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[艶女の様子に失礼致しましたと頭を下げるも、
執事の浮かべる微笑の温度も、彼女の瞳同様普段より低い]
心労、というと。
予定外の事態が起こりでも、したのでしょうか。
[意味するところはわかっているだろうに、
敢えて話を違え、揶揄するような物言い]
扱い切れない存在だったのですかね。
[続きは小声。それが何を指すかは、明白か]
[…フォークで野菜を退けつつ、少女はちら、と辺りを見回す。
なんだか、空気が重い。
…昨日とは違う意味で…]
…
[むぅ、小さく唸ると、フォークを口へと運ぶ。
皆の話すことは聞いているのだが、イマイチ意図は捕らえられては居ないようで]
専門書いきなり読めば、暗号文書に見えるもんだって。
俺だって、最初からその手の読んでた訳じゃないぜ?
……ま、焦る気持ちはわかるよ。
正直、今日の事で……俺も、焦りは感じてる。
早めに何とかしないと、最悪の事態を招きかねん……。
[その『最悪の事態』を止める術は……恐らく、あるのだろうが。
問題は、その『術』がどう動くか、それが全くわからない、という事。
……ならば、『最悪』に至る前に止めたいと思うのが自然だろう。
そんな事を考えつつも、意識の一部は、執事と女性のやり取りに向けられて]
心労…なー
[実はヘルガさん精神的にまいっていたのかね。まあこんな状況だし。寝不足だったのかとか。
そんな風に、言われるままに考えていたのだが、でも腕の中にいたときに感じた、脆さというものがどうにも違うような。と言葉で説明できないものを感じながら。
オトフリートとのやり取りが何か違うことを指しているようで、ん〜?と首をかしげる]
[どうやら何事か知っている様子の執事の問いに答える前に、心を落ち着けようとミルクティーに手を伸ばし、唇を寄せる。
女にとっては僅かに熱いそれを一口飲んで、ほぅと息を吐いた]
…エェン、そゥ…何もかもがァ想定外ですわよォ…?
[そもそも、この邸宅に来たのもほんの気紛れ。
それほど期待せずに訪れたのだから嘘ではない。
しかし、続く言葉に――揶揄するような物言いはまだしも、扱いきれないとまで言われれば頬に朱が差す]
ッ! 何ですってェ!
[手にしたカップの中身を、執事にかけようと手首を閃かす]
『それにしても忙しい』
[ヘルガとオトフリートのやり取りも気にかかるが、...にとってはイレーネのことも気にかかる。
しかし、なんと聞いてよいものやら。
魔のものなどという言葉が幾度か出ているが、もしそうだとするならば…
それだけは信じたくはない
そして...もまた重い空気に耐えかねた部位もあるのだろう。
定例通り野菜を退けているブリジットを見れば、
なんというか微笑ましいのか。少し肩の力も抜けた気もする]
……申し訳御座いません。
[誠意の感じられない、謝罪の言葉]
こういった遣り方は私も好みではないのですが、
なにぶん、緊急事態ですが故に。
[トレイを下ろせば、現れる微笑みは艶を含む。
僅かに服にかかりはするも、耐え切れぬ程ではない]
このままでは、御自身までもが呑まれるのではないですか?
[もぐもぐ。
みんなも疲れているのかなぁ、と、空気が重い理由を違うように考えてみたり…
きっと、招待された人は、どうやって時間を過ごそうか、と言うので悩んでいるのだ。
そんな風に良いように考えてみたりする。
しかし]
…!
[ヘルガの荒げた声。
何かが弾けたような水音。
…一瞬、何が起こったのか分からなかった]
…?
[ヘルガの様子もおかしければ、オトフリートのも様子も…形容しがたいが、何かおかしい。
呆然と二人を見ている]
…その暗号文書を基礎まで読みきった俺って本当凄い。
[良く頑張った。と自画自賛しつつも、
続く「最悪の事態」、の言葉に小さく溜息を吐いて]
…ん。…なんつーか、何も知らないのってもどかしくてさ。
どーすれば良いのかわっかんねーし。
[僅かに、瞼を伏せる。自分の理解の範疇を超えているのだ。
オルゴールの事も、魂を失った人たちの事も、常人ならざる存在と言うものも。
―――最近に至っては、 自らの記憶すら。
書籍を抱きかかえた腕に僅か、力が籠もって。]
[と、女性が突如荒げる声にはっと顔を上げる。
執事とのやり取りに、訳がわからないという風に顔を見比べ]
[自分を見る険しい視線に気付いたのか、ちらとだけ青年に目を向ける。]
[迷うような素振りを見せ、何を思ったのか視線を逸らして小さく首を横に振った。]
・・・・・っ
[逸らした視線の先、丁度激昂する赤の女性が映り、驚いたようで大きく身を震わせた。]
……なんだ?
