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[イヴァンの言葉に気分を害した様子はなく目を細めた。
外した、との声に男は肩を竦める]
僕は、イヴァがそうかそうでないか、確かめた。
確かめて、旅人やシーマを襲ったのがキミじゃないと知ったから
こうしてキミに話してる。
[そうは言いながらも幼馴染を疑い調べようとしたわけでなく
知らず意識が其方に向き、視えてしまったという方が正しい。
自らが選んだ結果でなくとも、其れを知り安堵したのは事実]
――…皆に、言おうと思うんだ。
未だ、人狼をみつけてはいないけど
そう簡単には信じてもらえないだろうけど
それでも――…
誤って人が括られてしまうのを、僕は、見たくないから。
[考えている事を口にして、は、と息を吐き出す]
名乗り出ても僕が無事なら――…
イヴァが僕を仕留めるといい。
[信じて欲しい、とは言わない。
マクシームに対してもきっと同じように言う。
力のこもる眼差しに花色を重ねた後、
台に預けていた体重を自らに戻し扉の方へと踏み出す]
……いや、まあ気を使わなくてもいいさ。
ただ単純に信じられるよりはすっきりする。
[言い直されたことに首を振る]
何があっても見つけるまで誰にも言うなよ。
シーマに続いてお前があんな姿になるのは見たくない。
[しばらく考えて掠れた声で反対した]
見つけたら教えてくれればシーマの仇は俺がとるから。
……人食い狼に立ち向かうなら、草食動物のユーリーより俺の方がマシだろう。
無実の人を手にかけたくないなら、見つかるまでは無理に攻勢に出ず皆で自衛に徹すればいい。夜は屋内の一箇所で寝て、見張りを複数たてて。
見つかりもしないのにそんな無茶をする必要がどこにある?
ユーリー、それは断る。
正直、キリルさえ食われなければお前が人狼だってかまわない。シーマを食ったのが事実なら、半殺しにするまで殴りつけて墓の前にひざまづかせてやるが、それで仕舞いだ。
……愛してるって言ったろ? ユーリー。
君とキリル以外が狼なら、シーマの仇をとりたいけれど、君ら2人が狼ならば、死なれるのがいっとう嫌だ。
[彼の背中にそう告げる]
収穫は、手伝えないかもしれないな。
――…嗚呼、
葡萄酒の樽は空けて貯蔵庫に置いておくから
必要な時に……
[言うだけ言って立ち去ろうとするも
イヴァンが反対する声に動きが止まる。
きょと、と驚いたように瞠られる双眸]
其れをいうなら……
僕だってイヴァがシーマと同じになるのはイヤだよ。
[困ったように笑い肩を竦める]
草食動物でも鍛えているから問題ない。
キミ一人に手を汚させようとは思わないさ。
シーマの仇を取りたいのは、僕も同じだ。
――…。
[イヴァンの提案に考え込むように柳眉を寄せた。
視線を落とし暫し口を噤んだ後]
自衛に徹してもどれだけもつか。
シーマも警戒してたはずなのに、殺された。
この村で共に暮らしてきた誰かが人狼なら……
いつか何処かで油断して、また、犠牲が……
[マクシームの死を知り支えあう村の仲間の姿を思い出す。
其の中にマクシームを手にかけた者がいるとは考えがたいが
そう考えなければ辻褄があわない]
……お伽噺をなぞるわけじゃないが
それが僕の役目だた思ったんだ。
[無茶をしようとした理由をぽつ、と呟く]
熱烈な告白だな。
[男はくつりと喉を鳴らしてイヴァンを流しみる]
その言葉、キリルにも聞かせてやるといい。
キミの想いが彼女にも伝わるだろうさ。
勢い付ける為に秘蔵の葡萄酒でも差し入れよう。
[肩を震わせながら言うのは
幼馴染が紡いだ言葉への照れ隠しもあるが]
僕も愛してるよ、……
[紡ごうとするのは幼い頃の愛称。
ごく親しい者同士で使うそれ]
イヴァ。
[けれど口にしたのは常の愛称。
背を向けて手を掲げ、その手をゆらりと揺らし扉を潜る]
材木小屋が……?ううん。
ボクは知らない。
[首かしぐ気配に返る否定]
……他に牙持つ存在が…?まさか、ね。
でも、人の仕業なら。いい目眩ましかも知れないな。
[思考する。それが恋人の仕業とは知らぬまま**]
どれだけもつか不安なら、次の機会に必ず見つければいい。ここでうかうか公表して、肝心の狼を見つける前にユーリーが殺されてしまえばなんてこった犬死にじゃないか。
[彼のつぶやきにそう説得を重ねるが、一体どこまで届くだろう]
[友人が作業小屋を出るまで見送ると]
……言うのはともかく他人から言われると照れるな。
[ポツリと呟けば、気を取り戻したように紙くずの散る作業場を整理し、加工作業に取り掛かっていく。残念、収穫に最適な早朝は過ぎてしまったから、この小屋の中で**]
― イライダの家 ―
……おいし……
[イライダの家で、お茶を飲む。
この日、初めて食べ物を口にした。
お茶を飲むだけでも気持ちが落ち着き。
キリルやイライダとの会話ですこし笑顔も戻った。
静かにクッキーばかり食べるロランに]
ロラン、そのクッキー好きなんだ。
――甘くないほうが良かった?
