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[ふと手を見れば、嵌めたままの手袋は鍵の錆で赤茶けた汚れがついていて、軽く眉を顰める。恐らくはポケットの中にも同じ汚れがついているのだろう]
後で洗わないと…
[溜め息混じりに床に目を落とす。
婉曲した刀身を持つ剣。その下に並べられた大小の瓶は毒薬の類だろうか]
[ふ、と息を吐き。]
恋人の仇を取る為、だったそうですよ。
ちょうど、今滞在中のローズマリーさんと瓜二つの方で。
[4本目のワインを完全に空ける。
ぽたり。
最後の一滴が、グラスの中に。]
……毒を盛った人物はね。ハーヴェイ君やローズマリーさんもよくご存知の人物です。
[去り行くハーヴェイを、名残惜しげに見つつ。]
おや残念。ここからが面白い話だったのに。
─二階・客室─
[部屋に戻って、一つ、ため息]
……あとで、お湯使わせてもらお。
[小さな声で呟きつつ、取りあえずは、と*作ってきたサンドイッチを食べ始めた*]
[ 聞えたルーサーの言葉に零れる嗤い。]
……随分と罪深い人間のようだ。彼の男は。
[ 天に召される事は出来たのだろうか等と考えるも、抑死後の世界等在るか如何かも怪しかった。]
―… → 一階・武器庫前―
[ 去り際に投げ掛けられたルーサーの言葉は聞えていたか否か、然し何方にせよ振り返る事は無く、歩みを進めれば軈て角の部屋の扉に辿り着き、其の鍵穴に差し込まれた儘の赤錆びた其れが見え、僅か目を見開き驚いた表情へと変わる。
否、彼の場から失くなっていた以上、容易に予想出来た事だった。そして中に人が居る事も推測出来たろうに、其の扉をそっと開いてしまったのは迂闊だったとしか云い様がない。]
うん。
疑うのも、疑われるのも嫌。
[頷きかけて、殺めるの言葉に目を見開く。]
でも、人を……殺すなら、私は中途半端に信じたくない。
でも、私は今、殺してもいいくらい疑ってる人はいない。
ねえ、あなたはいるの……?
ん?
ああ。聞いておられましたか。
[穏やかな微笑。]
いやなに、悪い異端審問官が毒で『殺された』理由をね。
恋人の仇打ち、だったそうです。
人狼でもないのに、多数決で決められて撃ち殺されて。
……で。
復讐の矛先は、手を下した異端審問官に。
[グラスの中身を、一口。]
―広間―
えぇ、聞こえていたわ。
……そんなことがあったの。
そんなことをしてもなにも変わらないというのに
[とても悲しいことだと思う。
それから彼を見て]
はなしたいことって、なんだったのかしら?
わたしも、あなたに話したいことがあるのだわ
聞きたいことは一つだけですよ。
あなたは。
[数瞬の沈黙。]
『特別な力』を持っていなくても、相手を信じ抜く事が出来ますか?
仮定の話ですよ。直感で答えてくださって結構です。
[人の良さそうな笑みで。ローズマリーを見やる。]
[ヘンリエッタの言葉に、少女は困ったように微笑んで]
私は疑われたらそれはそれで仕方が無いと思っている人間なの――
諦め…ではないけど…ね。どうしても消極的になっちゃう。
[体を流して、湯船に身を沈めながら…]
実は私も…そこまで疑っている人は居ないの…。
楽観的よね…。アーヴァインさんが死んで…神父様が異端審問官として動き始めたというのに…。
誰一人として疑う人が居ないって言うのも…。
[微笑みは、薄紅色の唇を緩めて――]
[すっと伸ばした指先は――]
[ヘンリエッタの髪筋へ――]
ねぇ、ヘンリエッタさん…。今も…私の事が怖い…?
――ッ!
[軋んだ音。扉の開く音。人の気配。
心臓が跳ね上がる。
いつ誰が来るとも限らないのだから、あまり長居すべきではなかった。だが今更後悔しても遅い。
大丈夫、見ていただけなのだから――まだ]
[恐らくは背後にいるだろう人物に気取られないよう、息を整え。
それからそっと振り返る]
[特別な力。
彼は、しっているのだろうか。
わたしは、じっと彼の目を見る]
人によると答えたいのかもしれない。
でもわたしは、信じられないのだわ
……ママだってそうだったもの
[言わなければと思っていたこと。
すこし、口唇を震わせる]
わたしは、昨日。
……彼を判別したわ。
…………でしょうね。
[一瞬だけ見せた、寂しげな顔。]
結果は仰らなくて結構。
『今も傍にいる』事自体が、証明になりますからな。
[二番目の答えに対して。特に感情の色は見られず。]
[ようやくワインを飲み終わる。
テーブルに両肘を突き、そこに顔を近づける格好に。]
……で。
私の事は、『狼かもしれない』と思わないのですか?
[感情が全く見えない、眼鏡越しの目]
[ 室内には予想通り――或る意味では予想以上――幾つもの武器が並んでは居たが、其れは一見すれば美術館か何かの如くに見えた。然し注意して辺りを窺えば、周囲に漂う香りが僅かに散る黒ずんだ赤い色が其れらを否定し、此れらは美術品等ではない、“実用品”なのだと無言の意志を放っている。
其の只中に深い森を思わせる緑髪の少女は居り、今正に此方へと振り向くところだった。其の表情は薄暗に隠れ見る事は出来ない。]
……あ。今晩和。
[ 擦れた声が僅かに零れ、続いた挨拶は余りにも場違いだった。]
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