[部屋を借りた一角に伸びる廊下を足音も無く歩きながら。
ポツリと呟く]
あ、そうなんだ。
[ギルバートの訂正に胸を撫で下ろす]
合わないっていうか、例えは解り辛いかな。
いくら飾っても真実は変わらないから、
そのままに伝えるほうがいい。
オレ、言葉選ぶの上手くないけれど。
なんてーか、えらくキザな男だなおい。
そういうのはアンタの言うご婦人とやらにしろや。
なんかあちこち痒くなってくらあ。
[ギルバートの台詞や仕草に粗野な部分が馴染めず、ぼりぼりと首筋を掻く。それぞれの名乗りは耳にしていたが気のない態度で聞き流していた]
[泉を離れ、どれだけ進んだか。
いつしか周囲には蒼黒い木々。
それはどこまでも続くが如くひしめき合い、先に進むのを阻んでいた]
……どうあっても、出るは叶わず、か。
予想していたとはいえ、ここまで見事に的中されると、腹立たしいな……。
[ため息と共にこんな言葉を吐き出し、踵を返す]
あそこに戻る……しか、ないか。
[男の揺らす酒瓶に釣られて視線が揺れる]
ちびじゃなくてラッセルだよ、鼠の人。
髭のおじさん、のほうがいい?
ああ。
うん、ミルクは好き。
よくオレの好み、わかったね?
[皮肉は通じず、あっさり答えた]
[鏡が無いのはやはり不便で。客室はほぼ同じつくりだろうと当たりを付け、それ以外の部屋を一つ一つ覗いて回る。一つくらいないだろうかと淡い期待を持ちながら]
と言うか、客室に鏡が無いってどう言うことかしら。
普通あるものじゃないの?
[とは言ったものの、記憶が曖昧過ぎて自分の言う「普通」が本当に「普通」なのかははきとせず。それでもやや憤慨したような様相で部屋を開けては鏡を探し、また廊下に戻ると言う行動を繰り返す]
ぢゅー
…とでも鳴けば満足か?
ああ、服からしたら言われてもしゃーねえな。
[クインジーの声にふざけた鳴き真似を返す。チーズを投げようと動いた目が薄汚れ鼠色の袖を見、弄ぶにとどめて肩を竦めた]
[珈琲を淹れたカップを受け取り、
両の手で包んでそっと口をつける。
幾度か息を吹きかけ、冷まして飲んだ]
……にがーい。
[舌を出す]
[木々の間を戻り、再び緋の敷き詰められた空間へと。
今は人影のない泉の側を通る際には、水に触れて行きたい衝動にも駆られたが、それは抑え。
そこに映る月をしばし見つめ、佇む。
周囲の緋が風に揺れた]
……なんつったっけ、この花……。
[揺れる緋を眺めつつ、小さく呟く。
幾つかの名のある花と。
それは、認識してはいるのだが]
身体が痒くなったら、一度汚れを洗い流すのも悪くはないさ、髭の御方。
俺に染み付いた言葉や行動が「これ」なのは、どうしようもない事実だ。今さら変えてしまったら、全てを忘れてしまいそうで――畏ろしいのさ。
[珈琲の香りにひとつ鼻を鳴らし、カップに手を伸ばした。]
ありがとう、クインジー。
[歩く先にあかいリボンが目に入る]
シャーロット様?
どなたかをお探しですか。
[部屋から出てまた次の部屋へと向かうのを見て、声を掛けた]
……その内、思い出すか。
[結局、記憶の探索は諦めたか。
軽く肩を竦めて言った後、城へと続く道を辿る。
吹き抜ける風、揺れる緋。
夜気は冷たく体温を奪うが、紅の熱は表層の一部をさらうだけ]
そう鳴いたら、皆から鼠と呼ばれることだろうよ
あの番人ですらそう呼ぶんじゃないか?
