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[暖炉の焔は勢いを増し、僅かに爆ぜる]
…足りませんね。
薪自体がやはり必要なのでしょう。
[何処にあるかを考えて、つい先程までの記憶に思い当たる]
[黒焦げとなった元食物のすぐ近く]
戻った方が良いかもしれませんね。
[先の事は努めて思い出さない様にしつつ、緋の靴はキッチンへと]
[問われた言葉の意は、すぐには理解できず。
しばしの空白を経て、ようやく答えにたどり着く]
ああ……。
いや、ちょっとな。
今の曲を、最初に俺に聴かせた奴の演奏だったら、どうなったのかと、ね。
もっとも、ここにはいないから、確かめようもないが。
[何でもない事のよに言いながら。
一つ、二つ、鍵盤を弾く]
[ラッセルが扉の外に出たのを確認し、ギルバートはピアノに寄り添い肘をついた。]
あははっ……俺らしくもない。
観客を間違えた。
[そう言いながら、笑いながらバンダナを外す。]
[バンダナを外した拍子に、革製の眼帯がするりと外れた。ギルバートの左目は――正確には、瞼の奥は――ぐちゃぐちゃに腐り落ち、変色していた。]
いや……技術不足を棚に上げる訳ではないけれど、さ。
[しかし彼は、眼帯が外れたのに気付いた様子では無かった。]
―キッチン前―
……変なにおいがする気がするのは己の気のせいか?
[立ち止まり、ラッセルに尋ねた]
[と、向こうからキャロルの姿]
へぇ……
最初に君に聞かせたという人間は、君のピアノの師匠か誰かかい?
君の演奏は素晴らしかったよ。
本当に、心惹かれた。
だからこそ、身体が勝手に動いたのかもしれない。
――…是非、君に最初に聞かせたという人の演奏を、俺も聞いてみたいものだ。
[空白は長く。
不味いことを聞いたかと、口を開きかけた時、返事が返ってきました。]
最初に…
あら。
記憶が、あるのですか?
[繰り返して、ふと瞬きます。
皆記憶をなくして来たのだと、聞いていたものですから。]
[言いながら、もうひとりに眼を向けて。
違和感を感じました。]
赤い…?
[よく見えないのは、きっと幸いだったのでしょう。
いつもと違う色彩に、届きはしませんが、思わず手を伸ばしていました。]
師匠……とか。
そういう相手じゃなかった……とは、思う。
はっきりとは、言えんのだがな。
俺のは所詮手遊び、あいつには及ばん。
もっとも……比較しようにも……もう、いない。
だから、聴く事も、できないな。
[何気ない口調で言いつつ、蒼氷をギルバートに向けて。
目に入った眼の様子に、再度、言葉が止まる]
……あんた、それ……。
その、眼……。
……気の所為じゃないと思う。
なんだろう。
[警戒の篭った眼差しを扉に向ける。
他へと気の向いたクインジーを余所に、手をかけて開いた]
[リィン]
[足取りは常以上に緩やかで、鈴の音も微か]
[廊下の向こう。見つけたのは二色のあか]
[思わず、ほう、と吐息が洩れる]
御二方も、此処に何か御用事が?
[キッチンの扉を開ける様を見て近付き、くれないを開く]
そうか……残念だな。
そんな風に君が寂しげな顔をするのだから……さぞや美しく、魂の込もった演奏をする方だったのだろうな……
[寂しげに右目を細めて、永遠に聴くことのかなわぬピアノの音色に思いを馳せた。が――…]
え………?目?
[自分の手元を見つめる。
バンダナと共に、革製の眼帯が握られていた。]
あ……いつの間に………!
[反射的に、左目を手で隠した。]
あぁ、ラッセルは薪を取りにきたが
己は――食事をしてない奴にミルクでももっていくところだ
お前は食べたのか?
[しかしそれ以上言葉はなかった]
[ラッセルがあけた先、室内は荒れていた]
―キッチン―
[突然の開放に些か途惑いつつも、これ幸いと]
そうですか。
じゃあ私はこれで。
[思わずにっこり微笑んでしまったのは、半分くらいは本気だった。]
[眼帯の奥の様子は、確りと見て取れていたけれど。
隠される様子に、すぐに視線を逸らす]
……さっきの連中が戻る前に、隠しておいた方がいい。
見られて、楽しいもんじゃないだろうしな。
[見る側ではなく、見られる側を慮るような言い回し。
それは、自身も他者の目に晒す事を忌避する要素を抱えるが故のもの]
―キッチン―
[とは言え他にやることも無い。]
[皆空腹なら何か作った方が良いのだろうかと保存してある食料を見ながらぐずぐずしているうちに、手早く片づけを終えたシャーロットは、イザベラを連れて出て行った。]
行ってらっしゃい。
[微笑んで手を振るさまは暢気そのもの]
はい。私は既に。
スープとオムレツを。
まだ南瓜のポタージュならばあるかもしれませんが。
[必要かとは言外の問い掛け]
どなたにです?
