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……そんなとこ。
[距離は置くも、逃げはしない。
ヨハナの眼差しの向く先を追って、目を細めた。次第に深まる秋の風は冷たいけれど、鼻腔を擽る甘い香りは何処か懐かしくてあたたかい。
愚痴は聞いているのかいないのか、細く息を吐いた]
人は儚いよね。
妖精とは違う。わかっちゃいたけど。
ヨハナだって少し前はこんなに小さかったと思ったのに。
[手のひらを腰の辺りでひらひらとさせる。
青年はが老婆に対してやるには、そぐわない仕草だった]
連れて来た癖に、先にいっちゃうしさ。
[昔と変わらない、彼女の青い瞳が映すのは、 Anneliese ―― 祖父の先代、林檎の樹を伝えたひとの名]
……じっちゃも、さ。
せっかく代わりになったのにね。
したくてしたんじゃないだろうなんて、わかってる。
[独りごちるように言う]
仕方ないよね。
[さて、彼女はなんと言ったろう。
供えられた紙袋を見る。手が少し動いたが、伸ばすことはなかった。
緑を青と交えることも、ない]
そんなこと言ったって、もう出来ないじゃんか。
[わらった。笑みと見えたかは知らないけれど。
じゃあ、と短い別れの挨拶を告げ、丘を駆けて下りる*]
んん、夕食はどうしよう。困ったな。
あんまりでる気がしないし……
あるやつ使っちゃっていいのかな、いいか。エーリ君おばかだし。
[なんてつぶやいて物をあさる]
[急なことだったから手持ちの石はなく、採取場所は崖崩れの所為で使えず。
取りに戻ったところで内には人の気配]
……家主いないのに使うか。
[許可を出したのは自分だが]
[青い目を墓石に向け婆は声だけを聞いていたが、小さかったと言われてちらりと青年を盗み見た。
腰の辺りでひらひらされる手は婆が小さな子供だった頃の高さ]
連れて来た…?
[数十年の時を遡り青い目が映す名は、林檎の樹を村に伝えた――林檎の森番と呼ばれる元となった初代のもの]
[続く青年のぼやきは詳しくは判らない。
だが置いて行かれるのが哀しいのだろう事は感じて、声が掠れた]
坊、お前――…お前、あの林檎の樹なのかい?
[振り返る先、青年の指が動くのが見えたが伸ばされる事はなく。
真実を探そうとする青を緑が見返す事も無い。
わらいを象る表情だけが、婆の目に焼きつく]
死者は確かに手渡せやしないが、お前が手を伸ばせば届くのにさァ。
坊が持ってくのを嫌がるなァんて欠片でも思いやしないだろうに。
[駆けていく背にかけた声は、届いたろうか。
婆は追いかけることなく、丘を降りていく森番の青年を見送る]
随分と寂しがりやな坊さねェ。
お前さん達もさぞかし心配じゃろゥ?
……必ず先に置いて行くわたしが言っても届かんかもしれんが、放置する気なんかさらさらないさ。坊が取りに来るまで番しといてくれさね。
[薄茶色の猫が前足で緑色の欠片を突付く。今は力の残らないそれは、ツィムトの首輪の石とよく似ていた]
およし、怪我をするよ。
それじゃァ、行くとするかねェ。
どうせ最後に来るのは…虹の天使のあるところさね。
[青い目が伏せられて、過ぎるのは悪戯めいた色。
年を取っても、年を取ったからこそ、この婆は性質が悪い*]
だから食べろって言ってるじゃないか
[さっさと部屋に行くのをおいかける]
エーリ君よりも、みんなの支持は得られるに違いないよ。
のんきだっていいじゃないか。
なんの支持だ、なんの。
得られなくて結構、関係ないし。
[先に部屋に入り込んで扉を閉めた。残念ながら鍵なんてものはないのだが]
馬鹿じゃないって支持。
って閉めなくてもいいじゃん。
[一週間借りていたのだから、鍵がないことも承知のうえで、遠慮なしに手をかける。]
エーリ君、馬鹿な子供の行動だよ。
ちゃんと食事くらいしなさい。
いーんだよ、
人としたら十幾つかなんだから。
[訳のわからない理屈を捏ねて、卓上の瓶を手に取る。
本当の生い立ちを知っているのは、今では自衛団長だけ。他者の記憶はそれと分からぬようぼかされていた]
……やっぱりお前、泊めるんじゃなかった。
[窓側を確保しながら息を吐く]
馬鹿なのもいいの?