[珈琲が冷めるのを待つか、置いたまま低く笑う]
[苦いと言うラッセルには、やっぱりなと言う]
砂糖やらミルクやらがあれば良いな
どこにあるやら
[ギルバートには、気にするなと軽く言い切った]
ついでだ
[あれからどれだけの時間が経ったかは分かりません。
わたしは廊下にいました。
ひとが嫌いなわけではありませんが、大勢と共にいるのはあまり好きではありません。
声が誰のものなのか認識し辛いからです。
随分と賑やかな部屋を通り過ぎ、静かな廊下を、こつりと杖を鳴らしながら進みます。]
さて、と。
これもそろそろどうにかせんとならん訳だが……。
[目を向けるのは、左の腕。
包帯を替えるぐらいはしなくては、とは思うものの、手持ちは先に使ってしまっていた]
……どっかにある、かねぇ。
探すか……面倒だが。
[どことなく、他人事のように呟き。
イザベラに見せてもらった見取り図を思い返しつつ、廊下を歩いていく]
[何度目かの室内探索。足を踏み入れたのは倉庫のような沢山の物が置かれた部屋]
うっわ、何ここ埃だらけ。
[扉を開けたことにより舞う埃を払うように顔の前を手で仰ぐ。様々ありそうなその部屋に入り、今までと同じように鏡を探し始める。箱や布の包みを開いたりして、ふと動きが止まる]
………───。
[布から覗いた銀の光。それは己が姿を映していたが、探していたものではなく。思い起こされるのは番人の言葉。しばしそれを見つめて、息を飲んでから布を戻した。元の場所へと戻すと足早に倉庫を出る]
[倉庫を出たところでネリーの声が耳に入り、僅かにビクリとしてから振り返った]
あ、ああ、ネリー。
人を探してるのでは、無いわ。
[笑みを乗せた紅紫の瞳がネリーへと向けられる]
はいはい、わーったよちび。
終焉とやらが嘘でも本当でもどうせ短い付き合いだ、好きにしろ。
[ラッセルの訂正にも直らず、ちび呼ばわり。名に興味がないのは自分のも他人も同じ]
当たりかよ。
その割にゃ伸びてねえが…
[チリン]
[随分と人の少なくなった広間へと入り、スケッチブックを開く]
ああ、全て黒と白なのですね。
眼を閉じれば、花の色は垣間見えそうですけれど。
[暖炉の焔が、ちらちらと揺れ、手の中の風景に陰影を落とした]
[渋面を作りつつもちまちまと
飲み進めているところに手渡される砂糖。]
あ、ありがとう。
クーはやさしいね。
[闇に親い液体に白を雪のように混ぜ込み、
甘味を含んだあたたかさに息をつく]
バートも要る?
[台の上に砂糖の壺を戻して問いかけた]
人では無く。
では物をお探しでしたか?
[相手の緊張には気付いているのか気付かずか。
小首を傾げて再度尋ねる]
何かお手伝いできそうでしたら、手伝わせて下さい。
[かつ。
杖の音が止まります。
向かいからこちらに来る影が見えました。]
…どなた、ですか?
[色はよく見えません。
わたしは問いながら、灯を翳します。]
[適当に漁った小ぶりのナイフで硬いチーズに切り込みを入れながら話を聞く。返事をしたり口を挟んだりは刃物作業の合間で遅い]
ぎゃはは!
お子様にゃ珈琲はまだ早えみてえだな。
[舌を出すラッセルにいい気味だと笑った直後、ギルバートの髭の御方呼ばわりに痒み再び]
んな呼び方、やめやがれ!
まだネズミの方がしっくりくらあ。
[クインジーの鼠うんぬんにも好きにしろと鼻を鳴らす。切り取ったチーズをナイフに刺して炙る。端がとろけたところで大口開けてかぶりついた]
鏡。
客室にも広間にも無いじゃない?
だからどこかに無いかと思って。
[問いに簡潔に答える。後ろのリボンが若干傾いているのを、ネリーならば見ることが出来たであろう]
鏡が無いと髪を整えるにも大変で。
ついこのまま寝ちゃったものだから。
まだ見てない部屋もあるから、手伝ってもらおうかしら?
わかってなーい。
身長は、あれだよ。
きっと光が足りてないんだ。
光合成。
[名乗らぬ男との名のやり取りは諦めたか、
代わりに妙な理屈を並び立た。
一気に珈琲を飲み干し、
口許を袖で拭ってカップを置く]
ふう、ごちそうさまっ。
えっと、料理作れる人が要るんだっけ?
オレ、ちょっと探してくる。
[言うなり、忙しなくキッチンの戸を開く。
白を翻し、薄闇の中へと*姿を消した*]
……っと。
[時折立ち止まり、扉の向こうを確かめつつ進んでいた歩みがふと止まる。
進む先に見えたのは、薄暗い空間を照らす灯火]
灯りを持ってるって事は……『番人』……じゃあ、ないな。
[微かに聞こえた声は、無表情な男のそれとはかけ離れたもの。
ともあれ、止めた歩みを再び進め、そちらへと]
ああ。
そういえば私がお借りした部屋にもありませんでした。
普通はあるものなのですか。
[疑問を浮かべながらも頷いて朱色を見る]
よろしければ今は私が直しましょうか?
はい、探し物のお手伝いも。
てめえは植物かよ。
[ラッセルへの突っ込みはそれだけ。出て行く姿を見送らずもう一切れ切り取って炙る。頼まれでもしない限り分けてやる気は*ない*]
[灯に映し出され、近付いて来る色と、呟く声。
それには見覚えもあり、聞き覚えもありました。]
確か…
ハーヴェイ、でしたか?
[記憶を頼りに、声を掛けます。]
ああ、お前か。
[灯火に浮かび上がる青に、相手が誰かを認識して呟く]
そう、ハーヴェイ。
……何してるんだ、こんなとこで?
[問いに答え、逆に、問いを投げ返した]
あたたかく、動くものが好き。
それなのに描く事はしないのでしょうか。
[独白に似た呟きが落ちる]
[ぱたり]
[スケッチブックを閉じ、胸の前で抱えた]
返しに行かねばなりませんね。
[リィン]
[鈴を鳴らして、広間を出、声のする方角へと歩み出す]
あるべきものだと私は思うのだけれど。
ここではあるべきものじゃ無いのかも知れないわね。
[腕を組んで憤慨するような物言い。直そうか、と言う言葉に紅紫が瞬く]
え?
