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[照れる彼女も可愛かった。彼女の手に唇を落とす]
[彼女の手からわきたつ甘い香り]
[ 『愛は最高のスパイスだ。
愛しているからこそ狂おしく美味いんだ』 ]
[何故なんだろう。
ふと昔聞いた誰かの言葉が脳裏を掠めた]
……………
[気がつけば、彼女の手の甲に軽く歯を立てていた]
[ただ口付けを落とすだけのつもりだったのに。
かりっとした感触ではっと正気になった]
あ、
ごめ。
ごめん。
痛かったよね。あぁ俺何やってるんだろ。ごめん。
[ばっと身を起こし、自分の手を引いた。血を出させるほどの力ではなかったように思うが、少し跡にはなるのかもしれない]
[キリルを見送った後、少し表情が曇った]
……不安ね。
[彼女は大丈夫だろうかと、心配が立つ。
あとでレイスにもこっそり言っておいたほうがいいのかもしれないと、少し悩んだ。]
有難う。……気をつけて。
[ロランたちに向けたのと同じ言葉を、カチューシャにも向ける。
礼のついでに笑顔でも浮かべられたら良いけれど、やっぱり上手くいかないのだろう。
以前に一度だけやった作り笑いは誰だかに怖いと言われたので、それから無理はしないようにしている。
ともかく、カチューシャの姿が見えなくなるまではそこにいて、それから自宅へ向かうことにした。]
…なら、良いけど
[この歳、と続けられるのには、そう変わらないと思う。
実際に自分がその歳になればそう思う事は無いだろうけれど、
今のロランにはそう思う事はできなかった。
小さく笑う気配には、少しだけ身を捻って見遣る。
烏色の双眸は胡乱げだが、微かに不思議そうな色。
が、ミハイルが小走りに近寄って来るのを見て
その勢いに、そちらへと体ごと向け]
ちょっと、へましただけ。
[心配されている風に聞こえたし見えたから、
僅かに肩を竦めたのは、レイスの言葉も思い出して]
イヴァン、あの……
[手に口付けた、彼の動きが少し止まったように思う。
さすがに居た堪れなくなって、声を掛けた。
───その時、不意に]
────痛…ッ
[かりり。と、肌に食い込む感触がある。
思わず小さく悲鳴をあげる、
その声にハッとしたように彼の顔が上がった。
ボクは思わず、ひどく驚いた顔のまま彼を見返してしまう]
…イヴァン?
[不安定に、声が細く揺れた]
[暫くして、家を出る。
向かう先はいつものように墓地だけれど、
誰かに会ったなら、いつものように挨拶をして、話をしたりもあるだろう**]
はーい。
それじゃあいってきます。
[レイスの表情を読むのはうまくない。
幼馴染のロランの表情なら大体わかるけれど、10歳ほど離れているレイスとは、キリルを通しての接点だけだからだったかもしれない。
見送ってくれるレイスに手を振って、森へと向かって歩き出す]
→ 森の入り口
―― 広場への道 ――
[ミハイルの言葉に一度目を伏せてから
彼と視線を重ね]
少し水浴びを、ね。
年甲斐もなくはしゃぎすぎたみたいだ。
[軽口に似た口調で返す。
へました、とロランの声が聞こえれば
それ以上の軽口は重ねずに]
怪我の手当ては一応レイスに頼んであるけど……
そっちは?
[何か用があるのだろうか、とミハイルに問う]
[これは一体何。驚きの中で考える。
……彼も仲間なのだろうか、人狼なのだろうか。
否。と、魂の奥底がこたえを返す。
ならば囁きの通じぬはずはない。
遺体は彼の畑にあった。当然だろう。
旅人を喰らったのは、あの近く。
ならば手近なところに死体を隠す、それがたまたま畑であっただけのこと。
それではこれは何なのだろう。
赤の滲まぬ手の甲を、凝然としてボクは見つめる]
―― 自分の家の前 ――
[不安げな呼びかけ。俯いた]
……ごめん。
ちょっとどうかしてた。
怖がらせたりするつもりはなかったんだ。
ごめん。ほんとに。薬、いるかな。
[ちょっと色々とやっちまった感で顔が上げられない。
片手で首裏を押さえ、ただ頭を下げた]
う、ううん。大丈夫。血も出ていないから平気。
…ちょっと、びっくりしただけ。
[ふるりと頭を振った。
痛みよりも気にかかるものがある。
首を傾げて、じっと俯く恋人を見つめた]
……どんな味がするか、気になった?
[怯えたともまた違う問いを、彼へと向ける]
…、気になる?
[誘うように、ボクは再び手を差し出す。
一歩、二歩。足を踏み出した。
ごく間近に、頭を下げる恋人がいる。
その顔を、覗き込むようにした]
────試してもいいよ。
[彼が本当に齧りついて来たら、どうなるだろう。
彼も人狼になるのだろうか。
そうしてボクは、彼に喰らわれるのだろうか。
その一部になるのだろうか。
…ならばそれも良いかもしれない。甘い、誘惑]
[ヤンチャなどと言われればクツと喉を鳴らした。
ミハイルの用がロランにあると知れば微か首を傾けて]
話があるなら僕は失礼するよ。
[後はミハイルに任す心算か。
ゆら、と手を振り家に戻ろうと歩みだす]
―― 自宅前 ――
ならよかった。でもごめん。
[自分の足先見つめてた]
[そこに向けられた、問い。
おそるおそる顔を上げて彼女を見やる]
………………
[少し血の気が引いていた頬にぼんやり朱が乗る。
ちょっとの間唇をふるわせて葛藤を見せた後]
ええと、うん。はい。ちょっとだけ
[視線が気まずそうに斜めにずれて、もうちょっと酷い理由はなんとか喉に押し込めた。けれど、誘われるように差し出される手。踏み込まれる足。顔が一気に赤くなる。詰められた分だけ後ずさった。目が合う。今度は瞳を逸らせない]
えっ
あ
― 森の入り口 ―
[レイスと別れて一人向かったのは、狼たちが落ち着かない森の入り口。
目的の花は黄色の花で。
優しい香りをしている。
それは村からも見えるような位置に咲いていた]
……えーっと、レイスさんのは、もうちょっと入ったところ、か。
[目的の花を摘んだ後。
レイスから頼まれた薬草の場所を思い返して、森を見る。
朝とはいえもう日は大分高い。
木々にさえぎられていても森の中もそこそこ明るかった]
まあ、大丈夫だよね、きっと。
[よし、と一つ頷いて、森の中に入る]
………ごめん
[とん、と背がさっき下ろした籠に当たる。
情けないことに、そのままばっと背を向けた。
ふらふらどこかぎこちない足取りで逃げるみたいに離れようとする]
……勘弁して。そんなことされたら止まれないよ
傷つけたくないんだ
[追おうと思えばそんな情けない囁きが聞こえるかもしれない**]
[ユーリーを振り返ると、彼は車椅子から離れた所で。
ゆらと振られる手をその眸に映し]
――ありが、とう。
[告げる声はとても小さかったけれど、届くと好い。
ぽたぽたと落ちる血は随分少なくなってきていて、
膝の上の水玉も、少しずつどす黒い色に変化していた]
…それは、吸血鬼か…屍鬼。
[御伽噺でも、増えるとは見た事が無い。
だが、イヴァンが齧ったと聞けば、眉を寄せる。
――そして思いついてしまった事に、更に、視線を落とした]
…キリルと同胞になりたい、とか。
[人を食べればなれると思っている、とか。
それは詰まり、キリルを人狼だと思って居れば、だけれど]
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