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―宿屋前―
[上げられた手に、わずかにうなずくのがあいさつの代わり]
ねぇ…、きいてもいいかしらぁ?
[さきほどまでとは逆の方向に首をかしげて]
今日、団長さんをさいしょにみつけたのって、おじさま?
――……、団長さんがいなくなったからって、あの話が立ちきえるかはわからないから…。
いろいろ、知りたいと思うのよぅ。
[疑いもするが、それとどうじに信頼もしている。
そんな態度をあらわした]
……ライヒアルト。
私は、ライヒアルトが憎い。とっても、憎い。
だけど。
ライヒアルトは、私の大事な道しるべ。そして多分、すごく大事な人。
記憶が戻らなくても、それだけは覚えているんだ。
だから。
絶対に、勝手にいなくならないで。
その為のおまじないを……私がするから。
[そう言った少女が、目を閉じて、その手を胸の前で合わせる]
[───そこに現れるのは、白い光]
[それは、少女が此処にいることが出来る奇跡の証なのだろうか]
[儚く綺麗に輝くその光は、その手に移り]
[それを、ライヒアルトに差し出すと、光はライヒアルトの体に吸い込まれるように消えた]
───ライヒアルトは、私が、守るんだ。
─宿屋─
……教えない。
[首を傾げながらの言葉に、返したのはこんな呟き。
教えない、というよりは、説明できない、という方が正しいのだけれど。
ぶち猫はと言えば、呆れたように鳴いた後、くぁ、と欠伸と毛づくろい。
使える時は、という言葉には、何も返さず。
言葉の代わりか、少し強くしがみつくよにしていたけれど]
あ、そだ。
かあさん……どうして、た?
[部屋に戻ったところで、ふと思い出して問うのは、母のこと。
気が静まってきた事で、やはりそちらは気にかかってしまって]
[一度教会へ戻り。
子供たちを呼び集め、彼らだけで留守を守るように告げた]
困ったコトがあったら、近所の人を呼びに行け。
お前らだってもうでけぇんだ、それくらいできるよな?
[キャル以外の子供はまだ何処か不安そうな顔も見せたものの、言葉にはそれぞれに頷いてみせた。
それを確かめ、一人一人頭を撫でてから、男は教会を後にする]
そうですか…――。
[セザーリオの応えに返す言葉は、やはりいつものもので。]
ヒースクリフさんには、
私としては情報集めをしてもらえたらとは思います。
霊能者が出てきた以上、他の人もいないとは限りませんから。
[そして、ふっと飛ぶ思考。]
フーゴーさんも、何かある気はするのですけれどね。
[人の感情を読み取ることが不得手であるが故、
何か引っかかるということしか分からないと、
言葉裏に滲ませた。]
―広場―
とりあえずは、宿屋にでも……
……ん。
[教会を出、歩いていた足をふと止めた。
中程に立ち尽くす人影]
ゲルダか?
[僅かに目を細めた後、そちらへ近づいた]
─宿屋前─
[ヘルムートから訊ねられた言葉には一度沈黙を。そしてやや視線を下に落としつつ煙混じりの息を吐いてから口を開いた]
…いや、最初に見つけたのはクロエだ。
ギュンターがやられたってぇことは、立ち消えるどころか人狼が実際に居る証明になる。
あの傷ぁ、人じゃ到底つけられん。
……お伽噺じゃねぇんだよ。
[訊ねられた問いの回答を紡ぎ、そして初めて人狼は実在すると言い切った]
―広場―
[どこに行くこともせずに、端から見ればぼんやりと立ち止まっていた女は近づいてくる足音に気づいてのろのろと顔を上げる。
神父見習いの姿に気づけば、僅かに瞳を細めて。]
ウェンデル……
[おはよ、と短く挨拶を口にするのはいつもどおり。
けれども、普段と違うのはこんな朝日の時間帯に女が自宅からでてきていることだろう。]
聞いた?
[短く問う。
死を口にしたくないから、なにをとは言わないままに。]
[目の前で起こった情景に、知らず息を飲むが。
けれど、口を挟むことはせず。
リディの決意と思いを、ただ見守った後。
二人には声をかけず、広場の方へと一人で向かおうと。]
…――?
[少女の胸前にある手に生まれる白い光。
それを映した碧の眸が瞬く。
瞬いている間に、その光は自身に吸い込まれた。
――その刹那、一瞬瞼裏に映った風景は、
何処かで見たことのあるような。]
森…――切り株…――?