もしかして曲がってる?
直したつもりなのにー!
悪いけど頼めるかしら。
身嗜みはきちんとしておかないと、怒られ──。
[怒られる。誰に? つい口をついて出た自分の言葉に疑問が浮かぶ。組んでいた腕は解かれ、右手が側頭部へと当てられた。逡巡の後ふるりと軽く頭を振ってから]
それじゃあ、あの部屋見てみましょ。
[何事も無かったかの様な振る舞いで、廊下の先にある部屋を指差した]
[何処に居るかの当てはなく、足が向くのは男の声がする方へ]
[賑やかで、男の気配が多いのは、意外にも台所]
[その入口に立ち、女は首を傾げた]
随分と、皆さまお揃いの様ですね。
けれど…いいえ。いらっしゃいませんでしたか。
[探し人と擦れ違ったことを、女は知らない]
…良かった。
少し、散策です。
内部を知っておこうと思って。
[相手から肯定を得られ、安堵の息を吐いてから、問いに答えました。
それから、首を小さく傾げて見せます。]
貴方は、どちらへ?
そうですね。
ここでは何が普通なのか分かりません。
何をもって普通と呼べば良いのかも分かりませんが。
[答えたところで慌てる相手にきょとりと。
腕が解かれ、躊躇うように頭へと伸びるのを見ながら距離を縮め]
気になるのでしたら先に直しておきましょう。
[背後に回って手を伸ばした。
スルリと解けるリボンを慣れたように手早く結ぶ]
はい、それではあちらの部屋から。
[指差された部屋に視線を向けて、コクリと頷いた]
中を、か。
見せてもらった見取り図によると、わりと広いらしいな、ここ。
[返る答えに、ぐるりと周囲を見回し]
俺は、ちょっとした探し物を、な。
[言いながら、条件反射か左腕に滲む紅を抑えていた]
ねずみ?
[話しに上がっていた単語を捉え、女は珍しく眉を顰めた]
[そうして、その言の葉を発した男を見る]
[上半身には、何も纏わぬその男を]
風邪を引かれはしませんか。
未だ名も知らぬ方。
[心配の色は微塵も無く、告げる言の葉は疑問の態]
そう、ですか。
…どうかしました?
[目の前のかれが腕を押さえたのだとは分かりません。
ただ不意に動く気配は分かって、眼を動かします。
別の、赤い色が見えました。]
怪我をされているのですか?
[鼻先が微かに捉えた臭いに、きゅっと眉を寄せました。]
私達は「普通」を定義する記憶も持ってないし…。
全く、本当に分からないことだらけだわ。
[未だ自分が発した言葉に対する困惑は残っていたが、直すとの言葉に気を落ち着け結い直しが終わるのを待つ。髪が少し引っ張られ、リボンが結ばれる。その所作も、何故だか懐かしい感じがした]
ありがとう。
自分できちんと出来なかったと言うのが、少し恥ずかしいけれど。
[直してくれたネリーに微笑みながら、示した部屋へと向かう。足を踏み入れた先は自分達が使う個室より広く、広間よりは狭い、数人が寛げる客間らしい間取りをしていた]
んー……パッと見、ここにも無さそうかしら。
[向けられた二つの疑問。
一つ目で自分の動きが逆に注意を引いた事が察せられ、舌打ちを一つ]
……別に、大したものじゃない。
縛っとけば問題ないから、気にするな。
[二つ目の疑問には、直接の答えは返さずに。
熱を帯びる部分を押さえて、早口にこう言い放った]
[青に伸ばした手にはしなやかな感触。
近くで見ても朱と青の組み合わせは鮮やかに映えている。
結び終えリボンの形を整えると、サラリと流れる青から手を離した]
いいえ、どうぞお気になさらずに。
自分で結ぶのは簡単とはいえませんから。
[小さく頭を振り、後を追って部屋に入る。
見回した範囲に掛けられている鏡は無く]
見当たりません、ね。
ああ、手に持てるような大きさのものもあるのですよね。
少し探してみましょうか。
[近寄ったのは小さな戸棚。
引き出しを開けてみたりもするけれど、そこに目当てのものは見つからなかった。
あるのは部屋で寛ぐ為にか、揃いの食器の類ばかり]
探す場所を間違えたでしょうか…。
[ありがとう、ともう一度礼を言ってから、また部屋の中を見回し。手鏡の話を聞くと、「そうね」と相槌を打って引き出しを探してみる]
うーん……無いわねぇ。
鏡、手鏡がありそうな部屋って、どう言う部屋かしら?
