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キミにそう思って貰えるなら
オリガも喜ぶだろう。
[キリルの言葉に淡い笑みを浮かべる。
彼女らと妹の仲は良かったように思う。
互いの家に泊まり一緒に過ごすのをとても楽しみにしていた。
一度、どんな話をしているのかと問うた事があるが
女の子だけの秘密、なのだと言われてしまった]
そういえば……
あいつはまだ知らないんだったか。
[キリルとイヴァンの二人を交互に見遣りぽつり呟いた]
[会話の交わされる中、篝火に目を移す。
狼たちの様子。
酒を酌み交わした旅人の死。
食事を終え、煙草をくわえて篝火に近付く。
マッチを擦り、火を点けて役目を終えたそれを篝火の中に投げ入れた。]
(用心さえしてりゃ…、何も起こりゃしねぇよ。
なぁ、そうだろう?)
[遠い日の、とある人物の顔を思い浮かべて、…眉間に皺が寄る。
煙草と篝火の煙が、空へと昇っていく様を見上げた。**]
[赤に染まるキリルの眸を、今目の間に居る彼女に重ねる幻視。
うっとりと目を伏せる様子に、喉鳴らす様子に
思い返すいろは鮮やかでない、どす黒い赤色で]
…ん。
でも俺はこんなだし、
この車椅子…音がうるさいから、無理かなって。
でも、狼が迎えに来てくれた。
彼らは、仲間だ。
[大きな背に掴まって、屍に辿り着いたのだ。
冷たく硬い肉だったけれど、まだ覚えている]
…ん。
欲しい。
[不意に繋がった感覚のせいか、赤い月近づくせいか。
きっとそのどちらものせい。
くらりと眩暈感じる中、本能の衝動は、強くなる]
柔らかくて、喰いでのありそうな、のが
イイ、な。
[告げる囁きの中、
無表情な人狼の方割れは間違い無く、目細めた笑みを返した]
――…そうか。
[左右に振れる烏色を映しながら男は相槌を打つ]
分かった。
伝えておくよ。
[ロランに確かな頷きを向けるが
手紙を認めるのはまだ先か。
長閑な故郷に起こった事件が頭を過ぎり
妹に文を書こうとする意思を鈍らせていた]
うん。狼は仲間だ──…賢くて、強い。
呼べばこれくらいの火、楽々と越えるよ。
だから大丈夫。
ロランも一緒に行こう?
……何かあれば呼んでって、言ったじゃないか。
[あの時は別の意味。
今度はまた別の意を添えて、ボクは薄く微笑む]
あげるよ。きっと、とびきりのを。
ボクたちも狼たちも、ちゃんと食べなくちゃ。
[蘇る血の味に、同族の聲。
近づく赤い月が少しずつ、本能を解き放ってゆく]
美味しい食事を…さ。
[目を細めた片割れに、ボクは薄く冷ややかに笑み返した]
[くい、とグラスに残る葡萄酒をのみほした。
ゆっくりとじんわりと、胃から喉から熱が広がり
目の周りがふわふわと暖かくなるのを感じる]
…ごちそうさま。
この葡萄酒、美味しい。
[ワゴンにグラスと皿を置き、ユーリーにも礼を告げ。
いつもより血色の良い貌で暫くはそこにまだ居るだろうが、
人がはけ始めれば自分も家に戻る心算**]
[洋梨の果実酒の瓶を空けたロランは
それほど酔っていないように見えた。
それとは逆に既に酒気を帯びてみえるのはキリルで
懐かしいという彼女が首を傾げれば
なんでもないという風に首を振る]
――…イヴァン。
余り飲ませすぎるなよ。
[誰にとは言わず幼馴染にそう告げた]
帰ってきたら真っ先にそっちに行くだろ。
[ロランの言葉に妹の幼馴染である彼らを流し見て]
余り似てなくて良かった。
懐かしまれてもどんな顔をしていいかわからない。
[悪態には軽口を返しクツクツと喉を鳴らした]
…ん。ボク、もう帰るね。
ちょっと効いちゃったみたいだ…あ、美味しかったよ。
食器は、ええと…うん。ごめん。
イヴァン、大丈夫。
[あまりの眠気に、ボクは長居を諦めた。
イヴァンの差し出してくれる手に掴まって、立ち上がる。
やっぱり傍らにある、この温もりは気持ち良かった。
彼の肩口に頬を預ける]
カチューシャ、ありがとう。
ユーリーも葡萄酒ご馳走さま。
…みんな、ゆっくりしていってね。
[言えたのはそこまでだった。家に帰れば布団に飛び込む。
ボクが酔っ払って帰るだなんて初めてだから、
兄貴はさぞかしびっくりしたことだろう**]
――美味しい食事。
にんげん、を、
[幼馴染を?その兄を?その恋人を?親友を?
