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あのね、あのね。
イレーネは書を持っていなかったの。
ううん、書に多分触れてもいなかったんだと思うの。
だって。
混沌の気配なんかなかったんだもの。
消えていったのは、純粋な、生命の気配。
[だからあの力は書に引き寄せられて動いたのではないと。
そう言おうとして戸惑った。
ミハエルが言ったのは、大きな力ならば全てということか?]
精霊は和を重んずるもの。
対となるものは、それ自体が和を為すもの。お前などから見れば個々の精霊など些細なマテリアルかも知れないが。
対を侵されたという事は、自身の領域を侵されたという事に等しい屈辱だ。
お前が同族を、助けようとするのと同じことなのだろう。
そのどちらに重きを置くかといえば私は私の視点からしか物を言う事が出来ない。
[アマンダの言葉を、聞いて]
もしお前があれを損なったのであれば、私はお前を容易く赦す事は出来ない。
[時の竜を見やる
その目には困惑の色もあったか。]
虚の世界にしたくないといった時の竜は、
僕にとっては疑うことなどできない。
[かれの言の葉には、それを信じさせるだけの力があったから。
それを信じさせるだけのこころがあったから。]
守りたいものが、大切なものが。
何よりもやりたいことがあるだろうに
それを自ら壊すまねなどせぬだろう
「……揺らいでは、ならない。」
[後戻りは出来ないのだと、言い聞かせる。
ふっと、彼女はその場から失せて、少女の元に]
[書を持っていようがなかろうが。
その力があろうがなかろうが。
命の、今はここにない竜のことなど、苗床には関係ない。
かの女に対してしたことは、それなど関係することでないのだから。]
[精霊たちの言葉に、一つ、息を吐いて]
さて、どう言えばいいのやら。
ま、何を言えども、言い訳と捉えられるのを覚悟で、言えるだけを話すのみ、か。
遺跡にいたのは、予兆を感じたからだ。
鍵の書を抱える、封護結界のざわめき。
破られずにすむのであれば、そのまま見守り。
破られたなら、追う。
それがあの場にいた理由。
そして、結界は破られ、書がそこから離れた。
だから、それを追わせた。
[もっとも、それは打ち消されたが、と呟いて]
……己が視点で物を言うのは、当然の事か。
それを責めるのは愚かだな。
どう言ったとて、皆が俺を信じきれるとは思わない。
だが。
俺は、何者の喪失も望まない。
そのための行動を起こす意思など、持ってはいない。
それだけは、はっきりと言える。
−Kirschbaum・一階−
[しばらくして、ベアトリーチェはもぞもぞと起き出して、大きく延びをしました。外の騒ぎなど知らずに暢気なものだ、と思えたでしょうか。けれども辺りをきょろきょろと見回して、こてんと首をかしげます。]
……誰か、居なくなった?
[そう声をかけられたハーヴェイは、少し愕いたかもしれません。ベアトリーチェは、ただのこどもの筈だったのですから。それからほんのわずか、天聖の力とは違うようなものが混じっていたのにも、気附いたかもしれません。]
[ごめんね、と小さく呟いてナターリエの傍を離れる。
そのままミハエルに近づいて]
ね、ミハエルさんも落ち着いて。
昨日はミハエルさんが私にそう言ってくれたんだよ。
言い争ってる場合じゃないよ。
それでも書の力が使われていることは間違いないんだから。
それを早くなんとかしないと!