客室にはまず無さそうなんだけれど…。
[先程見た倉庫。あそこを全て探したわけでは無いため、可能性としては残っているのであるが。あれを見つけた後では戻る気は無く。話題に出すことも無かった]
何かもう、鏡じゃなくて姿が映る何かを探した方が早いかもしれないわね。
陶器のお皿じゃなく、銀のお皿が無いか探してみるとか。
[舌打ちが聞こえました。
続いて、気にするなという言葉。
それでもわたしは、赤が見えたほうに灯持つ手を伸ばします。]
いけません。
ちゃんと、治療しないと。
何なら…
[『わたしが』と、言葉は続きませんでした。
伸ばす手もぴたりと止まりました。
眼も見えないのに、どうしてわたしはそんなことを言おうとしたのでしょうか。]
それは散々言われてるんだが、こっちもこっちで、色々とあるんで、ね。
[理由は定かではない、けれど。
この紅を消してはならない、という思いは強く根付いていたから、伸ばされた手を押し留めようとするものの]
……何なら……?
[不意に途切れた言葉と止まった手に、上がったのは訝るような声だった]
鏡のありそうな場所。
どうなのでしょうか。私はそもあまり見たことが…。
[途切れる言葉。過去の記憶に繋がるかとも思われたそれは瞬く間に霧の中へと消えてゆく]
…鏡を一番使いそうな場所、ですよね。
位の高い方が身支度をするような場所とか。
[一瞬の間を置いて、しかし霧を追うことは諦めた。
小さく常盤の房が揺れる。
首を傾げ、代わりに浮かんできたことを口にした]
ああ、その方が早そうです。
でもここにあるのはナイフやフォーク程度ですね。
台所などを探せばあるいは見つかるでしょうか?
光合成は植物だ
[ケネスと同じことを言い、男はラッセルが出てゆくのを見送る]
[目に残るは、白でなく、緋]
[その視線に周りは気付いたかもしれないが、男はそれについて口をきかなかった]
位の高い人って……この城だと誰だろう?
と言うか、部屋がどの辺りにあるだろう、が正しいかしら。
更に上の階があったりするのかしら。
[天井を眺め見るような仕草をし、また視線を落とす。そこまでして鏡に拘るかと言えばそうではないため、ネリーの台所の言葉に頷きを返す]
代用出来るものを探すなら、範囲も広がるわよね。
ありそうな場所も予測が立てられるし。
行ってみない?
[男が目の内に残された緋について考えていると、キッチンにキャロルがやってくる]
[言葉を聞き、視線は室内の人物を一周した]
誰かを探しているのか?
…い、え。
すみません。
[言葉は歯切れ悪く、出しかけた手をゆっくりと引き戻しました。
視線も、赤い色から外れます。]
わたしが治療しなければと、そう思ったものですから。
別に、謝らんでもいいが。
[歯切れ悪い言葉と共に引かれる手。
それに安堵めいたものを感じつつ、紅を覆うように腕を組み合わせる]
治療って。
……こう言うと何だが、できるのか?
[形の捉えられぬ視界。
それでどうやって治療をすると言うのか。
その疑問は、ごく自然に浮かんでいた]
ラッセル殿を。
貴方と同じあかの髪を持つ方を。
[碧眼は声をかけてきた男へと向く]
[目立つ傷跡よりも、眼差しはその髪を見つめていた]
これを返そうと思いまして。
何処にいらっしゃるかご存知ではありませんこと?
今までここにいたぜ
料理が出来る人を探しに行くと言っていたが、どこにいるかは知らん
出て行ったばかりというのは確かだが
――あぁ、絵を描いてたやつか
番人の方にはお会いできましたが。
主なる方にはお会いできておりませんね。
上の階にお部屋ですか。
露台への途中にはそれらしき場所は見当たりませんでした。
…イザベラ様などはご存知だったりするでしょうか。
[見取り図を書いていた女性のことを思い出しながら答えて]
はい、同じ探すのにも揃っている場所の方が確実ですね。
参りましょう。
[戸棚を閉じてコクリと頷いた。
扉へと戻ろうとしたところで一度足を止め。すぐに何事もなかったかのように、音を立てず歩き始める]
…分かりません。
[ゆっくりとかぶりを振って、顔を上げました。
本当は目を見たかったのですけれど、それは見えませんから、代わりに髪の茶色を見ていました。]
でも、もしかしたら。
昔は眼が見えていて、そんな仕事をしていたのかも知れません。
そもそも番人以外にこの城に住む人が居るのかさえ怪しくない?
居るなら、姿を現していてもおかしくないはずだわ。
…ああ、イザベラの見取り図は見せてもらったけど、それらしいのは見当たらなかったのよね。
イザベラが気付いたなら書き込んであってもおかしくないのだけれど。
[小首を傾げながら足は部屋の外へと向かう]
でもこれだけ探しても無いと言うことは、鏡は無いのかもしれないわね…。
銀食器、あれば良いのだけれど。
[コツコツと、靴が廊下を叩く。その音が一つであることに気付き、一度振り向いた。後にはネリーがついて来ている。小首を傾げ、ふと視線は床へと向く。それにより、ネリーの足音がしない理由にようやく気付いた]
靴、無いんだっけか。
歩きにくくない?
擦れ違いましたか。
[小さく呟いて、顔の横に垂れる金色を指で引いた]
此処には、料理人が居るのですか?
