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物識り ヨハナ に 6人が投票した。
神学生 ウェンデル に 1人が投票した。
物識り ヨハナ は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、迷子 エーファ が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、薬師 ゼルギウス、調理師 ゲルダ、傭兵 マテウス、神学生 ウェンデル、指物師 エーリッヒ の 5 名。
[朱い花は、盛る蒼の花と共鳴はしない。
為した事の違いか。想いの異なりか。役割を別に持つのか。
ただ、一つだけ分かるのは――熱は、収まらない。
腕が。胸までもが、熱い。]
………まだ、終わっていない。
[低く。宣言する。]
彼女が人狼であれ、どうであれ。
……全てが虚言であったのであろうと。
終わっては、いない。
[繰り返す。]
終わらせなければ。そうしなければ。
でも、……何の為に。
[虚言と否定しようと。
老婆の言は心の奥深くまでに刻まれた。
彼女が世を去った今となっては、尚の事。
湧き出す、疑問。]
[ゼルギウスは周囲の騒ぎを静かに眺めていた]
[エーファの異変]
[それが何を意味するのかなど知る由もなく]
[今のゼルギウスに、エーファを診ると言う選択肢も浮かんで居なかった]
……終わってない。
そう。
[ウェンデルから齎された宣言も、ただの情報として耳にするのみだった]
[ウェンデルの告げる言葉に]
そう…か…。
[その言葉の意味することを口にするのははばかられて、
気遣うようにゲルダのほうを見た。
ゼルギウスの様子のおかしさには気づいていた、後で話をしたほうがよさそうか、
そんなことが脳裏に浮かんだ]
ウェンデル。
終わらせることは、できるの?
[腕の中、酷く軽い。
けれど、確かな一人分の命を抱いて問い掛ける]
貴方は、もう決めたの?
[翠玉はただ真っ直ぐに、ウェンデルを見つめる]
と、いうこと、は……。
[否定は得られなかった。悪夢はまだ終わらない。
続きはやはり言葉に出来なかった。頭を振る]
……ゼルギウス。
少しでいい、エーファを診てやってはくれないか?
[チラリとゼルギウスを見た。どこまでも冷めた表情。
一瞬躊躇してから、問いかける]
[ゲルダに名を呼ばれ、彼女を瞳に映す。
様々なものが綯い交ぜになった、強い負の感情を抱いた眼。
肺から息を押し出す。
何の為に終わらせるのか。蘇る問い]
――…、
終わらせなければ、意味が無いんだ。
とっくに、……最初から、決めていたんだから。
[ウェンデルに問いかけ見つめる様子につられてそちらに視線がいく、
ウェンデルが継げていた言葉、ゲルダの問いかけ自分の胸中に去来するのは?]
ゼルギウス、大丈夫か?
[昨晩から感じた雰囲気の異なる様子に、
気遣うように声をかける]
[覗き込んだ青灰の顔は青い炎に包まれた花に侵食されていた]
[ああ、この子は金と同種なのか、と今更ながらに思う]
[そう思うと連鎖するようにふつりと黒い衝動が沸き起こった]
[彼と同じならこの子も要らぬ]
[要らぬならば壊さなければ]
[そんな考えを巡らせるも、はたと意識を引き戻された]
[マテウスが呼ぶ己の名によって]
ん? 何が?
俺は何とも無いよ。
[返す言葉はいつもの軽口に近かった]
ありがとう。
[拒絶はされなかった。小さく息を吐く。
こちらもこのままでは良くないと思ったが、どうするかまで頭は回らず。終わっていない。その言葉ばかりがちらつく]
今更、か。
そうなんだよな……。
[老婆にも向けた言葉。同じように跳ね返ってくる。
殺そうとした。終わらせるために。
終わらせたいのなら。
殺さなければいけない――]
[少しだけ、怯えるように肩が揺れた。
近付くゼルギウスにエーファを渡すか否か、少し戸惑うもその場に留まる]
…お願いします。
[エーファを支える形で、床に座りなおした]
そうか?
[いつもの軽口に近い様子に]
それならいいんだが。
[それ以上の言及はせずにウェンデルとエーリッヒの会話]
以前気を抜けぬままにか。
[ため息を漏らしながら、エーファがゼルギウスに託される様子には少し注意を払っていた]
[意識を引き戻される前に考えていたことはどこかへと霧散した]
[改めてエーファの様子を診る]
……外傷はないね。
多分精神的に追い詰められて気を失ったんじゃないかな。
この聖痕が原因だと言うのなら話は別だけど。
流石にこれは専門外だ。
安定剤を飲ませたとして、どこまで効果があるか。
[口にした診断は真っ当なものだった]
[休ませるしか無いと告げると、覗き込んで居た顔をエーファから離す]
[ゼルギウスの邪魔にはならぬよに。
ゲルダの後ろへと回り、エーファの様子を窺う]
休ませるしかない、か。
……しなくていいことをさせてしまった。
[後悔。たとえそれで全てが終わっていたとしても。
それはきっと負荷となっただろうと]
[翠玉に映る金の色は、ただひたすらに混沌として。
少しだけ、唇を噛んだ]
…でも。
[言いかけて、口を閉ざす。
睫毛を伏せて、考え込む刹那の間が挟まれて]
神様じゃないもの。
迷うほうが、
[上手く言葉にはならず。
ただ去り行こうとする背中を見た]
[狂って尚いつも通りの口調が出たのは、相手がマテウスだったからだろうか]
[無意識に、彼から見捨てられたくないと言う思いが作用したのかも知れない]
ああマテウス、後でちょっと話が。
[良いかな?と訊ねかける]
[部屋を出て行くウェンデルには気付いたが、今は追うようなことはしなかった]
[ゼルギウスの言葉と様子におかしな点はなく、
大丈夫であろうと判断をした。
診断を聞き]
部屋につれていかないといけないな。
[ウェンデルに頼もうかと思ったが部屋を出て行く様子、
やさしくゲルダの肩を叩き]
エーファを休ませてあげよう。
[気遣いながらそう告げて]
エーリッヒが気にすることではないと思うが。
それを言い出したら、俺があの時アーベルとめていたらこんな殺し合いにも広がらなかったかもしれないしな。
[ゼルギウスに声をかけられると]
ああ、エーファのこと休ませた後でいいか?