[我知れず零れる言の葉。
しかし、もう一度瞬けば、その風景は闇に消えて。
首を傾げながら、少女を見つめた。]
狩人ですか、ね。
[その言動から思う単語。
少女に護られるのはどうだろうと、
困ったように次に見たのは去ろうとしている幼馴染だった。]
ヒースクリフは、ヒースクリフの思う通りやれば良い。
生きのびるために、ちからもつものを騙るのも。
裏切るのも。
役に立たなければ、捨てるとは言わないさ。
裏切るときは流石に別だけれどね。
[ヒースクリフの「愉しい」という点には、反応が無い]
[おそらくは、それも肯定のかたちなのだろう]
彼女が、霊能者で…。
宿屋のこの人も。
少し、探ってみようかな?
[眼前に居るとにおわして、興味本位に動き出す]
―広場―
おう。
なんだ、こんな時間から起きてんのか。珍しいな。
[揶揄うように言ってみせるのは男の常。
だが笑みは次には失せて]
あぁ。見た。
[続く言葉は矢張り短い。
繋がっていないようで、けれど指すモノは同じ]
[幼馴染の視線を感じれば、こちらに助けを求めるような珍しい感情で。
少し苦笑して、軽く手をあげて]
リディが、守ると言っている。
俺が側に居なくても、問題は無いだろう。
お前は、リディを守ってやれ。
[そう言って、改めて広場へと向かう歩みを進め]
[いまいち要領を得ないセザーリオの声に首を傾げていると、
ヴァイオラからの返答が聞こえ]
情報ね。
[あまり率先して他人と話すのは得意ではなかったからか、
ちょっと憂鬱そうな声を漏らしたが]
努力する。
[それは自分のためでもあろう、と思い素直に受け入れたようだ]
―広場―
さすがにこんな非常事態に何時までも寝てないわよ。
[揶揄う男に軽く肩をすくめ。
続く言葉に、そう、と小さく呟いた。]
冗談だったら、よかったのに。
そしたら日常に戻れたのに――
[聞いたわけではなく、その目で確認したと言う男に視線を向け、それからふるりと首を振った。]
人狼の仕業だった……?
ふっ…――。
[吐息に混じる様な笑みが、囁きに乗る。
それは二人の応えに対するものではなく。]
くくっ。
[珍しく可笑しそうに喉を鳴らした。]
狩人……?
[笑みを浮かべながら、ライヒアルトを見つめ、呟かれた単語を繰り返したが───次の瞬間、いきなり、少女の体がぐらついた]
……あれ?
[目の前が、ぐらぐらと揺れる。
何か、大事なものが次から次へと零れ落ちていっている気がする]
……なんか、変?
[足が体を支えきれない。
今までゆっくりと落ちていた砂が、急速に落ちていく]
……みゅう。
[呟きながら、少女はその場に膝をついた。
今まで、新たに付け加えていた記憶は、何処に消えようとしているのか。少女には分からない]
─宿屋─
…いいけどな。
[気になりはするが、こういう従妹から何かを引き出せた試しはない。諦めた風に返して。
強めにしがみつかれれば、安心させようと腕に力を篭めた]
ああ。話すから横になれって。
叔母さん自身の体調は平気そうだった。
気にして起きてたみたいだけど、俺らが見てるからって言ったらちゃんと休むって。
…今朝のが伝わったら、目離したって怒られるかな?
[冗談めかした一言を挟み]
自衛団から誰に容疑が掛かっているかという説明はあったらしい。村中に伝えられてるのかもな。
ならきっと他の人らも様子を見てくれるだろう。
[顔色は先よりだいぶましになった頃。
その足は惨劇の場所を離れて広場へと向いた。
そこには昨夜見た顔がふたつ。]
よお、ゲルダ。
[もう一方の顔は、名前が思い出せずきょとんと見遣ったまま瞬き]
見た?
