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………そう。
[肯定を含む言葉に返した言葉は短いものだった。両腕で自身の身体を抱えるようにし、身を小さくしながら微かに震えた。それで居て倒れずに居たのは、半ば意地だったかも知れない]
……それが、真実ってことね。
よぅく分かったわ。
[紡がれる声は覚悟を決めたような低いもの]
……は。
まったく、笑えやしない……。
[隠されていたものを再び隠し、低く吐き捨てる]
『終焉』……ね。
こうなりたくなければ……って訳か。
[呟きは、瞳の色さながらに冷えた声]
そうですか。
[リィン]
[緋の爪先で、癖のついたあかを摘む]
[そうして、華奢な掌を乗せて撫で付ける]
私には、分かりませんが。
[頷く態を見て、緋色の靴は騒ぎの方角、玄関へと向かう]
[人影が幾つかと、布団]
[床に広がる緋の色に、女は瞬いてくれないを閉じた]
[微かに手首の鈴が震える]
[進む足を追って進み、玄関ホールに辿り着く。
未だ現実か理解していない態で、声をかける]
おはよー……
最悪の、かたち?
[イザベラの台詞に一度瞬き、
ゆっくりと開いた]
[増えた気配に紅紫はすっと細められる]
──番人は終焉を望まぬなら探し出し殺せと言った。
終焉の使者たる人狼は己が正体を知る。
それを殺せと言われて黙って居られるかしら?
あの時は信じてなかったけど、これはあの話がなされた時点で見えていた結果なのかも知れないわね。
[それはイザベラの言葉に対してのもの。未だ腕は身体を抱えていたが、紡ぐ言葉ははきとしていた]
己が正体を知るは己のみ。
誰が人狼なのかも分からない。
信じられるのは自分だけ、ってところかしら。
[そこまで言うと踵を返し、玄関ホールから立ち去ろうと歩き始める]
ま……私も、ここまでのものとは想定していませんでした。
[藪睨みの左眼が小刻みに震える。]
私は止めませんけど、実物を見ようとすると
周囲の皆さんは止めると思います。
[ラッセルにため息まじりで。]
そういうことです。死にました。
[近くの扉から、窓から、風が通り、緋の気配が散っていく]
[十字を切る人の仕草は、死者を悼むもの]
どなたかに、終焉が。
[誰に問いかけるでもない呟き]
[その場を離れていく人影を碧は映し、女は被せられた布団の傍らへと寄る]
怪我人
[ハーヴェイにかえすのは軽い一言]
[シャーロットは見ないのだろうと、男はふたたび横たわった死体を見た]
[鈴の音、イザベラの声]
[やってきた人々に、男は場を譲った]
見ない方が良い
[ラッセルには一言を]
[ホールで話される会話を背に、足は廊下の奥へと向かう。突き付けられた事実に約束は頭の隅へと追いやられ、少女の姿はとある一室へと*消えて行った*]
変な事を、謂う。
終わりを齎した――
唯、それだけなのに。
そう、口にした者が、番人が、
初めに終焉を迎えるのなんて。
当たり前なのに。
ええ、死にました。私も実物は見ていませんが、
小耳に挟んだ話によると、それは無残だそうです。
[メモを開き、淡々と描写するように。]
事故死の線は考えられないでしょう。
人為的…と言っていいものかわかりませんが、
何者かの仕業と断定してもよろしいでしょう。
[鋭い眼光がラッセルを捉える。]
ここにいるのは私たちだけ。
後で、アリバイの確認などした方がいいでしょうか。
[緋のドレスの胸元で十字を切り、祈りの言の葉を]
これはどなたでいらっしゃるのでしょうか。
[それを知り得ていそうな男に、眼差しを向ける]
見ないほうが良いとは。
それはなにゆえに。
[先に居た二人を見て、女は問う]
番人だ
[キャロルの問いに、男は答えた]
[それから、次いだ言葉に*死体へと近付いた*]
――人の手によるものじゃないからな
綺麗な死体じゃない
[クインジーの静止は届かず、
イザベラの視線にも其方を向かず。
夢から覚めた面持ちで、眉間に皺を寄せた。
血臭――否、それを越した、死の臭い。
口許を、手で押さえる]
……、気持ち、わるい。
―深夜・回想―
[終焉の地の番人たるアーヴァインは、自らが預かるその城の内部を灯りを持たずに巡回する。]
[この地で城を守り待ち続けることこそが、彼に課せられた務め、であるが故に。]
[それは、定められた約定の日が来ても変わらぬ彼の使命。]
[だから彼は、あのチェス盤の部屋を出た後も、常の通りに回廊を巡り、部屋部屋を確認して回る。]
[唯一つ常と異なっていたのは、]
[階段を下りて来た彼を待ち受ける者たちが居たこと。]
終焉を齎すものが、番人殿のおっしゃるとおりふたり居るならば。
尋ねられ、庇いあうのかもしれませんね。
[女性の確認という事の葉にくれないは開かれた]
[乾いた緋の色彩は、風に触れ、暗く色を変えていく]
これは、番人殿。
[男から得られた答えに、微かに女は顔を伏せた]
きれいでは、ないのですね。
――やあ。
[掛けられた声は、はっきりとした揶揄と僅かな親密さを漂わせていた。]
久しぶりだな。元気だったか?
