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― 4日目早朝/黒珊瑚亭 ―
………。いや、僕が行ってくるよ…。
君は…宿の朝の支度もあるだろう。
[アーベルの様子を見に行った方がいいだろうか、
というような話になったなら。
ゼルギウスを発見した時の彼女の悲鳴>>3:84>>3:85と、震える手を
カルメンに支えられていた様>>3:139が、ふっと脳裡を過り。
“ユー坊”とユーディットを呼ぶアーベルの声と、
親し気だった二人の様を思い出して。
ユーディットは彼女が行くというようなことを言ったかもしれないが、少し強い口調で自分が行こうと口にした]
……アーベル?
[アーベルの部屋まで行けば、間を置いて数度ノックして。
暫くたっても応えの無いのに、そっと扉を開けた]
― 4日目早朝/黒珊瑚亭 ―
[部屋に足を踏み入れた瞬間、血臭が鼻をつくも、
開いた窓の為にそれほど濃くはなく。
部屋の中央あたりから広がる赤黒い染みと、
寝台に俯せに横たわる――それだけ見れば眠っているのかと
思えなくもない、毛布を掛けられたアーベルの身体が目に入れば。
咄嗟に瞳を逸らすも、ややあってから近づいた]
……アーベルが…。
[仰向けになおした身体の、臓腑を失い広がる赤黒い洞と、
酷い喉の様が見えぬよう、毛布を喉元まで引き上げて隠してから。
微かにふらつく足取りで階下に降りた時には、
他にも誰か、起きてきていただろうか。
ユーディットの顔を見れば――言葉が渇いた喉に張り付いて…漂うのは数瞬の沈黙。けれど、血の気の引いた表情と強ばった声で、
酷く悪い知らせなのは、伝わってしまっただろうか*]
― 回想 ―
[ユリアンの死を確認しにいったカヤたちが戻ってくれば、その表情で本当なのだとしれて。
小さく俯く。
その死を見にいくことはできないまま、アーベルの部屋の前に、簡単なスープぐらいは置いておいた。
そして夜、部屋にもどってもほとんど眠れずにいて]
― 四日目早朝/黒珊瑚亭 ―
[けっきょく眠れなくてかなり早い時間におきだした。
父親の心配そうな視線にはちからない笑みを返すだけで。
エーリッヒ>>24が降りてきたのに、おはようと返し。
昨夜置いたスープはなくなってはいたけれど、その姿は見てないと答えて]
アーベルの様子、見にいったほうがいいかな……
[どこか不安げに呟く。
夜があけるたびに誰かが死んでいるのだから、もしかして、という思いもあって。
けれど強い口調で止められれば静かに頷いて、エーリッヒ>>25が様子を見にいくのを見送り]
[心配だけれども、朝の支度は続けたまま。
どれくらいか時間が立って降りてきたエーリッヒ>>26の様子に、手がとまり]
え、……アーベル、も……?
[強張った声と、沈黙とに。
手にしていた皿を取り落としてかしゃんと破れてしまった]
[エーリッヒが引きとめる声も聞こえないままに階段を駆け上がってアーベルの部屋へと向かう]
っ!
――アーベルっ!
[見えた室内に悲鳴のような声でアーベルの名を呼び。
毛布に遮られて見えない身体と、その下に色がる赤い色に。
昨日見たゼルギウスの姿がかぶさって、その場に崩れ落ちた**]
─ 三日目/黒珊瑚亭 ─
[瞬きを繰り返すユーディットの様子>>3:214に、楽しげに笑む、ものの。
続いた言葉に、僅かに眉が落ちた。
答えようのない言葉には何も言わず、こちらの言葉の意も問われる事はなかったから、それ以上は言わず]
……んん?
あー……言われてみれば、そう、ねぇ。
[示された羅針盤の裏。
印象に残った図形や図案を覚えるのは得意だったから、団長の手にあった徴も、記憶に刻まれていた]
(同じ徴……だとしたら。
同じ由縁を持つ、ってことかしらぁ)
[そこに思考が至るのは早く、なら、それが何を意味するか、と。
思考を先に延ばせば、過ぎるのは複数の予感で]
……ベルくん、が。
ユリさん、を?
