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[どこか焦りを見せるロストの気配]
……何か大事でもあったかな?
[漏らす声は低く小さなもの。
その口調は何かを期待するような雰囲気を乗せた]
[明けて翌日は、前日の疲れが出たのか見事な寝過ごしで。
どことなく残る気だるさを持て余しつつ、まずは左腕を確かめる]
ん、動くな。
[それを確かめて、最初にやるのは、譜面を開く事。
仕事が仕事として成立する可能性は大分低いが。
書きかけの曲は、完成させたい、という思いは強かった。
譜面を辿り、右手で鍵盤を叩く。
それは、いつもと変わらぬ日常。
もっとも、村全体から見れば、異常な状態なのかもしれないが]
ミリィが。
[届いた囁きに反射的に答える]
いえ、何でもありません。
[だが即座に否定する。意識を遮断しようとするが、この世界にまだ慣れず、更に動揺している状態では可能なはずがなかった]
……?
[狭い視界の中に、何かが飛び込んできて、自分の体を抱きしめてくれた。
なんかもう、感触があまり無い。
食事とか取ってないから、すっごい軽くて、驚かせちゃうかもしれないなあ。
そんなことを思いながら、その目の焦点を合わせてみると、そこには、先程会いたいと望んでいた、オトフリートの姿。
嗚呼。神様は、もう一度だけ、願いを叶えてくれたんだね]
……やっほー、先生。
そこ、玄関じゃないんだけどなあ……てか、身軽だね、せんせ。
[いつものような調子で話しながらも、嬉しくて、笑みが止まらない]
あ。そうだ、せんせ……。
絵。完成したんだ。
イレーネに真っ先に知らせてあげるって…約束してたから……教えてあげてもらえるかなあ?
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あんまり狂ぽくないからそれでもいいかなーとか。駄目?
まぁ呼ばなくても駆け付けた時点でアレですが(ぁ
といったところでいいとこなんだけど少々退席…!
…へぇ?
ミリィが、どうしたのかな。
[言いかけて否定するロストの言葉を逃すことなく掴み取り]
教えてよ。
ゲイトも心配するだろうし。
[少女と親友であるゲイトの名も出し、話を聞きだそうとする]
[翌日。
いつも通りに起きて用をしているうちに、部屋からピアノの音が流れてきてエーリッヒが起きたのを知る。]
あら、思ったより早かったですね。
[呟いて、昼食寄りのブランチを持ってエーリッヒの部屋へ行く。
こんこん、といつものノック。]
おはようございます。食事をお持ちしました。
[ノックの音と声。
それにも、手は止まることはなく。
弾むように連なる音を幾度か繰り返す]
ん……ああ。
鍵、かかってないから。
中に適当に、置いて行って。
[手が離せないから、というのは既にいつもの事と言えるので、言わず。
左手は、いつもよりはゆっくりとだが、音符を消したり書き足したり]
ミリィ、どうしたんですか。
[一瞬、動かしてはいけないと思って手が止まった。
だがミリィが反応を示したのを見て改めて抱き起こした。
その身体はありえないほどに軽かった。
いつも元気な少女には似つかわしくない、儚さを感じさせる]
緊急事態ですから。
[固い口調で返しつつ、視線を画布の方へと向ける。
思わず息を飲んだ。その位に力強い絵だった]
凄い…。
ああ、イレーネにですね。分かりました。
でも今はとにかく。
[横抱きに抱えて、立ち上がろうとした]
[追求のコエに小さく舌打ちする。
同時に触れてきたゲイトの意識に小さく息を吐いて]
…疲労が来たのだと思います。
[焦りを押し殺しながら、それだけを囁く。
余裕など何処にも無かった。不安が外に出ないようにするだけでも手一杯だった]
はい、わかりました。
[中に入れば机に食事の乗ったトレイを置き、そーっと音を忍ばせて、エーリッヒが向かうピアノの方へ。
書きかけの譜面に目をやった。]
前に見たときよりも進んでますね。
[それだけは見てとって、邪魔にならない程度の声で言った。
それから窓へ向かい、カーテンを綺麗に整えた後、もう一度エーリッヒの方へ向かう。
あまりに真面目な顔でピアノと向き合っているのでどう切り出したものか多少迷ったが、結局古典的に空咳をしてみることにした。]
……あの、お仕事中にすみません。
私、実はエーリッヒ様に教えてないことがありまして。
[と、言い出しかけて、本人もその場に居たほうが何かと都合が良いのではないか、と遅まきながらに思いつく。
だがもう話し始めてしまった、ええいもういいや、と腹を括る。]
アーベルのことなんですけれど。
-娼館-
[あのあと、良く味の分からない食事を食べ終え、ユリアンに送られて娼館へと戻った。
夜いつも聞こえる声は、あまり聞こえない。
状況が状況だけに当然かとも思いながら、なかなか寝付けずにいた。
それでも翌日はいつもの時間通りに起きて、何時もと同じ仕事をこなす。
色々終わった頃には夕方も近く、窓辺の椅子に腰掛けてぼんやりと空を見ていた。
青から赤、そして黒へと変わりゆく空を。]
ふぅん?