[玄関ホールにわだかまる闇の中から、音も無く夜の獣が滑り出た。]
[吐き気を催したか、幾度か咳き込む。
視界がぐらつき、硬く目を瞑った。
足許までもがふらつきかけたものの、
倒れる前に差し出された腕に受け止められた]
夢じゃ、ない――…
[薄く開いた眼で虚空を睨み、呟いた]
だいじょうぶですか?
[ふらつき、か細い声を零す少年に向き直る]
[傍らにいた男が、少年を支えた様だった]
ゆきましょう?
此処に居る事が辛いのならば、広間にでも。
[薄く開いた眼を、碧の色で覗き込み、あかの髪を撫でた]
―深夜・回想―
[予期はしていたのだろう]
[番人は声の主に対して身構えたのみで、訪れた者達に終焉の地のさだめについて告げ知らせた時と同じく、巌のように冷静であった。]
[明り取りの窓より差し込む月の光で区切られたホールの]
[光と影、]
[それぞれの対極に番人と獣は相対して立つ。]
ん…… へい、き。
[彼方を見ていた瞳が現に戻される。
確りと己の足で地に立ち、息を吐く。
口許に当てていた手を外し、
笑みらしきものを作ってみせた]
ごめんね、ありがとう。
クーも。
[礼を言って身を離す]
ちょっと、すっきりしたいかな。
[謝罪と礼の言の葉に、女は首を横に振った]
いいえ。
――広間よりは、外の風の方がよろしいでしょうか?
[チリン]
[鈴の音を鳴らし、招くよう少年の前に指を差し出す]
―深夜・回想―
[永くて短い数瞬の時が過ぎ、]
[口火を切ったのは、三日月の嗤いを唇に張り付かせた獣。]
そうそう。
俺の同胞を紹介しておこう。
[大仰に身を翻し、闇の中に佇む年若い同胞へと]
[す、と手を差し伸べる。]
そうだね。
中だと、空気が篭ってそう。
[差し出された指と、鈴の音。
導かれるように、手を伸ばす。
布に隠された遺体を顧みることは、もうなかった]
[代わりのように想起するは昨晩の事]
―深夜・回想―
[導かれるように若き獣は闇より現れ出る]
初めまして――
[滑り落ちる挨拶は此の地を訪れた時と同じく稚く]
[されど]
[番人を映す瞳は熱に浮かされ、
形作られた笑みは艶やかだった]
では。
[あかの髪越しに、番人の姿を刹那だけ捉える]
[されど、少年の手を取り、引く時には既に背を向けて]
[開け放された玄関から、外に出る]
何処まで、ゆかれますか?
[答えを気にする風でもなく、女はくれないを笑みへと変えた]
これはフィン……
俺の愛し仔(いとしご)だ。
[そっと肩を抱き、少年のつややかな頬に顔を寄せる。]
[その表情と仕草は冗談めいているものの、肩に触れた指先と濡れた声に篭る熱は隠しようも無く]
……何処まで行っても、同じじゃないかな。
此処が終わりの場所だっていうのなら。
だから、何処でもいい。
[僅かに首を傾けつつ、言う。
吹く風は花弁を揺らしてざわめかす。
鼻の下に指を当て、軽く鳴らした]
―回想―
失礼を致しました。
私はネリィ…ネリーと。
[ナサニエルに問われ答える時、常と違う発音が一度だけ。
向けられた微笑に今度は逸らさず微笑を返した。
言われるままに野菜の皮を剥き、刻み、水を汲み。
そしてささやかな晩餐の間は穏やかに、口数少なく過ごした]
はい、それでは。
[片付けも済んだ後、シャーロット達とも別れて借りた部屋へ。
毛布は畳まれて長椅子の上に置かれたまま。寝台には寄らず、その長椅子に身体を預けると毛布を被って翠を*閉ざした*]
―深夜・回想―
[年若い同胞を抱き寄せたまま、顔だけを未だ沈黙を保つ番人へと向ける。]
[少年とよく似た、艶やかな笑みを唇に乗せて]
[朗々と宣言する、]
[終焉の開始を。]
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