[伝えられた事実に、零れたのはどこか呆然とした呟き]
……いか、なきゃ。
[それならば、自分は見なければならない、と。
そう、思ったから、再度、立ち上がろうとする。
消えぬ霞にもたつく間に、カヤと、彼を追ってロミが駆け出して行き。
二人を追ったヘルムートにも僅かに遅れて、外へと駆け出した]
……っ!
なんっ、で!?
[知らず、上がるのは、上擦った声]
なんで……なんで、黒いの!
なんで……なんで、ゲルダちゃんたちと、いろ、違うの!
[問うた所で、誰にも答えられるはずのない問いが路地に響く。
足の力が抜けてその場に座り込んだ直後に、黒い火は消えて、視界にいろが戻った]
なんでぇ……?
[幼い頃から見知っていて。
戻ってきてからは、彼の手で生み出される細工に心惹かれて、足繁く通っていた。
細工を見るのも、身に着けるのも、どちらも好きだったから。
繊細な細工を見ている間は、余計な事は忘れていられたから]
……新作、楽しみに、してたの、に。
[そんな思いが巡るから、口をつくのは日常的な言葉。
他にもっと、言わなければならない事があるはずなのに、言葉が上手く結べなくて]
もう、やだぁ……。
これで、終わって……こんな事、もう、終わらせて……。
[黒が何を示していたのかはわかる、から。
零れ落ちるのは、今にも泣きそうな震え声の呟き、ひとつ。**]
―回想・2日目夕方/黒珊瑚亭―
………。ありがとう。
お兄ちゃん、と言ってくれるのも、ね。
[ロミに、謝ることないよ、と言って貰ったことと>>169、
お兄ちゃんと呼んでくれたことに、微かに瞳を瞠り]
うん、悪いのは…?
[途中までの言葉に、続きを促すも。言葉を飲み込む様子に、
一瞬、案じるように小さな少女を見遣って]
……こんな状況だから、ロミが何を言っても、
僕は、悪口だなんて思ったりしない。
それに、僕の姉さんも、レディではあったけれど、
つらい時には、つい色々と言ってしまうこともあったよ。
[そんな時には、姉もよく、レディらしくないことを言ったと、
落ち込んでいたのを思い出して、ほんの少しだけ瞳を緩める]
―回想・2日目夕方/黒珊瑚亭―
だから、レディであっても、あまり無理せず、
一人で抱え込み過ぎないで、いいんだよ。
僕では、頼りにならないかもしれないけれど、
誰にも言わないから、
何か話したかったら、いつでもおいで。
[初対面の時よりは打ち解けてくれた様子の少女が、
拒まなければ、そっと頭を撫でて。
ロミが、4年前に島に流れ着いた子だとは知らなかったから、
部屋を出ていく姿に、行動規範としてレディらしさを
気にするような家庭で育ったらしい少女が、
どうして島の孤児院にいるのだろう、とちらりと思った]
―3日目/黒珊瑚亭―
………っ。
[肉屋くさい、というカヤの表現に>>3:159、
包み運ぼうとしていた眼前のゼルギウスの遺体と、
漂う血肉の匂いが合わさって。
ふっと幼い頃の記憶が脳裡を過り、ぎゅっと瞼を瞑った]
……ヘル、だいじょうぶ?
[眼裏の記憶を追い払うように、一つ頭を振った時、
ヘルムートの鎮魂歌>>3:177が聴こえて。
彼の声に救われるような気持ちで、耳を傾け、
ゲルダとゼルギウスの魂の安らかなることを祈ろうとした時。
咳込む様子に瞳を開く]
そう…。気をつけて…。
[応えは何かを誤魔化すようにも感じられて、案じるように瞳を翳らせた]
―3日目/黒珊瑚亭・自室―
………。
[手伝ってくれた人達や自衛団員と、
ゼルギウスの遺体を運び終え。
自室で血に染まった服を脱ぎ、身体の血を拭おうとした時。
ふと、鏡に映る姿に目が止まる]
……姉さん…。
[心臓付近を中心に、無数にある小さな傷跡のうちの一つ、
一番新しい、薄紅色の跡を残すのみの傷を、そっと指でなぞる。
それらの傷跡が消えてほしいのか、消えてほしくないのか、
自分でも分からないまま、鏡から瞳を逸らすと、
まだ微かに眩暈を覚えつつ、着替えて階下へ降りた]
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