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それはまだ、始まりの前でした。
始まる前の、ささやかな日常。
おや、 アナスタシア が来たようです。
……ワタシノ コエガ キコエマスカ?
始まりは雨。
始まりの場所は森。
始まりの刻は夕暮れ。
閃く雷光、追い立てる雨、遠く響くナニカのコエ。
……オイデオイデ、コチラニオイデ。
たどり着いたのは古びた屋敷。
出迎えたのは人形のようなメイドたちと。
艶やかに笑う女主人。
導いたコエがなんなのか。
それを確かめる暇もなく。
アナタは、雨宿りの場を求め、古びた屋敷の扉を叩く。
「雨が止むまで、どうぞごゆるりと。主人もそれを望んでおります」
出迎えた、無表情なメイドの言葉。
その意味を、知る由もなく。
おや、 サーシャ が来たようです。
─ 森 ─
……ぅ────
[気付けば僕は地面に倒れていた。
鬱蒼と草木が繁る、森の中。
木々の合間から見える空は、茜色をしている]
……あ れ。
僕は、確か───
[───確か、友人と登山をしていたはずじゃあ。
起き上がりながら自分の状況を思い出す。
休日を利用して大学の友人と登山のために山に入り、もう少しで頂上に辿り着くはずだった。
それなのに、何故僕はここに居るのだろう…]
痛っ。
[座り直した途端、左足首に痛みが走った。
そうだ、頂上に着く直前、僕は足を踏み外して斜面を滑落したんだ。
途中で気を失ってしまったらしく、その辺りの記憶はあやふや。
何か声が聞こえたような気はしたけれど、曖昧な記憶に紛れてよく覚えていない]
参ったなぁ、どうやって合流しよう。
[幸い怪我は左足首の捻挫で済んだようで、全身に軽い打撲はあっても何とか動けそうではあった。
けれど、逸れた友人と合流する手段に困ってしまう。
友人が探してくれているとしたら、動かない方が良いだろうか。
それとも山道を探してそこまで出た方が良いだろうか]
……げ、サック破けてる。
[背負っていたリュックサックからタオルやら添え木になりそうなものを探そうと思ったのだけれど、その目論見は裂け目の発見により成就しなかった。
タオルは辛うじて残っていたけれど、詰まっていた荷物の半分ほど、どこかに転げ落ちてしまっている]
拙い、ヒジョーに拙い。
これじゃあエネルギー補給もままならない。
[切羽詰った状況に、僕は途方に暮れてしまった]
[そんな僕に追い討ちをかけるかのように零れ落ちる、天からの雫。
タオルだけで足首を締め付けた後に僕は天を見上げた]
さいっあく。
雨宿り出来る場所、あるかな。
[雫は大粒。
このままでは遠からずずぶ濡れになってしまうだろう]
────………?
[そんな折、何かが聞こえた気がして、僕は辺りを見回した。
──途端、眩い光と共に響く、轟音]
うひぃ!?
雷もとかマジ勘弁!
[左足の痛みはあったけれど、どこか雨宿り出来る場所を探さないと命すら危ない。
破けた箇所を腹で押さえるようにリュックサックを抱きかかえて、僕は木立が開ける方へと左足を庇いながら走り出した。
帽子の下、顔の左半分を隠した髪が雨に濡れて肌にべったりと張り付く。
少し気持ち悪かったけれど、払うことは出来ないから僕はそのまま木立が開ける先へと駆けて行った。
響いた轟音に掻き消された不思議なコエ。
無意識にそれに導かれているとは*知らぬまま*]
おや、 ベルナルト が来たようです。
─ 森 ─
……っあー……参ったなー。
てゆっか、一体ココ、ドコよ?
[右を見て、左を見た。目に入るのは、物言わぬ木々。
夕暮れ色に染まる森の中には、他に動く者の気配はない]
いや、確かに。
ヤバイ橋渡った自覚はあるし、行方不明扱いは上等なんだが。
[身を隠す場所として、この森を勧めた見知らぬ老婆の姿が過ぎって消える。
踏み込めば戻る叶わぬアヤカシの領域。
ここに隠れていれば、見つかる事はない、と言われ、軽い気持ちで踏み込んだのが昨日の事。
そして、一夜明けた時には──帰る道は見つからなくなっていた]
……印、残しといた心算なんだがなぁ……。
[ぼやいた所で帰り道がわかる訳でもなく。
出来ることといえば、目の前に細く開けた空間を進むことだけ。
数日、身を隠す心算でいたから、それなりの準備はしてきたのだが、この状況では心許ないを通り越している]
とはいえ、人の立ち入らん森じゃ、人が住んでるはずは……。
[ないか、と。
言いかけた言葉を遮るように、微か、声が聞こえた気がした]
……っ!?
