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― 翌朝・館外 ―
[その日は早朝、何時頃からかは自分もよく覚えていないが、目が覚めると外に出て仕事放棄していた。理由はいろいろあるが、何となくサボりたい気分だった、というのが一番だった。
メイド長にバレたら大目玉だろうが、そこはそれ何とか言い訳を考えながら、一人でふらりと崖の上を彷徨った。何時も通りの生活をしていれば、異変にはいち早く気づけたかもしれない。]
あれ?
[騒がしさに気づいた時には、時既に遅し。]
[何が起こったのかは解からないが、何かが起こったのは解かった。そんな、何時もとは違う慌しさに、緑の瞳はゆっくり細まる。スカートの下にある、ナイフの位置だけは無意識に確認していた。
館へは戻らずに、真っ直ぐ向かうのは一番慌しい音のする場所。]
んなっ。
[とはいえ橋が燃えた、丁度その時を目の当たりにすれば、細まった瞳はまあるく開く。]
おいおい後先考えてねーわねこれ。
[舌打ちこそしなかったが、呆れたように呟いた。これではこの崖からは出られない。]
[音を立てながら燃える橋の向こうに、料理長の姿が見えた。誰かを探すように叫ぶような口格好で、どうやら名前を呼んでいるようだった。
その目が遠く、崖のこちら側の自分と合うと、表情はすぐさま変わっていった。人は絶望するとこんな風に表情が変わるのかと、他人事のように遠くから眺めていた。]
あんな普段出さないような声出しちゃって。
(聞こえないけど)
[溜息ひとつ。
未だ何が起こったのか要領得ていないが、事態はえらく深刻だった。
そして炎の向こう側へ逃げ延びた人へ、ひらひらと手を振った。]
ばいばーい。
[そう口を動かして、くるりと背を向けると館へ戻る。
もうここに居ても失うばかりで、得られる物は何もなかったから。]
─ 回想・前日 ─
[食堂に入り、用意された席につく。
先に席についていた面々に笑みと会釈を向けたところで、ふと一人の男性に視線が止まる。
>>1:82返された笑みはどこかで見覚えがあるようなと記憶を辿り、以前自分の店の顧客から紹介された画家だと気付いた。
彼の描く風景画にいたく感銘を受けたのだと熱く語られ、その時拝見した風景画のイメージでドレスを作ってほしいという依頼も受けて。
ドレス自体はマーメイドラインのシンプルなデザインにしたものの、碧から翠へと変わる繊細な色合いを出す為の染色に苦労したから覚えているが、彼にとってはたった一度会った相手だから記憶に残っていないかもしれない。
だから、ではないがこちらから声はかけることなく。
聞こえる会話にも、笑みを零しはするものの口は挟まなかった。
食事を終えて、食後のお茶を頂いて解散の空気になると自分も席を立ちネリーに声をかけ]
お仕事増やしてしまって悪かったわね、ご馳走様。
料理長にも美味しかったとお礼を伝えておいて下さる?
─ 回想・前日 ─
[微笑みと共に首を傾げて。
>>1:70アーヴァインからの返事はここで聞けただろうか。
ここで聞けずとも部屋に戻ったところで使用人から言伝が届いただろう。
部屋からトランクをひとつ持ち出すと、そのままアーヴァインの私室に向かい]
グレイヴスさん、お久しぶり。
手紙で頼まれたもの、持ってきたわよ。
[こつりと扉を叩き、声をかけ。
返答を確認してから中に入ると、トランクを広げて2着の服を取り出した。
一着は目の前の男性に合わせて作った深紅のドレススーツ。
もう一着は、パフスリーブで裾がふんわり広がる真紅のドレス。
二着ともに同じ白のレースをアクセントに使っていて、よく見れば揃いだと分かるデザインで]
どう?
今回の服もお気に召して頂けたかしら。
─ 回想・前日 ─
[悪戯な笑みと共に問いかけると、不器用な笑顔で肯定を返されて。
娘も気に入ってくれるだろうと言う男性に、ありがとうと礼を言ってから]
気に入ってもらえたら良いんだけど。
ヘンリエッタちゃんには明日見てもらおうかしらね。
そう時間はかからないと思うけれど、今からだとちょっと夜更かしさせちゃうもの。
[大人の体は大きな変動が少ないが、子供はそうはいかない。
その為ヘンリエッタの服はいつも心持ち大きめに作っておいて、成長に合わせて裾や胴回りを詰め直している。
もう慣れたものではあるが、それでも多少の時間はつき合わせてしまうことになるからと笑って]
殿方の部屋にあまり長居するのも何だし、そろそろ失礼するわね。
お休みなさい、また明日。
[そういって微笑み、アーヴァインの部屋を後にした。
誰かに会えば柔らかな笑みを向けたが、話しかけられない限りは足を止めることなくネリーに案内された部屋へと戻り休んだ]
─ 回想 終了 ─
― 朝/廊下 ―
何……?
[返事>>48に、眉根がきつく寄せられる。
相手の肩が跳ねた時に離れた手は、中途半端な位置で浮いたまま。
まるで睨みつけるようにしたまま沈黙し、やがて]
性質の悪い冗談……では無さそうだな。
[僅かに息を吐き、外した視線は再び窓の外へ]
……でなければ、アーヴァイン殿があれを止めぬのは可笑しい。
[落ちた橋の先には未だ幾人かの影がある。
腕を組み、目を一度傍らの人へと戻して]
しかし、人狼と言ったな。
何故そう思ったのだ。
[状況が少し飲み込めた為か、尋ねる声色は幾分か落ち着いてはいた。
問い掛けながら再び窓へと視線を遣る]
……む?
