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[節度、という言葉に小首を傾げ]
まあ、そうかもね。
煙苦手なボクからすると、五十歩百歩だけど。
[さらりと言いつつ、しばらく帰れない、という言葉には、雨の勢いから、確かにね、と呟いて]
うーん、アーヴァインさんは吸う人だったっけ……?
[記憶を辿り始めたその矢先。
響いている、激しい雨音。
それすら引き裂くような、叫び声が届いて]
……や……な、何?
[震える呟きをもらしつつ。
握り締めた手が、無意識のように左の胸元に押し当てられた]
[支えようと身体に触れたナサニエル]
[その手の感触に][ギクリと]
[振り解こうと暴れる。]
[行動は幼児の様でもその力は確かに成人した男のもので]
[身を竦めて子供のように泣く男を、宥めるようにそっと撫でて。
本来なら母親の仕事だろうが、施設で育った自分には他人事と思えずに]
よっぽど辛い目にあったんだな、あんた。
[それ以上は何も言えず、訊けずに、だた彼が落ち着くのを待って]
[包帯に包まれた傷だらけの肢体]
[けれどもそれは無力ではなく。]
[恐らくは実用の為に鍛えられたと思しい]
[しなやかな筋肉に包まれたそれで]
………う……うぅ………
!!!!
[ぱっと]
[毛布を跳ね飛ばし]
[触れる手から逃げようとするかの様に]
[ベッドから飛び降り]
[走り出す。]
[押さえていた腕を跳ね除け、ベッドを降り走り去ろうとする男を追う]
おい!無理するな、危ないから!!
[叫んだところで止まる筈も無く、ただ追いかけて]
俺は人前じゃ吸わないから好いんだ。
[ 其れでも、染み付いた匂いは容易には取れない訳だが。
耳に届いた悲鳴に眉を険しくし天井を見遣っていたが、胸に手を当てるメイの姿に視線を下ろす。]
……大丈夫か?
[ 視線を下ろす刹那緩やかに黒曜石の瞳が瞬かれる。]
『って、俺は……何を。』
[ 確かに他人の事等如何でも好いと思う事は在れど、其れ程迄に自分は冷酷な人間だったか。]
[声の聞こえた方──階段を見やって、立ち尽くしていたが、問いかけにはっと我に返って]
え、あ。
あ、うん。
何でもない、よ?
[とっさに笑顔を作りつつ、ほらなんでもない、と言いたげにぱたぱたと手を振るものの。
どうにも、不自然さは拭えなくて]
[頭を抱え蹲る男に近付き、目線を合わせるようにしゃがんで]
ほら、急に動くから…。
俺は敵じゃない、って言ってるだろう?
…ナサニエル、だ。分かるか?
[驚かさぬように、できるだけ静かな声で]
[少女は反射した窓の奥に続く闇に、瞳を奪われたまま時を過ごしていた。]
[途中、ナサニエルが室外へ足を運んだ気配と、玄関先で誰かが訪れたような気配は微かに感じ取れていたが、階上の叫び声は聞こえることなく――]
嫌な雨…長く続かなければ良いのだけども…
[雨音によって呼び起こされるのは過去に出来ないほどの真新しい記憶か。
緩やかに襲ってくる頭の痛みに僅かに顔を歪めながら、少女はようやく窓の闇から開放された。]
……そうか?
[ やや間を置いてから、不自然な表情に返した青年の様子も些か不自然だったろうか。
視線を宙に巡らせて僅かに思考すると、未だ濡れていた手をタオルで拭きメイの頭をポンと撫でる。]
まあ、云いたく無い事なら云わなくて好いし。
云いたくなったら何時でもどうぞ。
[ 軽く笑みを作って云うも、直後にくしゃみ。]
……寒っ。
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