[まったくとつぶやいて]
でも泊めてくれて、感謝してるよ。
お馬鹿だけどエーリ君やさしいから、おれは好きだな。
だからそこから逃げたりしたら、これで止めるからね
[にへらと笑って、胸ポケットのメモ帳を取り出した。]
そういえば何でこれ嫌なの?
ちょっと懐かしかったからとはいえ……
[ぶちぶちと小さく呟き、馬鹿云々は無視。
取り取りの色が詰まった瓶を袋に入れた]
俺は、きらいだ。
[振り返り、ゆっくり、はっきりと言う。
視界に入ったメモ帳に、眉を寄せる]
……そうやって、力を便利に使うのが嫌。
互いに干渉せず、人は人、妖精は妖精で生きたらいい。
碌なことがない。
[対価を払っているのも約束を取り交わしているであろうことも、察してはいた。それでも否定を紡ぐ]
おれはそうは思わないよ。
博愛主義なんだ。
[大真面目]
力を使うのは約束だからね。
妖精のお母さんは、おれが外にでる時に決めたんだから、良いじゃない?
ろくなこと、なくないよ。
こうやってエーリ君もとめられるし。
――エーリ君は、なにをこわがってるの?
─診療所─
[ヨハナの介助をした後、自分も温泉で温まり。
混浴利用は色々と抵抗もあったものの、硝子の天使もどうにか回収して。
森番小屋で夕食に相伴すると、診療所に戻って──そのまま、朝まで見事に意識喪失。
そして、翌日]
……ねぇ、リーリエ。
ううん、リーリエではないですねぇ。
リーリエに宿った誰かさん?
[朝食を済ませ、身支度を整えつつ、羽根繕いをする白い鳥に、こんな言葉を投げかけた]
誰も特別がいないってことじゃないか、それ。
[続いた台詞には一瞬、目を見開いた。
訝る視線を相手に向ける]
代償払って力使えって、それが約束なわけ?
……あららぁ、当たりですかぁ。
もしかしなくても、守護妖精様……かしら。
[くすくすと笑いながら、髪を丁寧に梳いて編んでゆく。
昨夜の力の介入と干渉は、昔から村にかけられていた守りのそれと良く似た波動だったから。
鳥の異変の理由は、何となくだが読めていた]
でも、ご本人ではないですよねぇ。
力の一部というか、意識の一部というか、そんな感じですかしら。
記憶や知識までは……共有していないのでしょうねぇ。
[それができていたなら、虹の天使の場所もはっきりとわかるのだろうが。
仮に出来ていたとしても、言語による意思疎通ができない現状、それを確かめるのは難しく。
治癒術師としても魔女としても見習いな現状に、小さくため息]
―森/林檎の樹―
[冷たくなる秋風に吹かれ、ゆっくりと丘を下り森へ入る。
数十年前の記憶を辿り行き着くのは、森の中ではまだ若く、同種の中では一番古い一本の林檎の樹]
お前さんが坊…なのかい?
わたしゃ未だに信じ切れちゃいないんだがねェ。
[子供の昔したように、曲がった腰で同じ位の場所の木肌に触れる。
皺がれた手は小さく柔らかな頃とは比べるべくも無い年月を刻む。
足元の薄茶猫が「ミ゛ャゥ゛」と後ろを向いて鳴き、婆は声を投げる]
――…そこに居るんだろゥ、妖精王。
ちょっと違うけど、そんなようなものかな。
おれを浚っちゃったお詫びに、力を使わせてくれるって。
危険だったら使ってって言われたよ。
ただ、おれのものをあげなきゃいけなくなるから、ほどほどにって。
妖精のお母さんは、おれのことが好きだからね。欲しいけど、手放してくれたんだって話してたよ。
旅にでる前に。
[いろいろと危険なことも混じっているが。]
で、エーリ君は、何がこわいの
何かろくでもないことがあったんでしょう?