[ゲルダに向けられた言葉に、「何を?」とは続けて問うこともなく、なんとなく理解したように目を細めた]
―広場―
そりゃぁ失礼。
[短く笑い]
そりゃそうだが。
起こっちまったモンは、どうにもなんねぇさ。
……これからどうすっかだ。
[小さく息を吐いて。
続く言葉には、思い返すかのように視線を空に移す]
少なくとも、人間業じゃぁなかったな。
[傷の様を詳しく告げることこそ控えたが。
声は低い]
…―――。
[去る幼馴染を見つめる視線は、どこか恨めし気に。
吐息を一つ吐いてから、視線を少女に戻すと、
くずおれて行く少女の身体。]
おんぶとだっこ、どちらが宜しいですか。
[酷く幼い子に対するように問いかける。
流石に、そのまま放置して行けるわけもなく。
そもそも、こうなった理由が、どうも自分らしいと思えば。
ただし、抱きあげるにしても、背負うにしても、
そのまま森にフィールドワークに出かけようとしてるのが、
この生物学者が変人呼ばわりされる由縁なのだけれど。]
―宿屋前―
クーちゃん……だいじょうぶかしら?
[案じるひびきで、こえを落とす]
ええ、もうあたくしも、狼がいるのをうたがってはいないわ。
きちんと、傷口までみたもの…。
[ふっと、声のトーンがおちる。
それでも一般男性よりかは、たかめのこえであるのだが]
ねぇ、でも。
あのことが起きるよりさきに、おじさまは…その。
人狼のことを、しんじていたの?
お伽話でないって、やっぱり、知っていたの?
[わずかに警戒の面に、表情が緊張をおびた]
―広場―
[声を掛けられ、視線を向ければそこには昨夜宿屋にいた人物が居て。
ゆるく瞳を細めてかるく手を上げた。]
おはよ、ユリアン。
[どこか顔色が悪く見える相手を、じっと見やる。
この騒動に巻き込まれた、旅人。
島の人間からしたら――一番に疑われてもしかたがない立場の男を。]
―広場―
――――生き残りたければ、誰かを差し出すしかない……
[ソレがギュンターから聞いた最後の言葉――もっとも大分意訳されているが。]
ウェンデルは、誰が疑わしいと思う?
[人間業じゃないと告げる、その有様を想像することなんてできない。
ふるりと首を振って、問う。
これから、に直結する問いを。]
─港→広場─
[ライ達と話したことで落ち着いたのか、団長が殺された、という広場の方へと足を進め。
現場へと向かう途中、よく知る顔を見つけると、知らず安堵の息をもらしその方へと近づいた。]
ウェンデル、ゲルダ。
…それと、ユリアン、だったか。
三人とも、ちゃんと、休んだか?
[自衛団長のことはあえて口に出さず、三人の身体を心配して]
よぉ。
……あーっと……
[現れた青年に軽く片手を挙げ。間]
……あぁ、ソレだ。
[ゲルダが呼んだ声で手を打った辺り、こちらもはっきりと名前を覚えていなかったようで]
─宿屋─
[それ以上の追求がない事に、感じたのは安堵と、他のあれこれが入り乱れた感情。
それでも、それは一時、押し止めて、言われたとおり横になる]
……そっか、それなら、良かった。
んん……どうだろね、怒られるかもしんないなぁ。
[冗談めかした一言に、少しだけ笑って]
……かあさんは、関わりないから。
お医者様も、ちゃんと診てくれる、よね。
……これから、何があっても……。
[最後の部分は、ごく小さな呟き]
―広場―
[ヴィリーがこちらへと歩いてくるのを見れば、ほっとしたような吐息をこぼす。]
おはよう、ヴィリー兄。
うん、やすんだよ……ヴィリー兄は? 大丈夫?
[軽く首を傾げて問いかける。
ウェンデルがユリアンの名前を覚えてない様子にはくすっと小さく笑った。]
多くの時間を費やした相手程、人は相手を信頼するから。
だからこそ、話すことに時間を掛けるのは有益だろうね。
ヘマをしなければ、だが。
ヘマをしたなら指をさして哂おうか。
[ヒースクリフを揶揄うつもりで]
[けれど、訊き慣れぬ哂い声に、思い切りまたたいた]
――……ヴァイオラ?