[突然の大声と、飛び散る紅茶。
明らかに尋常ではない様子に、きょとり、と瞬く。
次いで、執事が女性に投げた言葉。
それが意味する事は、容易に察する事ができて。
翠に険しさが宿る]
[何も知らないのがもどかしい。
アーベルの言う、その気持ちは理解できた。
それが……その思いが、彼をこの道へ、伝承研究家の道へ進ませた、と言っても過言ではないのだから]
知る意思があれば、道は開かれる……。
まあ、俺は上手く行ってないほうだけど、な。
[その言葉はどこか、独り言めいていただろうか]
[二人だけにわかるような会話がなされ、正直わかっていなかったからか、話を聞きながらも、意識は違うところに傾いていたのだが
はじめて聞く、ヘルガの荒げた声とはじけたような水音。
それを無視できるほど無神経ではなく
オトフリートがヘルガに向けて言う。呑まれるという言葉を聞けば、それは酒についてなどではなく、だんだんと掴めてきたようで
複雑な表情を浮かべる。]
好みかどうかなんてェ関係ありませんわァ。
要は貴方が…私の邪魔をするかしないかですものォ。
[心無い謝罪の言葉など、挑発と同じ。
女は――魔の矜持で立ち上がり、執事を深紅の瞳でねめつける]
…呑まれるですってェ? 私がァ…?
[例えそれが真実であろうと、認めることは矜持が許さない。
銀のトレイに弾かれた雫は、女の紅いドレスを濡らす事はなく、執事の艶やかな笑みと手にした薔薇を、忌々しげに見やった]
[いつもの艶っぽさはどこへ消えたのか。声を荒げたまま立ち上がるヘルガ
……そう、何が複雑かって、つい最近会ったばかりとはいえ親しんだ人間の魂を食われるのはそれは悲しいが…それと同じぐらい親しんだ人間がオルゴールとつかっているということが……
そんな考えを持ってしまっているからだろう。周りにまで目がいくのは
とりあえず安心させる意味もあったのか。ブリジットとイレーネの頭をやさしくなでた後、さりげなくヘルガ、オトフリートと彼女たちとの間に身を入れる]
[すぅ、と翠の瞳が細められる。
真白の妖精に微かに走る、震え。
しかし、それに構う事はなく]
……既に。囚われつつあるか。
[小さく小さく呟く口調は、常の彼とは異なろうか。
魔に属す者であれば、その刹那に『何か』を感じたやも知れないが]
それならば、答えは明快です。
[暗に邪魔をする意志を持つ、との答え。
弓なりに細める瞳の緑は、昏みを帯びる]
主に仇名す者を処分するのは、執事の役目ですから。
[手にした薔薇を、赤の艶女――魔へと差し出す。
その純白の花弁は、見る見るうちに漆黒へと染まりゆく。
まるで、女が内に抱く闇を写し取ったが如くに]
…呑まれ、…それって。
[執事と女性の口論を、単語を鸚鵡返しのように呟いて。
思い当たる内容に気付けば、僅か目を見開いた。
その瞳は、揺れて。]
―――オルゴールに。
[ぽつりと零れ落ちる言葉は、何処か、低く。
その響きに混じる色は、驚愕かそれとも]
[呆然と一触即発…みたいな場を見ていたが、頭を撫でられるとユリアンの方を見て]
…ぁ…
[二人の間に入るユリアンに、バラを差し出すオトフリート…
…バラが黒く染まったのが見えれば、少女は目を丸くした]
[驚愕したような顔をして、目の前の展開を見つめていた。]
[不意に掛かる影に少し目を上げると、先程まで険しい顔をしていた青年が映る。彼に撫でられたことを理解したのか、少女と自分を庇う様に立つのを見て視線を落とす。]
・・・・・っ
[金髪の青年が声を発すると同時、僅かながらに身を震わせた。]
[ふいに、耳へと届くエーリッヒの呟きに気付けば
ぴくりと、僅か目を細めた視線を向ける。
数度、瞬きを繰り返せば
…ふるりと頭を振って、視線を目の前の2人へと戻し]
……いや……なにあれ
[薔薇が黒く変わったことに、思わず素直にそういってしまう。
その指し示す意味はなんとなくわかるのだが……
そんな芸当など……知らない。]
[獣の主から放たれた気配に、女の注意は微かに逸れたか。
けれど、今の――オルゴールに囚われつつある魔には、それが何とはわからずに、そのまま激情に流される]
そゥ…、邪魔をするのネェ?
けれどォ、貴方は一つ勘違いしてるわよォ…オトフリート?
