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[少しの空白の後──、]
一本寄越してくれれば、
多分、自分で打てる。
……ダーヴィッドが、見た目より重いんだ。
[口端を僅かに捲り上げて、そう言った。けれども、ハインリヒの処置には素直に従う。体内を流れる冷たく熱い薬液──手足の痺れが取れ、感覚が戻って来る。そう、左脇腹の縫合後が引き攣れる痛み。身体の軋みが。]
意味、は、
──恐らく、
ダーヴィッドが
カルメンを殺した。
少なくとも、死を確認している、と思う。
[胸を上下させて、息を吐いた。意識を失う際のダーヴィッドの言葉を、先刻のブリジッドのようにハインリヒに伝え、]
恐らく、それで酷くショックを……。
とは、推察に過ぎない。真実は、彼の意識が戻らない事には。
否、二階へ向かう方が先か──。
[カシャンと空になったアンプルが落ちて音を鳴らす。]
―――… …んで…
[殺した…?声が掠れる、また咳が零れた。
ダーヴィッドを見て、きつく眉を寄せて。
ヘルムートに問うてもそれ以上の答えは返らないだろう。
意識を落とした、ダーヴィッドに聞かないことには。
けれども、ゲルダの眸はまるで…]
――…下、先に行く。
後から…、……
[なんとか、そう口にするとその場から立ち上がる。]
[殺す。殺した。誰が。誰を。
いつから、こんな風に周囲は変化してしまったのだろう。
さっきまでみんなで生きようとしていたはずなのに]
[思考を巡らせても、解らなくて
傍にいるベアトリーチェの手を優しく握って
ハインリヒが下へ行くと言うならベアトリーチェの背をそっと後押しする。彼に注射を後ででいいから打って貰いなさいと。]
…3階、奥に…屋上への扉があるわ。
扉の左手…何かあって――
ライヒアルトと…ナターリエは多分、そこに。
……いって、くるわ。
つたえることが 多い…から。
[再びゲルダ達の下へ…、
ゲルダの様子はまだ戻らぬのだろうか。
――――虚ろな 瞳。]
………ェ ル。
[呟いたのはゲルダではなく、違う名前。
ゆるく、かぶりを振って]
…お嬢さん達に薬を打つのは…下へ行ってからにしよう。
即効性で…数値が下がるのが思った以上に早いから…
打った後は、少し疲れると思っておいてくれ。
[行けるか?そう訊いてから。
ゲルダが動けないようなら抱き上げて階下に連れて行くつもりだ。]
[耳に届いたのは、毅然とした声。
肌に感じたのはやわらかいぬくもり。
ゆっくりと、目をあげる。
だいじょうぶ、と伝えようと動く唇。
けれども喉は、空気を震わせる事がもう出来なかった。]
[違和感。
ゲルダの様子に眸を眇める。
…この症状は…よく、知っている。]
――…あまり、強く抑えないほうがいい。
[喉元を押さえるゲルダに落ち着いた声で告げて
自分の喉元を抑えて]
…多分、ここに来てる。
薬を使えば落ち着いて…喋れるようになるだろうから。
それまでの辛抱だ。
[足取りはしっかりとしたゲルダに頷いて]
…
[1人は危険。右側だけ松葉杖をついて立ち上がり
少しだけ不思議そうな顔をしてブリジットへ顔を向ける。]
…私は、1人じゃないわ。
[それとも一緒に来てくれるのかと思い、足を運ぶのを止めた。]
[ハインリヒの言葉にうなずいて、笑おうとした。
けれど、きっと情けない顔にしかならなかっただろう。
倒れて眠るダーヴ。それに寄り添ったまま辛そうなヘルムートさん。
心配そうに、見つめる。]
……1人では ない?
[ただ不思議そうに その言葉を繰りかえす。
下に行くなら
見るだろうか彼女を
カルメンを 確かめるのが 怖い。
――要らない
――意味などないと、もう]
…、蛇を追い払うくらいは、出来てよ。きっと。
[と、階段を昇る。
それから、階段の上からハインリヒを見下ろして
暫く見つめて]
…後で薬を打って頂戴。
―6の部屋―
うーん、そろそろ大丈夫そうです。
それに見張りもあきたです。
[拳を握り、腕を回して感触を確かめる。
問題ない、痛みは多少あるが周りの人間に比べたら軽症だ。
それに、じっとしてるのはあまり得意じゃなかった]
[ハインリヒとブリジットの疑問形の言葉に
そっと胸元に手を置いて表情を緩めた。]
糸もある。
だけど…蛇は、そうね――お願い。
でも、貴方も…好きじゃないでしょう?
[核心めいたような言葉を伝えて
注射器の入った箱はハインリヒ辺りに預ければ
松葉杖をつきながら歩きだす。]
アーベル、大人しくしてるですよ?