誰か、いんの?
[叫んだ声に応えはなく。
代わる様に天から落ちてくるのは、大粒の滴]
ヤベっ、雨かよ!
[さすがに、そこまでの対策はなく。雨宿り先を求めて、走り出す。
雨脚は強まる一方。
轟く雷鳴は、先へ進むのを急き立てるが如く、大気を裂いて]
お……?
あれは……建物? あー、この際なんでもいい、雨宿り場所!
[しばらく駆けた先に見えた建物へ向け、駆ける。
古びた扉の前、息を整えるのももどかしく、乱暴に重々しいその表面を殴りつけた]
何方か、いらっしゃいますかー!
旅の者ですが、雨に見舞われて難儀しております。
雨が止むまで、軒先でもお借りしたいんですがっ!
[怒鳴りながら扉を叩く事数回。
軋むような音を立てて開いたその先にいたのは──無表情な、メイドが一人]
─ 屋敷/エントランス ─
……えーと。
[この対応は、予想外だった。
予想外故に、逆にリアクションに困っていた。
困っていると、メイドはこちらを中へと招き入れて、タオルを差し出してくれた]
「雨が止むまで、どうぞごゆるりと。主人もそれを望んでおります」
……え? ご主人、さんって?
[この屋敷の主なのは想像がつくが、「望んで」という言葉の意味がわからず。
首を傾げつつ、ともあれ、受け取ったタオルを頭から引っかぶった。**]
おや、 オリガ が来たようです。
― 森 ―
[空が炎の色に染まる。
土に薄汚れた靴先から伸びる影が随分大きく見える頃。
宿を営む父に夕食に使う食材野草を摘んでくるよう言われたオリガは
いつしか森の奥深くへと迷い込んでいた。
くるり、振り向き来たはずの獣道を見遣る。
向き直り、これから進もうとしていた獣道を見比べる。
赤く染まる森の小道は意識研ぎ澄ませなければ見失いそうなほど細やか]
――――。
[長い沈黙を置いて息のむ音が微かに鳴る]
[森にのまれたような感覚が芽生え、拭えない。
不安を感じ引き返そうとした矢先、足元の土に何か落ちる気配がした。
目を凝らせば色濃くなるその一点。
オリガは空を仰いだ。
ポツ、と頬にあたる雨粒に目を眇める。
受け皿のような形の手を差し出せばポタポタと肌を濡らす]
やだ、雨……?
早く帰らなきゃ。
[踵を返せばふわりとスカートの裾が広がり波打つ]
[不意に、コエが聞こえた。
呼びかけるそのコエにオリガの視線が声の主を求めて彷徨う]
誰?
[向けた声は森の木々にのまれて余韻さえ残らない。
次第に雨の匂いが濃くなり水の気配が辺りに満ちる]
気のせい、よね。
――――……。
[後ろ髪引かれるような思いを抱きながら
父の待つ我が家に帰ろうと歩み始めた]
[空にあの赤はない。
かわりに空を裂く稲光が見えてびくりと身体を震わせる。
続いて聞こえる轟音に竦んで思うように足は動いてくれない。
既に泣きだした空の下に泣き出しそうな顔をして
声にならぬ悲鳴を喉奥で詰まらせた]
…………っ。
[早く帰らなきゃ。
己を叱咤して枝木を掻き分け森を進む]
[そうした先に見えるのは、目指した場所ではなく
古びた屋敷が大粒の雨の向こうに在った]
え。
[来た時には見かけなかった。
だから道を間違えてしまったのだと思う]
うそ。
[途惑い含む声が漏れて不安げに辺りを見回すが
屋敷の他に其処からみえるのは暗い空と鬱蒼とした森]
[そうしている間にも雨は降り注ぎオリガを濡らす。
冷たく感じる雨に避ける為に屋敷へと向かった。
扉を叩き待てば、無表情なメイドの出迎えがあり]
御免下さい。
道に迷ってしまいました。
雨宿りさせて頂いても宜しいですか?