[疲労。
それだけでこれ程慌てるだろうか。
何かを押し殺すような声。
ロストは何かを隠している]
今にも死にそうとか、そう言うのじゃ無いんだ?
[ロストが彼の少女に拘っているのは今までの意識の揺れで伝わっていて。
発破をかけるにしてははっきりと、更に相手を動揺させるように声を伝えた]
[譜面に対する言葉には、多少だけどね、とだけ返して、また音の流れを確かめる。
そのまましばし、新しい連なりを確かめていたものの]
……教えていないこと?
[唐突な言葉に、一つ、瞬き。
手が止まり、緑の瞳がユーディットヘと向けられる]
アーベルが、どうかしたのか?
うん……お願い。
[視界が上昇する。
持ち上げられたのだろうか。
それすらも、よく分からない。
意識が混濁してくる。
光が、目の前を照らす。
まぶたが重い。
せっかく、最後にもう一度会えたのに、何を言えばいいのか、思いつかない]
先生。
先生は……この村が好き?
この村に来て、良かったと思ってくれてる?
[声が紡ぐのは、今まで思っていたこと。
拒絶されたら、怖いと思っていたこと]
……私は、大好き。
この村に生まれて、良かった。
イレーネや、ブリジットさん、エーリッヒさん、ユーディットさん、ハインリヒのおじさん、ユリアン、ノーラさん、ティル君、アーベルさん……他にも色んな人達に会えたから。
[エウリノの声に、ぴくりと少し反応する。
ミリィは無論心配ではあった、が。
それよりは、ロストの様子が気がかりだった。
何も聞き逃さないように、じっと佇む。
その奥で、確かに親友の気配はした。
だが何か、普段より小さく感じとれた。]
違うっ!
[叩き返す思考。それは自分自身に信じ込ませるためでもあり]
絵を描くのに集中しすぎたのでしょう。
完成したのだと…
[再び意識を巡らせて、動きを止めた。
鮮やかに印象を変えてそこにある絵]
[イレーネを送り届けてからは工房へと戻る。
明かりのついていない作業場。
技師が戻って来た気配は無かった]
……結構、来るなぁ……。
[誰も居ない工房の中でぽつりと漏らした。
いつも工房には技師が居た。
それが当たり前だった。
その当たり前が、無くなった。
ただそれだけなのに、何だか少し苦しかった。
部屋へは向かわず、外に出たまま天を見上げる。
空の色の変化が、時の流れを物語っていた]
[立ち上がり、まずは寝台へと移動させようとして。
視界に入った絵画に再び動きを止めた。
鮮やかに印象を変えてそこにある絵。目を奪われるというのはこういうことかと、無意識の中をかすめていった]
村の全員…。
[絵画を見つめて呟きを零し]
ええ。でなければ、残りませんでした。
おおらかな人々、余所者であるのに受け入れてくれた人々。
そうでなければ、どうして残れたでしょう。
残りたいと思った。それは、私自身の意志です。
っつ。
[ロストの声に身を竦ませる。
だが次に聞こえた声には、ほんの少し温かなものが内に混ざった。]
え…ミリィの絵が?
[ミリィがそれを描くのに、苦心していたのは十分すぎるほど知っていた。
完成したんだと喜ばしく思うと同時に。
ふと、早すぎる、とも思った。]
はい。
[頷く。]
実は、この間酒場のキッチンにお邪魔したときに、アーベルと少し話したんです。
そのときに、アーベルが……自分も、イレーネと同じに、人狼を見分ける力があるんだ、って。言ったんです。
黙っていてすみませんでした。
でも、もしそれが本当なら、迂闊に人に言えないと思って。
名乗り出たら人狼に襲われる危険があるから、アーベルは表には出ないようにしているみたいですし。
あの時。回復しながらも、まだ動けなかったとき。
貴女の笑顔にどれだけ励まされたことでしょう。
まるで生命の象徴のようにも見えたのです。
…それを厭うことなど。
どうしてできるでしょう。
[どこか苦しさを滲ませて、それでも確かに]
貴女がいたから。
貴女の傍に居たいと思ったから…。
[強く否定する言葉。
それが返って来ると、くつくつと愉しげな哂いが漏れ出た]
どうした。
何をそんなに慌てている?