[幾ら片付けようとも、こびりついた臭いまでは落とし切れない。
中に顔を突っ込みかけたところで、新たな気配に其方を見た]
えーとね、ニナにかな。
もしかしたら、ヴィーとか、バートとかもだけれど。
[会話に横から口を挟む]
そう――…だな。
ひどく醜く、見苦しいものを見せてしまったな。
すまない……。
[ハーヴェイに背を向け、急いで眼帯をつけ直す。眼帯の紐をきちんと結ぶと、きょろきょろと辺りを見回し、小さく礼をした。]
まして、そちらのお嬢さんはなおさらだ。
こんな化物みたいな顔を見てしまったら、夢に出てきて怖い思いをするかな?
[赤い色が隠れます。
眼、という単語が聞こえて、はっとなりました。]
それは…怪我を?
[その酷さは分かりませんが、眉を顰めます。
しかし続いた言葉に、伸ばしていた手はゆると地に降りました。]
[名前は先にラッセルが答え、男も頷く]
そうだな
ニーナには持っていってやるとはいったが
ついでだから持って行くか
そんなものがあったのか
あまり食べたくないようだから良いかもしれないな
お前が作ったのか?
[キャロルに尋ねる]
それ程に…
[化け物、という語に、傷の酷さを感じてますます眉を顰めました。
その間に、赤のあった場所にはいつもの色が戻っていました。
何かで覆ったのでしょう。]
…いえ、わたしは。
見えませんから。
[気に掛けるような言葉には、首を振ります。]
そんなに、気にしなさんな。
……あんたの方が、きついだろうし。
[口調だけは軽く言いながら、左の腕を掴む。
今は白の下の紅蛇を抑えつけるように]
[ニナ、ヴィー、バート、名前から一人一人を思い返す]
[思考が漂う臭いに妨げられるので、そっと口と鼻を白を巻いた指先で覆う]
3人とも食べてはいないのですか?
[尋ね、確認を得る]
[二人の後ろ、廊下に少し窓を探し、開けた]
そうか。
見えないのか……これはこれは失礼しました、お嬢さん。見えない方に言うのも、申し訳無い話だったな……。
この件については、気にしないでくれ。
でも、彼の包帯は見えるようだね。色は見えるのか……。
知らないな
あの二人が食べたかどうかは聞いていない
ニーナは食べたらしいがな
[窓を開ける様子を眺めた]
[風が抜けていく]
いいえ。
[気に掛けられることでもないと、首を振りました。
続いた言葉には一つ頷きます。]
…ええ。
弱視、みたいです。
[もう一度、頷きました。]
有ったと言いますか、
[ほんの僅か、女はくれないを閉じ、間を作る]
[顔の横に垂れた金色を指で絡め、引く]
はい。私が。
似合わぬやもしれませんが。
[ハーヴェイを見て、肩を竦めた。]
まあ…これのおかげで俺は、神の掌の上で成立する「完全なる美」の世界からは永遠に排除されたわけだが。そんなに気にしてはいないさ。
何より、これがあるおかげで、真に美しいとは何かを考えることはできるようになったからね。
[軽く笑い飛ばそうと、小さく声を上げて笑った。]
それより、君の腕は大丈夫かい?
音色の美しさ故すっかり忘れていたが、ピアノを弾いたら傷が深くなってしまうかもしれない。気をつけて。
[ややあって。]
[厨房には、焦げくさい臭気に混じって、温められたアルコールの匂いと微かな香辛料の香りまでが充満し始めた。]
似合わない?
男が作るより似合うと思うが
後で己も貰って良いか?
腹を空かせた奴らにあげた後に
[キャロルを見ながら、尋ねる]
そうか……分かった、お嬢さん。
これからは気をつけるよ。
もしかしたら、俺の影か、身体が何処にあるかくらいなら分かるかな?もしそうだとしたら、嬉しいなぁ。俺の踊りは見える必要も無いけれど、さ。
前向きな考え方だな。
[笑う声と、語られる言葉。
それに対する言葉と共に、ふ、と口元を掠める笑みは、飾り気なく]
ああ……腕の方は、大丈夫だ。
元々、さして深い傷でもなかったし……真面目に清めておけば、すぐに塞がるだろ。
[軽く言いながら、ぽん、と軽く白を叩く]
[何かと金属の擦れる音]
[人の気配]
どなたかまだ、いらっしゃるのでしょうか。
[少しだけ、言の葉の響きは暗く陰った]
[扉の薄く開いたキッチンからは、焦げ以外の香りが零れた]
獣ならば…?
ああ。そういう、事になるのかもしれませんね。
[くれないから、落ちる言の葉は短い]
[考えてもみなかったと、言う風に]
―キッチン―
[スカーフで鼻を覆った男がひとり、小鍋を火に掛けて温めている。]
[アルコールの匂いはそこから強く漂ってくる。]
それは、分かります。
…踊りまでは、見えませんけど。
[少し申し訳なさもあって、眉を下げました。
そうしてふと扉の外、2人が先程過ぎて行った方向に、何気なく*眼を向けました。*]
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