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─ 自室→廊下 ─
[心身ともに疲れ果てた眠りは深く、何か騒動があったとしても目覚める事はなかったかも知れない。
そんな中で見ていたのは、幼い頃の夢。
年上ばかりの環境に慣れていた所で、初めて接した年下の存在。
最初は、どうすればいいのかわかんなかったな、と。
夢現の中にそんな思考が浮かんで、消えて]
……ん……。
[やがて夢は霞んで消え、開いた目にぼんやりと映るのは見慣れた天井。
妙に身体が気だるいのは、気のせいか、それとも]
……水……。
[ぼんやりとした思考は、喉の渇きにそれを癒すものを求め。
ベッドから起き出すと、そのままふらり、と部屋を出た。
昨日は着替えもせずに眠りに落ちていたから、服のあちこちに皺がよっているものの、それと気づく余裕はなかった]
―個室―
……?
[もうひとつ姿があることに気が付いたのは、目の前の“人狼”が消えた後のことだった]
ネリーさん?
貴女も死んだのですか。
[使用人の見習いの少女。比較的付き合いがあったと言えるそれを前にしても、声に悼む気持ちは見られなかった。
そちらにも同じく手を伸ばしてみたが、触れる直前で霧散してしまう]
襲われでもしたのかな、さっきの奴に。
[他に同じ存在がいるとも、彼女が襲われた時間も知らないから、安易に結論付けた]
[崖の上、邸に穏やかに流れるのは鎮魂の曲。
鮮やかな色が数度鳴って、静かに、陸の孤島を満たす。
黒と白から生まれる、無数の色は鳴り止まなかった。]
― 一階廊下 ―
[書庫とは反対側の廊下の奥。
使われていなかったのだろう部屋の中。
血に濡れたネリーが倒れている姿が見える。
廊下にまで出ていた血は乾きかけているようにも見えた]
……メイドの嬢ちゃんかい……
[苦手そうにしながらも客人への対応をちゃんとこなしていた娘の変わり果てた姿に、そっと黙祷をささげた]
……さァて、伝えたほうがいいだろなァ……
[死体に駆け寄ることも、その場で声を上げることもせず。
とりあえず執事でも呼びにいくか、と廊下へと戻る]
─ 一階廊下 ─
[覚束ない足取りで階段を降り、はあ、と一息。
視界は今の所はっきりしているから、ふらついている理由はそれではない]
……やっばい、かな?
[冷たい風に吹かれすぎたか、と。
過ぎるのはそんな思い。
一度足を止めてしまうと、次の一歩は中々踏み出せず。
しばし、その場で呼吸を整えた]
― 回想・埋葬の後・自室―
[アーヴァインの埋められた場所を見れば、また涙はこぼれた。
ただ、自分の目をこすって、それを止めて。
部屋に戻った後、バスケットの中、小さな小瓶を取り出す。
それはケネスにあげたのと違って、革紐がついているわけでもなく。中に柊の葉と実があるわけでもない。
「わたしたちの血筋の女だけが持つ、大切なお守り」
母から伝え聞いた内容を思い返す。
守りたい人に渡すと、そのお守りが、相手を守ってくれる。何から守ったのかは、それでわかる。
わたしのはあなたにあげる、と。
母は言って、ウェンディにそれを渡した。少女はもちろん双子の兄に。
――人狼が、少女を狙ったのは、そのすぐ後のことだった。
母のお守りが守ってくれたのだと、翌日に喜んで、それから。
そのまた翌日に、両親が、食べられた。瓶の中は空になった。
オードリーが抱きしめてくれた体温を思い出す。ネリーが来てくれて、お話をしてくれたことを思い出す。
そうすれば瓶を見ても、外を見ても、眠れなくなることは、なかった**]
― 翌日一階廊下 ―
[さて、執事を探すとしたらやはり厨房のほうだろうかと、廊下を歩きながら考える。
のそりとした足取りで、ネリーの遺体がある、廊下の奥から広間のほうへと向かう。
考えている場所と違うのは、厨房の場所などはっきりとは覚えていないからだった]
─ → 一階廊下 ─
[先ずは広間へと入り、暖炉に火を入れる。
それから厨房で食材や昨日の余りの確認をして。
ふと、違和感に気付いた]
……この時間にネリーが居ないのはおかしいですね。
[彼女も使用人である以上、自分と同じかそれよりも前に起きていることがほとんどだ。
姿を見ないのは、おかしい]
寝込んでいるので無ければ良いのですが…。
[確かめる必要があるかと考え、廊下へと出てネリーの部屋へ向かおうとした]
―個室/翌朝―
さて、人狼が死んだとなると、後は……
[クローバーの栞を片手で弄びながら、思案する。
他の者に伝えるべきか否か。普通なら思考はそちらに向かうのだろうが]
橋さえ復旧すれば帰れるが、いつになるやら。
それにこのままだと完全に無駄足だ。貰えるはずの金はパーだし。
……ああ、そう言えば叔父さんの遺産はどうなるのだろう。
こっちに回ってくる可能性は……
[既に人狼は居ないものと思っているから、思考は他に移る。
叔父に妻子はいなかったはず。あの分なら遺書を残す間もなかっただろう。
そうなると、順当に行くならば]
……彼か。
[そこまで考えて、小さく含むような笑みを浮かべる。
それから立ち上がり、部屋を出た]
― 一階廊下 ―
[廊下を歩いていて先にであったのは執事とソフィーどちらだったろうか。
ソフィーが階段傍から動いていないのなら執事を先に見つけ]
……ああ、いたか……
メイドの嬢ちゃん、やられてたぜ。
[執事の近くに寄りながら、あっさりと見たことをつげる]
[黒曜石の眸はメイに向けられた。
執事とその使用人。メイから見れば、一対二。
最初の一撃は、ヒューバートから始まる。]
[微かな動揺。
最初に即座に襲い掛かるとは思っていなかったのだ。
肩を掠めた浅いが鋭い痛みに、メイは怒りの声をあげる。]
………っ…。
[無理やり押し通ろうとしたメイと揉み合いになり、
メイの力任せの一撃を灰の容器で防いだ。
一時的な混戦。ヒューバートに幾らかの傷が出来る。]
くっ、
[灰の容器をメイの身体へ投げ、直後―――]
ボグゥ
[奇妙な音。息を呑む。
呆然と立ち尽くす。低い青の音。
悲鳴を上げて、背骨を叩き砕かれたメイが地面を転がる。
涙の浮かんだメイの両眼が、
ヒューバートを殺意を籠めて睨んでいた。]
「それではお休みなさいませ───ローレンス様。」
[火掻き棒の一撃で、メイの頭は陥没し、
ぐるりと眸は引っ繰り返り、倒れた。
男はそれを呆然として見ているだけ。
人殺しの経験はないのだ。]
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