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何故、貴様らはそうして他者を気にかけるか。
理解に苦しむな。
[吐き棄てられたそれにも、
感情のいろは浮かぶことなく。]
御自由に。
[瞬きの後には、形だけの月は消える。]
全く、因果なものだ――
もしくは、敢えて用意されたカードか。
[鞘を下ろして、腕を組んだ。]
生憎と。
貴様らに名乗る名前は持ち合わせていない。
ブリジットと呼べばいいのではないか。
[ふらつくティルに手を差し伸べる事は無く、
覗き込んでくるユーディットに表情を変える事もなく。]
敗者は敗者らしく、大人しくしていた方が好い。
治るものも治らないだろう。
[そもそもにして、治す気はないのだろうが。]
何故って……。
俺は、一人では、生きられなかった。
親に捨てられて、兄貴に拾われて。
それで、生きられた。
そして、俺はその兄貴の『誓い』を引き継いだ。
だから……それは、俺にとっての『当たり前』なんだよ。
[それの理解に苦しむ、と言われても。
こちらには、その事が理解できなかった。
大切な者たちと共にあり、それを気遣うのが、彼にとっては当然だから]
[御自由に、との言葉には、じゃあいわねぇ、とさらりと返して]
因果っつーよりは、仕掛け人の悪趣味……ってのが、正しい気もするがね。
敗者でなければ、「不要品」と言えばいいか。
[眼差しに温度は無い。]
少なくとも、
今は、大人しくしているが好いよ――
[何処か、含みのある言い回し。]
何にせよ、治療所で暴れても詮無いだろう。
そうか。
私の「当たり前」は、異なる。
それだけの話か。
[彼女は組織の中で生きて来た。
それだけ、と切り捨てたにしては、珍しく、僅かに俯き伏せた眼は思案げないろを見せる。
ゆるりと顔を上げると、腕を解いて鞘を戻した。
今、戦う意志はない、という表明。]
大切なものが居る事は大切なことだ、と。
そう言っていたのは「ブリジット」だったかな。
あれも、貴様らを羨んでいたようだ。
[悪趣味との一言には、違いないと同意を示した。]
[声が返って来たのは、その時。
二人との対話を一時中断して、口許に手を添えた。
一拍を置いて。
指の合間から除く朱唇が、微かに動く。]
――
[響く声。 たった一度、ゆるりと瞬いた。
言葉を返す事無く、揺れる鈴から視線を逸らして。
鉄の扉が、ぽっかりと口を開けた先へと乗り込む。
地上へと向けて動き出す小さな箱の中で
何かを見上げるように、ゆるりと視線を上へ向ける。]
……、駒でも構わないと。
そう思っていた筈じゃないですか。
[違ったんですかね。ぽつりと、独りごちて。]
そりゃ、全員の『当たり前』が同じ訳ねぇさ。
同じだったら……こんなくだらない遊びなんざ、なかったろうしよ。
[静かに言って。
戦意がない、という事を感じたなら、こちらも四肢の力を抜いて、伏す]
大切なものは、支えになる……強さになる。
……勿論、弱さにもなるがな。
[呟くように言って。羨んでいた、との言葉にやや、首を傾げる]
……俺と……イレーネ、を?
[零れた疑問は、不思議そうな響きを帯びて]
[小さく、溜息を零す。]
[僅かな浮遊感と共に、低く響いていた駆動音が止まる。
白の壁に隠された、鉄扉がゆっくりと開いて。]
―地上・モニタールーム―
――…、…!
[モニタの前に居座る、思いがけない人物に僅か眉を寄せた。
『下』のモニタでは、友人が映っていないのを確認していたから
てっきり、一緒に居るとばかり思っていたのに。]
…………?
[何が動く音。モニタールームの椅子で聞く。
先に球体2つが音の発生源にレンズを向け。
ワンテンポ遅れて少女自身も振り返る。]
…………。
[目に入る姿にいささか安堵。
何故なら、彼は確かユリアンのおともだち。]
くだらない、ね。
そうだな。
全く以て、くだらない――
[口許を歪める。
それは形づくられたものよりも余程、笑みに見えた。
愉快さを感じているとは思えなかったろうが。]
己には何も無いから、
有る者に対して、羨望の念を抱く。
浅ましいが、人間らしい感情だよ。
好意と同時に、嫉んでもいたわけだな。
だからこそ、イレーネ=ライアーに挑んだのもあったのだろう。
[避けられなかったか、避けなかったか。
押されて、倒れはしなかったものの、壁に背をぶつける形になる。
息を吐き出した。]
全く。
子供を虐めているような気分になるな。
[億劫そうに言って、前髪を掻き上げた。]
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