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[勿論、己の目には力の動きは見えないから、ただ瞬くだけだったが。
右腕の黒い紋様には、流石に目を見開き]
それ、
大丈夫、なんですか…?
[安堵の息を吐くユリアンの、その腕に手を伸ばし]
[ミハエルの言葉に、ん?と黒い模様を浮かべたままの右手を見やるが、笑顔を浮かべ]
ああ、大丈夫大丈b
【──どくん。】
うぐっ!?
[言葉の途中で突如胸を押さえ、苦しそうに蹲るが、直に意識を失いぐったりと倒れ臥す。
……そして、右手に刻まれた模様がじわり、と肩へ向かって僅かばかり伸びたのに、その場にいたミハエルは気づいた*だろうか*。]
ちょっ、
[頽れるユリアンを止める手は間に合わず。
慌てて両肩を引き寄せ、仰向けにする。
と、]
…え?
[黒が僅かに伸びた気がした。
困惑した顔で見つめた]
[暫く見つめたが、それ以上の変化はない。
ふ、と緑の目を伏せて]
…ごめんなさい。
僕は、守られてばかりだ。
昔から、何も変わってない。
[小声で謝罪を落とした。
気を失ったユリアンに、その声が届くとは思わなかったけれど]
[やがて表の者達が入ってくるのに、はっと顔を上げる]
済みません、手を貸してもらえませんか。
彼を、診療所に。
[そう告げて。
アトリエは残る見張りに任せて、己もその後に*続いた*]
[中庭には、群生する桃色の花。
良いとは言えない変わった香を放つそれらの中、
くるくると回る。
壁に生えたヒカリコケが、ふわふわと、舞う。
彼女は存在を知らないけれど
それはまるで、蛍という虫のようだった。]
ふふふ。
ふふふふふ。
[笑い声は、高く、響く。
そのまま花に抱かれるようにして、目を閉じると
ゆっくりとふわふわした眠りへと、落ちて行った。]
[夢を見る事は、無かった。
しくしくとした手の痛みに目を覚まし体を起すと
中庭の花の中だった。
ゆっくりと起きて立ち上がり、
握り締めていたものをきちんと包み鞄に入れて
家を、出た。
噂は、広まっていた。]
[主婦たちが道端で話しているのを盗み聞いて、
診療所へと足を向ける。
ひょいと外から窓の中をのぞくと、
ユリアンとリディがベッドに寝かされているのが見えた。
その向こう、ミハエルとアーベルも居るかもしれない。
そうっとその様子を窓の外から伺っていたけれど、
暫くして人が離れるのを待ち、窓の枠に手をかけた。]
ぃ、よ…いしょ!
[小さな掛け声と共に体を引き上げ、そうっと窓から中へと入る。]
[近寄るのは、眠るリディ。
そっとその頬に手を伸ばして触れるけれど
目を覚ます様子は無く、冷たい。]
…これ、渡せなかったの。
貼っておいてあげるね。
[鞄から、昨日ブリジットに貰ったミント草の湿布を取り出し
そうっと、リディの足に貼り付けた。
どっちの足が痛いのかは知らなかったから、
どちらの足にもいちまいずつ。]
だいじょうぶ、ひとりでも出来るわ。
だから、まってて。
集めた「心の力」は、ゆめを、叶えてくれるんだから。
[触れたからだは冷たくて 冷たくて
なんだか、また胸がきゅうっと痛くなった。]
[それから、顔を隣のベッドへと移す。
昨日から眠り続けるベアトリーチェは冷たかったけれど、
ユリアンのむき出しになった腕の黒い模様にそうっと、
手を伸ばして触れると、暖かかった。]
…――。
[その手をきゅ、と胸元で握り締め。
窓からまた飛び降りると、診療所を走って後にした。]
やだ…
[まるで焦げたように黒くなった掌をユリアンの腕に近づけると、
また、腕にピリと熱が走った。
その熱は、絵筆の方まで届くようで、
近くにいると絵筆を壊されてしまう気がして、怖かった。]
あと、何人分?
