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--少し前・森--
[幼い意識に、ドゥンケルと呼ばれたソレは。][女の右腕を食い千切ったそれは。][にぃと、歪んだ笑みを浮かべて。]
[女は痛みに顔を歪め。][それに満足したかのように。]
[銀狼は女の柔らかい腹を裂き内臓を抉る。][何度も何度も腸を食いちぎり。][涙に濡れる顔を笑みながら眺め。]
[その喉笛を、噛み千切り。][その心臓を喰らい。][血を貪り。][骨すら砕いた。]
[女がぴくりとも動かなくなった事を知ると。][飽きてしまったかのようにその場から離れ。][ふいと、少女の姿へと戻り、水の代わりに雪を齧り口を拭った。]
[そして、『ブリジット』が意識を取り戻し―――――**]
[しばらく床の上に倒れたままで。
遺体を抱いたマテウスが帰ってくる頃にようやく身を起こす。]
…ノーラさん!?なんで…
[よろけながら飛び出す、月の下。
並んで横たわる、
自ら殺した女と、守れなかった女。]
…なんで……
[傍らにぺたりと座り込み、血の気のない白い顔をみつめる。]
[幼い頃の情景。小さな少年達はじゃれ合うようにあそんで。
パイの焼ける良い香り。
手を洗ってきてからだと、呼びに来た優しい少女。]
…ノーラ…さ………
[熱く歪んだ視界。
滴り落ちる、雫。]
人狼じゃない、って…守れる…って…
[誰かに連れ戻されるまで、弱々しい慟哭は*続く*]
[マテウスの言葉に、答えを返した]
[そうですという肯定の言葉だけだったが]
[動かないリディの足]
[システムが正常に働いているという証拠の言葉]
[仕方ないというリディの手から手を外し、そっと頭にぽんと置いた]
[宥めるようか]
[慰めるようか]
[それとも褒めるようか…]
[くらり]
[と、彼女の体がかしいだ]
[支えようとしたが、そのままリディは蹲る]
始まってしまったから
[起き上がらせることはできず]
[涙を零している少女に、囁くように]
[他に声は届くだろうか]
月が満ちてしまったから
君は悪くありませんよ、リディ君
…かわいそうに
[差し伸べている手を遮ることはなく]
[ナターリエを見る]
[どうしようかと悩んでいるような顔で]
[二人のしるしを持つ者]
[そして二人の人狼]
[他の力を持つ者も、いる]
[かわいそうにともう一度呟いた]
[紅茶のかおり]
[ユリアンに礼を言い、受け取る]
[それからいなくなった人たちが戻ってきた]
[戻るなり崩れたブリジット]
[しかしそちらにかけよることはせずに]
[紅茶を机に置いて]
[再び出て行ったマテウスとハインリヒ]
[戻ってきたあとの説明を聞いた]
ノーラさんが…
[それ以上は声にならなかった]
[十字を切る]
[聖典の言葉が、口から零れた]
[閉じた目の裏側に、何が浮かぶかは、*誰にもわからない*]
[外から皆が戻って来たのは、歌が終わった頃だったか]
……ブリス?
[落ち着かぬ様子を訝り、近くに寄って声をかけるのと。
その身が崩れ落ちるのはどちらが先か。
腕を伸ばして、受け止める。
外にいた少女の身体は。
冷たい]
……っとに……。
[零れる、小さなため息。
少女はひとまず、室内の空いたソファに寝かせた。
着替えさせた方がいいか、と思うものの、頼めそうな女性もそれどころではないようで。
しかし、妹のような存在とはいえ、年頃の少女を着替えさせるのもためらわれ]
……やれやれ。
[ため息が、口をつく]
面倒事、ばっかり。
[選択肢は少ないから、状況が落ち着いたらナターリエに頼むか、観念するかしかないわけだが]
[ともあれ、そちらが落ち着いた頃には、ノーラの亡骸をマテウスたちが連れて帰ってくるか。
どこかぼんやりとしつつ、話を聞いて]
……そいや、それ。
そのまま、できないよね。
[床に残った赤に、思い出したようにぽつり、呟く]
……掃除、しとくから。
[道具、どこだっけ、と。誰に問うでなく、*呟いた*]
……そう、ですか。
[新たな犠牲者。
その姿を見て、その話を聞いて、自然と言葉が零れた]
無理しないって、
……心配する人がいるからって、
言ったのに。
[外に飛び出したエーリッヒは、何も言わずに見送った。
皆が彼や遺体に意識を向けているうちに、広間を後にした。
足は自然、音楽室へと向かう]
[結局、彼女の演奏を聴くことはなく、聴かせることはなかった。
ピアノ前の椅子に腰を下ろして、本来ならしないことだけれど、頬を鍵盤の上に乗せた。左手だけで、音階を辿る]
どんな音色だったんだろうね。
[童謡のような、明るい音をつくり、弾ませる。
けれどそれは、機械的で、無機質だった]
[*どうやって夜を明かしたかは、覚えていない*]
[リディとイレーネが語る言葉は
印を持たぬ自分には判らない]
[解らない]
[やがて外に出た者たちが戻り
それぞれの様子に息を飲む]
……ノーラさん、が?
[口をついた言葉はそれだけで
倒れ込むブリジットをアーベルが支えるのをただ見つめる]
[倒れたブリジットをソファに寝かせて思案するようなアーベルと目が合う]
[着替えを、と言うアーベルを見て
イレーネの様子を伺う]
[イレーネの意識はリディに向いていて、支えた腕をそっと放してブリジットの元へ]
ここで着替えさせるわけにもいかないわね…
彼女の部屋まで運んでもらえますか?
