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あ、皿洗いなら別に。
アンタにやらせたらどうなるか分かんないし。
でも、ここの学校におかしな事をしてる奴を
何とかしないことには何にもどうにもならないね。
[てきぱきと、残飯を処理して食器を片付ける。]
私も、マイコの
うーん……何て言ったら良いのかな。
味方? だから。
[少し言いよどんではにかみながら、タオルで濡れた手を拭く。]
[矢羽根を取り替え、削った表面の屑を拭き取ろうと、ポケットのハンカチを引っ張り出す、カサ、と軽い音がして、小さなメモが一枚床に落ちた]
…………
[メモを拾い上げ、そこに書かれた父親の文字をじっと見つめる]
『戻ってきなさい』
[と、一言だけ。それは恐らく、どう書くかを逡巡した挙げ句の、懸命な一言だったろう]
それはどーゆー意味ですかー!
[むぅっとして、食器を片付けるのに手伝うのはできなかった。
というより、任せてもらえなかった]
そうですねぇ。
せんぱい、心当たり、ありませんか?
[なんとなく首を傾げて尋ね]
私もフユせんぱいの味方ですよー
[はにかんだ顔は可愛らしく、わぁっと嬉しそうな声]
せんぱいかわいいー
うーん、
[言うか言わないかなど、考えない。
言ったところで相手がどうなろうと、知ったことではないのだから]
かのうせんぱいが、何かよくわからないことしてたんですよねー
なんだったんでしょう?
─剣道場─
[中に入り、いつものように上座に向けて礼をする。
これだけは、しっかりと身についた習慣で、それは変わる事もなく]
…………。
[中央に立ち、木刀を構えて目を閉じ、精神統一。
開いた瞳は鋭く。
直後に、大気の断たれる音が鋭く、響いた]
[割れた窓から、外を見る。
真夏に咲き誇る桜以外、
景色はまるで変わらないように見えた。
世界はこんなにも、変わってしまったのに]
…違う、か。
[変わったのは、世界よりも自分を含む皆だろう]
―寮―
[何時もと同じ朝。何時もと同じ目覚め。
シャワーで軽く汗を流し、何時もと同じ行動を淡々とこなす中で、昨日少女から聞いた話を思い起こした。
ひとにつくモノ。]
…憑、魔。
[それが敵だと言う。数日前の洋亮なら一笑に伏していた。
軽く目を伏せて部屋を後にした。ポケットの中でかちゃりと何かが触れ合う音がした。]
[フユは伸ばした一旦手を止め、
頷いたマイコの頭をそっと撫でた。]
昨日、ヒサタカ……さんに
矢を向けられたんだ。
アンタも気をつけるんだよ。
―校舎・屋上―
[紺碧の空が白く染まって、それから
突き抜けるような蒼に色を変える。
それでも、コンクリートの上に仰向けに寝転がったまま
ぼんやりと空を見上げ続けた。真っ青な空が少し憎い。
日が高くなるにつれて、じっとりと重い空気が熱を孕み始める。
額に滲んだ汗が、顔の横を伝って、落ちた]
ヒサタカさん?
[首を傾げる。すぐには浮かばなかったらしい]
ええと、どの人?
どうしてフユせんぱいが?
[首をかしげて。手の下から見上げる]
[弓矢を手にして、弓道場を出る。以前に感じたのと似た…しかし僅かに違って思える気配が剣道場の方から感じられた。吸い寄せられるように、足がそちらに向かう]
……っ、あー…。
[溜息混じりに、音が口唇から零れる。…意味なんて無い。
ただ、何か言わないとやってられない気分だっただけで。
ゆるりと片腕を上げて。力尽きるように身体の反対側へ崩れる。
ぱたんと寝返りを打つと、コンクリートの持つ熱が胸部へと伝わった。]
俺がききてー…。
[誰か答えろ。20字以内で。
何処に投げる訳でも無い要望を、ぽつりと零した。
金に染まった髪から、ぱたりと滴った汗が、コンクリートに落ちる。
俺が人間か、なんて。
昨夜、投げられた質問がただぐるぐると頭を回る]
[ヴン、と。
鋭く大気を断ち割る動き。
それは剣道ではなく、剣術──実戦を想定した武芸の動き。
五年前の事件の後、密かに習い始めたそれは、固めた決意のための積み重ねの一つ……だったのだが。
その目的は、ここに来て、方向性を違える事となっていた]
……っと……。
[不意に、乱舞が止まる。気配と視線を感じた。
木刀を下ろしつつ、入り口に佇む人物へと視線を向けて]
……どう、しました?
[問いかける様子は、特に変わりなく思えるが。
以前はあった柔らかさは、影を潜めているだろうか]
いえ、そんな事は。
[額の汗を拭いつつ、短くこう返す。
以前であれば浮かんだであろう笑みは、今はなく。
……今はいない、幼馴染がその姿を見たならば。
五年前、心を閉ざした頃の姿を容易に思い浮かべるだろうか]
[短い返答に、僅かに目を細める]
そうか…邪魔にならないなら、暫く見学させてくれ。
[言って、開いていた扉を閉めると、その場に腰を降ろした]
見学って……構いません、けれど。
[見てても、面白くないですよ? と。
冗談めかして言うものの、特に拒む様子は見せず。
一つ、深呼吸をしてから木刀を構え直すと、始めはゆっくり、段々と動きを早めるように動き出す。
その後を、慕うように舞う、風]
[ゆるり、瞬く。視界の端の校内へと続く扉が
コンクリートから立ち上る陽炎に揺らめいて見えた。]
……、
[暫く黙り込んで、小さく溜息を零す。
ただ諦めるには、あまりにも難しかった。
コンクリートへと投げ出した掌を、ぐっと握る。]
[一番周囲を見渡せるのは、屋上。
そんな、単純な考え。
他に人がいないだろうと思ったのもあった。
進入禁止の鎖を越えて、更に先へ。
ノブに手をかける。
以前と変わらず、鍵は壊れているようだった。
地上よりも幾許か近い太陽の光が僅か、差し込む。
内の籠もった空気と、外の熱気。
異なるけれど、どちらも暑いと思った]
[食堂を出ていったフユを見送る。
再びかんがえるために椅子を引いた。]
……背のたかい、ヒサタカ、さん
誰だっ………………あ、もしかしてあのひとの名前がそうだったかな
[思い出して首をかしげる。となりにおいてあったバトンを、無意識につかんだ]
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