解き放たれる本能の隙間、理性が警鐘を鳴らす。
揺れる眸に映す冷やかな笑み。
幼馴染が、 わらう]
………タベタ、い……
[紅い紅い色で意識が塗りつぶされる。
自分の口に作った笑みが歪み、また、笑み作られ。
未だ、赤い月は、*見えない*]
口にあったなら良かった。
[ロランの礼の言葉にふっと表情を和らげる]
こちらこそご馳走様。
[戻るらしいキリルに声を返して。
話が一段落すればサラダとチーズを摘みながら
男はマクシームの傍らへと腰を下ろした]
うん。だから──…
[揺らぐ烏色の双眸に、ふと意識が逸れた。
傍らにある温もりが心地良い。
幸せで幸せで、ずっといつまでも感じていたい──…]
…だから、食べなきゃ。
[うっとりと、温もりに頬預けて密やかに交す囁き。
甘く甘く、閉ざす瞼の裏に映るは葡萄酒よりも尚赤い、
理性狂わす真紅の、血潮の色───**]
[旅人に供えたと同じ白を傾ける。
暫くは何を話す出なく篝火を見詰めていたが
思案げな吐息を零すとマクシームを見遣り]
――…本当の所は如何思ってる?
[落とした音調で幼馴染に問い掛ける。
言わんとするは旅人が襲われた件]
噂が若し本当なら、……
厄介な事になりそうだ。
[男が父から受け継いだのは生活に必要なものと技術。
母から受け継いだのは古くから伝わる水晶玉と
其れを扱う為の、家族以外は知らぬ不思議な力だった]
何にせよ用心するに越した事はない。
これも効果があればいいな。
[篝火を顎で示す。
グラスの酒を飲み干して立ち上がれば
マクシームがユーラと愛称で呼び掛けた。
男は少しだけ驚いた風に瞬きして]
そんな風に呼ぶのはキミくらいだ、シーマ。
[笑みを形作る薄いくちびるが幼馴染の名を紡いだ**]
―― 回想 ――
[差し出された特別仕様の皿は、見目こそあまりよくなかったが、だからこそ嬉しかった。キリルがはじめてなのは知っていたし、これが自分のためだって自惚れないほど鈍くはないから]
美味しいよ。ありがとう。
あぁ、ほんと幸せだなあ……
[ソースの最後の一滴までパンで丁寧に拭って、満足そうなため息をついた。キリルの鹿肉料理にユーリーのワイン。幸せとアルコールにぼんやりしてきた所で自分の半身に感じる彼女の柔らかさと暖かさ]
[皿を脇に寄せ、少し大胆にキリルの肩に腕を回してた。
ほら、支えてあげないといけないからね。
男連中からの視線ともの言いたげな感じはほぼ気がつかない。気づいたところで、酒が照れを飛ばしているからいいんだ、別に]
[都会にいったオリガの話には楽しげに耳を傾ける。
快活な彼女とも仲は良くて。
女の子同士の夜通しの会話を偶にしたことを思い出した。
そのさい、マクシームが家に居づらくて幼馴染たちの家に避難してたとかは知らない話。]
―― 回想 ――
分かってる。
あまりやりすぎるとレイ兄に怒られるから。
[あまり飲ませすぎるなと友人から言われて、頷く。
彼女のワイングラスをさりげなく手で覆ってみたりもしたけれど、やがて送っていくことにした]
………………
[キリルの家の前。彼女の兄に引き渡す前に、一度足を止めていた]
