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――…莫迦はお前もだ。
どうせ狙うならもっと楽なとこにしろよ。
[殺されて遣る心算なんて無かったけれど。
アーベルを誘ったその時から、
危ない橋を渡っている事は理解していて。
頑固な奴だから言ってもダメなんだろうと思っていたけど
一縷の望みを捨てられずにいたのも確かで]
―――ライ!
[名を呼び顔を出した刹那、片方は切りつけられ片方の牙は外れた。
その光景を見て、切りつけられた片方に、先ず真っ先に名を呼んで駆け寄った。]
………銀の……!
[刻まれた傷は極浅い。
なのに酷く熱いのは、そういう事に他ならない。
それでも極少量―――
見られたくないと言われれば、緩く首を振る。]
失態だなんて………
大丈夫、これくらいなら――
[そう名を呼ぶ同胞につげ、何とか進行を抑えようとその傷の上に手を当てた。
コエが聞こえて、そちらを見上げれば、寂しい、だけど強い青色を見た。
その色に、こちらは悲しげな目を向けて。]
[父と呼べと言った人間が居た。
修道院の院長はみんな家族なのだと言った。
信じようと思っていたけれど
容疑者になったその時に其れは裏切られる事となった。
人間と家族になどなれない。
ならば可能性のある者は同族しかあるまい。
イレーネの子が産まれれば――
アーベルが同じになれば――
そう考えてライヒアルトはずっと無茶をしてきた]
─厩舎─
[ゲルダと共に辿り着いた先には先客、詰所へと向かったはずのイレーネの姿と]
ライヒアルト──!
[紡いだのは信じたいと思っていた者の名。
対峙するアーベル共々、赤が散っているのが見えた]
[止めろと叫ぶゲルダ。
その一方でミハエルは二人を注意深く見た]
(ゼルギウスはライヒアルトを人だと言った。
でもこの様子は……───)
[銀を持つアーベルと、何も持たぬライヒアルト。
アーベルの受けた傷を見れば、一目瞭然だったか]
―厩舎―
[そこに近づけばゲルダの切羽詰まったような声がこちらにも聞こえてきて、
急いで、その場にたどり着けば]
な…アーベルっ!
[何より一番に目についたのはアーベルの怪我で、
考えるより先にアーベルのもとに駆け出していたかもしれない]
なにしてるんだよ、こんなところで、二人だけでよっ!
[そう言いながら、その場にたどり着くのと誰かに制止されるのはどちらが早かったか]
――…喰えば、治る、かな。
[その言葉はイレーネへと向けて。
他の人の気配を感じては居たが――
金色は蒼へとむけたまま]
はっ……、失態は一度きりに決まってンだろ。
[何を紡ごうと何をしようと靡かぬアーベルに
リヒトは漆黒の獣へと姿を変え飛び掛かる。
――狙うは咽喉笛。
常に一撃でしとめる狩りの名手は傷を負いながら
その脚に、牙に、爪に、渾身の力を籠めた]
だからって…幼馴染同士が傷つけあうなんて――
そんなの、無いよ…!
[ベッティも遅れて駆けつけてくるだろうか。
制止の声も、もう届くか如何か解らない。]
僕は――――…誰が誰でも
たとえ大事な人たちが人狼でも
――――…構わなかったのに!
[駆け寄ろうとするけれど、距離を遠く感じていて。
誰が狼でも構わなかった。仮令誰かが誰かを殺めても。
それでも―――…全部両手から零れるよりは、ずっと良い。]
ゲルダ! ベッティ!
行っちゃダメだ!!
[今まさにぶつかり合おうとする蒼と黒に駆け寄ろうとする二人を止めようと声を張り上げる。
ゲルダに関しては手を離さぬようにして、向かうのを押さえたことだろう。
叶うなら、空いている手をベッティへと伸ばして腕を掴もうと]
[アーベルの言葉に足は止まり、涙をこぼしながら]
アーベルがいなくなったら…いやだからに…決まってるだろうが…っ!
[返す言葉は泣き声で叫ぶように]
ライヒアルトっ!アーベルの幼馴染なんだろっ!
アーベルまで、連れていかないでくれよっ!