[ゲルダ一人で行かせる気にはならなかったが、エーリッヒに視線を向けて]
ああ、そうだエーリッヒ、ゲルダと一緒についていってくれないか。
俺はゼルギウスと話があるし…、
ヨハナさんをこのままにしておくわけにはいかないしな。
[それぞれの面々に確認するように視線をやる]
ありがとうございます。
[礼儀ばかりの礼を、診断したゼルギウスに述べて。
後ろに立ったエーリッヒへと眼差しを向ける]
…責任、感じてるの?
[問いかける声は、労わるようで柔らかい]
……まあ。
後悔してもきりはないんだけど。
[息を吐く。それでも消えない、幾つもの後悔]
そうだね、俺だけじゃないか。
すまない。
[マテウスに掛けられた言葉に小さく頷き謝った。
ゼルギウスがマテウスを呼び止めるのを聞いて]
分かった。
エーファは俺が部屋に運んでおくよ。
[ウェンデルが出て行ったことに気付いたのは、その姿が完全に消えてからのこととなっていた]
後からでも構わないよ。
[訊ね返してくるマテウスにそう返して]
[ゲルダの礼には真紅を流すのみに留めた]
[マテウスがエーリッヒにゲルダのことを頼むのを眺めながらしばし待つ]
[行く宛てがあったわけでもない。
ただ、部屋に戻れば、神を記すものが多くあるから。
逃れるように、階下に向かった。
入り込んだのは、人気のない広間。]
あ。えっと、うん。
エーファ、運んであげないと。
[気遣いに満ちたマテウスの声に、こくりと頷く。
次いだ言葉には、エーリッヒに眼差しを向けて]
責任、自分のせいばかりにするの、良くないよ。
抱え込んだら、きっと壊れるから。
[訥々と、小さく呟く]
[それからエーファの横へと回り、その身体を抱きかかえた。
軽い身体。そこで初めて知った事実に片眉を上げるものの、今は関係ないことと、何を言うでもなく]
どうしてこんな子まで。
何度も苦しまなきゃいけないんだろうな。
[けれど、神を恨むことももう出来ない。
全ては人の手によるものと、そう最期に遺されたから]
兄さん。
…薬師様のところ、行くの?
[言葉の抑揚は乏しくも、翠玉が映すのは不安の色。
エーリッヒが先に頷いたからには、止める言葉までは口に出すことなく]
…男の人に運ばせて、いいのかな。
女の子なのに。
[ぽつ、と呟いた後、首を傾げる。抱えた子供をじっと見て]
……あれ。違う?
[ゲルダとエーリッヒの返答に]
それじゃあ頼んだぜ。
[ゼルギウスに向き直れば]
そういうわけで、今からでもいけるぜ。
かわりと言っちゃなんだがヨハナさん運ぶの手伝ってもらってかまわないよな?
[ゲルダの不安を消してやるように頭を撫でて]
話をするだけだ、大丈夫だよ。
[やさしく笑いかけた]
分かってる。
…いや違うな。分かったよ。
[ずっと抱えていたもの。
それを全て話し、それでもまだ手を差し伸べてくれた相手。
答える言葉は苦笑交じり、だが素直な響きで]
壊れる前に、ちゃんと言うから。
赦してくれないかな?
[ゆっくりと歩き出す。
腕の中の子供の様子に注意を払いながら、部屋を出てゆく]
…えー、俺力仕事苦手なのに。
[ヨハナを運ぶのを手伝って欲しいと言われ、少し剝れた]
[けれど話が出来るのなら、と手伝うことは承諾する]
[先にエーファを連れ部屋を出て行く二人には真紅を流すだけだった]
[力無い笑み。
瞬いて、考える沈黙は一瞬]
止められなかったのは、みんな一緒。
…責任逃れになるし、本当はあたしが言ってはいけない言葉だとも思うけど。
でも。
あたし以外、そう言う人も居ないだろうから。
[多分それをヨハナも望んでいたとまで、指摘することはせず。
エーファを抱えての呟きを、耳が拾う]
どうしてかな。
理由が有るかどうかも、あたしには分からない。
[かつての賑わいは、其処にはない。
中へと、踏み入っていく。
暖炉に火を点せば、辺りを支配する、薪の燃える音。
談笑していた頃の事は遥か昔のように思えた。
過去と、現在の差異。
呼び起こされる記憶を、痛みを覆い隠すように、胸に、爪を立てる。
現実から目を背け、瞼を下ろした]
[*いつしか訪れる眠りは、束の間の安らぎか、責め苛む苦しみか*]
ああ、違うみたいだね。
[首を傾げたゲルダに目を細める]
変な気を起こすわけじゃなし。
どちらにしても大丈夫じゃないかと言いたいけど。
[それは軽口のように]
…ゼルギウスも、あのままじゃ拙いだろうから。
マテウスに任せるのがいいかなと思う。
[最後はゲルダだけに届くような、低めた囁き声で]
うん。……うん。
[マテウスの頼むという言葉には即答したものの。
大丈夫、という言葉には、若干の沈黙が有った。
撫でる手に頭を一度擦り寄せると、そこから離れ、先に行くエーリッヒの後を追う。
途中、幾度か不安そうに振り返りもしたが]
[ゼルギウスのむくれる様子に]
一人で運べって言われるよりましだろ。
[軽口を返して、
ゲルダとエーリッヒが出て行くのを見送りながら]
それじゃあ、頼んだぜ。
一人は、無理っ。
[流石にそれは完全に否定した]
[マテウスが部屋を出て行く二人を見送っている間にヨハナの眠る寝台へと近付き]
で、どこ運ぶのさ?