それとも何方かに頼まれるおつもりだったのでしょうか。
[番人が言うには昨日のあの時が全員だと。
それゆえに、後者はやや確信めいて]
はい。
うつくしいものが見られるかと、貸していただきました。
ここに来る前の事、か。
それじゃあ、確かめようもないな。
[仮定から語られる言葉に、ため息と共に呟いた]
……とにかく、俺は俺で何とかするし、多分、今までもそうしてきた。
だから、これは気にしなくてもいい。
…そうです、ね。
[溜息が聞こえたので、わたしは俯いてしまいました。
どうやったのか、赤い色は今は見えません。]
…はい。
すみません、余計なことを。
[相変わらず臭いは微かに感じ取れますし、きっと治ったわけではないのでしょうが。
どうしたって、今のわたしに何ができるとも思いませんから。]
急ぐことはありませんが。
よろしくおねがいいたします。クインジー殿。
[僅かに豊かな金色を揺らし、女は頭を垂れる]
[緋の耳飾りもまた、微かに揺れた]
[男の背に軽くかかる暗いあかの色を、女は姿が見えなくなるまで見つめていた]
そうですね。
広間にはあれだけの方々が集まられたのに。
見取り図にもなかったのでしたら。
そうした部屋を見つけるのは手間が掛かりそうですね。
やはり別のものを探した方が早そうです。
[振り返られて、きょとんと首を傾げ返す]
あ。…はい。
けれど他にどうすれば良いか思いつきませんで。
歩きやすくはありませんが、大丈夫です。
[一番の理由は隠したいものがあるから。
普通の靴では踝上の赤黒い痕までは覆われないだろう。
困ったように、足元を見ながら答えた]
だから、別に謝らんでもいい、と。
他にも口喧しく言うのはいるし、別に俺は気にはせんから。
[俯く様子に、口調は自然、宥めるようなものになる]
……さて、ここで突っ立っていてもなんだし、探し物を続けるとするか。
休んでるのかなぁ。
[覗いた広間は閑散としていて、
周囲に視線を巡らせながら廊下を歩みゆく。
硬い靴音と少女らの声を拾い、足が其方に向いた。
立ち止まった二人の姿が、闇の中に浮かび上がる]
シャロに、リィ?
だよね。
これで代用品まで無いとなると、いよいよ諦めなきゃならないけど…。
[拘るつもりは無いけれど、やはり無いと不便であり。あれば良いと言う淡い期待を抱きながらキッチンへと向かう]
靴を、と言ってもここには無いだろうし。
その状態でも仕方無いかしら。
素足で歩くよりはマシよね。
……素足で歩いてる子も居たっけか。
[赤髪の少年を思い出す。彼は確か何も履かずに行動していたのではないか。そんな考えを巡らせていたせいか、ネリーが布で足を巻いている理由までは考えることは無く。気付くことも無かった]
[移動し始めたところで闇から声がかかる]
その声は…ラッセル?
[近付けば、先程思い出していた赤髪の少年の姿]
[宥めるような声に、ただ一度、頷きました。]
…良ければ、お手伝いしましょうか。
灯も持っていますし。
[探し物との言葉に、もう一度顔を上げます。
本当は灯だけ貸してもいいのでしょうけれど、そうなるとわたしが困ります。
ただ先程のこともあり、強引についていくつもりはありませんでした。]
[手伝う、という申し出に蒼氷を一つ瞬く]
……いや、大丈夫だ。
大した探し物じゃないし、すぐに見つかるだろ。
[間を置いて返した辞退の言葉は、口調は軽い]
それに、ついでにあちこち眺めてみるつもりなんでな。
俺は、気まぐれに歩き回るから、つき合わせるのは悪い。
あってた、あってた。
[呼びかけは、声の質と揺れる長い髪から察しての事。
ずり落ちかけたブランケットを引き上げる]
うん、オレだよ。
シャロって、料理出来るんだよね。
ナットに食事作ろうと思ったのだけれど、
オレじゃ作れないから。
誰か出来ないかなって、探してたんだ。
他には、そうですね。
水を桶に張れば少しは。
けれど髪を直すにはそれでは不便そうですし…。
[無かった時の事を考えて答える]
ええ、素足の侭では少々。
そういえばラッセル様は素足でいらっしゃいましたか。
…お寒くはあられませんか。
[布越しでも廊下の冷たさは伝わってくる。
少年を見ながら小首を傾げた]
[ギルバートの「ネズミさん」には咀嚼に忙しい口の代わりに片手を挙げて答え、用を終えたナイフを服で拭く。ケースに戻し酒瓶の入ってない方のポケットにねじ込む。やってきたキャロルの相手はクインジーに任せチーズの一部と干し肉を確保して立ち上がった]
腹も満たされたし、ここにゃもう用はねえ。
じゃあな。
[肴の包みと瓶を片手にふらつく足でキッチンを後にし外へ出る]
私も、探しに出て参ります。
[男ばかりが顔を揃えたその場所に一礼をし]
[キッチンを出て、スケッチブックの主を探す]
[けれどそれは検討違いの方向へ]
[リィン]
[鈴の音は、一組の男女へと近付いた]
御二方にお尋ねしたい事があったのですが。
お邪魔でしたでしょうか。
[くれないを横に引き、女は尋ねる]
料理は、ええ、まぁ。
お菓子の類がほとんどだけれど。
ええと……ナットって?