キリル。今日は本当にありがとう。幸せだったよ。
大好きだ。――お休み、良い夢を。
[ふわふわと雲の上を歩いているような彼女に届いただろか。
さすがに広場では自重していたけど、肩に頬を寄せられたりなど可愛いことされてちょっと我慢はしきれない]
[一度だけぎゅっと抱きしめると彼女の頬にくちづけた]
―― 作業小屋 ――
[翌朝早く。
自分の家の裏手にある少し大きめの加工場で忙しく立ち働いていた]
[数々の道具の洗浄や修理、昨年残ったの紅餅の整理など、やることはこまごましたことがたくさんある]
……………。
[喉の渇きなど、軽く酒は残っていたが、記憶は飛んでない。
作業の合間、ふと自分の唇に指寄せた]
『愛は最高のスパイスだ。
愛しているからこそ狂おしく美味いんだ』
………あぁ、そう言ったのは誰だっけ。
[手を止めて古い記憶を呼び戻す。遠い町での退廃の記憶]
分からないなあ。あるわけない、か。
[首を一つ振った。
誰かに呼び出されない限り、ここでしばらく作業中**]
…駄目、だ、キリル。
誰かを食べる、なんて
[ぐらぐらと揺れる思考と視界の中、
小さく呟く囁きは、どんなに小さくても聞こえるのだろう。
うっとりと甘い囁きと対照的に、震えた囁きを返す。
未だ、理性は本能を塗りつぶしきることはなく]
…でも、……ッ
[苦しげに息を吐く、気配。
そっと手を自分の肩を抑えるように、力を籠めた]
[ ふわり ][ とん ][ ふわり ]
[夜道を歩く足取りは、あたかも雲の上をゆくかのよう。
酒精の香りと、篝火の赤い炎にすっかり酔った。
ボクはイヴァンの肩に頬を摺り寄せる。
甘く甘く、春の風が香るような心地がした]
…どうして?こんなに甘く誘うのに、
[ボクの目の前に、ひどく魅惑的な獲物がある。
それが今や、葡萄酒よりも甘く甘くボクを誘っている。
嗚呼、その血はどんな味がするだろう。
その肉はどれほどまでに甘美なのだろう。
やさしい人が、この肩を抱いてくれている。
ボクは目前の恋人へと、そっと手を差し伸べた]
うん。 … 大好き。
[心から囁き返して、彼の頬に唇を掠めさせる。
触れたかどうかなんて確認をしていない。
顔を見ていられなくなって、殆ど逃げる勢いで家に駆け込んだから]
…ロラン、
[理性と本能の抗うらしきに、涙混じりに揺れる声が響く。
心臓の鼓動が早い。
これは酒の酔いか血の酔いか、恋の酔いであるのだろうか]
─ 自宅 ─
兄貴、ただいま!
っ、ちょっとユーリーの、葡萄酒貰ってね…っ
少しだけだよ。でも眠くなっちゃったから帰ってきた!
[家に飛び込んだ時のボクは、さぞかし不審だらけだったろう。
顔が赤いのは葡萄酒のせいだ。そう決め付けた。
微かに酒の香りを纏わせていたはずだから、きっと大丈夫。
大丈夫だったろうと思うことにした]
ボク、もう寝るね。兄貴おやすみ…!
[バタバタと寝室へと向かう。
布団に潜り込めば満ちゆく月を目に映すこともなく、
だからボクは、心穏やかな眠りのうちに深く沈んだ──*]
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