[懇願するような声はそこに届いたかどうか、駆け出す姿が見えた気がした]
[ミハエルに名を呼ばれている事も理解していた。
見られていたとしても止められない。
本当は彼には知られたくなかったけれど
そんな事を思っても――もう遅いのだから]
[姿を変えた漆黒を、止める事など出来はせずに。
ただ祈るように『狩り』を見ていた。
最中に割ってはいるようなゲルダ
気をそがれるアーベル
それらが全て光を生かしてくれれば
そんな望みは儚いのかもしれないが――]
……はっ……ラストカード、切ったか……。
[漆黒の獣に転じた姿>>169に、にぃ、と笑う。
飛び込んでくるならば、上等、という所。
大きく避ける余力はないから、せめて一撃で喉を食い破られるのは避けなくては、と。
敢えて、体勢を崩して受け止める事で、直撃だけはそらそうと試みた。
それでも、鋭い牙が首筋を深く抉るのは、止められはしないだろうけど]
……こんな物言い、柄じゃねぇが。
俺と、一緒に、地獄に行こうぜ、ライ……!
[上から圧し掛かられる状態で。
紅に濡れながら、それでも、笑って。
銀の刃を躊躇いなく、繰り出す。
命の鼓動を感じる辺りへと]
[ゲルダの声が聞こえた。
その言葉に漆黒の獣は心の内でわらう。
止めようとしながら
何かをするでない人間の娘。
構わないといいながら
手を差し伸べず
誰かを助ける為に身を呈する事のない娘。
人間の女は言葉だけだと何処かで思っていた]
御願いだよ、ミハエル君っ…!
あっちに行かせて欲しいのだよ…っ!!
[手を掴まれて、でも振りほどけなくて。
こんな光景見たくは無かったのに。
叫びは、もう届かないのか。]
ダメだよ!
二人はもう…もう止まらない!!
[お互い殺すを覚悟した態。
彼らを見てそれは理解した。
だからこそ、ゲルダの手を握る力は緩めない]
それに、今行ったら、ゲルダが巻き込まれてしまう!
[一度とまった足、獣の踏み込みと比べ速く辿りつく道理もなく、
ミハエルの手に一度軽く捕まれ、その勢いがそがれることもあればなおのことであり]
やだよ……あーべる……
[伸ばす手はなんの力も持たず、自分にはその場をどうにかする力もなにも持ち合わせていなかった。
悔しさや、悲しさや自分の中に流れる感情から、こぼれる涙は止まらず声も力ないものになっていた]
[「いなくなったら…いやだから」。
聞こえた声に、微か、笑みが掠める]
……ばぁか……。
[離れようとしたのは、わざとで。
裏通りで生きようと思ったのは、距離をあけるためで。
けれど、想いは言葉にしないで。
ただ、呆れたように零すだけ]
もう、何も手放したくないのだよ
君と僕が仮令相入れない種でも
僕は―――このまま後悔なんてしたくないんだ!
[間に入れたかどうかは解らない。
ベッティがアーベルに駆け寄るならば、
娘は兄の様に想っていた黒の―――獣に手を伸ばす。
触れることは叶うか否か。
その刹那、するりとミハエルの手を抜けて――]
[ベッティを捕まえて、あちらもこちらも、とするには身体が小さすぎた。
別へ意識を逸らした刹那、ゲルダを捕まえていた手から感触がするりと抜けて行き]
ゲルダ!?
[離れた先に手を伸ばすが、再度掴むまでには至らない]
――…賽を投げただけだろ。
[クツ、と咽喉がなる。
人の言葉を操る漆黒の獣は蒼を見据える。
間近へと迫る蒼。
アーベルの体勢が崩れる事で銀持つ肩を抑えようとした
前脚の位置が僅かにずれてしまう]
お前と俺じゃ、道が違う。
お前は俺を選ばなかった。
[人狼と人間が同じ場所へ行くとは思わなかった。
人間の群れで暮らしながら人間になれぬ獣は
首筋へと牙を立てる。
アーベルの狙いは見えていた。
人と獣の性質を併せ持つ漆黒は
其処に胸骨がある事を知っていた、けど。
――銀は確かに漆黒の獣を抉る]
本当に―――…僕は、君の事
お兄さんのように…想ってたのだよ…ライヒ君
…おいて行かないでよ
[声も、手も、届いたとしても、遅いのかもしれないけれど。
それでも手を伸ばすことは、声を発することはやめない。
叶うなら、漆黒の獣に縋り付いて―――]
……にたよーな、もんだ。
[賽を投げた、という言葉に、笑う]
……どーだか、わかんねぇ、ぜ?