[ミハエルの傍に寄って必死に言い募る。
許されるのならその手に触れようとしながら]
[ティルの言葉に、僅か、表情は和らいだようにも見えただろうか。
それから、一つ、息を吐き]
……俺は、この世界を失いたくない。
損ないたくもない。
あるもの、あるがままに全て。
定められし輪転の刻が来るまで、見守りたい。
ただの虚。虚無を詰め込んだだけのモノに。
経験という、何にも変え難い宝を与えてくれた、始まりの世界……だから……。
[言葉の途中で、その身がゆらり、傾いで。
意識が途切れる。
周囲で、言葉が飛び交っているのをぼんやりと聞きつつ。
*暗転*]
お前は、底が知れん。
解っているのだろう、自分でも。
[目はオトフリートを見据えていて
体は手の先まで、触れれば熱いと感じる程に冷えて居た。
触れられても、それに気付くことが無い程に。
欠けたバランスの所為もあるのだろう。怒りの所為もあるのだろう。]
お前が虚無を望むことは無いと、思っていた。これまでは。
[落ち着けと言われて
首を振った。
目を閉じ、息を吐く。]
……自分の言った事へ自分が従えて居ないとは。
[アマンダは、ミハエルとオトフリートを見つめる。
交わされる真剣な言葉に、嘘などない…ように見える。
けれど、けれど――それならどうして]
どうして…ハインも…イレーネも……
[「…ここに、いない?」
その言葉は、口の中だけで。音にならず、消える]
[今にも荒れ狂おうとする、己の中の力を押さえつける。
吐息は熱く、胸の中の憤りは鎮まらず。
倒れる同族に、声をかけようとしてとどまる。
手も出せない。
触れるもの全てを焼き尽くしてしまいそうな己の力が怖い。]
[倒れたオトフリートを、支えるでもなく見やる]
どなたか、宿に運んであげてください。
私に触れられたのでは安心できないでしょうから。
[時の竜の倒れるのを見て、
一つ、ふたつ、瞬きを。
近づくその手はかれに触れようか。]
考える時をたがえば、すべては狂ってゆくだろて。
落ち着け、氷の精。
[それはながき時を生きた故の、どこか諦念を含むもの。]
オトフリートさん!
[倒れた彼は酷く消耗した様子で。
先程の一連の力の行使がかなりの負担になっているのだと知る。
それでも冷たい手をしたミハエルから離れることも出来ず。
その手を握りながら周囲を探れば、消耗している者も多いようで]
い、一度戻ろう?Kirschbaumに。
[そうは言ったものの、どうしたらいいだろうかと悩んでいた]
[ふと、ダーヴィットの様子がおかしい事に気がつく]
ダーヴィットさん、どうしたの?大丈夫?
お腹でも空いた?僕、チョコレート持ってるよ。
[尋常じゃない気配に、笑わせようといつもどおりの軽口を叩き、そっと近づこうとする。ふわり、無意識に風をまとい]
自らのみが苦しむものと思うでないよ。
バランス狂えばここの地は、影の王の支配がありきこの地は。
とてもすみにくく変わるだろう。
多くの属性をここまでそろえられるのはかれの力がゆえに。
……あぁ、僕が運ぼうか。蔦なら力はあるだろう。
[ゆる、と背から再び蔦が。
右の手の変わりになるように、倒れた身体を抱き上げる。]
[オトフリートの身体がゆっくりと、倒れていく。
アマンダはそれを、黙って見つめている。
硬い墓石並ぶ地でも、大地はその身を傷つけることなく受け止めるだろう]
[迷宮に堕ちたであろう、生命の竜に向けて、囁く]
「待っておいで、愛しい子。影輝王の結界さえ破れれば、すぐに迎えにいってあげよう」
…。
[ティルの言葉に、深く細く息を吐いた。]
[消耗したオトフリートの姿に、歯を噛み締めて逡巡し]
[徐々に冷気がひいてゆく]
[ようやく握られた手に気付いて、それを払おうとした]
…近寄るな。
[風の少年を見返す瞳は、縦に切れた爬虫類の眼。]
静めてこないと、何もかも壊してしまいそうだ。
[背を向けて、歩き出す。
暖められた大気が、向こうの景色を僅かにゆらめかせた。]
[ほんの一瞬だけ合った視線は、直にアマンダによって逸らされる。
けれど、対の疾風が歌うように囁く言の葉は、確かに届いていた]
…そう。それも、知ったのだね…
[ティルと手を繋いでいた姿を思い出し、小さく息を吐く。
きっと、アマンダが理不尽な態度だった事も全て知っただろうと]
そうか。
また、今度。
[心の魔に目をやって、苗床はそう言う。
同時にそっと、かれへ、口だけで囁いた。]
『どうしてこうなってしまったのだろうね、君も僕も。人の世界で何をやっているのだろうね。』
[訝しげに、クレメンスの背を見送った。
オトフリートへ言い募った時の物とはまた、違った猜疑を持った目で。ティルに運ばれる彼を見る目は戸惑い]
[そのどちらもから目を逸らして、ブリジットと目が合った。
彼女の手を指差し]
…。人の器は冷気に弱いものだ。
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