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[物心ついた時には修道院に居た。
幼い頃に死に別れた母の記憶は殆ど残っていない。
もし、母の故郷であるこの村で生まれ育っていたなら、
故郷と思えもしたのだろうけど。
幼い日を過ごした場所は別にあり、
その日々の思い出を共有する者も此処にはない。
肩書きで呼ばれることは嫌ではないが、
名で呼び合うを見ていると
仄かにではあるが寂しさを覚えることもあった。
己の立場は、どちらかといえば
歌い手や旅人の方に近いのかもしれない。
祈りを捧げ眠る夜。
夢にみるのは暗闇にたったひとりで立つ己。]
― 翌朝 ―
[目覚め身支度を整える。
祈りを捧ぐ為に組んだ手――、
右手の甲、手首に近い其処には、蒼き花が咲く。]
朱き花の対――…
[双花聖痕、と、音無く綴り息を吐き出す。
予兆はあれど気のせいだと思おうとしていた。
圧し掛かる責から目を背けようとして
逃れようがないことを明瞭になるその痣が知らせる。
暫し考え、白手袋を両手にはめて
日課を、と思うとほぼ同時にその声>>29が響いた。]
─ ギュンターの私室 ─
[ギュンターを包む傍ら、問いも届かなかったエーファの口から零れる言葉>>44 >>45に短く嘆息した。
言葉の意味が分かるだけに、かける言葉を考えてしまう]
……エーファ、
[ギュンターを包み終えて、それを見詰めていたエーファと目線を合わせるように傍にしゃがみ込む]
じっちゃん、抵抗した痕が無かった。
歌い手さんにはそれらしい傷もあったのに。
推測でしかねーけど……じっちゃん、襲われるの、分かってたんじゃねーか?
分かってて敢えてそうしたのって、何か護りたいもんあったからじゃねーのかな。
例えば、お前に矛先向かねーようにするとか。
正しいのかは、分かんねーけど。
[なんで、と繰り返すエーファの言葉に正解を返すことは出来ないけれど、ギュンターの遺体から読み取ったもの──多少強引ではあったけれど、それを理由として挙げてみる。
恐らく、それはエーファが望むものではないのだろうが]
あとさ、お前、身体は大丈夫でも心は大丈夫じゃねーだろ。
ここで泣けとは言わねーけど、吐き出せそうなら吐き出して来い。
[一旦部屋に戻れ、というように言い、立ち上がらせるべく手を差し伸べた*]
― →三階廊下 ―
[廊下に出ると忙しなく鳴く黒猫の姿がある。
黒猫の気にする方へと足早に行けば
三階の一室――ギュンターの私室であったと記憶する其処に
人が集まるのがみえて、己もそちらへと向かう。
噎せ返るような血の匂いに、
白を嵌めた手の甲で鼻と口許を軽く押さえる。
昨日は外であり更には冷えた空気が嗅覚を鈍くさせていたが
今は、生々しきにおいに生理的な嫌悪が滲み眉間に皺がよる。]
――…っ、
[屋敷に響いた声の主、
此処に住まう黒猫が知らせ、
漂うこのにおいは、
この先にある部屋の主は、
朱き花、甘美なる、と幻燈歌にうたわれるが過り、血の気がひく。]
[自分達が原因で悲しませている相手を慰めるのは滑稽だろうか。
白々しいにも程があるだろうか。
それでも、向ける言葉に偽りはなく、思ったことを伝えている]
───悪ぃな、エーファ。
[唯一の肉親を失わせたことに対して。
15年前と同じ想いをさせたことに対して。
謝罪の想いは抱くが、後悔はしない。
生きることを諦めないと決めた以上、してはいけないのだ]
─ ギュンターの私室 ─
……なに、それ。
[抵抗の痕がなかった、とか、わかってたんじゃないか、とか。>>53
言われてもすぐには頭に入らない。
護りたかった、と言われても、やっぱりすぐには受け止められなくて]
……俺、そん、なの…………うれしく、ない。
[父が死んだときに同じ事を言われた。
だから、その通りだとしたら嬉しいと言えない、言いたくない。
だから、拒絶するように俯いた]
…………だいじょうぶ、だ、よ。
[それでも、心が大丈夫じゃない、という言葉>>54には反抗した。
強がりなのは誰の目にも明らかだろうが、認めたらそれこそ動けなくなりそうだから]
……俺は、へーき、なんだから。
[自分自身に言い聞かせるように繰り返して。
それからようやく顔を上げて、差し出された手を取り、立ち上がる。
ここに居ても何もできない事。
それは、わかっているから。*]
―翌朝・客間―
[いつになく遅い覚醒が訪れ、再びまどろみに沈もうとしたその時
そのまどろみを引き裂いたのは、悲痛な絶叫>>29
ぱちりと目を開き身を起こす]
今の……上から?