[流石に愛称で人物を直結することは出来ず。名前を反芻して訊ね返す。また自分に対する呼び方が変わっていることにも小首を傾げた]
シャロって呼ばれ方も何か懐かしいな…。
もしかして元々そう呼ばれてたのかしら、私。
そうですか。
[あちこちに行くのはわたしの目的もありましたし、別に構いませんでしたが。
それでも断られたなら、それ以上共に行く理由はありません。]
では、気をつけて。
[そう言って、灯を進む先に向けて翳します。
杖をつき、また歩みを再開しました。]
下を向きながらじゃ纏めにくいものね。
[水を張っての代用には頷きながらそう返して。向かう先は同じと言うネリーの言葉にもう一度頷いた]
そうなるかしら。
作りながら探すことも出来るだろうし。
[数歩進んだ時でしょうか。
響いた鈴の音には、聞き覚えがありました。
振り返れば、思った通りの色彩。]
いいえ。
[かぶりを振って、一歩、元のほうへ戻りました。]
それで、何か?
おおっと、だいぶ回ってきたな。ちっと夜風に当たるか。
[廊下を蛇行して城の外へ繋がる扉を開ける。冷たい夜風と視界一面の緋に渋面になるが足を前に動かした]
寒くなくはないけれど、慣れたかな。
裾長いから、そんなに地面には触れないし。
[軽く足を上げ、首を捻って足裏を見た。
その所為で、乾いた土が残ってはいたが]
探し物、していたの?
[足を戻して二人を見やる。
会話からは目的が何か、読み取り難い]
[片手に灯。逆にはスケッチブック]
[離れかけた二人の両方に、緋を纏う女は問いを投げる]
ラッセル殿を探しているのです。
御見かけなさいませんでしたでしょうか?
ああ、ナサニエルのこと。
薬――いや、酒だっけ。
それ飲んで、少しはよくなったみたいだけれど。
[二者の同意らしきものを得て
向きを変えかけたが、次いだ声に止まる]
んん、だって。
ロッティ、が変わってるっていうから。
懐かしい?
それなら、そのほうがいいのかな。
ラッセルを?
いや……俺は、見ていないが。
[キャロルの問いに返すのは、短い言葉。
実際、これ以外に答えようはないのだが]
……気をつけて、ってのは、むしろそっちに言うべき言葉の気もするがな。
ま、心しておくさ。
[ニーナにはこんな言葉を投げておく。
実際のところ、杖に頼る歩みは危なっかしく見えて仕方ないのだが]
[ラッセルの歩き方に、良く転ばないな、と思ったが口には出ず。探し物を訊ねる様子には]
鏡。
無いとちょっと不便で。
広間や客室には無かったから、どこかに無いか探してたの。
[愛称の謎が解けると、ああ、と声を漏らし]
ナサニエルのことね。
…って、お酒で良くなった?
あんなの酔っ払うだけじゃないの。
逆に具合悪くなってそうな気がするわ…。
私の呼び方はどちらでも良いわよ?
変わってるからと言って嫌いなわけでも無いし。
うん、懐かしくは、あるんだ…。
良く分らないけれど。
[紅紫が僅か瞼に隠れた。しかし直ぐに視線を戻し]
それじゃキッチン行こうか。
ナサニエルが食べるってことは、消化に良いものの方が良いかしらねぇ。
はい。
それでも見つからなければ作り終えてからまた探すということで。
[頷きを返して少年の方に向き直る]
それならばよろしいのですが。
布越しでも冷たさは感じておりましたので。
はい、シャーロット様が鏡をお探しで。
お借りできる部屋も見たのですが、見つかりませんでした。
[最初に探していたのが隣の女性ではないとは知らず]
ナサニエル様。
具合は落ち着かれたのですね。
[フゥと小さく息を吐いた]
ラッセル?
[わたしの中ではその名前は未だ、赤い色や少年の声とは結び付きません。
だから首を傾げましたが、]
広間を出てからは、まだこちらの…ハーヴェイとしか、会っていませんけれど。
[ただそれだけは事実だったので、そう答えました。]
へえ、なかなかじゃねえか。
月が二つありゃ酒も旨くならあ。
花の色はいただけねえがな。どうせなら野性味のある…
[泉の傍に胡坐をかき、瓶の蓋を開けて深い色の液体を呷る。濡れた顎を袖で拭い満足げに細めた目が水面を見て凍りつく。焦茶色が映すのは満月ではなく天啓めいた理解と焦燥]
っざけんな、チクショウ!
[苛立ちに任せ三分の一以上残る瓶を水面に叩き込むが、水面の月を砕くことはない。荒い息を吐き肩を揺らして戻っていく満月を憎憎しげに睨む]
鏡――ああ、ないんだ。
お風呂場とかにも、ない?
