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そっか……イヴァンさんは大丈夫だと思うけど。
一応、気をつけてね。
[聞きに行くというロランに小さく頷き]
うん、ちゃんと診てもらうから。
ロランの怪我もたいしたことなくてよかった。
[傷へと向く視線と、続く言葉に素直に頷く。
肘の傷も大丈夫だといわれて、安心したように笑みを浮かべた]
[カチューシャの笑みに、ロランも表情を和らげる。
手を伸ばし、届けば彼女の腕をそっと叩いて]
暗くなる前に、キリルのとこ行ってね。
夜はまた何があるかわからない
[告げて、向かうのはイヴァンの家の方角だ]
[そっと触れるロランの表情が和らいだのに、笑みを返し]
うん、わかった。
ロランも、遅くならないようにね。
[動き出す車椅子を見送って、歩き出そうとして。
足の傷が痛むのにゆっくりとした足取りになった]
[車椅子の音が遠ざかり、小さく吐息を零す。
足の傷はずきずきと熱を持ち始めていたから、足取りはとてもゆっくりなものだ。
ちょっと歩いては痛みをこらえている間に、茂みのほうからやってきたユーリーを見つけ]
あ、ユーリーさん。
[小さく、名前を呼んだ**]
―イヴァンの家―
イヴァン…いる?
[作業小屋にいるとは知らず、扉をノックする。
声はあるだろうか。
暫く待ってみて物音でもすれば覗くし
何もなければ自宅向かい広場の方へ帰る心算]
…、誰が、何の為に。
[小さい呟きが落ちた*]
[結局何もみつけられずに茂みを出る。
ガサガサと茂みを掻き分けようとして
男は手に握られたままの紙くずに気付いた]
……あ。
[作業小屋に落ちていたイヴァンの書き損じた恋文の一つ。
じ、と見詰め、其れを開く。
けれど目を通す前にカチューシャの呼ぶ声がした]
やあ、カチューシャ。
[不自然に思える足取りに視線を落とせば
スカートの裾が裂けてみえた]
足、怪我したの?
[労わるような響きで尋ねる**]
―― 作業小屋 ⇒ 家 ――
…………………
[ユーリーの先ほどの用件を考えていた。
精一杯止めたつもりだが、彼はやると決めたらやるのだろう。
無罪な人物を公表したところで何が変わるとも思えず、首を振る。何か無言で考えた]
[レイスの心の裡は知らず、他に来客予定もなかったのでゆっくりと家にもどっていく]
やぁ、ロラン
……そこで何してるんだ。
[さすがに常のように笑みは浮かべられない。
車椅子の背後からゆっくりと声をかけた。
疲れた喉から出る音は、なんだか淡々として低い]
[ユーリーの姿にほっとしたような、吐息を零した。
ひょこひょこと不自然な足取りで近づけば当然気づかれて]
あ、はい……ちょっと、前方不注意、という奴で……
今夜はキリルのところにお邪魔するから、そのときレイスさんに診てもらおうかと。
[労わるような響きに小さく頷きながら答える。
ユーリーが手にした書き損じはみえない]
今朝は、ありがとうございました。
[ずっと言おうとおもっていたことをようやく言えて、小さく笑みを浮かべた]
[不意の背後からの声に、少し驚いた。
みひらいた目で振り返り、息を吐く]
イヴァン。
聞きたいことがあって…、
[ひざに置いた材木を持ち上げてみせる]
これ、何があったか知ってる?
―― 自宅 ――
[示された木材。
ハッとした。すっと血の気が引いて、眉が震える]
………………
[ロランはキリルの幼馴染だ。
想いが通じる前も後も、思わず嫉妬するほど仲がいい。
キリルをもう怖がらせたくなかった]
………いや。
知らない。
[少し視線が泳いだ。軽く呼吸を整えて]
どうしたんだ、それ。何故俺に聞く?
[少しばかり早口だった]
そっか。
[知らない、と言われればそれ以上続ける気はなく。
イヴァンをじっと見上げて口を開く]
材木小屋が酷い有り様だったから。
棺を持ってきてくれたのイヴァンでしょ。
何かあったのかな、って
[目泳がせる様子を見て、首を傾けた]
―― 自分の家 ――
[引き下がられた。心臓の鼓動が高まっていく]
……………
[思わずまだ身に着けたままの鉈を探ろうとしてしまいそうなので、ぐっと拳に力をこめた。掌を開いて、握って、開いて。両の手が踊る]
ああ、うん。そう、俺。
いや……何も。うん。何もなかったさ。
[彷徨わせていた視線が木片に幽かについた紅い色を認めた]
……え、血? 何で?
[少し目を見開いて、思わず意外そうな声を出してしまった。
はっと口を閉じる。少し奥歯を噛んで]
いや、なんでもない
[怪我をしたときの詳細は語らない。
血はまだ滲んでいるから、ワンピースの裾がすこし赤くなっている]
ユーリーさんは、なにを?