…ああ、絵を描いていたのか。
長らく姿を見ないと思ったら。
それだけの力作、さぞ良いものになったんだろう。
[ロストの意識の外からは死の匂いを感じ取っている。
それ前提で言葉を紡いで言った。
途中ロストの意識に変化が感じられると、僅か訝しげに]
今度はどうした?
本当は、最初に異変に気付いたときに。
離れなければいけないはずだったのに。
[続きは赤の世界だけに流れる。
言ってはいけないと、今更だと分かっていること]
[オトフリートのその言葉に、ミリィが大きく、心から微笑んだ]
良かった……。
先生、みんなと仲良く…ね。
ありがとう―――大好きだよ、先生。
[最後にもう一度、微笑んで、そのまま、まぶたを閉じる。
そして、その紅玉色した瞳は二度と開くことは無い。
少女が静かに息を引き取り、17年という短い生涯に*幕を告げた*]
[主の独白のようなそれは、じっと耳に入れるのみ。
ただ、これから起こる嫌な予感だけはひしと感じ取る。
それはミリィのことであって、ミリィのことではない。
ミリィがどうにかなる事によって、ロストに与えられる影響を、一番危惧していた。
何よりも、主が一番大切故に。]
[訪れたのは、見計らったようなタイミング。
メルクーア宅の前――此処に来るのは何時振りだろうか、などと考えながら、数度、強く扉を叩く。
長めの青に隠れつつも、白金の煌きを放つ石が在った]
…いえ。
本当に素晴らしい作品、ですよ。
倒れても、無理が無いと思えてしまう程に。
[自分でも少女の纏う気配は感じ取っている。
人狼としての感覚は、人間の受け取るそれ以上に強い]
―――自衛団詰め所―――
[詰め所の中で、男が一人、ふさぎこむように座っている。
その男のことを不審に思った同僚が、話しかける]
『……よう。どうした?
昨日、あの家にいってから、ずっと考え事してるぜ、お前』
『……俺はよ。
人狼が憎い。ギュンター殿を殺した人狼がとても憎い。だから、あの11人の中にそれがいるなら、全員殺してしまってもいいんじゃないか。
そう思ってた。
―――お前。昨日ヘーベルクイン家のお嬢さんのあの絵、見たか?』
『いや……ちらっとしか』
『俺達、それこそ、村の連中全ての人達がよ。
笑顔で、並んでるんだ。
そして、その右下に小さく―――「みんな仲良く」―――そう書いてあったんだ』
『……っ』
『あんな17の少女が、そんなことを願ってたんだ。
それを本気で為そうとして、あの絵をずっと描いていたんだ。
それなのに俺達は……いがみ合い、疑いあい……殺そうとしたり。
そう思ったら、なんだかよう……とても、自分が情けなくなってきてよう……。
なあ。俺はどうすればいい?どうすることが、一番いいんだ?』
[男は、泣きそうな顔で、そう同僚に助けを求めた。
だが、同僚もまた、複雑な表情で、*首を振った……*]
アーベルが……見極めるものだと?
[それは思わぬ言葉で。
緑の瞳にす、と険しさが宿る。
ふと、思い返すのは墓地でのやり取り]
ん、いや。
判断としては正しいよ。
力あるものは導き手である事を望まれるが、同時に、慎重さも求められるものだし、ね。
[最後の言葉と共に浮かぶのは、苦笑]
……しかし、そうなると。
同じ力を持つ者が同時に存在するのでない限り、どちらかは……。
[言葉の続きを遮るように、玄関の方から聞こえた音に、視線をそちらへ向けて]
……来客?
今、家を訪ねてくるって……誰だ?
[訝るような口調で小さく呟く]
ミリィ?
[腕の中の重みが増す。
それでも少女の身体はまだ軽い。人間と信じられない程に]
…ッ。
[それなのに酷く重たかった。
その場に膝を突く。少女の身体をしっかりと抱き締めたまま]
何故。なぜ私なんですか。
私は貴女にその言葉を貰う資格が無いと言うのに――!
離れたくなかったか。
身の変化に気付いていながら、その傍に居続けたいと願ったか。
[ロストが漏らす言葉。
それを汲み取り言葉にして]
それならば。
──己が身に取り込んでしまえ──
いつまでも……共に在れるように。
[それはロストに甘く囁かれた]
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