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ほんまよ。
おらぁ、好きじゃ
[にこにこと]
好きってすごいんよ
ぜったい悲しくさせんって思うん
だから笑ってぇ?
わらうかどにはふくきたる
って
かかさまがいうとったもん
…わからぬ。
我にも、わからぬ。
[ほろほろと落ちる涙をそのままに微かにつぶやく]
ただ……さびしい。ひどく、さびしい──
[ほつりとつぶやいて蜜色は瞼の裏へ。
伸ばされた手を遮る様子はなく]
…あ、め…?
そんな―そのような―
[なにやらぶつぶつ呟いていたがやがて―]
俺は―
[ふらり、視線は虚空を彷徨い、肉体の方も彷徨わんと―]
[ふる、と首を振る。
言葉は既に、届くかどうかも怪しきか。
力抜けたよにその場に座り込み。
ぎゅ、と唇をかみ締める。
紅緋が見つめるは不安げな、小さき獣の円らな瞳]
わからぬか。
わからぬ事は多きものよの。
[白き指は頬へと触れて、伝う涙を掬い取る]
ひとりはさみし、ふたりはこいし。
なれば如何すれば好いものか。
[続いて落ちる言の葉は、独り言ちるようで]
雨は空の流す涙、海は涙の流れ着きし場所。
そう言うたのは其方だったと覚えているよ。
けれども、雨が時には恵みであるように、
涙にもうれしきはあるね。
其方の流す涙がそれであれば好いと思う。
雅詠――?
[天狗の心の乱れに応じて風も惑おうか、
彷徨う眼差しと同じに揺らぎも伝はらむ。
投げかける声は不思議そな響きを帯びて。]
[座り込んでしまったのにあわて]
[自分もあわててしゃがんで]
ふうれん、ふうれん
なんも心配なんてなかよ!
こわいのあらんって
ふうれんが教えてくれたんじゃよ!
わからぬ──わからぬよ。
何ゆえに涙が止まらぬのか。
何ゆえ、我はさみしいのか。
[頬に沿う指の温かさ、微かなそれでも安堵を覚えてほろりほろりとまだ涙は落ちよう]
…ああ、言った。
我は確かにそう言った。
けれど…我に空でも海でもある資格はないのだよ。
我は──ただの日知り。
[嬉しい涙などながれようもないと首を横にふる]
ぁ――――
[肩に伝わる感触に振り向きし顔は呆然としておるだけでなく―
そう、まるであどけない幼子の如く―]
―からす?
[それだけを呟きてふっ―と*崩れ落ちた*]
こわいのではない……よ。
[ようやくこぼれた声は小さくて]
ただ……嫌なだけだから。
[何が、とは言わず。
紅緋は頑な。
踏み込むのは許さぬと、そう、言わんばかりに。
思わぬ言葉が呼び起こせし遠い刻は、その頃の。
実父にいらぬと言われた頃の、頑なさまで呼び起こしてか]
いずこにても、みえぬはこころ。
己にても、他にても、それは然り。
[隣に腰を下ろせば紫黒は蜜色を覗こうと]
空の君。
それは人の世にての話だろう。
ここは天狗の隠れ里、現世の理は通じぬよ。
其方が望むがままにあれば好い。
空でありしも、
海でありしも、
如何様にも在れよう。
こわないの?
[だけれど続いた言葉にこくり]
[頷いて、わらう]
いやなこともさせんよ!
おらぁ、絶対にせんよ!
おらを怖いんから助けてくれたんはふうれんじゃ
じゃけ、おらがふうれんの嫌なことをどっかうっちゃるよ!
ふうれん、笑ってなぁ
おら、ふうれんが好きじゃよ
ふうれんが笑うてくれたらほんまにうれしいん
なぁ、ひとりでくるしまんで…?
おっと!
[崩れ落ちた男の身体を、地に落ち切る前にようよう支えて]
旦那?…ちょいと、旦那?!
[肩を揺するが答えは返らず。途方に暮れて辺りを見回す。子供等に助けを期待するわけにもいかず]
やれ…是非も無し。
[苦笑と共に、肩にその身を背負い上げる]
…望む、まま…?
[微かに問いかけの言葉は細く]
…望みなど、叶うのだろうか。
叶わないからこそ、望みなのではないのか?
[傍らに座る姿に諦めの色濃い声音で尋ねようか]
…望んだところで叶うわけもない。
我の望みなど、叶わぬ。
我は…我、は、「本物の揺藍」になりたかった。
叶わぬ夢とわかっていても、それでも───
[ひどく表情をゆがめれば、それこそ風連や音彩と変わらぬ年のころの子供のように、うつむいたまま、ただ、泣きじゃくる]
[風漣と音彩の様子が、気にかかりはしたが、二人の心は二人にしか解らぬと、静かに目を逸らして]
俺は旦那を運んでゆくから、坊達も、遅くならないうちにお帰り。
[ただ、そう声をかけて、歩き出す]
どして……。
やぁだ、て……いって……。
[投げられる言葉は、無垢であるが故か。
痛みすら伴う、響きで。
それは、いつか向けられた露草色の若人の言葉と良く似ていて。
似ているからか。
それでも異なるとわかるが故か。
他には沿わぬとの誓いがもたらす、小さな錯乱。
それに弾かれるよに。
跳ね上がって駆け出して。
鞠は抱え、仔うさぎは置き去りに]
空の君、心次第だよ。
叶わぬと思うて望むなら、
叶うはずもあるまいな。
[返す女の声は淡々として、鈴を転がすようで]
本物とやらになる必要はあったのかな、
此方に其方の事はわからぬけれども。
人の世にては叶わじとも、
妖の世にては叶う願いもあるかも知れぬね。
[ゆるり、伸ばした手は、そうと、その髪を梳こう]
[幼すぎる言葉に]
[小兄がどう思ったかなどもわからずに]
あ!