[分かった、耳に届く言葉に、こくりと頷く]
自分に当てはめて考えることまではしてなさそうだったから。
…其処がこの間、莫迦って言った理由。
[苦笑混じりの響きに、首を傾けて、見上げる仕草]
うん。それなら、いいよ。
壊れたエーリッヒ見て、耐えられる気がしないし。
きちんと言ってね?
ありがとう。
ゲルダだから言える言葉なんじゃないかな。
全てを受け止めようとする、ゲルダだからこそ。
[人はどこまでも残酷にもなれる。
同時に人はどこまでも優しくもなれる]
理由も無く、か。
それはそれでやりきれないものも感じるな。
[ふぅ、と息を吐く。エーファの部屋。
寝台にそっと横たわらせる]
変な気…?
[きょとり、瞬いて、逆の方向に首を傾げる]
女の子は、ええと。………………。
異性に抱き上げられるのに、抵抗とか。何か、有ったり。
…期待とか。
[紡ぐ言葉の勢いは徐々に減って尻すぼみに。
最後の言葉は、いっそ消え入りそうなほど]
まあ、それは良いんだけど。
……兄さんが危ないのは、いやなの。
[当然といえば当然のこと。口調は僅かに我侭めいて]
……………。
[莫迦の理由。
それを否定する材料は、どこにも無かった。
はあ、と大きく息を吐く]
……約束するよ。
俺も、ゲルダを悲しませたくはないから。
苦しんでいる姿を見るのは嫌だから。
[見上げてくる翠玉を、じっと翠が見つめ返す]
っと。
そうか、俺が良くてもエーファがって話か。
[きょとりと瞬く翠玉。パチパチと対する翠も瞬く]
……期待?
[消え入りそうな言葉もしっかり聞きつけて。
不思議そうに尋ね返してしまったり]
あ…うん、そうか。
マテウスなら、物理的にも精神的にも大丈夫かと俺は思った。
けれど、心配は消えないよな。
[ごめん、と謝りその頭に左手を伸ばした。
いつもマテウスがしていたように。少しでも不安を消せればと]
あたしだから。
うん、そうだといいな、とは思う。
[それは、自分らしい、と言う事。
マテウスと、…ナターリエの願ったこと]
理由があっても、きっと納得なんて出来ないよ。
[寝台のエーファ。顔に髪がかからないように、ちょいと指で払う]
約束。…破っちゃ、いやだよ?
絶対守って。
[見返す翠の色に、こくり、頷きを返した]
うん。結局は、男の子だから問題ないけど。
[抑揚に乏しい声で、頷きを。
けれど、尋ね返された言葉に、そこまで聞いて無くてもと、ごにょごにょと呟き、下を向く]
だって。
ヨハナ様が居なくなって、その可能性があるのって。
あたしを除けば、あの二人だもの。
[ぎゅう、と胸の辺りの服を掴み、気持ちを押さえ込もうと。
ふわ、と頭に触れる手の感触に、服を掴みかけた手の動きごと、色々な動作が停止した]
……。
確かに。
あってもなくても、納得なんかできやしないだろうな。
[苦しそうな表情のままのエーファ。
その首元を少し寛げようと手を伸ばした。
絶対守って。その言葉には少しだけ困ったように翠を伏せる。
嘘をついてはいない。けれど一つの確信が頷くことを躊躇わせた]
……ゲルダ。
俺にも約束してくれないかな。
[向き直った翠が再び、じっと翠玉を見つめる。
動きを止めたゲルダを、その肩を。そっと抱くよに腕を伸ばす]
逆にゲルダが辛く苦しくなった時は。
どんなことでも俺を頼るって。
頼りなく見えるかもしれないけれど。
俺は。
ゲルダの代わりになら、なるから。
なれるから。
[ヨハナさんを運ぶ道すがら、ゼルギウスの様子はどうだったであろうか?、
二人で毛布にくるんだヨハナを屋外に運び終える。]
ヨハナさん、貴方は何を思っていたんだ…?
[問いかける言葉に答えるものはいない。
遠巻きに見る団員達に視線をむけることなく集会場へと戻る。]
外ね。
[言われたことを繰り返し、共にヨハナを抱え上げる]
[場所までは分からなかったから、マテウスの後をついて行くようにして]
……なぁマテウス。
俺のこと、まだ信用して、信頼してくれてるか?
俺を 裏切ったりは しない よな?
[運ぶ最中にそうマテウスに訊ねた]
[訊ねるその表情は真剣そのものだったことだろう]
[返されたのは頷きではなく。
俯いていた翠の眼差し]
…どんな?
[下を向いたままだった顔から、翠玉だけを上へ向けて。
そっと伸ばされた腕の中に、大人しく収まる。
口を開いて、閉ざして。
翠玉があちらこちらへと彷徨った。
思考が纏まったか、沈黙を終わらせて]
代わりで、全部負わせるのはやだけど。
でも…うん。
頼って良いなら頼りたい。半分、とか…いいの?
[翠玉は、下から覗き込む形]
[道中のゼルギウスの問いかけに視線を返す。
ゼルギウスの緋色の目に映るのは自分の姿か?それとも別のなにかなのか?]
なにか俺の信用や信頼を落とすことをゼルギウスがしたのか?