[くすりと笑うその表情から、怒りは消え嘲りに変わる]
魔は、望まぬ者と契約はしない…貴方の大切な主はァ、魂と引き換えに得たいものがあっただけの事だわァ。
私がそれを何に使おうとォ、貴方が口出しする事ではなくってよォ。
[漆黒に染まり行く薔薇にも負けぬ、嫣然な笑み]
[呆然としているだけじゃ、まずいよな。
と、どこか冷めた思考がそう告げる。
でも、ああ、こんなことだったら鍛治で作ったナイフの一本か二本でも持ってくりゃよかったよ。実際なとこ俺何ができんのさおい。
と、そんな思考ができる自分にまだ余裕があるのを感じ内心ほっとしつつ、こっそりとテーブルにおいてあるナイフを拝借する。
扱いについては……まあ物を作るとき模倣するのと要領は同じだろう。というかないよりまし程度ではあるのも自覚している。
それ以前にこっちはさらさらやる気はない。恐怖もあるかもしれないが、そもそもにして戦意もない
ヘルガに送る眼差しは、悲しみか哀れみか…どこか複雑にていながら…憎しみの色はなく。
ただ、オトフリートが、ヘルガが、どうするつもりなのかと]
[向けられた視線、微かな震え。
それらに気づいているのかいないのか。
翠の瞳は、静かに。
ただ、その周囲には、常の彼とは明らかに違う空気が漂うか]
[微か眉が顰められたものの、やはり笑みは湛えたまま。
昏さを孕んだその色は、女の笑みに何処か似ていたか]
ええ、好く理解しております。
そして魔が、人の弱い部分に付け入る事も、ね。
[眠る主の表情に、如何に満足をしていたかは容易に悟れた]
……半ば、私情でもあるのですよ。
気に食わない、とでも言いましょうか。
[終わりの言葉は、眼前の女にしか聞こえなかったろうか]
仮初めとは言え、我が“契約の主”たる者の魂を奪った事が。
赦せない。
[首を振る青髪の青年が視界に入ったか、少し瞬く。]
―――ぁ、
[けれど次の瞬間、舞う黒にその視線も意識も奪われたよう。]
アァラ、心が強ければ魔になど負けぬのでしょゥ?
ならばァ、その弱さは私のせいではなくってよォ。
[他の誰が知らずとも、執事は知っているだろう。
彼の主が、どれほど安らかな表情をして眠っているのか]
フゥン…、気に喰わないネェ…。
その方がよっぽどわかりやすい理由ですわァ。
マァァ…そういうことですのォ。
ならば、どうするとおっしゃるのォ…代わりに貴方の魂を差し出すとでもォ?
……それともォ、私を消しますのォ?
[囁く言葉に、女は嫣然と笑んだまま、腰を下ろして脚を組む。
手には煙管、立っている事が辛いのだとは微塵も感じさせぬ仕草。
紅薔薇の花弁のような唇に咥えて、ぷかりと紫煙を吐き出す]
…何、これ…
[まるで魔法のように。
…いや、実際、魔法なのかも知れない。
少女は二人の様子を見ていることしかできなかった。
話す内容、舞い散る花びら、浮かぶ紫煙。
全てを理解するには時間が足りなさすぎて…
全てを理解するには知識が足りなかった]
…
[立ち上がって逃げるべきかどうか…辺りを見回すも、誰も逃げる気配はなかったのだった]
[そういえば。と思い返す
呑まれるという単語でオルゴールのほうに思考が言ったが具体的に考えていたわけでもなかった。
でも、先程腕の中にいたヘルガはなぜだかは知らぬまでも確かに脆そうに感じて。ということは彼女は]
オルゴール…に?
[その呟きは誰かに聞こえたかどうか]
人とは弱きものですよ。
弱きが故に、愚かしく、美しい。
[冗談めかしたような言葉。しかし、浮かべた笑みは柔らかい]
どちらも、お断り願いたいですね。
自己犠牲の精神を持つ程、殊勝ではありませんから。
件の品を渡して頂ければ貴女を無為に傷つけるつもりもない。
貴女とて、ここで終わるなどと言うのはお厭でしょう?
[黒の欠片は煙と混じり合う間際、黒の光へと移り変わる。
照明が点いているにも関わらず、薄く広がっていく黒は闇と同じく。
それは魔が人を惑わす香りと似て、女を優しく諭すかのように]
中/
もうそろそろ果てると思いますのォ。
今は5分咲きの濃紅色くらいでェ、散ったその時に深紅の花が満開になったことにしていただけると嬉しいですわァ。
ヘルガ、さん・・・が。
[銀灰色の間から覗く蒼い色が揺らめいた。]
[魂の単語に反応したのか、オルゴールに囚われかけている魔の女の魂を感知したのか。蒼は僅かに、少しずつ紅を帯び始める。]
……ここで手放すか、取り込まれるか……最早、その、二択になっていように。
……気づいているのかいないのか。
[魔の女性を見やりつつの呟きには、微か、嘲りの響きがあっただろうか。
広がる闇に、翠はわらうような色彩を揺らめかす]
[紫煙に混じりて黒き花の欠片は黒き光と変わり、そこより闇が侵食し、思わず退きたくなるが、何か距離を置くのも無駄に感じてやめる。
ああ、きっと自分の手には負えないのだろう。と思いながら。
今までのヘルガは全て偽者なのか。魔というものにとりつかれたがためにこうなっただけなのか。わからないままに、自身も整理できぬ複雑な感情を抱いたまま
どちらの行為に組することなくただ自衛と、ほんの少しの意地か。周りの人間を*気にするのみ*]
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