[願えば快い返事とともに屋敷の中へと誘われる]
ありがとうございます。
たすかります。
[何も知らぬままオリガは屋敷に足を踏み入れた**]
おや、 キリル が来たようです。
[とある村の、とある家。
静まり返った居間の壁には、絵が飾られている。その昔、父親がとある絵描きに頼んだものだ。
額縁の中ではその家の住人である家族が3人、楽しそうに笑っていた]
空耳……?あ、
[空に目を移した直後、ぱたりと音がして、水滴が頬を伝っていく。
ここまでの道程で額に浮かんだ汗とは違う。思わず瞬きした目からでもない。
空から水が落ちて来たのだ]
[まずい、雨だ、そんな言葉はすぐに激しくなった雨音に飲まれた。
一瞬の逡巡の後、走り出す。
当然ながら宛てなどない、そのはずだった。
雨は容赦なく薄汚れたフードを濡らし、重みを増す、そんな中で]
『 ―― ……オカエリナサイ? ―― 』
……え、っうわ、ぁっ!
[また聞こえた声に、気を取られた刹那。
ばしゃんと盛大に音をたてて、転んでしまった]
……やっちゃった……。
っ、いた、ぁ。
[ぎりぎりで顔だけは庇ったものの、フードは泥で完全に汚れてしまった。
慌てて起き上がろうとすると、痛みが走る。どうやら膝を擦り剥いたらしい。
顔を顰めながら、ゆっくりと身体を起こし、……不意に瞬く]
あれ。
お屋敷……?
[存外近い位置にそれはあった。今の今まで気が付かなかったのが不思議なくらいに。
首を傾げるけれども、未だ止まない大雨の中、敢えてその屋敷を避けるという選択肢は無かった]
― 屋敷の前 ―
[膝を庇いながら辿りついた扉の前で、被っていたフードを脱ぐ。
すぅ、と息を吸い込み]
……こん、ばんはぁ!
どなたか、いらっしゃいますかぁ!
[挨拶に少しだけ迷いながらも、張り上げた声は少し掠れた。あとで、少しばかり咳き込む。
口にあてた手は細く、頬はよく見れば少しこけている。
程なく扉を開けたメイドはそのことに気づいたのか気づかなかったのか、表情一つ変えなかったから分からない]
えっと、その……よかったら、雨宿りを、させてもらいたくて。
あ、ありがとうございます!
[程なく了承の返事をもらって、勢いよく頭を下げた**]
─ 屋敷/エントランス ─
[借りたタオルで水気を拭っていると、同じように雨宿りを求めて駆け込む者が次々と現れる]
(……何気に、人、多くね?)
[聞いた話と違う、と思えど、そんな思考は心の奥底。
顔にかかる、微かに湿り気残る金糸の如き髪をさらりと払い、浮かべるのは懐っこくも見える表情──所謂、営業スマイル]
……雨に泣かされたお仲間さんは、予想以上に多いようで。
しかしこの降りだと、しばらくは動けそうにないねぇ。
[開いた扉越し、垣間見えた外の様子にため息つけば、雨が止むまでは客室で休んでいてくれ、とメイドから声がかかる。
どうやら、濡れた服が乾くまでの間の着替えも用意してくれているらしい]
(……至れり尽くせりですこと)
[淡々と告げられる言葉にまた、内心で首を傾げるものの。
ゆっくりできるというならば、それを厭う心算はなかった。**]
おや、 メーフィエ が来たようです。
― 森 ―
[その時、メーフィエはびくりと身体を震わせた。
左右を見回した。後ろを振り返った。
夕刻の半端な明るさの下、目に映るのは森の木々、踏み越えてきた土と下草。
その景色の中に、人影と思しきものはひとつとして見えなかった。]
アイツじゃ、ない。
[何処からか聞こえてきた気がした、声。
怖れている相手の声とは違う。まずはそう感じ、溜息ひとつ。
けれどその声の主らしきものの姿が見えないことそのものに、不思議さは抱いていた。
まるで誰かに――自分に?――問い掛けるような、誘うような、迎え入れるような、声。]
誰か、いるの……
[身体が震える。
毛皮のコートを濡らす雨は激しさを増し、冷えた身体を雷鳴がまた震わす。
メーフィエは稲妻に照らされる森を駆けた。自分がどちらに向かっているのかも判らないまま、ただ駆けた。
もともとただ当てもなく走り出して、この森の中まで逃げ込んできた訳だったが――
気が付くと、目と鼻のすぐ先に古びた扉があった。]
……誰か、いる?