[問いかけながらも、それは肯定の意を示す答え]
ゼルギウスが裏切らないっていうなら、俺も裏切る理由はない。
[笑いかけながら]
こんな状況だ、何かと不安になる気持ちはわかるけどな。
ただ……、
[表情は真剣なものになり]
逆にゼルギウスが俺を裏切るようなことをするのなら、
俺は容赦するつもりはない。
[真紅にはしっかりとマテウスが映っている]
[誰の代わりと言うこともなく、彼本人を見ていた]
いや、俺はそんなことはしてないつもりだ。
そうか、俺が裏切らないならお前も裏切らないで居てくれるか。
[嬉しげに表情を崩す]
[けれどそれはいつもの無邪気な人懐っこいものではなく]
[普段ならばあまり浮かべないであろう、酷く整った冷笑とも言える笑みだった]
[見る人が見ればぞっと背筋を凍らせたかも知れない]
[そんな微笑みを浮かべながらゼルギウスは続ける]
誓うよ。
俺は お前を 絶対に 裏切らない。
何があっても、お前の味方だ。
それがゲルダの望みなら。
全部でも半分でも構わないよ。
頼って欲しい。
[内心は全てを代わりたいと思っているけれど。
今はそうは言わない。半分でもと思うのとて嘘ではなく。
肩に回した腕に力を入れる]
約束、するよ。
[掠めるように、耳元へと囁いて]
部屋、このままじゃまた冷えるな。
火を少し熾してから行こう。
[腕を放し、暖炉へと向かう。
部屋を暖めその場に残ったのはどのくらいか。
休まなければ自分達の身体も保たない。
だから部屋へも*戻っていった*]
[マテウスが何人であろうとも]
[その誓いは果たされることであろう]
[ゼルギウスは再び護る者を手に入れた]
[自分を裏切らぬ、自分を必要としてくれるであろう者を]
[仮にそれが騙されて居たのだとしても]
[彼は躊躇うことなく従う*ことだろう*]
[どこか狂気じみた表情、今までにみたことないような表情に不安めいたものを感じながら]
そういってもらえるのは…、頼もしいな…。
[集会場へと促しながら]
さっ、こんなところにいつまでもいると風邪を引いちまう、
中にもどろうぜ。
[集会場へ向け歩を進めた、
その後、ゲルダ達の様子見てくるとゼルギウスと別れた。
ゼルギウスはどこへ向かったであろうか?
集会場内をゲルダ達を探しゆく]
…うん。
[小さく、けれど、しっかりと頷き。
そろりと持ち上げた手で、エーリッヒの服を摘む。
回された腕の力に逆らうこと無く身体を寄せて、掠めるような囁き声に眼を閉じた]
うん…。ありがとう。
[こつり、額を押し当てながら、礼の言葉を]
ええと。そう、だね。
[回されていた腕を離されて、触れられていた部分に新たな冷気が忍び込む。
多少なり、体温が上がっていそうな今は、それが有り難かったりするのだが]
…。
[暖炉に火を起こす様を、少し後ろから眺め。
ばれないよう、こっそりと頬に手を当てた]
[何とは無しにエーファの顔を覗き込む。
髪を払った分、顔半分を埋める蒼炎の花がよく見えた。
けれど、そちらとは逆の頬には確かに血色が射していて]
もう大丈夫だと思うよ。
[それが、部屋に戻るきっかけとなった]
─回想─
[頼もしいと言われてまた喜びを感じる]
[以前と違い、マテウスには元々誰も重ねて居ない]
[共に仕事をし、長くを過ごした彼だからこそ執着していた]
[必要とされていると、そう思えるのが喜びだった]
[否定されず、認められていると、そう思えるのが悦びだった]
ああ、そうだな。
こんなところで風邪をひいて、熱や咳に苛まれるのは嫌だ。
[中へ戻ろうと促すマテウスの後に続き、集会場へと戻って行く]
[その後はマテウスと別れ、思い思いの行動をとった]
[ゼルギウスは当て所もなく彷徨い*始める*]
[夢を見た。
年上の幼馴染の後を追う子供。
開いていく距離。
母の話に聞き入る少年。
遠く離れた街の風景。
聖職者に教えを学ぶ青年。
村を白く染める雪。
広間に集い談笑する人々。
赤い軌跡。
口論。悲鳴。怒号。絶望。憎悪。狂気。
幾つもの出来事を、見た。
変わりゆく自身を、ウェンデルは傍観者として、見ていた。
最期に、一輪の花が散った。]
[そして意識は、現実へと引き戻される。
熱い。すぐさま眠る前の状況を思い返し、火の所為かと思った。
しかし、]
[身を焦がす程の熱。
身を引き裂かれるような痛み。
今までの比ではない。
視界が霞むのは、揺れる眼の所為か。
意識だけははっきりと、ある。
周りには敵も何もいない。自身だけだ]
[己が身体を抱え、座っていた椅子から落ち、床に転がる]
[痛みは、長くはなかった。
熱も、失せていった。
急速に。
しかしすぐには動けず、床に伏したまま、音を聴く。
暖炉は静かだった。火は殆ど消えている。寒い。
集会所の外から、話し声が聞こえた]
[幾人かの団員が、何かを取り囲んでいた。
また、雪は降ったのか。地面を覆う層。
彼らの立つ周りは、白くはなかった。
気配に気づいた一人の団員が振り返り、ウェンデルの方へと歩んで来る。
男の後ろに在るものが、見えた]
[あかい あかい 『花』が 咲く。]
[暗みを帯びた青の髪も、
顔の半分までを覆う蒼の花も、
全てが一色に塗り潰されている]
[誰かは直ぐに知れた。
血の気が引く。
身体が、震えた]
[何事か、自衛団員の問い詰める声がする。
乱暴に左腕を掴まれた。其処に在るものを、思い出す]
い…… ゃ、だっ!!