僕は外に行ってくる、です。
[ドアを開いてとまった。
念のため釘をさしておくのも悪くないと思った]
勝手に動いたら、ツヴァイにまたさっきと同じ事してもらうように頼んでおくです。
[反論が帰ってくるのは容易に予想できた。
ドアを手早く閉めて逃げるように外へと出た]
―― 回想 衣裳部屋 ――
[カルメンの、髪を撫でた。
喉の奥から、たくさん言葉を紡いで。
けれど、そのほとんどはきちんとした言葉にならない、音。
だんだん、言葉を発する前に考える言葉も、紡げなくなる]
………らぁ あ ばって、くぁさ……
[言葉を止める。ダーヴィッドに譲ろうと下がった]
[カルメンの、静かで、穏やかで、何かを含んだ声がする。
顔を上げて、蒼を探す。
首に、もろそうで、しなやかで、どこか冷たく優しい指の感触]
[右手が小さく痙攣して、左手でカルメンの手に触れた。
移ろう視線は、上にあるだろうダーヴィッドの目を探す]
……か めさ
[名前が、呼べない。
喉に食い込む痛みと、頭の奥から浸透する闇と。
ああ、そうだ。思い出した。攻撃衝動を、無差別ではなく自分に向けたかったんだった。自分に向けてくれれば、ぎりぎりで止められるかもしれなかったから。どうして、こんな簡単なこと、忘れていたんだろう]
ら じょぶ こわ な ……よ?
とな……見、て。し……あ……せ、まて、る
[彼女の手をはがそうとするダーヴィッド。
カルメンに、彼を、未来を見て欲しかった。
最後まで言葉をかけようと思うのに]
[酸素が、頭まで、回らない。
背後から絡みついてくる、魅惑的な安寧。
嵐の中の、魔王の手。
まるでジプシーの舞姫のように抗いがたい、誘惑]
[堕ちきるぎりぎりの瞬間、カルメンの手が離れ、ダーヴィッドへと振り向いた。その表情は見えなくて。幸せそうだったらいいと]
[ドアから出るとすぐにハインリヒの姿があった。
彼は当然のようにアーベルの事を聞いてくる。
最後まで見張りをせず出てきたことが少し後ろめたかった]
え、えーっと……、多分大丈夫、です。
勝手に動いたら、またツヴァイに口移しさせますですと釘は刺したです。
[釘をさすのに使った本人にそれを言うのはなんだか間違っている気がした。
気まずくなり、なんとなく横を向いて口笛を吹いた。
ごまかしたつもりだったが、聞こえてくる舌打ちの音がそれを否定した]
―― 衣裳部屋 ――
[けほけほと、咳き込んだ。しばらくして、楽になる]
[顔を上げた。顔と手の右半分には、斑みたいにうっすらとした変色がところどころに浮かんできていて]
おー あーん?
[目の前からばたばたと去る人影を、左目が瞬きして、追う。
首をかしげた]
[息が、整う。隣にある石像に左手を伸ばした。
右手はだらんとたれたまま。時たま、ゆらり、ゆれる]
あーじょーかー?
[石像の、目を探すようにぺたぺた触れる。
やがて、額らしきところにたどりついた。
左手で右手を持ち上げて、石像の額らしきところに当てる。
もちろん、左手は自分の額]
[左眉だけ、寄る。足に当たった、ちぎれた首輪を拾う。
胸ポケットから、右半分になった眼鏡を取り出して、かけた]
[そうして。誰かが来るか、満足するまで。
毛布や、暖かそうな衣服を石像にかけている**]
―3階奥扉前―
…解らない、――わ。
[離した手、もう一度手を伸ばして
恐る恐るその扉を開いていく。]
―――――
[そこに見えたのは 無数の蛇と、多数の石像。]
……い、や …
[ぐらりと視界が揺れた。]
…そう、か。
今から行くから、大丈夫だろ…。
[>>184先に任せて部屋を出たのはこちらで。
悪かったな、と申し訳なさそうにユリアンを見た、が。
その後の言葉にはとても疲れたような溜め息。]
……病状悪化するようなこと言ってくれるなよ…。
[向かうのが少しだけ怖く、なる。
溜め息ついた後、表情を切り替えると少し険しい目を向け]
…病状を和らげる薬が手に入った。
完治とまではいかないが…即効性で数値がかなり下がる。
特効薬が完成してるってのに、真実味が帯びたってとこか…。
[何処か悔しげにしつつも注射器の入ったケースを見せて]
――――…あと、
[言いにくそうに口篭って]
………また、…ベルトが…
[石になった、と口にすることができないのは。
まだどこで受け入れがたいと思っているからなのかもしれず。]
……イレーネの時と同じ…、…エーリッヒが。
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