なにせ俺、人狼のなりかけだったりするし、さ。
[銀の先、手応えを感じつつ、にぃ、と笑う。
周囲の音は少しずつ遠のくけれど。
羽ばたきの音は、確りと聞こえたから]
あー……ごめんな、キーファー。
[小さな声で、蒼鷹の名を紡いだ]
[幼馴染に覆い被さる漆黒の獣にあたたかな感触が触れる。
同胞ではない事を理解していた。
触れる温度も匂いも違う――これはゲルダのもの]
――…莫迦だな。
保護者代わりなら出来るかもしれねぇが
俺は家族なんて知らねぇから
兄なんかにゃなれねぇよ。
[微かにゲルダの血の匂いがしただろうか]
年頃の娘が生傷作ってンじゃねぇよ、ばぁか。
[事が済んだらミハエルに本を贈る気だったけれど
今となってはそれも難しい。
いつか約束した発明家の伝記。
荷の中には様々な薬と一緒に其れがあった]
[自分の身がその場につくのは、漆黒と銀がお互いの身に達してからのことだろうか]
あーべる……
[あと少し手を伸ばせば届くかもしれない距離、足元がおぼつかない、
声は震えてうまく出せない、涙で自分の顔はひどいものだったかもしれない。
わずかににじむ視界に命の源たる、紅だけがやけにはっきりと見えたようなそんな気がする。
伸ばす手はその手を握ることができただろうか]
[獣に銀が刺さる様を見ても何も言わない。
泣き叫ぶ事をしないのは、昨日でそれが枯れてしまったからか。
それとも、自分以上に彼らを嘆く人がそこに居たからか。
それ以上に、覚悟はあったからか―――――
ただ涙だけはとめどなく、静かに溢れて頬に落ちた。
そっと、黒い獣に近づいて。]
ライ………。
[その隣に膝を付いた。
ゲルダが縋っているのが解っていたから、
遠慮がちに、その毛の触れられるところに屈みながらそっと頬を寄せた。]
――……。
[蒼を持つ幼馴染の言葉に金色が揺れる。
期待させながらいつも置いていくから
もう期待しないと決めていたのに。
同族の因子を持ちながらならぬ彼が
愛しくも恨めしくある]
莫迦、だよな。
[もう誰に言うべき言葉なのかも分かりはしない]
[微かに聞こえた、名を呼ぶ声。
誰のかはわかるから──は、と息を吐く]
……なに、らしくねぇ声、出してんだ、ばかやろ。
[投げ出す形の左の手に、微かに触れる感触。
握る力はないから代わりに]
……ごめん、な。
[小さな声で、こう、紡いだ]
[重なる蒼と黒。
それに赤が加わるのは程なくしてだった。
人からも獣からも、同じく赤が零れ落ちている]
──ラィ…………。
[再度名を紡ごうとして、声が掠れた。
本を通じて交流を深めた相手。
獣と転じたその姿に恐怖が無いわけではなかったが、慄く程では無く。
眉尻を下げてその姿を見詰めた]
僕だって…家族の事は良く解らないよ
それでもさ―――…嬉しかったんだよ
怪我の手当して呉れたり、クッキー呉れたり
……お墓に、花を手向けて呉れたり
見守ってくれるのが、嬉しかったの
[ふるふると頸を振って。ぽろぽろと涙が漆黒の獣の毛並みを濡らす。
流れる血は、彼から熱を奪うのだろうか。]
必要なら……私、食べられてもよかったの
誰かを奪う分、生きていて欲しかったから
[演技が、はがれる。
仮令、彼の手が大事な人達を殺めていたとしても。
それでも、傍らの青年に言の葉を綴り続けて。]
いらない……そんな言葉……
[返される言葉、握る手にむこうからの力は返ってこない。
彼の身からこぼれおちる紅と共に命が零れ落ちていくのを、ただ自分は見ることしかできず]
ずっと……ずっと……好きだったんだよ……
ただ、私は……アーベルと……一緒に………
[ぎゅっとただその手を握れば、命をつなぎとめられないかと、
祈りを込めて握る手に額をこすりつけて]
ごめん……ごめん……わがままで……
[銀の毒が漆黒の獣を侵してゆく。
熱くて苦しくて仕方がないけれど
其れは一つも表に出さない]
――…は。
[結局、アーベルの心臓を喰らう事も叶わない。
ぽた、ぽた、と人と同じ赤い血が胸から滴る。
幼馴染の上からは動こうとはしなかった。
――…誰かに奪われるのも、厭だったから]
…………。
[紡がれる告白に、返す言葉はない。
それは、だいぶ前に捨てたつもりのものだから。
だから、ただ、静かに、聞いて]
……謝ることか、それ。
っとに……もう。
[掠れた声で紡げるのは、やはり。
呆れたような口調の一言だけだった]
でも……らしいっちゃ、らしい、か、ね……?
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