[酒に対する評価には大きく頷いて]
うん。あんな変な臭いするのにね。
「命の水」っていうことなのかな。
[内心で首を捻りつつも前を向いて歩み出す]
それでも、キッチンまで歩いてきたみたいではあったから。
多少はよくなった、んじゃないかな。
見ていませんか。
残念ですが、ありがとうございます。
[青年の短い答えにも頭を垂れ]
[す、と女の眼差しは、青年の腕へと向けられた]
あの後に、叱られぬ様処置はなさいましたか。
必要があるならば、水場の近くにある布を裂くとよろしいかと。
いずれ、あかが乾いて黒に変わってしまう前に。
灯があれば、色は分かりますから。
[気をつけろと言われて、そう答えます。
実際危なく見えてしまうのは、仕方ないのでしょうけれど。
少なくとも廊下には、そう大きな障害物もないでしょうし。]
どっちでもよくても、よりよいほうで呼びたいけれど。
それなら、どっちでも呼んだほうがいいのかな。
[シャーロットの疑問に突いて考え込み、
歩を進めながら腕を組んだ。
手は肘を支えず、ともすれば落ちかける布を掴んで]
ああ、お風呂。
見てなかった。
[至極納得するような声色。後で確認しようと思いつつ、酒に関する言葉には頷き返す]
そうよねぇ。
まぁ好きな人は好きなんだろうけど。
私はあまり。
[話しながら歩みはキッチンへと向かう]
あら、キッチンまで来てるの?
それだったらだいぶ良くはなってそうだけれど…。
お酒も入ってとなると、どうかしら。
[やはり半信半疑]
終焉の獣…狩られる前に狩れってことか。
[がりりと親指を噛む。溢れた血が舌に触れた瞬間、浮かぶのは苦悶の色。荒く唾を吐き、それでも消えない味にポケットにねじ込んでいた酒瓶の封を切り口をすすぐ]
ゲフ…人間の血なんざ呑めたもんじゃねえぜ。
どうせなら――なあ
[酒にはジビエが合うと嘯く低いだみ声を聞くものは*いない*]
[のろのろとキッチンの中をあちこち動いて確認する。]
材料はあるようですね。
ダンプリング入りのスープでも作りますか……
[上着を脱いで作業台の隅に置き、シャツの袖を捲くる。]
ああ。
しかしこの中にはいるだろうし、そうでなくても近くの何処かにはいるだろうから、その内会えるだろ。
[告げられる礼にこんな言葉を返し。
腕へと向いた視線と言葉に、微かに眉が寄った]
一応、これからやろうかとは。
……水場の近く、ね。わかった、覚えとく。
[変わってしまう前に、という言には何も言わずに。
色はわかる、というニーナの答えに、そうか、と呟いて]
……それじゃ、俺はこれで。
[左の腕、そこに宿る疼きと熱と。
それを抑える手に力を込めつつ、*薄闇の奥へと歩き出す*]
出来れば統一してくれた方が良いかしらね?
どちらも良いとは言わないし、どちらもダメとも言わないのだけれど。
そうね…シャロ、の方が、呼び慣れては居るのかしら。
[多分、と自信はなさげに言葉を漏らす]
はい。ラッセル殿を。
あかの髪のお二方のうちの年若い方ですわ。
[色のみが分かると言う眼の事を聞いていたためか]
[なされる説明は色についてを]
そうでしたか。
こちらにはいないのかもしれませんね。
料理が出来る方を探していらっしゃった様ですが、また擦れ違ったのでしょうか。
絵を返さねばなりませんのに。
風呂場。
そうした場所にもあるものなのですね。
[自分が足を洗い流すのに使った水場にはなかったけれど。
この城の規模ならば他に立派な浴室があってもおかしくは無いとも思った]
変な臭い。
慣れないとそうも感じましょうか。
あれば便利なものでもあるかと思いますが。
[二人のあとについてキッチンへと足を進める]
慣れているほうがいい?
[訊ねながら、キッチンの戸を開く。
幾人かの姿は消えていて、
話題の当人が動き回っているところだった]
あ。平気なの?
[ペティナイフ片手に、野菜を手に取って物色している時に声が]
……ああ、ラッセル、君?でしたか。
ええ。もう随分と。
[莞爾と微笑む。]
赤…ああ。
[言われて漸く、その色を思い出します。
その間に去って行く色を、眼は見送りました。]
すみません、お役に立てなくて。
…絵?
[小さく謝罪を述べた後で、首を傾げました。]
[青年の、或いは励ましとも取れる言の葉に、女は再度礼を述べた]
[腕に向く碧は、寄せた眉に気付く事なく]
はい。行かれるのですね。
お気を付けて。
[その背を追う事は無い]
これで風呂場にも無かったらほぼ諦めかしら…。
イザベラも鏡があれば、って言ってたのになぁ。
[呟きながら、ラッセルの名前についての問いには頷きを返し。キッチンにつくと話題にしていたナサニエルが何かを作ろうとしていた]
あら、存外元気そうね。
料理、出来るの?