[あぁ、嫌な予感がする。いや、きっと予感ではすまないだろう。
廊下で猫の鳴く声がして、すぐ後に近くの部屋から出て行く音>>41がした。
男も起き上がり身支度をして…ナイフの所在を確認して部屋を出る。
イヴァンが階段を上がっていくのが見え>>42、その後を追いかける]
―三階・ギュンターの私室―
[辿り着いたのはギュンターの私室の前。
開いたままのドアから漏れる異様な気配と、そして、昨日も嗅いだ嫌な臭いが届いた]
みんな、居るのか?
一体何が……っ!?
[そこには、エーファを助けようとするユリアン>>35と、先に辿り着いたイヴァン>>43がいて。
エーファがそれに気づかずに呟くのを聞く>>44>>45
そうして、予感のままに視線を動かした先、寝台の上に見える、赤に]
……ギュンターさん、が?
[問いかけるでもなく声が零れる。
イヴァンが遺体を包み始めるのに気がついたけれど、手伝おうとする前に手際よく事を終えたから、自分はただ祈りを捧げるだけで。
そうして、イヴァンがエーファへと語りかける>>53のを見守る]
大丈夫、じゃないだろう?
エーファ、君、ずっとちゃんと休んでいないんじゃないか?
イヴァンの言うとおり、少し休んでいた方がいいとおもう。
[大丈夫だと、平気だと言うエーファ>>57にそう言いながら、現れたライヒアルト>>55を見つけて頭を下げ、視線で状況を伝える。
『幻燈歌』に歌われる双花聖痕さながらのそれを、彼はどう捉えただろう。*]
─ 回想 ─
[オトフリートに話を聞く間にも、広間に残る者は少なくなっていく。
それにつれて静けさが増して、より不安は強くなる。
周囲に気も向けず、ゆらりと、けれど澱みなく歩き出ていった旅人が残した言葉>>1:156。
何故そんなことを知っているのか、そもそも何者なのか、そんな思いもまた、不安に加わっていって]
…あの人が、本当のことを言ってるって、信じるの?
[>>48オトフリートからの言葉には、流石に笑みを返すことが出来なかったけれど。
続いて、何かあっても忘れないで、と言う言葉は真摯なものに思えたから。
ぎこちなくも、しっかりと頷きを返してから、広間を出ていく姿を見送った]
[取り留めなくめぐる思考。
頭を振ってそれを振り払う。
口許を押さえるままギュンターの部屋へと行けば
日常では見る事のないおびただしいあかと
シーツに包まれた人のかたちが映り込む。
オトフリートが視線で伝えたそれ>>61に、
いろなき顔で小さく頷き、重い息を吐き出した。]
――…恩人である彼の為に、祈りたい。
[そう呟き、ギュンターの遺体の傍へと歩み寄る。]
[オトフリートが出ていって、静けさがより増した広間の中。
もう冷めきってしまった茶器を片付けようとした所で、ユリアンがまだビルケと共に暖炉の前に居るのに気付き]
…あの、ユリアン?
火が落ちたら冷えるでしょうし、そろそろ部屋に戻った方が良いわ。
…動けそう?