[振り払う。
すぐさま、その場から――集会所から、逃げ出そうとした]
[暴れるウェンデルに、横面への一撃が加えられる。
二つの異なる痛みに呻いているうちに、集会所に引き戻された。
外界とを隔てる扉が、閉ざされる]
[青年は、信じていた。
聖なる証を持つ選ばれし者は、他とは異なるのだと。
終わらせる者であり、自身の終わりなど、ないのだと。
けれど、全ては、否定された。
あの花は、『聖痕』などではない。
まるで、呪いだ。]
[死者を悼むことも、神に救いを求めることもしない。
十字架を取り出し投げ捨てようとすれば、花は咎め、それすら侭ならなかった。
握り締めたまま、祈ることもせず、*膝を抱えた*]
―回想・二階廊下―
[もう大丈夫だと思う。
ゲルダの言葉を契機に一度エーファの部屋から出た]
マテウス。
ゼルギウスは、どうだった。
[こちらを探してきたという男に短く問う。
二人の間に交わされたものは知らず。大丈夫だと言われれば、それを信じる他は無い。
また休めと言われてそれを拒絶するだけの根拠も無かった。
疲労は溜まっている。それは隣に居るゲルダとて同じはず]
そうか。うん、分かった。
[他にも幾つかの会話が交わされ、部屋へと引き上げる。
だがすぐに眠れる気分でも無かったので、ここ数日の習慣となってしまった道具を取り出した。
用意した板は、4枚。
助けることの出来なかった同居人も、命掛けて終わらせようとしてくれた幼馴染も。
人狼だと言われた少女も、人狼の秘密を語った老婆も。
これだけは等しく]
[それぞれの板の下、名前を刻んでゆく。
Reichard=Morgenstern
Natalie=Scherz
Beatrice=Erhard
だが、様々に気は昂っていても身体は正直で。
Johanna=Ihatov
その名を彫り込んだ所で目の奥に痛みを感じた。
流石に限界かと、道具を片付ける。
休息は思ったよりも長いものとなった。
訪れた眠りは浅く深く]
─ 一階・広間─
[ゼルギウスが部屋に戻ることは無かった]
[何をするでもなく集会場を彷徨い]
[最終的に辿り着いたのは広間であった]
[窓から外の様子を眺める]
[白の中に人影]
[その中心に鮮やかな紅]
……綺麗に咲いたねぇ。
[くつりと口元に笑みを浮かべる]
[それが誰であるかは気にしなかった]
[その色を見るのが愉しかった]
[乱暴に集会場の出入口の扉を閉められたのはいつだったか]
[誰か外に居たかと思いながら、広間の出入口へと足を向ける]
―二階個室―
[目を覚ましたのと前後して、大きな音が響いた]
…今のは?
[続く物音は特にないようだが。
簡単に身支度を整えると、様子を窺うために部屋から出た]
-回想・二回廊下-
[集会場内を探し程なくして、エーリッヒたちに会うことができた。]
ああ、だいぶ疲れが見える感じではあったが、
まぁしかたがないだろうな。
[肩をすくめて]
エーリッヒ達ももう休め。
なにかあったときに疲れて動けないといけないしな。
[笑いかけて自室へと戻る二人を見送り自分も自室へと]
― 集会所一階・廊下 ―
[顔を上げる。
服には染みの痕。
頬にはじんとした、痛みが残っていた。
濡れた目と、渇いた喉。
水を欲していた。
壁にすがり、立ち上がる。
定まらない視界の中、額に手を当て、歩みだした]
―厨房―
[小気味良い音を立て、刻まれていく野菜。
此処で料理をするのはもう何度目で、そして後何度有るのだろうと、ふと思う]
…終わったら、エーリッヒとマテウス兄さんと一緒に。
[それらの約束を信じてでもいなければ、崩れ落ちそうで。
今はただ日常の名残に縋る。
出来上がった一皿は、アスパラガスのスープ]
[過日、ゼルギウスと交わした会話の中、自らが言った言葉を思い出す。
薬箱の中の導眠剤。
皿に盛ったスープの上、入れるつもりは無く、けれど導眠剤の瓶を傾けた]
…。
[扉が乱暴に閉められる大きな音に、首だけを曲げ、その姿勢のまま固まった。
幾ら首を曲げても、何が起こったか見えるはずもないのだが]
─広間入り口付近─
[扉を開け、廊下を見やると]
[ふらつくようにしながら歩むウェンデルの姿]
[服の染み] [頬の痕]
[ああ、外に居たのは彼だったか]
[何を見たのか、何をされたのかが見て取れた]
[彼も青灰と同じ場所に送ったら喜ぶだろうか?]
[そんな考えた頭を擡げ始める]
[俯き加減に。
半ば、壁に身を預けるようにして、廊下を歩む。
右手はともすれば落ちそうな頭に添え、左手は捨てられなかった十字架を握ったままだった]
今の、何…?
[行くべきか否か、悩むも、容易に動く決意は固まらず。
暫くの後、聞こえてきたのは引きずるような足音]
…っ、ウェンデル。
[瞬きは二度。
手に持った薬瓶を慌ててスープ皿の横に置き、ウェンデルの近くへ駆け寄る]
大丈夫?何か有った?
[問い掛けながら、身体を支えようと手を伸ばす]
[ぱしり。
払い除けられた手が、高い音を立てる。
少しの痺れと、遅れて伝わる微かな痛み]
…。
ウェンデル?