─宿屋─
今アーベルがついて部屋で休ませてる。
アイツらは従兄弟同士だ、落ち付かせるには適任だろう。
[目の前の人物を安堵させるように状況を説明して。続く問いにはしばしの沈黙を返す。どこまで説明するかを考えてから、口を開いた]
……ああ、知ってたさ。
この眼で見たし、襲われもしたからな。
[考えて、口にしたのは事実の一部。右手が左腕を握り込む]
だが、この島に人狼が現れたと言う話が間違いなら間違いであって欲しかった。
懇意にしてた奴が人狼だった、ってぇことにはなって欲しくなかったからな。
[そこまで一気に言って、大きな溜息をついた]
― 広場 ―
[声をかけて、目を細められれば少し安心したようで]
良かった、あんたらにも白い目で見られるかと。
[しかしゲルダに見つめられれば、
見透かされたか、と苦笑を浮かべながら]
あー、今、人だかりに紛れてきたとこ。
[何処だと言わなくてもこれで通じるかな、と勝手に解釈した]
こりゃあ本気で覚悟きめろってことだよなー…。
[今は亡き初老の言葉を思い出し、視線を遠くへ流しながら]
え?……えーっと。
[今にも倒れそうな少女が耳にするのは、抱き方の選択の言葉だった]
それじゃあ……前が、いいかな。
───なんか、恥ずかしいけど。
[そう言った顔は、ちょっとだけ恥ずかしそうだった。
その様子だけを見ていると、そこにいるのは見た目通りの年齢の少女であることは間違いの無い事実である]
……みゅう。
私が、ライヒアルトを守るはずなのに、これじゃあべこべだよ……。
―広場―
あぁ、旦那。
俺は大丈夫だ。
キャルの所為で少しばかり寝不足だが。
[ヴィリーには僅か、冗談めかして答えるが。
ゲルダの言葉に、そちらに視線を向けて]
さぁて。
あからさまに怪しいのは、余所の人間……だがね。
[具体的な名前は出さない。
だが、そこに含まれる人間の前でも、言葉を紡ぐのに殆ど躊躇いはなかった]
─宿屋─
[クロエが大人しくベッドに入れば、その枕元に立つ]
そ。叔母さんのことも信頼してやれ?
[母娘仲を十分に知っている上での軽口。
小さく笑うのを見て、自分の首筋をポリポリと掻いた]
ああ。だから心配しすぎるなって。
……考えすぎるな。
[呟きは否定はしても気休めにすらならないと。
別の言い方をして、いつものよに頭を撫でた]
どうする、一人の方が休めるか?
―広場―
まあこんなことになっちゃったし。
旅人には居心地悪いだろうなあ……
[苦笑浮かべるユリアンに、やっぱりか、と僅かに頷き。]
――あたしは、まだ見てない。
見るのが、恐いから。
[人だかりに、ということばにふるりと首を振った。]
[今度は声をかけられる側になれば、視線を近くに戻してそちらへと。
名を呼ばれればそれであってる、というように手をあげて返した]
んー…、まあ少なくともぶっ倒れてりはしねえ。
[リッキーから聞いた話では、と思い当たりゲルダに顔を向け、「大丈夫なのか?」と遅すぎる言葉を向けた。
その口から出た質問と、答えには表情を硬くした]
んー…まあそうだわな。
[当然といえば、と硬い表情のまま笑ってみせ]
ゲルダたちもそうなんじゃねーの?
[まるで冗談を言うように自分から口にしてみせた]
[自然とゲルダの隣に立つと、自分を気遣う妹分を安心させるように微かに笑顔をみせ]
俺は、少し休んだ。
[そう言うと、ゲルダの頭を撫でて。
ウェンデルの返答には、そうか、と微かに苦笑したものの、続いた言葉に笑みを消し。]
………そう、だな。
もう、会ってきたのか?
[自衛団詰め所の方へと、自然視線を向けたまま、何とは言わず。]
― 森へ ―
[前が良いと云われれば、ひょいと抱き上げる。
一番最初に運んだ時とは違い、今度は横抱きに。
それでも、どこか荷物を運んでいるように見えるのは、
運び手が生物学者だからだろう。]
…――ヴィリーさんに護ってやれといわれましたから、
まぁ、間違いではないのではないでしょうか。
[そのまま、行き先も告げず、歩み始める足。
抱えてる重みも感じさせず
――そもそも、少女は見た目より軽いわけだが
何故か導かれるようにやってきたのは]
…―――?
[先程見た風景。
円のように開けた場所。
ひときわ大きな切り株が印象的なその場所だった。]
[ちょうど呟いた時に、ヴィリーに頭を撫でられて、
なんとなく宥められたような気分になりながら、ヴィリーとウェンデルのやり取りを聞く。]
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