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[少女はメイの言葉を耳に捉え、複雑そうな微笑を浮かべる]
狂ってしまえば…。
――そんな事望まなくたって…その内狂わざるを得ない状況に…なってしまうというのに…
[悲しそうに目を伏せ、呟く。
瞼に浮かぶ情景は、愛情に溢れていた人々の、変わり行く姿か、それとも穏やかだった日々か――]
[館に入り、玄関ホールでしばし立ち尽くした後。
音楽室へと、足を向ける。
今は。
少なくとも、何も視えていない、今は。
余計なことを忘れよう、と]
─…→音楽室─
─音楽室─
[音を奏でるものの眠る静寂の中に滑り込み。
鍵盤の蓋を開いて。
ゆっくりと、指を落とす。
弾ける音色が、澄んだ空気に響いて消えた。
変わらない、音。
それが安堵を呼び込んだか。
ほんの僅か、張り詰めたものの緩んだ表情で、*静かに旋律を織り成して行く*]
[ぽん、と置かれた手の温もりに、少女は軽く視線を上げ、ルーサーを見上げる。
掛けられる言葉と…その手の温もりに…]
ほんと…?ほんとうに…簡単には…死なないの…?神父様…。
私…わたしっ…もう…人が死ぬのは…見たく…ないの…
[励まされるような笑みに、少女の緊張が一気にほぐれる。
歳相応の――素直な反応。円らな瞳からは…一筋の涙が零れ落ちた。]
[ウェンディの頭に手を置いたまましゃがみこみ、彼女に視線を合わせる。]
今までよくこらえてきましたね。
どうぞ、今は好きなだけ泣きなさい。
[懐からハンカチを取り出し、差し出す。]
[ 食事を手にして部屋へと戻る途中、聴こえてきた明澄な旋律に足を止め、黒の瞳は柔らかに細められる。仮令其れが他者の為に弾かれたものではないとしても、響く其の音色に心は幾許か平穏を取り戻す。]
……。
[ 緩やかに瞬いて首を振り階段を一段一段と昇れば、清廉の演奏は徐々に遠ざかって行く。宛がわれた部屋へと入り扉を閉じれば、*後に訪れるのは静寂。*]
[涙を拭って微笑んだウェンディに安堵したのか、立ち上がる。]
さて、と。
私はこれから、アーヴァインさんに手向けの花を持っていこうと思っているのですが。
ついてきますか?
[ついてくるならどうぞ。
そう言っているような気がする。]
[ハンカチを手渡されれば、そのほのかな温もりに何かを思い出したのだろう。
少女は一度だけ嗚咽を漏らすと、ふっと顔をあげて――]
アーヴァインさんの…?
付いて行っても…いいですか?私も…彼に最後のお別れをしたいです…
[立ち上がったルーサーに問い掛けるように。少女は薄紅色の唇を開いた。]
わかりました。
一度、温室に向かいます。
そこでお花を摘みましょう。花籠は温室にありますから。
……それから、遺体の様子はあまりにもひどいのでシーツを被せてあります。その点については平にご容赦を。
あれを見せるわけにはいかないものですから。すみませんね。
[と、謝ってから、ウェンディの手を引いて*温室へ。*]
―広間→温室―
[手向けの花を選ぶ段取りを聞き、少女は改めてアーヴァインが死出の旅路へと向かったことを実感する。
ここ数年の内、一体何人の死者に花を手向けて来たのだろう…。
日に何度も蘇る記憶に、少女は小さく溜め息を吐く。]
まずは温室で花を摘んでからですね?解りました。
ここの事は…神父さんが詳しそうなので…。お任せしちゃうかも知れませんが。
[段取りを聞きながら、少女は僅かに微笑み――]
死者の気持ちを考えても…多分その方が良いのかもしれません。死して尚…無残な姿を晒されるのは――あまりにも可哀想ですから…。
[謝罪の言葉に同意の言葉を重ねて。
少女は温かく大きな手に引かれて、温室への道のりを歩み始めた。]
神父さんの手…温かいな…。
――お父さんの手も…こんなに…温かかった…な…。
[途中、ルーサーに父の面影を重ねれば、きゅっと握る手に*力を込めて*]
――広間→温室へ――
―厨房―
[どれ程の時が経過しただろうか。
窓の外、風に頼りなく揺れていた吊り橋は、外界と通じる唯一の手段は、既に杭と僅かな縄を残すのみ。
ここは完全に閉ざされた空間となった]
――ありがとうございます、婦長様。
[既に姿の見えぬ使用人は、恐らく逃げ去ってしまったのであろう。自らの保身のために。
その人に向かって、その方向に向かって、彼女は恭しく礼を述べた]
[大量の食器の重なったシンクでは水が溢れかけていた。
とめどなく流れていた水を止める。ごぽ、と音をたて、小さな排水口に水は集まり落ちて行った]
…
[それを見届けて、彼女は厨房を後にする]
―厨房→…―
おや。
[少女を連れた"神父"の姿に軽く会釈を。
気丈に振る舞っているようにみえたが、その目はやや赤みを帯びていたかもしれず。]
手向けの花を摘んでおりました。
…何がよいのかわからぬので、とりあえず姉の好きだった花を。
[手駕籠には白百合と鈴蘭。そしてクリスマスローズ。]
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