はい。エーリ君の番。
まぁ、だからと言って。
[きゅ、と黒の紐を結んで髪を止めつつ、呟きをもらす]
何もしないわけには、行きませんものねぇ。
……放っておく事は、できませんし。
[誰を何を、とは明確にはせず。
くるり、鏡の前で一回転してから、壁にかけた帽子を手に取り、ふわりと頭に載せた。
真紅のリボンを結んだ、黒のとんがり帽子。
黒一色の装いに、真紅の髪と、肩に止まった白の鳥が映える]
それじゃ、行きましょうか。
[小さく呟き、外にでる。
玄関先で大人しくしていた箒を一撫ですると、それは小さく縮み、手の中に納まった。
ある意味、完全装備を整え、森へと向かう]
[何故話さなければいけないのかと、普段のような悪態は出なかった。眼前の青を見ていたが、目を逸らす]
別に、……ない。
ただ、
アンネはやっぱり、人間の方がよかったんだ。
…言ってみるもんだねェ。
あァ、いや、なんでも無いさね。
ちょィとお願いがあるんだが、どうだい?
[思わす零れた呟きを慌ててかき消し、甘い香りの籠をずんぐりむっくりの鼻先に突き出す。もちろん、まだ手は離さない。
妖精王は婆の顔を見て悩んだようだったが、腹が先に返事した]
うゥむ、いい返事さね。
それじゃァ早速だが、一つ目。コイツをリディ達に届けとくれ。
お前さんが間違って放り込んだんだ。これくらいしてもらえるさなァ?
……エーリ君。
はい、こっち見る。
[目をそらされたから、ふそんなことを言った。]
恋人だったの?
少なくとも、エーリ君が好きだったんだろうなって思うけど。
─森─
[一応、人目につくのは避けるように森へと踏み込む。
魔女の一族の存在は、家族を除くと師匠以外は知らない事だから。
それに、目立ってはならない理由も、一応はあって]
んん……さて、どっちに行ったものかしら。
[ある程度進んだ所で、ぽそりと呟く。
探査系は苦手です。
さがしものがどこかは、やっぱり皆目検討もついてないらしい]
[呟くような声は酷く唐突だったろう]
じっちゃだってそうだ、最期には。
寂しいって言った癖して。
[孫の存在は嘘でも、森番が子を早くに亡くしたのは本当。だから代わりをして、]
……妖精と人は違うんだ、そんなわけないだろ。
[否定。目は合わせず、それ以上は言わず。
ぱきと石に亀裂が入る。
応じるように窓硝子が砕けるのはその直後]
本当は団長さんにも届けて欲しいんだがそっちは無理そうだからねェ。せめてあの育ち盛り達にゃ食べさせてやりたいのさ。
ほれ、さっくりと送っておくれ。
[妖精王はもう一つある籠に目をやった後、しぶしぶながら手を伸ばす。籠は小さな金色の光に包まれて、ぱっと消えた。
ちゃんと届けたと偉そうに言う妖精王を空になった手で一撫でして、だがまだ菓子は与えない。飴と鞭は使い所が肝心だ]
――…さァて、二つ目。こっちが本命さね。
本物を出せとは言わない。虹の天使の偽物作ってもらえるかねェ?
守護妖精さんの親御さんたる妖精王なら、形や気配くらい良く似たもん作れるだろゥ。
エーリ君はなにがいいたいのか、おれにはわかんないけど。
そばにいたんなら、その人たちはエーリ君のことが好きだったんだよ。
寿命はしかたないじゃない。
別に妖精と人間が恋人でもおかしくは――
こら、エーリ君!
[窓が割れて、さすがにあわてた声。]
[しばし悩んだ後、とりあえず足を向けたのは、森番小屋。
都合よく戻っているとは思えなかったが、一応は、と思って]
それにしても……なんで、なんでしょうねぇ。
虹の天使を手にして、それで、どうするのかしら。
……そもそも、天使って、どんな力があるのでしょうねぇ?
[呟きは、問いのような独り言のような。
肩の鳥は、くるる、と困ったようなトーンで一鳴き。
困惑しているのは、宿っている方か宿られている方か、さて]
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