[茂みから出てきたのには首をかしげて問いかけた。
その奥のほうで兄が死んだとは知らぬまま。
ポケットの中の髪飾りの汚れの理由もまだ、知らないままだった]
前方不注意?
そうか、レイスに診て貰うなら安心だね。
痕が残らないようにしっかり手当てしてもらうんだよ。
カチューシャは女の子なんだから。
[カチューシャの説明に納得したように頷く。
今朝の事を言われれば笑みを浮かべた。
未だマクシームの事に胸を痛めているだろうと思い
軽い言葉は掛けられない]
如何いたしまして。
[感謝の念を素直に受け取る言葉を返し
微笑む彼女を見詰める]
…、何?
[血に疑問を浮かべる様子は、何か知っているよう。
心中わからず、何度も睫毛をまたたかせて
じっと、視線外さず見詰める]
…、イヴァン?
何か、知ってる、の?
[何をとカチューシャに問われ、男はふ、と視線を彷徨わせた]
ちょっと調べごと、かな。
――…マクシームの居た場所が、其処だったらしいから。
[迷いながらも彼女には知る権利があろうと
如何いう場所なのかを告げた]
ああ、それより……、血が滲んでる。
早く手当てしてもらった方がいい。
血の匂いをさせてたらよからぬ者が寄ってくる。
暗くなる前に――…
[話をかえようと言葉を紡いだはずなのに
結局、事件に繋がりそうな話題となり男は苦笑した]
[塗りつぶされた恋文。
“守るから一緒に村から逃げよう”
と、イヴァンの筆跡で綴られている。
再び彷徨う視線が手元へとゆく。
紙くずと思っていたものが恋文と知れば破顔して]
カーチャ。
キリルの所に行くんだったよね。
それなら、これを彼女に届けてくれないか?
――不器用な男からの、恋文だ。
[皺を軽く伸ばし四つ折りにして
イヴァンからキリルに宛てた恋文を
カチューシャへと差し出した**]
あ、うん。
ロランにも遅くなる前に、って言われたし……
早く帰るつもりはありますけど――
[そこまで口にしてから、苦笑を浮かべるユーリーを見上げて]
あたし、まだ、誰かが兄を殺したなんて信じられなくて。
――誰も疑えない……
[危機感が少ないのはそのせいかも知れない。
怪我をした、その血の匂いに惹かれる存在がいるかもしれないことを意識できていない]
[嘘をつかなければ良かったのかもしれない。
正直に認めればよかったのかも]
[何を?]
[むしゃくしゃして村の共同財産をダメにしました。って。
友人の葬送を急がないといけないときにやったんです。って。
こうしてモノを壊したり人を殴ったり傷つけたり、そういうことが平気で出来るんです。って。
それを全部隠して涼しい顔で生きてるんです。って]
いや、知らない。知らないよ。
[首を振った。もう少し上手くやればいいものを。
この騒動が起きてから上手く取り繕えなくなってきている]
[あぁ、とふと思いついた表情が、くるっと変わって心配そうなものになる]
……その傷、酷いな。血がついてるってことは、誰か怪我したとか? 心配だ。残念ながら何も知らないけど。
[ユーリーから差し出されたしわのよった紙を受け取る。
恋文、と聞いてイヴァンの顔を思い浮かべ]
はい。
ちゃんとキリルに渡しますね。
[愛称を呼ぶユーリーに小さく笑みを返して、ポケットにいれた。
血のついた、髪飾りのあるポケットに]
…、そう。
[大人しくあっさりと退く。
彼の破壊衝動を知らないから。
無表情を作り貼り付け、続いた言葉に首を傾けた]
カチューシャにぶつけてしまったんだ。
怪我を、させた。
[心配しているように見える顔に、
少し情けない顔を見せた]
[あっさりとした返答に肩の力が少し抜けた。
彼の無表情に喉の奥が少し苦い]
これをここに持ってくる時に?
それは……痕が残らないといいな。
多分大丈夫だと思うけど。レイスは腕がいいから
[その心配は心から。
それからロランがまだ自分に用があるなら二言三言話をして、まだ仕事があるからと断ることでロランが帰るのを見送った]
[茶の一つでも勧めればよかったかと思ったのは後のこと]
[家の窓から、車椅子の後姿を見つめてた]
[疑えないといったことに対するユーリーの返事はどうだったか。
しばし迷うように視線を落として]
もし……もし、ね。
ユーリーさんが人狼を見つけたって言ったら。
あたし、それを信じることにしても、良いですか?
――自分で探すなんて、出来ないから、頼っても、良いですか?
[恐る恐るユーリーを見上げて。
そんな頼みを、小さく告げた]
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