あと、何日くらい?
[呟きながら、走る。]
[走って行った先は、図書館。
一度中で歌って両親に怒られてからは、
自分から来る事はあまり無かった場所。
そうっと大きな扉を開けて中に入るも、
司書は書庫に居るのか姿が見えなかった。
扉が開き、読書室から子供が出てきた。
入れ違うように読書室に入ると今の子が見ていたのだろうか、
絵の入った本が開かれて居た。
近づいて見下ろし手に取って、じいいっと、見入る。]
[描かれているのは、白く大きな鳥。
みにくい白い鳥の子供、のお話らしい。
じい、と見つめる目にはうっすらと笑みが浮かび
口の中には、小さく歌が転がり始めた。]
[耳に届く微かな物音]
…ん。
[幾人かが眠る部屋を覗き]
あれ。
窓、開いてたっけ。
[少し考えて。
蒼い少女が出て入ったばかりの窓を、そうとは知らずに閉め直した。
自身が“眠らせた”少女のほうから、微かにミントが香るのには気がつかず]
じゃあ、僕はそろそろ。
アトリエの片付けもありますので。
[丁度、慌ただしさも一段落した頃。
ブリジットにそう申し出れば、案外すんなりと許可をもらえた。
ちなみにその日診療所に訪れた人々が、『絵師』の後継者の働く姿にどのような思いを抱いたかは己の知るところではない]
[アトリエの惨状はそのままで。
やや苦笑を浮かべながら、床に散らばる画材を纏めた。
漆黒の絵筆だけはその手に握って。
それから]
…ああ。
絵、取りに行かないと。
[兄の姿が見えて、そう呟きながらも。
アンバーの少女の絵の前に立つ]
ごめんなさい。
[小さく呟いてから、イーゼルから絵を降ろし、隅に立てた]
[手を青く染めた彼女を絵に捕らえ。
それでもつがいは見つからなかったと聞いた。
手の中の絵筆に一つ、溜息を吐いて。
立ち上がって、新たなキャンバスをイーゼルに載せた。
そこに加わるのは、赤い色]
― 図書館 ―
[リディが封じられ、ユリアンが倒れた事を、伝令ではなく図書館の客の噂から知ると、絵師の肖像を書庫に一旦収め、そのまま、そこで一夜を明かした。まともな眠りは訪れはしなかったが]
・・・・・・・
[図書館を開けた後しばらくの間、記録の続きを記す事に費やした。見聞きした全てを正確に、主観を交えず書き加えていく。それは、自分が居なくなった後も残るはずのものだったから]
[書庫を出たのは、その作業が一段落してからのこと。読書室に見つけた少女の姿に、静かに声をかける]
エルザ。大丈夫か?
[ミハエルが無事である事は聞いていたから、そう問いかけた]
[目は呆っと本を見つめたまま立ち尽くしていて、
誰かが近づくのにも気づかなかった。
肩からかけた鞄からは、
鼻がよければ僅かなミントの香に気づくだろう。
声をかけられて、はっとしたように振り向く。
オトフリートの姿を認めて]
ぁ、ごきげんよぅ!
あたしは大丈夫、大丈夫よ?
あのね、あなたに聞きたい事があって、此処に来たの。
[にこりと笑い、正面に立ってじいっと見た。
両手はそっと、後ろへと隠される。]
質問なら、いつでも受け付けるぞ。
[勉強を教えている子供に言うのと同じように答えながら、近づいて来るエルザを見る]
何が聞きたい?
うん、あのね。
どうして、「知っている」の?