[咎めるでも無く、名を呼ぶのは、問い掛けるもの]
[眺めているうちにウェンデルは厨房へと入って行った]
[微かに聞こえた高い音]
[他にも誰か居るだろうか、と視線はそちらに向けたまま]
………。
[口元に薄く笑みが浮かぶ]
[渦巻く混沌の気配を感じ取った]
ゼルギウス。
今の音は何だったんだ。
[広間へと歩きながら声をかける。
蒼花が既に散らされていることはまだ知らずに。
薄く浮かべられた笑みが見えれば、こちらの表情も硬くなる]
…違うよ。
信じてもらえるかは分からないけど。
[抑揚に欠けた声。乏しい表情。
ただ、エプロンの裾をきつく握る]
あたしを殺しても、何も終わらない。
[余計な言葉を口にせず、短く答える]
ん? ああ……。
ウェン君が外に出たから団員達に連れ戻されたみたいだよ。
[訊ねて来るエーリッヒに簡潔に答え]
[真紅をそちらへと流した]
[口元に張り付けた笑みはそのままに]
それと。
エーファが 外で 紅くなってた
[己が見たものを口にする]
[直接的な言葉にならなかったのは、その色が鮮明に記憶にこびり付いていたからであろうか]
騒がしいな。
[自室で木刀を素振りしながら階下の騒がしさに気づく。
軽く身支度をすませて階下へとおりていく]
どうしたんだ?
[広間に向かう途中入り口付近にゼルギウスとエーリッヒの姿が見えて問いかける]
ウェンデルが?
何か刺激するようなことしたのか。
[団員たちのストレスも相当なものだろう。
初期に余計なことをいっただけでもあの反応だったのだから。
そんなことを考えているところに、伝えられる事実]
…なに。
[一瞬言葉を理解し損ねる。
ついで、その意味を理解して衝撃に目が見開かれた]
しまっ…!
…。
[疑心は消えない]
なら、誰がそうで、誰を殺せば、終わるという。
[背にした扉からずれ、壁を背に。
金の瞳は、翠玉を睨みつけたまま。
今、ウェンデルを動かしているのは、花の熱ではなかった]
マテウス。
[呼びかけに視線を向ける]
[笑みはそのままだったことだろう]
[エーリッヒに説明したのと同じように簡潔に事態を伝える]
そりゃあ。
集会場に隔離していた奴が外に遺体が投げられていたのに、集会場の中から出て来られたら何されるか分からないと考えるだろうさ。
誰なんだろうねぇ。
あんなに鮮やかに咲かせた奴って。
[エーリッヒの様子は気にも留めず]
[声色はやや愉しげなものとなる]
[ゼルギウスの笑む様子に不審そうにそちらを見ながら周囲を見回し]
ゲルダはっ!?ゲルダはどうしたっ?
[今の状況よりもそちらが気にかかったらしくエーリッヒに視線を向けて]
厨房か?
あたしでは…何も終わらない。
[繰り返した言の葉に、自分で溜息を吐く。
金の瞳に宿る疑心を見て、翠玉はゆっくりと瞬いた]
ウェンデルが信じられないなら、試してみるのもありだと思う。
あたしを殺して、花がどうなるかを見るのも。
だけど。
あたしはエーリッヒやマテウス兄さん、欲を言えばウェンデルとも…生きて一緒に帰りたいから、絶対抵抗するよ。
[紡ぐ言葉は、常よりも柔らかい。
最後の言葉は、消え入るほどに静か]
だから、あたしは…
…ちっ。
[ゼルギウスの言葉は一理ある。
確かにそれでは外の者達は過敏に反応もするだろう]
何、愉しそうに話してるんだ。
そんな場合じゃないだろう…!
[ゼルギウスは違う。それは導き出されたはずの回答。
けれどその身に残る狂気が真実を霞ませる]
ゲルダちゃんは知らないなぁ。
けどここに俺らが居て、さっき厨房にウェン君が行って。
厨房で何か叩くような音がしてたから、厨房に居るかも知れない。
俺の聞き違いかも知れないけど。
[聞く聞かないを別として]
[マテウスが気に掛ける人物の居るであろう場所を推測した]
!!
[マテウスの声。
目覚めてからはまだ見ていないゲルダの姿。
ゼルギウスの声。
厨房に向かったというウェンデル。
反射的に厨房へと走り出した]
[浮かべるのは、ほんの少し、苦みのある笑み]
ウェンデル。
…あのね。
薬箱、そこにあるから。
頬、痛み止め塗った方が良いよ。
今のあたしが貴方に触れるのは、…きっと嫌でしょう?
[こんな時でも、紡ぐ言葉は、常と同じ性質のもの]
ウェンデル、いたそうだもの。
そうか。
[ゼルギウスの返答に短く答えてから]
エーリッヒ、俺はゲルダのところいってくるっ!
ゼルギウス、馬鹿な気起こすんじゃないぞ?
[二人にそう告げて厨房へと向かった]
はーい。
[ひらりと右手を上げながらマテウスに返事をし]
[けれどその場に残るのが自分だけと知ると]
[ゆっくりと厨房へと足を向けた]
[言は、何処まで聞こえていただろう。
決意は、何処まで伝わっていただろう。
昨日までのウェンデルであれば、届いたかもしれない。
けれど。]
…まるで。
彼を殺せば終わるとでも、知っている口振りじゃないか。
[知っているのと、信じているのと。
その違いすら、今はわからず。]
………言われるまでも、ない!
[疑心と恐怖に突き動かされて。
踏み出した。
左手に握った十字架を。
その切っ先を、ゲルダの顔に向けて、振り下ろす]
[厨房に向かいながら]
エーリッヒ、あいつのことどう思う?
[問うのはゼルギウスのこと]
どう考えても普通じゃないよな…。
[質問の答えに返答が来る前に厨房へとつく]
ゲルダっ!いるかっ?
[マテウスの声にも足は止まらず、厨房へと駆け込んで]
やめろっ!!