[近くない間柄だし、下手に気遣っても遠慮されるかと控えてはいたけれど、体調を崩している人を一人残すのはと問いかけて。
無理そうと言われたら誰か男手をと思ったものの、>>30歩いて戻れるようで少し安堵した。
もしも遠慮されなければ、手を支えて部屋までは付き添い送っていった。
その間か、広間で彼が動けるまでを待つ間に夢の話は聞けただろうか。
その後には広間の茶器を片付けに厨房に赴き。
そのまま厨房に残ってエーファを手伝い準備した食事を少しとった後、部屋に戻ると今日も絵筆を取らぬまま、寝台に入った**]
─ ギュンターの私室→三階廊下 ─
…………ん。
[黒猫の名前>>59に、こくり、と返すのは小さな頷き。
遅れてやって来たオトフリート>>61の言葉にそちらを見やるも、何も言わない──言えなかった。
言葉が引っかかって、どうしていいかそろそろわからなくなっていたから。
だから、一先ずは促されるままに廊下に出て]
……あ。
[ライヒアルトの姿が目に入ると、ほんの少し、表情が緩んだ。
どこかほっとしたような、安堵したような変化。
それを齎したのが、『この人はひとだから』という認識──無自覚の力が齎したものとは、自分でもわかっていないけれど。*]
[昨日広間でオトフリートが言った言葉>>47を思う。
そうであると良いと思いながら、
己の中にある不安が、ひとりきりの夢を見せた。
廊下へと出るエーファ>>65と視線が交わる。
肉親がこのような事になったのだから、
彼が受けた衝撃や悲しみは計り知れない。
表情の緩みが意図するものは分からぬまま、
小さく彼にあたまを下げて。]
─ ギュンターの私室 ─
[気付けばオトフリートやライヒアルトも、主の失われた部屋に辿り着いていた。
オトフリートがエーファに休むよう勧めている>>61のを聞きつつ、祈るためにギュンターの傍へとライヒアルトがやってきた>>63のを見て]
あ、新しいシーツに包み直したいんだ。
その時にお願いしても良いか?
直ぐ取ってくる!
[そう言い残し、エーファを廊下へと出した>>65後にリネン室へと走る。
直ぐ、と言った通りに新しいシーツを一枚持ってくると、それを床に広げてベッドのシーツを再び丁寧に剥ぎ取った]
ずっとエーファの目に触れさせておくのも、って思ってさ。
仮包みしたんだ。
[一度包んだ理由を口にして、ライヒアルトに祈りを願う*]
─ 翌朝・自室 ─
[朝の目覚めは、また誰かの叫びによって。
瞳を開き、身を起こすも昨日の事を思えばまた遺体が発見されたのだろうと容易に察せて]
……───っ…
[昨日は見なかった、見ずに済んでいたものに過る思いに一度強く目を瞑り。
夜着代わりのワンピースの上にストールを羽織って、廊下へ出ていった]
─ 2階・廊下→3階・ギュンターの私室 ─
[廊下に出ると、黒猫が何か訴えようとする様にニィニィと鳴いている。
自分を見て、階上を見上げる仕草をする黒猫に近づき]
…モリオン。
エーファは、上に、居るのね?