[端的に、それでも全てを篭めて。
じいっとオトフリートを見上げる目は外さない。]
[素直な問いかけに目を細めて、傍にある自分のデスクに軽く寄りかかるようにして答えた]
匂いがした。お前とリディから、絵師と同じ絵の具の匂いがな。
[彼が直前に描き上げた絵に使われたのと、同じ絵の具の匂い。絵筆に微かに残ったそれを感じることは、キノコを使った自分でなければ出来なかったろう]
におい?
[びっくりして目を見開いて、
くんくんと自分の腕を上げて匂いを嗅ぐ。
それからはたと黒く汚れた掌を見て、そこも匂いだ。]
…わかんない。
鼻、利くのね?
[目線を手や腕からオトフリートへと戻し、笑う。
にこにこと笑みを浮かべたまま]
どうして黙ってて、くれるの?
[彼女とも話していた疑問を、口にした。]
・・・・・一人か二人くらい、望みを叶える者がいてもいいと思ったからだ。
[他の者の望みは叶わない、叶ったとしても、その先に待つものが絶望としか自分には思えない、だから、海を見たいと言ったリディの願いだけは叶えばいいと]
俺からも聞いていいか?エルザ。
リディは、海を見たいと言った。
お前の願いは、何だ?ただ、外に出たいだけか?
[オトフリートの言葉に、口は笑んだままじっと見つめ。
満面の笑みを浮かべて両手を広げ、その場でくるりと回った。
白いワンピースが膨らみ、裾をたなびかせる。]
ね、ほら、判らない?
あたし、空に戻りたいの。
ん、戻らなきゃいけないの。
そこにはパパもママも、居るのよ?
[周りながら、手を上下に少し動かした。
それは、知識があれば鳥のようだと、判るかもしれない。]
[翻る白い羽のようなワンピース。子供の頃、綿毛草の畑から遠く見つめて憧れた鳥のように。その時は、隣に太陽の髪の少年も、少し年上の赤毛の少女もいただろう。絵師でも薬師でも司書でもなく、ただ綿毛草の伝説に夢を乗せていた頃]
そうか。
[悲しみはその目に浮かんだろうか。自身にもそれは判らない]
リディや、アーベルと、もう会えなくても構わないか?
[続いた言葉には、きょとん、と驚いた表情。
オトフリートの顔に浮かんだ表情が読めなくて、首を傾げる。]
どうして?
だって、心の力が溜まったら、皆で此処を出られるんでしょう?
なら何時だって会えるわ?
みんなの夢が、ねがいが、叶うんでしょう?
[そのまま、にこりと。
満面の笑みを浮かべた。]
皆を空に送るには、心の力はまだ足りない。
[少女の笑みに静かに首を振り、自分の知識から判る事実を話す]
つがいの二本の絵筆が揃ったら、お前一人なら、行けるかもしれない。だがその後はもう誰も空へは行けないだろう。
だから、お前が空に還る時は、皆とは別れる時だ。
[──夢。夢を見ていた。それは断片的な記憶。]
[最初の記憶は2歳の頃。
病床に伏せる母親。手を握る自分。
頭に触れる母の冷たい手。向けられる笑顔。
紡がれる言葉。遺された言葉。
しかし、まだ小さい頭ではその意味は理解に及ばず。]
[次の記憶は5歳の頃。
絵師のアトリエ。描かれる絵。
そこに描かれるは先日亡くなった翁。首を傾げる自分。
なんだろう。あの、うねうねと蠢く透き通った黒いモノは。
……ああ、そうか。あれが母さんが言ってた絵筆のチカラか。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
何かあった時、ボクが身を以って封じるチカラ。]
[オトフリートの言葉には、ぱちぱちと目を瞬いて]
そろったら?
揃うと、ひとりなの?
[んんん、と、口元に手を当てて暫し考える。
そして、にこりと笑い]
危なかったわ、もう一本も盗っちゃおうって言ってたから。
じゃあまた家に帰ったら、絵を描くの。
心の力が満ちるまで。
満月夜は――何時なのか、知ってるかしら?
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