[飛び込んだところに目に映る、振り上げられたウェンデルの手。
光る十字架。
掴み止めようと。
ゲルダをも突き飛ばすような勢いで、その切っ先に向けて何も握らぬ右手を伸ばした]
[目に映ったのはウェンデルがゲルダに今襲いかかろうとしてるように見えた姿]
ウェンデルっ!何してやがるんだっ!
[反射的に飛び出してウェンデルを突き飛ばした]
[ゆっくりとした足取りで辿り着いた先では]
[先程感じ取った混沌が形を成し始めていた]
[笑みを浮かべたまま厨房の出入口付近からその様子を眺める]
[至る事はなく。
あっけなく、その身体は突き飛ばされ、壁に激突する。
棚にまで衝撃は伝わり、用意されていた皿が大きく揺れた]
……っ、げほ………!
…うん。
[小さく小さく頷いて。
振り上げられる十字架の切っ先を見上げた]
…信じさせてあげられなくて、ごめんね。
[謝罪を口に、少しの避けるそぶりを。
間に合わない気がした――けれど、聞こえる二人分の声]
[突き飛ばしたウェンデルの方へ向きながら]
どういうことだ?
返答しだいでは……ただじゃおかないぞ…?
[怒気をはらんだ様子でウェンデルを睨む]
[少しだけ力が抜けて、床へとへたりこむ]
…エー、リッヒ。にいさ…、
[かたかたと指先が細かく震える。
握りしめ、縋るものを探すように指先が動いて。
掴んだのは、ナターリエの遺品とも言える聖銀と、同じ場所に入っていた折り畳みナイフ]
ごめんっ。大丈夫か?
[マテウスに突き飛ばされるウェンデル。
本来武器ではなかったそれは空を切った。
数歩の踏鞴を踏むと、ゲルダに向き直り手を差し伸べて。
それから庇うように立ち直す]
………。
[ウェンデルに向け直した翠色は僅かに曇る。
何も言わず、ただ困ったような、けれど譲ることはできないという光を宿して見つめている]
………花が、散った。
[呼気と共に、言葉を吐き出す]
人狼は、いる。
誰をも殺す。
…神は、我等を見放した。
何もかも、所詮、偶像に過ぎない、
[痛むのは傷だろうか。熱が沸き上がる]
なら、やられる前に、やるしかないじゃないか!
花が散った?
そんなことは関係ない、ゲルダを誰にも殺させはしない。
[ウェンデルに怒鳴って返す]
やるっていうなら…、
ウェンデル…お前を殺す。
[静かに告げる言葉は真意のこもった言葉]
何を、馬鹿なことを。
[ゲルダの問いかけにくつりと笑いを漏らす]
俺が人狼だとしたら、どうしてベアタを殺した?
婆ちゃんが言ってただろう。
「人狼は人狼を殺さない」と。
まだ、人を殺させるのか。
お前は証を持つ「人間」だろう。
[光を失った昏い瞳。
全ての拒絶に、声は届かないと気付きながらも]
それでも、それでも俺は。
俺も、ゲルダを殺させるわけにはいかないんだ。
[背後の声。微妙に位置をずらす。
ウェンデルにはマテウスが動ける。
怒鳴った声、今はまだ信じてもいいはずだ]
[エーリッヒの気遣う声に、小さく頷き。
ポケットから聖銀とナイフを取り出したその手で、差し出された手を取った]
来てくれて、ありがとう。
でも、覚悟を決められなかったあたしも悪いから。
[ふ、と息を吐いて立ち上がる]
ヨハナ様は、自分で探した証拠でなければ、とも言ってたから。
あたしには、その言葉は証拠にならない。
…っ、
[静かな宣言。
眼に色濃く宿る、怯え]
そんなことを言ったって、…じゃぁ、どうするんだ。
彼女が、人狼だったら。
殺さなきゃ、死ぬんだ……っ
[理屈ではない。
使命感とも異なる。
ただ、根深い、死への恐怖]
[じっとウェンデルを見据えながら]
ウェンデルは生きたいのか?
殺して、自分だけは生きたい、そう思うのか?
お前は人狼が殺したいのか?それともただ生きたいだけに誰をも殺すのか?
[告げる言葉は冷たくウェンデルに隙なく近づいていく]
[ぱちん。
折り畳みナイフの刃を出して、聖銀とともに構える]
…マテウス兄さん。
あたしを理由にしないで。
ウェンデルは、そうじゃないんだし。
[ナイフを手に向かうのは、真紅の瞳を持つその人]
…終わらせたいんです。
[握った聖銀に宿るような、強固な意思を翠玉が映す]
…そうか。
殺したければ殺せば良い。
だがそれで終わらなかったらお前はどうする?
聖痕を持つウェンデル。
イヴァンにより人と判じられたエーリッヒ。
お前以外で唯一、身の証明を持ち合わせていないマテウス。
お前は選べるのか?
[浮かべていた笑みは消えた]
[真面目な表情でゲルダに問いかける]
――…僕は、 死にたく、ない
[動けない。
視線から逃れるように、硬く目を瞑る。
痛みも熱もわからない。
生への執着。
生きて、どうしようというのか。
他者の事も後の事も、今のウェンデルの思考にはない]
[ゲルダの言葉に歩みを止めて、
ウェンデルに向けた注意はそのままにゼルギウスのほうをに視線をやり]
ゼルギウスも、ゲルダに、手をあげようっていうのか?