[今迄お菓子を差し入れていたときは普通の甘さで。
嫌がられた記憶はなかったけれど、もしかして言えなかったのだろうかと首をかしげたりもした]
[お茶の時間が終ってイライダの家をでる頃]
うん、それじゃ、あとで荷物もってキリルの家に行くね。
[先に行く車椅子の彼は見送って、ともに出てきたキリルに家に行く事を約束した。
そして、一人。
広場に戻る]
―自宅―
…………。
[「ただいま」と言う相手を喪って久しい。
どうってことは無い。
両親共に、病で逝ってしまっただけだ。
自分が20の時に父が40で逝き、27の時に母が46で逝った。
その後、三人で暮らしていたこの家を離れることもなく、また、誰かを迎え入れることもなかった。
21だったか。
狩猟で遠出し、他の集落に逗留した際、女を覚えた。
けれど事故のようなもので、恋情や愛情にまでは至らず。
似たようなことは何度かあったが、最初の女と同じく、伴侶となるまでの関係にはならなかった。]
[最初、その汚れたものが飾りだとは気づかなかった。
レイスの指摘で、小さな白い花飾りだと気づいて。
それが広場に落ちていたと聞いた]
―― あ、 はい。
[カチューシャのかと問われて不自然な間があく。
昨日、返したつもりで返せていなかったのか、それとも――]
[考えたくない事を考えそうになって一度首を振った。
イライダの家でのお茶会でよくなった顔色は、また蒼冷めるけれど。
空を赤く染める夕日にまぎれてその変化はよくわからない]
どうして――
[キリルになにかあったわけじゃないのは今日会っていたから分かっている。
見落としていた事はあったかもしれないけれど。
触れた温かさとか、泣いてくれたことだとかはちゃんと覚えている]
……返してもらって、良いですか?
[レイスはなにか違和感を覚えたかもしれないけれど。
そっと震える手を差し出した]
[誰かに先立たれるのも、誰かを遺していくのも面倒だ。
両親共に比較的早世だったことから、自身もあまり長生きは望めないのではと感じていたところもあるかもしれない。
縁が無かったのもあり、気ままな独身生活を送っていた。
ロランの祖父などには、「家族を作れ」と説教じみた話をされたこともあっただろうか。
――幼い頃に出会った旅人。
そんな生き方を、無意識に真似たいと思っていたのだろうか。
だが、完全に独りになるほどの何かもなくて、こうして集落に留まっている。
血を分けた家族とは違うけれど、集落に住まう人々にそれに近い情はあった、…らしい。]
マクシーム…。
[兄弟の無かった自分にとって、この集落の年下の者達は全て弟や妹のような存在で。
生まれた時から知っているせいだろうか。
自分より年長の者を喪った時よりも、胸が痛んだ。
昨晩の軽口を叩く彼の顔と、変わり果てた姿で横たわる彼の顔が交互に思い出される。]
―材木小屋―
[材木に近寄って、傷を調べる。
車椅子からから身を乗り出し、指で触れる。
鋭い切り口。獣の毛は見つからないし、
血のりらしきも見えなかったが、
少なくとも新しいらしきは分かって]
…?
[眉を寄せる]
こんなこと、続いて堪るか…ッ!
――誰が、殺した…?
[共にここで暮らしてきた面々の顔を思い浮かべる。
どの人物もマクシームを殺す姿など、想像できなかった。
テーブルに両肘を突き、頭を抱える。
そして、ロランの願うような言葉>>208を思い出した。
そうだ。
何もまだ、この集落の人間がマクシームを殺したと決まった訳じゃない。
見知らぬ人の姿をした人狼が声をかけてきても、「道に迷った…」などと言われたなら、あのマクシームのことだ。
悲鳴などあげずに、耳を傾けたかもしれない。
その考えは、ロランの言葉に籠ったそれと同じく、…願望だろう。
そうあって欲しい。そうでなければ…。]
――カタン。
[椅子から立ち上がり、猟銃と大量の銃弾を持って扉を潜った。
マクシームが襲われた茂み。
そこから森へと通じる道を辿り、入ってみるつもりだ。
一睡もしていないことなど、頭も体も忘れていた。**]
[子供の頃はやんちゃだった。
マクシームやイヴァンと一緒に駆け回った。
悪戯をして三人一緒に怒られもした。
年上のミハイルには注意されもしたが
本気で怒っているのでないと知れたから恐いとは思わなかった。
元気な証拠だと何処か優しい目をしてみていたのも知っていた。
頼りになる兄貴分だと思っていたけど
敬称をつけると何だか距離が感じられるから
昔から、ずっと、ミハイル、と名だけを呼ぶ。
十歳の頃に村を離れたイライダ。
子供の頃の五歳差は大きくて彼女は酷く大人びてみえた。
昔から綺麗だったから、マクシームが心惹かれるのも当然。
まだ年近いレイスに関しては時折悪戯に巻き込んだ。
それも、妹たちが生まれてからの話ではあるが。
妹ができた時期が近かったからか其の頃から親近感がわき
ユーリーから話し掛けるようになっていた]
[人の仕業だとしたら。
まるで暴れたみたいな様相に、眉を寄せる。
こんな凶暴な事をしそうに思う人がいないから。
獣の毛も無いこの場、自分でもキリルでも無いなら
人であ筈ではあるのだけれど]
……
[殺し合いが始まる。
予感に寒気が走り、肩を抱いた]
[作業小屋を出て一人歩む。
去り際に背に投げられた幼馴染の言葉。
しっかり届いてはいたが笑うような気配を残しただけで
言葉は返さずに別れた]
犬死する気はない、けど。
――…イヴァがそうなら刺し違えても止める気だった。
オリガがそうでも、きっと、止める。
[もしそうだとしたら
それはとても苦しいことだと思ったから。
自分なら止めてほしいと思うから。
独り善がりと思いつつもそんな風に考えていた]
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