[頼めば彼は運んでくれるだろう]
[部屋へとつれていき、ベッドに寝かせてもらい]
男の人は外で、ね。
[とアーベルを追い出してブリジットを着替えさせる]
[夜着があればそれを、なければある物を]
[一通り終えたなら毛布を掛けて]
……おやすみなさい
[と声をかけ、部屋を出る]
[手を離したのは何方が先だったか。]
悪くない?
ほんとに?
ううん、違う。違うよ。
ぼくがちゃんとしなかったから。
選ばなかったから、痛いんだ。
[涙はもう乾いていた。笑みもなかった。
声はほんの少しだけ震えていた。
紅茶を受け取った。包み込んだ両手に温かさは伝わったが、味は分からなかった。]
[紅茶が全て身体の中に収まった頃、外から喧騒が流れ込む。]
ごめんなさい。
[新たな死を告げられた時、俯いたままの少女が落としたのはそれだけだった。
倒れ込むブリジットと、支えられるアーベルの脇を擦り抜けて、廊下へと出た。]
[誰か呼び止める者はいただろうか。何方にせよ、振り返りはしなかったが。
ピアノの音が聞こえて、暫し足を止める。楽しげなのに何処か冷たい音。
誰が弾いているかは分かったが、そちらへ向かおうとはしなかった。否、もしかしたら分かったからこそ、かも知れない。
代わりにその足は階上へと*向けられた。*]
……ありがと、ございます。
[ブリジットの着替えを引き受けてくれたナターリエに短く言ったのは、廊下に出されてから。
額に手を当てて髪をかき上げ、再び広間へ。
人の大分少なくなった広間。
道具を探してきて、黙々とあかい跡を片付ける]
……って……あ。
[床のあかを片付け──僅かな跡は、残ってしまったが──、ふと見やった窓際]
忘れてた。
[突然の騒動の中、その存在をすっかり忘れていたもの。
いつの間にか放り出していた皿は、ひっそりと無残な姿に]
……これも、片付けとかねーと。
[小さく呟きつつ、欠片を集め]
……いって……。
[ぼんやりとしていたのがまずかったのか、それとも、打ち捨てられた破片の逆襲か。
指先に滲む、赤。熱のような痛み]
ガキじゃねぇんだから……。
[呟きつつ、血の滲む部分を軽く舐めて、持っていたハンカチで縛りつける。
その後は何事もなく、片づけを終え、二階へと]
[当たり前なのかも知れない、けれど。
自身の紅では、渇きは癒える事もなく]
……融通きかねぇの……。
[愚痴のような、文句のようなコトバが。
ぽつり、と零れた]
[自室に戻る。
何となく眠る気にはなれずに、先日部屋に持ち込んだブランデーを数口飲んで、窓枠に腰掛ける。
森番を継いでからはアルコールで身体を強引に温める機会も多く、酒に慣れた体は容易く酔う事もできなかった。
そのまま、少しだけ歪な月を見上げつつ。
いつものように、*歌を紡いで*]
[ぼんやりと、広間の出来事を思い返す。
緋色の意識は、他者に比べれば多くの事を察知する事ができていたから]
……蒼と、朱。
[聖なる花を抱いた二人の少女。
全く違う表情を見せていた、二人]
……痛みは、逆らえば与えられる……か。
[それならば何故、と思う。
痛みの理由が、その本質が同じなのであれば。
与えられていたそれがどのようなものかは、自身も身を持って思い知っていて。
それを受けつつ、何故、抗うのかと。
蒼の風の内に生じる、微かな疑問]
……もし。
意味があるなら。
[それが知りたいと。
何故か、そんな気持ちになっていた。
機会は得られるだろうか。
獣の性、どれだけ抑えられるか自分でもわからない。
それでも。
知りたいと。
緋色の内で揺らぎながら。
蒼の風は*ぼんやりとしたまどろみへ*]
―二階・自室―
[トンッ。と壁に突き立つ音と共に目を覚ます
窓を開けて、突き立つ矢を取って、そこに括ってある紙を見る
特定の音と香りを使って動物を操る技術。それを持つものも、その香りの元を買ったものも近辺にはいない。と、人狼のことが少し書いてあったが、それは既に聞いた程度の情報であって…少し考えた後、紙に色々書いて、また矢に括りつけて、荷物からボウガンを出し、窓から森へ向けて放ち、窓を閉める]
人狼…なぁ
ま、今となっちゃ…信じるしかなさそうだよな…
[起こった出来事を軽く思い出し、そして二日前にギュンターと喋ったことまで思い出し呟き]
人狼は人に化けれる。んで、時、場所、システム、教会だとか因子だとかいっていた
過去にもあったとか聞くがその時はどうしたんだかな
[わからないことはまだ多いが、ここにいても仕方がない。やることもある。と、木箱を背負って部屋を後にした]
[よく覚えてはいないが、部屋には戻っていたらしい。
目が覚めても動く気にはなれず、ベッドの上に寝転がり、夢と現の狭間のような時間を過ごしていた]
[時間の経過は曖昧だった。
空は曇っているようで、薄暗い。
雪は、降っているのだろうか。
集会所内に以前のような活気はなく、奇妙に静まっていたのも、原因の一つだろう。
狼の襲撃だけでなく、殺人が(それも眼前で)起こったのだから、当たり前だが]
[次第に身体が冷えて来たのは、部屋の寒さと、食事を取っていないことによるものだろう。
仕方なく起き上がり、乱れた髪を手で梳いてバンダナを巻いた]
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