[ゼルギウスに向けるその目は冷たいものだった]
[弾かれるかもしれない。
止められるかもしれない。
それでも兄とウェンデルがこちらを向いて争いを止めてくれれば良い、と思った。
理屈より先に、身体が動いて。
真面目な顔の問い掛けに、ナイフを突き出しながら]
うん。
選んであるよ。
[崖から落ちた、両親二人。
あの時はどちらも選べなくて。
両方に手を差し出して、そして両方を喪った]
あたしは、もう決めた。
何言ってるんだマテウス。
俺の方が手をあげられようとしてるってのに。
[マテウスの声に肩を竦めた]
[緊張感をものともしない、とても軽いもの]
……ああ、そう。
マテウスは俺じゃなくゲルダを選ぶって言うのか。
そうか。
俺が裏切らなければ裏切らないって言ったのは 嘘だったんだな。
[向けられる冷たい視線に真紅が細まり]
[鈍い光を放った]
いや、うそじゃないさ。
先に裏切ったのはお前のほうだ。
だってお前、ベアトリーチェを、殺したんだろう?
[ゼルギウスに冷たく言い放つ]
嘘というなら裏切るようなことをしてないといったゼルギウスのほうだな。
ゲルダ。
[少しばかり悲しそうに、けれど直接止めることはせず。
否、止めることが出来ずに。
ただその隣に立ち、三度右手に銀刃を握った]
ウェンデル。死にたくないのなら。
自分の身だけを護っていてくれ。
[マテウスの意識がこちらにも向いたのに気付き。
ウェンデルにそう声を投げた。
それも意味が無いかもしれないと、そう思っていても。
自分の中にも優先順位が既に確立していたから]
[すい、と懐から抜く二振りの短剣]
[それを左右の手に持ち]
だったら、絶望に彩られると良い。
今それを選ばぬが故にどちらも失う絶望を!
[ゲルダの答えにそう声を張り上げ]
[麻痺毒の塗られた右の短剣をエーリッヒへと投げ付ける]
[掠ったとしても死には至らないが、身体が痺れ動きが鈍るだろうか]
ベアタを殺した?
ああそうだな。
それがどうしてお前に関係ある!
[マテウスの冷たい言葉に叫びながら]
[致死毒の塗られた左の短剣をマテウスへと繰り出す]
[マテウスからして見れば、その動きは素人のそれにしか見えないことだろう]
[自らの名を呼ぶ声。
例え止められたとして振り向くことはできなかっただろう。
たった一つ、零れたのは]
嫌いに、ならないで。
[それだけが怖いのだとでも言うような、か細い言葉]
ああ、大問題さ。
[短剣をなんなく手ではらい、繰り出した右手には武器はなく、
しかしその右手はゼルギウスの胸をつらぬくのには容易な鋭い爪が]
俺の、いや俺たちの敵だってことだからな。
[告げた言葉が意味するところは考えるまでもないひとつのことを示唆していた]
…護っているだけじゃ、やられるだけじゃないか。
[小さく、小さく、呟く。
誰も信じない。何も信じない。ゆえに、疑心は消えない。
ゼルギウスがマテウスへと向かった間に、立ち上がる]
!
[ウェンデルに掛けた声。
意識は当然僅かであれそちらに向いていたから。
銀は交差し。けれど僅か軌道に間に合わず。
手首を切り裂かれる。持っていた刃を取り落とす]
く…っ。
[傷口の痛みより先に、痺れが走り出す。
それが全身へと広がってゆくのを止める術はなく。
ガクリと膝を突いた。けれど倒れはしない。
襲い来るものに抵抗しようと、唇を強く噛み切った]
[短剣を払われ上体が開く]
[続くマテウスの動きにはついて行けるはずもなく]
[振り抜かれた爪はいとも容易くゼルギウスの胸を貫いた]
…が……は…っ……。
ぁ……は………お、まえ……が……。
は、はは……あはははははははは!!
う、らぎり、もの…には……に、あいの……まつ、ろ…か…。
く、はは、ははははは!
[止め処なく胸から紅き雫が零れ落ちている]
[そんな状態でありながら、ゼルギウスは愉しげに笑い声をあげた]
[自分が欲しかったものはとうの昔に失っていたことを理解しながら]
[ゼルギウスは全てを失い闇へと意識を落として行く]
[彼の月は欠けたまま、満ちることは*出来なかった*]
……ぁ――
[金属のぶつかり合うに似た音。
視線を転じる。
その先には、爪があった]
人狼、…………化け物……っ
[幾ら冷静であったとして。
幾ら、死の恐怖の中にあったとして。
花に縛られる限り、ウェンデルが人狼を見逃す事は出来なかった。
――花から逃れる手段が、ない限り。]
[置かれたスープ皿に手を伸ばして、投げつける]
[爪を引き抜きながら]
いや、ゼルギウス。
前にお前にかけたことばは嘘じゃなかったぜ。
[腕を振るい血を振りほどき、
ウェンデルのほうをみて]
そうだ、ひとついいことウェンデルに教えてやる。
15歳の少女でもいえたことだ。
[ウェンデルに駆け寄る]
殺してるんだから、殺されもするのさ。
[爪を振り上げる]
大丈夫。
[ゲルダのか細い声に、一言だけ。
必死に上げた視線の先、マテウスがゼルギウスに振るったのは]
……させる、か。
[ゼルギウスが貫かれる。
ただ、その後に待ち受けていることだけは]
させる、かよ……!
[まだ僅かに感覚の残っていた左手で刃を探り。掴む]
[投げられたナイフに翠玉の眼差しが、刹那囚われる。
その間隙を突くように、自らよりもよほど早くゼルギウスの身体を紅に染めたのは、]
…マテウス兄さん……。
[翠玉に雑多な感情が揺れた]
[振り上げられる爪は、避けられない]
――ゃ、……だ!
[裂かれる痛み。
朱い花より、紅い華。
身体から力が抜ける]
や――だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!!
[誰の名を呼ぶこともなく。
ただ、死の恐怖の中に、堕ちた]
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