[開いた扉の奥で待ち受けているのは、「アイツ」の顔と此方に向けられた銃口――そんな一瞬の想像を振り払う。
今度こそとメーフィエは声を張り上げ、扉を叩いた。]
すみませんッ、
雨宿りさせて、もらえません、かッ!
―屋敷/エントランス―
[果たして出迎えてきたのは、無表情なメイドがひとり。
メーフィエは、はっきりと顔に安堵を滲ませた。]
ありがとう、ございます――
[屋敷の中へ促したメイドが、何かを握った手をメーフィエへと伸ばしてきた。
メーフィエは咄嗟に身構えたが、メイドが差し出したものがタオルだと察し、今一度の礼と共にそれを受け取った。
まず拭ったのは顔と髪。コートの毛皮に染みた雨水を軽く払ったのはそれから。]
そうですね……。
部屋まで案内して頂けると、助かります。着替えも、もし頂けるなら。
[安堵から、それまで抑え込んできていた疲弊が一気に表に出てきた。
それでも人の居る手前、ふらりと倒れ込むことはしなかった。
こうしてメイドのあとから、客室へ行こうとして――。
メーフィエは、一度立ち止まって、その場をそれとなく見回した。]
─ →屋敷 ─
[大粒の雫が大量に零れ落ちる中、僕は左足を引き摺って先を急ぐ。
その先に何があるかなんて知りもしなかったけれど、次第に立ち込める木立が左右へと開き。
雷光煌く中に屋敷が一件、浮かび上がった]
や った、あそこで雨宿りさせてもらおう!
[建物の中なら雷が落ちても焦がされはしないだろう。
何よりこの大雨を凌げ、きっと温まることも出来るだろうから、見つけた建物を無視する道理は無かった]
あのっ、すみません!
しばらく雨宿りさせてもらえませんかー?
[玄関の扉を数度ノックして、屋敷の中にも届くよう声を張り上げる。
泥だらけになったタオルの下で、左足首がズキリと悲鳴を上げるように痛んだ。
それに対し顔を顰めた直後、叩き続けていた扉が僅かに軋みながら開かれる]
っ……あ、の。
え と、雨宿りを───。
[出迎えてくれたのは屋敷に仕えているらしいメイド。
あまりの無表情さに僕は思わず息を飲んだ。
何となく、不気味さを覚えたのだ。
たどたどしく雨宿りを請うと、メイドは表情を変えぬまま身をずらして中へと招くような仕草をする。
そうして付け加えられた言葉に、僕は一度瞳を瞬いた]
あ、ありがとう、ございます……。
[屋敷の主人に雨宿りを望まれる理由が分からず、口にした謝辞も面食らったようなものになる。
リュックサックを抱え、左足を引き摺りながらエントランス内へと入ると、メイドから綺麗に乾かされたタオルを渡された]
助かります。
……他にもどなたかいらっしゃるのですか?
[僕が中に入る前に、既にエントランスの床が濡れていたことから、メイドに対してそう問うてみる。
返事は是。
どうやら僕と同じように雨宿りに訪れた人達が居るようだった]
へぇ、他にも同じ境遇の人が居るんですね…。
急な雨だったもんなぁ。
[自分が登山していた山の麓だと思っているため、登山客が多いのだろうと勝手な解釈。
それから再び痛んだ左足に顔を顰め、小さく息を吐いた]
あの……実は左足、捻挫してしまったみたいで。
手当てするものとか、ありませんか?
サックに入れてた物ほとんど落としてしまって…。
[人差し指で左足を示して、手当てする術が無いことをメイドに告げる。
無表情なメイドの視線が僕の左足へと向かい、再び僕の顔へと視線を戻した後に、承諾の返事が返ってきた]
ありがとうございます。
…分かりました、移動するくらいなら、何とか。
[手当が出来ることに僕は安堵の笑みを浮かべ、大広間へと言われたことには頷きを返す。
大広間への移動の間に客室のことを聞き、着替えもあると告げられて。
そこまで用意してくれることを不思議に思いながらも、ありがたすぎて申し訳ない気持ちにもなりつつあった]
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