[黒猫とあまり離れている所を見たことがないだけに、少年が上に居るのだろうと問いかける。
返る答えは当然無いが、間違いないだろうと思い3階へと急ぎ上がった]
─ ギュンターの私室 ─
[その場には、既に屋敷に居るほとんどの人が駆けつけていた。
中を見ずとも伝わる鉄錆の臭いに、眉を顰めて口を覆い]
……だれ、が。
[落とした呟きは、誰かに拾われることはあっただろうか]
[イヴァンの言葉>>67に、静かに頷く。
新しいシーツを持って戻ってきたイヴァンから
仮包みした理由を聞くと、感心したように声を漏らし]
イヴァンさんは優しいんですね。
私なら多分そこまで気が回らない。
[ギュンターの事を感じ取り、
一瞬動けなくなるくらいには動揺してしまったから、
そんな感想を漏らして、シーツが丁寧にはがされるを見、]
――…そちらに移動させた方が良いなら、
動かすのを手伝いますが、
[床に広げられたシーツへと目を遣り、イヴァンに確認しながら
ギュンターの目許に一度手を翳して、
そうして、遺体の右手を取り、それから大きく裂かれた左手を――、]
─ ギュンターの私室 ─
[ふらりと、ギュンターの元へ向かおうとする女の足を、誰か止める者は居ただろうか。
誰にも遮られなければ、ギュンターの傍らに立って。
誰かが引き留めるなら、その場で立ち止まり]
…おじさまは、朱花だって。
あの人が、言ってたの…本当、だったのね。
[だから、ギュンターは襲われたのだ、と。
呆けたような呟きを、ぽつり落とした*]
─ 三階廊下 ─
……だいじょうぶ。
[小さく頭を下げる仕種>>66に答えるように小さく呟いて。
部屋の外に出て、視線を巡らせる。
黒猫は、そう言えばどこにいるんだろう、と。
今更のように思うのと、カルメンが上がって来るのはほぼ同時か。
それに僅かに遅れて、黒猫が駆け上がって来るのが目に入る]
……あ。
そか、お前。
[みんなに報せてきてくれたんだ、と。
そこに思い当たったら、何となく力が抜けて。
その場に座り込む事こそなかったものの、飛びついてきた黒猫をぎゅ、と抱え込んだ。*]
─ 夜更け ─
[>>*10呼びかけに返る声は眠たげで、起こしてしまったかと申し訳無く思ったものの。
然程時間を置かずに駆けつけた獣を見れば、呼んで良かったか、と口端を上げた。
勿論、>>*11毛色を褒められたことが嬉しかったのもある]
ありがとう。
イヴァンも綺麗よ。
身体は星が眠っている夜みたいな色だし、金色の目は満月みたい。
[自分が月光が照らす氷雪の様な銀ならば、イヴァンはその頭上を覆う夜の空の様で。
イヴァンらしくて良い色だ、と思いながら声を返した]
[それから、あまり時間をかけてもいけないとギュンターを食べる様に促そうとして]
ついてる?
[近付いてきたイヴァンに、最初何を言われたかは分からなかったけれど。
続いた行為で意味は分かったものの、思いもよらぬことできょとんと何度か瞬きを繰り返し]
…教えてくれたら自分で取れるのに。
[恥ずかしさと苦笑の混ざったコエを向ければ楽し気に笑われたから、もう、とだけ言って寝台へと意識を促した]
…小父様の後に入ってきた人が居たでしょう?
あの人がね、小父様のこと『朱花』って言ったの。
『朱き花がいうのだから従わなければ』って。
[既に命を失くしたギュンターの身体から未だ溢れる朱を舐め取る>>*12イヴァンの呟きを拾い、答える。
朱花でなくとも命を奪うつもりではあったけれど、先の数瞬はそんなこと考える余裕もなかった。
幻燈歌に謡われていたのは成程真実だったと、身をもって知らされたのはイヴァンも同じ様で]
─ ギュンターの私室 ─
[感心するようなライヒアルトの声>>71には苦い笑みを浮かべて]
…エーファは、前にも肉親喪ってっからさ。
まだ吹っ切れてもいねーみてーだし。
[エーファが、氷の音が気になると言っていたことを思い出す。
あの時も強がりを決め込んで有耶無耶にしようとしていた。
今回ばかりは、と思い吐き出すよう言ったが、それも強がりを強めただけ。
それが余計脆く見えてしまう]
そうだな、移動させてからの方が良いかも。
[祈るのも綺麗に整えてからの方が良いだろうと、ライヒアルトの手を借り新しいシーツへ移動させることにする。
両手を組ませようとする様子を眺めていると、後からやってきたカルメンがギュンターへと近付いて来た>>72]
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