[開かれた扉の先、微笑む話題の主。
僅かに視線を逸らして頭を下げた]
はい、お食事を作るために。
ですが既にご用意されているところでしたでしょうか。
お手伝いできることがあればお申し付け下さい。
[シャーロットの問いに肩を竦め]
ええまあ。多分。私の記憶が確かならば。
じゃが芋を剥いて、ダンプリングを作ろうと思っていたところです。
[拗ねた素振りに年若の少年に苦笑し、ナイフを置いて]
ああ、行かないで下さい。
私のためにお二人と連れて来てくれたのですね?
ありがとうございます・・・
[近寄り腕を取ろうと手を伸ばす。]
[少女の思い当たった態に、女は縦に頷き]
[謝罪の言の葉には、首を横に振り否定した]
いいえ。
こちらには居ないとわかりましたもの。
[首を傾げる様を見て、女はドレスの緋色をスケッチブックで遮る]
ラッセル殿が描いていたものをお借りしたのです。
そんな拗ねなくても。
私も何か作れば良い話じゃない?
他の人も居るんだし、ね。
[ラッセルに対しくす、と小さく笑いながらキッチンの奥へと]
ああ、ダンプリング。
手軽で良いわよね。
作るなら手伝うわよ?
[必要な材料や器具を引っ張り出し、味付け等をどうするのかナサニエルに聞きながら、自分もいくつか勝手に料理を作ったりと。もちろん、合間に目的の物を探すのも*忘れない*]
[赤い色の一部が、何かに遮られました。
そうと手を伸ばして、触れてみます。
硬い紙の感触――恐らく、表紙なのでしょう。]
描かれるんですね、絵。
[中を開いても、きっとそれはぼやけてしか映らないでしょうけれど。
興味を抱いて、じっと見つめました。]
[少年が立ち止まるのを感じ、ホッとしたように小さく溜息をつく。]
[小さく微笑み、]
シャーロットさんもああ言っているのですから。
少しだけ、もう少しだけ居て下さい。ね?
[少年の頬に軽く掌を添える。]
……拗ねたつもりはないけれど。
[手馴れた様子で台所を歩む少女を眺め首を傾ぐ。
頬に添えられて、ゆるりとまばたいた]
いるのは構わないけれど。
オレ、料理は出来ないよ?
刃物を持った事も、ないもの。
[ラッセルを引きとめるナサニエルの横を抜けて。
教わる作業はそつなくこなすが、自分から何かを作ることはできないようで。シャーロットに確認をしながら準備を*手伝っている*]
[伸ばされた手を遮る事はなく]
[スケッチブックを見つめる瞳にくれないを開く]
気になるのならば、ラッセル殿と会われた時に伺うのがよろしいかと。
白と黒による世界がございました。
――人だけがございませんでしたが。
[碧眼は、少女のつく杖に向き]
私はキッチンに戻ろうかと思いますが…。
先に手伝いをした方がよろしいでしょうか?
構いませんよ。
折角だから、出来上がるのを待って食べていったら、と思ったのです。
退屈でしたら、他所へ行かれるのも自由ですけれど…。
[瞬く寸時瞳を見つめてから、頬から手を離す。]
[さっと振り向き、]
さて。シャーロットさんと、ええと…?
[ネリーの名を確認し]
まずは皮剥きを手伝っていただけませんか?
[にっこり笑いかける。]
[その後は二人と談笑しつつ、調理を進める。]
白と黒…だったら、見えませんね。
…人、が?
[色がついていたところで、きっとはっきりとは見えなかったでしょうけど。
少し肩を落とした後で、その言葉を思わず尋ね返しましたが。]
手伝い…ええと。
わたしなら、大丈夫です。
灯がありますし、独りでも。
[先程と同じ言葉を、目の前のひとにも繰り返しました。]
誰かがいるのなら、退屈にはならないよ。
[眼を伏せて首を振り男から離れると、
先程と同様、壁際に寄せた椅子に腰を下ろす。
勤しく動く者に手伝いを申し出る余地はなく、
立てた膝の上に腕を、その上に顎を乗せて、
三者の様子をじっと眺める。
けれど次第に目蓋は落ちていき
何時しか夢と現の合間を彷徨い*始めた*]
[反復された言の葉に、くれないを横に引く]
好きなものを描かない理由は何なのでしょうね。
[答えを求める風でもない独り言に似た問い掛け]
[平気だと説かれれば、それ以上は触れず]
…では、私もこれで失礼いたします。
[片手でのみドレスの裾を摘み一礼を]
[緋色の靴が進む先はキッチン]
好きなのに?
[益々わたしには分かりませんでした。
故に首を傾げるだけで。]
はい。また。
[立ち去る金と赤に頭を下げました。
それから、進む筈だった方向を今一度向いて、こつと杖を*鳴らします。*]
[キッチンの中、働く人々とは別に]
[夢と現をさ迷う少年の姿がそこには在った]
夜も深いですものね。
食べ終わったのなら、部屋で休むのが良いかもしれません。
[スケッチブックを腕に抱いたまま、少年の傍らで女は*呟いた*]
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