[1人だけ、此方側に使用人が居る>>51のに気がついた]
─ 朝・客室 ─
[ここ数日仕事にかかりきりだった為不足していた睡眠を体が補おうとしたのか、女の眠りは深かった。
荒れる風の音も気にならぬほど、ぐっすりと眠って。
その眠りを破ったのは、悲鳴のような声]
……う、ん…?
[夢と現を行き交いながら、ゆっくりと体を起こし。
徐々に目が覚めると共に、外から聞こえる声がひどくざわついているのに気づいた。
何か起きているのだろうとは分かるが、何かが分からず。
不安に駆られて、寝巻きの上に上着だけ羽織って外に出た]
─ 前日/書庫→客室 ─
ま、ウチは珍しい方だと思うけどな。
[納得の表情>>16にさらりと返し。
礼の言葉にはいやいや、と軽く言いつつひらりと手を振った]
んじゃ、俺は自分の探し物に戻るわ。
[軽く告げた後、向かうのは史書の棚。
そこから数冊選び出した後、それを片手に書庫を後にして。
用意してもらった部屋に落ち着くと、窓の向こうの様子に目を細めた]
……なーんにも、なきゃいいが。
[小さく呟き、持ってきた本のページをぱらりと捲る。
読み始めれば時間忘れるのは常の事。
引き込まれたまま、意識はいつの間にかふつりと途切れて眠りに落ちていた]
……ったぁく……ここは一番、後が面倒なとこだったんだがなぁ。
[使用人の誰かであれば、強引に崖下に落とすなどして秘匿する事もできたのだが、さすがに主はそうも行かない。
何より、飛び散ったあかいろの始末をしている時間もないだろう。
となれば、今やる事は]
おいで、ハーノ。
ここにいて、他の誰かに見つかるとやばい。
[できるだけ早くここから離れ、また、喰らった者からその痕跡を叶う限り取り除く事。
黒狼は、仔にここから離れる事を促す]
あかいのつけたままだと、すぐに見つかってこっちが狩られちまうからな。
[口調は冗談めかしているが、さて、この先どうするか、という思案はその後もずっと巡っていた]
[言葉に紡ぐが漸くで、立ち上がる事は出来ず。
請け負ってくれたユージーンを見送り、再び視線を落とす]
……アーヴァイン。
もっと、話をしたかったよ……
[色を喪った顔はもう笑わない。声を発さない。此方を見る事も、ない]
[もう、幾度目になるだろう。
力無く首を左右に振り、一息、二息、置いてから立ち上がる。
何かで覆えればと思ったけれど、回らない頭では見付けられず]
[今暫し。額を押さえて立ち止まる]
─ 3階・父の寝室前 ─
[実のところ、母の死についてはほとんど覚えていない。
赤い、あかいいろだけが鮮明に記憶に焼きついているだけで、父からも、もうあんなことは起きない、と、そう言われるだけで詳細は聞かされていなかった。
あかいいろの光景もまた恐ろしい光景だったらしく、ヘンリエッタは今までその光景を忘れてしまっていたのだけれど。
今またその目で見てしまったために、かつての赤い光景が蘇ってしまっていた]
───……───
[カタカタと身体が震える。
父の部屋に見えるあかいいろ。
確かめたいけれど、確かめるのが怖くて。
声も出ず、身体も動かず、しばらくの間廊下で身を震わせていた]
─ 深夜 ─
ぅ ?
[黒狼が零す言葉>>*12の意図が読めず、仔狼の姿のまま首が傾ぐ。
今は、長らく得ていなかった糧の味に満足する感覚の方が強かった]
はぁい
[おいでと言われて素直に黒狼の下へと近付く。
ペタペタと床についた赤い足跡が、通常の狼より一回り小さいことに気付ける者は居るのだろうか。
尤も、それに気付く前に踏み荒らされる可能性が高いのだが]
おにぃちゃ おなか いっぱい
ねむ
[満足感が強すぎて、睡魔が強くなってきたようだ]
― 朝/廊下 ―
[窓の外でひらひらと手を振るその1人>>63に、眉間の皺を更に深くしてから]
む……ああ、お前か。
[向けられた挨拶>>59に返すのは短い声。
腕は組んだままそちらを見る]
使用人共は逃げ出したらしいぞ。
一人を除いてな。
[常に無い鋭さが見えて僅かに目を細めながら、情報をつけ足した]
─ 深夜 ─
[呼びかけに応じて素直にやって来た仔>>*13の様子に、黒狼はは、と息を吐く]
そーか、腹いっぱいになったか。
……でも、眠る前に、毛を綺麗にしないとな……ほら、乗っかれ。
[身を低く屈めて、背に乗るようにと促す。
睡魔に負けてしまうようなら、首をくわえて運ぶようか。
ともあれ、一度客室まで戻り、そこで血を拭ってから再度少女の私室まで送り届ける事になるだろうが]
(……この天気じゃなかったら、やっとられんなー)
[この状況を呼び起こしたのもこの天気のような気もするが、それは横において。
今は、風鳴りと豪雨のもたらす音にまぎれて動くことを優先した]
─ 深夜 ─
はぁい
[>>*14 もう一度素直に返事をして、促されるままに黒狼の背の上へと。
腹ばいになって乗っかると、その状態でうとうとし始めた。
綺麗にしてもらうなら、その作業中に一度目は覚ますものの、自室へと戻ったならすぐさま深い眠りへと誘われることだろう]
─ 廊下 ─
[廊下に出て、まず使用人の姿が見えないことに気付いた。
はっきり何時かはわからないが朝なら一人くらいは廊下で掃除なり何なりしているはずなのに。
ますます感じる異様さに不安を隠すことなく顔に出して]
…あら?
[視線をめぐらせ、男性が窓の前に集っているのに気付いた。
強張ったような雰囲気に声をかけるのに少し躊躇い、足を止めて]
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