ふうれんっ!
[走り出してしまった小兄を]
[止めるなどできず]
[慌てて立ち上がって]
[仔うさぎにも目を留めず]
まってっ!
まって、ふうれんっ!
[その後を追って、走り出す]
[白い花が、そよそよゆれて]
[白い仔うさぎは、ただ見ているか]
[鎮守の森で笛を吹く。誰そ聞かせるためだろか。]
[ピィー…ヒャララ…ピィー…ヒョロロ…]
[否、人影は他になし。
濃い緑の木の上に、白の衣が揺れるだけ。]
[駆けて、駆けて、ただ駆けて。
足元はおぼつかぬよで、確りと。
それは、森に隠れ住みし暮らしの賜物か]
……いらないのにっ……。
[振り絞るような呟きは、恐らく誰の耳にも届くことなく。
駆けに駆け、目の前に館を捉えれば、白の内。
紛れるように、身を翻して違う方へと。
巡り、駆け、求める先は、慕わしきものと暮らせしその地に良く似た場所か]
[時間をかけて、館へと辿り着き、雅詠の身体を上がり口へと座らせる]
誰か…
[と、声をあげる前に、わらわらと駆け出て来た童子達が、軽々と男を抱えて行く様に、ぽかんと口を開け、見送った]
やれやれ…今も昔も…天狗の里には不思議が多い。
[吐息をついて、肩を竦めた]
[その姿は白の花に紛れ]
[一瞬見失えば]
[はたと立ち止まる]
[目前に館]
あかんよぅっ……
みんな、かなしいの、やじゃぁ……!
[きょろきょろと]
[あたりを見回して]
[どちらにいったのか]
[あの仔うさぎならわかろうか?]
[視界の端に先にわかれた大兄をとらえども……]
[ピィー…ヒャララ…ピィー…ヒョロロ…]
[面は被衣に隠されて、僅か覗くは飴色に寄せる撫子色。
さあ、と木の葉揺らして風吹けば、音色を乗せてゆくだろか。]
[ピィー…ヒャララ…ピィー…ヒョロロ…]
[緑の帳に駆け込んで、はあ、とひとつ息を吐く。
数度、ふるふると首を振り、気を静めれば]
……笛……?
[そう、遠くなき場所より響く、静かな音色。
それに惹かれるよに、ゆらり、深き緑の闇の奥へと踏み込んで]
……だれか、いるの?
[梢に向けて、そう、と問いを投げようか]
――おや。
言の葉が返らぬと思えば。
[童子ら笑ひつつ、何ぞありしか告げようか。
その声はやはり天狗の耳にしか届かずに、
ひそひそ、くすくす、ないしょのはなし。]
[ふいに届くは幼き声。笛はぴたりと歌うをやめる。]
誰そ? 我は我…ゑゐかじゃ。
そなたこそ、誰そ。
[声の主を探すがごとく、身を乗り出して下見やる。
緑の中で月白は、ふわりゆらりと風吹かれ。
幽玄のごとく見えようか。]
[梢に投げた声、それにこたえるように笛の音が止まり。
返るよに、誰何の声が降ってくる]
えいか……?
[のねえさま、と。それは寸前で口にせず]
ええと……風漣……。
[自身の名を告げつつ、上を見る。
緑の帳、その内に浮かぶ色彩に、ひとつ、まばたいて]
……邪魔をして、しまった?
[続く問いは、どこか不安な響きを帯びるか]
[ゆると首を振り]
[どこへいったかもわからないけれど]
[小兄のあとを追おうと]
あ。
うさぎ
[あの仔ならわかるだろうかと]
[元いた場所に戻り始める]
…ああ、そなたか。
[風漣と聞けば僅か安堵したように、視界遮る被衣を肩へと落とす。
表れし面には、涙の痕も笑みもなく。
いつものように愛想のない――表情乏しきままだろう。]
…否、なにも邪魔などしてはおらぬよ。
我こそ…邪魔をしてしもうたか?
[上からではよく声が聞こえぬのか、笛を仕舞いて身を空へ。
とん、と地へと降り立てば、首を傾げてみせようか。]
[戻った場所で]
[うさぎは草を食べ]
……ふうれん、どこいったんじゃろなぁ
[小さな声で呟いて]
どこだか、わからんかなぁ……?
[仔うさぎは首を傾げる]
[子供も同じく首を傾げる]
元気にのうて、
笑うてくれたら、
みんながそうであったら、良いんに……
[ふわりと降りる、えいかの姿にわあ、と声を上げ]
ううん、風漣は……ただ……。
[逃げてきただけだから、と。
小さく呟き、ふる、と首を横に振る]
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