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―東殿/氷破の部屋―
[微かな鎖の音も精神の気配も気付いた様子なく返る声に口元に笑みが浮かぶ。けれど、恩人とて引くつもりは無い。開けた扉からするりと入り込み、後ろ手に鍵を閉めた]
……おはようでしょうか?
お目覚めのところ申し訳ありませんが――…動かないでいただけるとありがたく。
[広口の袖から半ば出た指先が眼鏡をずらし、隙間から赤紫が覗く。体の動きを縛ろうとする心の力が氷破の竜へと伸びる]
―東殿・氷破の部屋―
[心竜の姿が見えた時点で、袖に手を入れていて]
おはよう、かしらね。
正直、時間感覚が狂っているのだけれど……これも虚竜の王の影響かしら。
[息を吐いた所で、袖からとあるものを取り出し、両手で顔へと持っていく]
―東殿・氷破の部屋―
……、皮肉なものね。
貴方の為にと頑張って作ってたものを、こんな形で使うことになるなんて。
[それは、アーベルへと与えた物と同じ形をした眼鏡。
本来赤紫に見えるべき心竜の瞳は、紺碧の色に見えた]
―東殿/氷破の部屋―
[氷破の竜がかけた眼鏡に、青年の笑みが苦笑に変わる]
……迂闊でした。貴女は氷破なのに。
[足元で未だ眠りにある様子の大地の老竜に視線を落し、直にブリジットへと戻す]
時が移り、陽が消え、闇が隠れた。
時の流れなどもはや意味はない――…感傷も。
[完全に眼鏡を外し胸に落す。青玉の銀鎖が眼鏡を支えて揺れた]
―東殿・氷破の部屋―
氷破以前に、私はただのブリジットよ。
[ちらりと紺碧の瞳が老地竜の方へと動いて見えたが、直ぐに戻って]
例え巡る要素が薄れても、まだ命も心もあるわ。
感傷だって、それぞれの記憶。時間は――記憶の積み重ねだもの。
[眼鏡が、胸へと落とされる。刹那、心竜が肉迫し]
―東殿・氷破の部屋―
ッ!
[袖から取り出した、水晶の扇子で手を叩くように、回り弾く。
氷竜の身体能力は他竜と比べて高くない。
老地竜を守りながらの攻防では、明らかに分が悪いだろう]
―東殿/氷破の部屋―
[眼鏡だけを落そうとしたのが甘かったか、青年の手は水晶の扇子に弾かれた。次いで放たれた氷の波を後ろに飛んでかわす。下衣の裾に小さな氷の欠片が散り、動きに合わせ煌く]
――…眠れ!
[智に長けた青年は荒事に向いていない。しかしエインシェントの身体能力は備えていた。袖に手を入れて鱗をむしり、血のついた青を挟む二つの指が空中に陣を描く]
―東殿・氷破の部屋―
[青い光に包まれると、頭に靄が掛かったようになる]
……っ、う……。
[水晶の扇子は床へと落ち、氷破の竜は膝を着く。
眠気を封印しようにも、その思考すら眠気に覆い尽くされて行き――]
―東殿/氷破の部屋―
[包み込む青の光は、静かに氷破の竜を眠りへと導いた。膝をついた華奢な体が倒れきる前に片腕で掬い上げる]
おやすみなさい……今は、夢の中に。
[もう仔竜でない青年は耳元にそっと囁いて、氷破の竜の体を抱き上げてベットへと寝かす。薄い上掛けで体を覆い、眼鏡へと手を伸ばし取り上げた。
そうして、細い銀縁の眼鏡を片手に握り、力を入れる。玲瓏な音を立て、美しい封じの硝子は霧氷のように床へと降り積もった]
― 西殿・結界付近 ―
< 何時しか眠りについていたらしい。
時の移ろいは定かではないが、ゆっくり浮上した意識を外界へと向ける。
首ではなく腕に鎖を絡め、東へ向けて歩を向ける。
進むにつれて、熱を抱く石。
もう一振りの剣と、共鳴しているようだった >
―東殿/氷破の部屋―
[そして青年は静かに歩み寄り、大地の竜の傍らへと膝を付いた。老竜は眉を顰めており浅い眠りにある様子に見えたが、構わずに腕輪へと赤が伝う指を伸ばす]
――…っつ!
[奪い取ろうとした手を拒んだのは腕輪の契約――ではなく覚えのある氷破の力。
痺れを残す指先の赤を舌で舐め取り辺りを探すと、眠りに落ちた際に零れ落ちた氷の歯車があった。手に取り、赤に染まらぬ封の鍵を握りつぶそうした――その時]
―――回想
[ザムエルにブリジットを運んでくれとのお願いは、少しだけ顔を歪ませて了承した。
氷が嫌いなわけではない。ただ苦手なだけだ]
……力仕事には向いてないのだけれどねぃ。
[ぼやき、ブリジットの腕を肩に回して、ふんぬらば!とザムエルと共に力を合わせて、ブリジットを部屋に運ぶ]
[―――ぴき……ぴき……]
[運ぶ最中に鳴る音は、二人には聞こえただろうか。
水が、氷の如く低温に触れたらどうなるか……答えは簡単だ。
腕が、体が、凍っていく。
それは、「変化」を生業とするナターリエにとっては、たまらないほどの苦痛でしかなかったが、それでも、『力ある剣』の暴走を止めるためにやってくれたことだ。
文句を言えるはずもない。
―――ややして、ブリジットを部屋に連れ込み、ベッドに寝かしつけると、はぁ……と大きな息を吐いて、自室へと戻っていった。
力を消耗し、凍らされるところだったのだ。
体力は、いちじるしく低下している。
それを回復するためにも、ナターリエは深い眠りに就いた]
―――回想終了―――
―東殿/氷破の部屋―
[機鋼の仔竜の力は既に知っていた。封を解き精神の力を流し込み腕輪の抵抗を押さえ奪うには時間が足りない]
――…鍵を貴方に。
[代わりにもう一度はがした鱗で大地の老竜へと術をかける。
眠りの奥の深層意識へ『抑えられない』という*言霊を――…*]
……。
[ゆらり、目を覚ました。
もしも、眠りの間に襲われていたのならば、太刀打ちできようもなかったが、どうやらそれはなかったようで、一先ず、ナターリエが、ほう……と息をついた]
やれ……少しは回復したかねぃ。
[確かめるかのように、右手を上げてみたが、その動きは鈍く―――]
氷の影響が、まだ抜け切れていないようねぃ。
[くすりと苦笑した]
まあ良いわぁ。
まだ、行動できる分だけましですものねぃ。
さて、と。
氷の様子でも見に行きますかねぃ。
色々と……聞きたいこともあることですし。
[少しだけギクシャクする体を起き上がらせて、歩みは扉の向こうへ……行った後に、すぐに戻ってきた]
[服を着込み、氷の部屋の扉を遠慮もなく開ける。
ぎしぎしあんあんとかあっても、むしろ、望むところである。
しかし、そういうこともなく、昨晩と変わらずに眠り続ける氷の姿と―――]
……大地の。
ここで倒れてたのですかぁ?
[呆れた声で、床に寝そべるザムエルの姿を見つけた]
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