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─ 厨房 ─
[話す事に不安がなかった、と言えば嘘になる。
唐突な事を言っている自覚はあったし、信じてもらえるかもわからないから]
……ぁ。
[だから、教えてくれてありがとう、と。
感謝の言葉>>105が紡がれた時、張りつめていたものがまた少し緩んで無意識の内に短い声を上げていた]
旅人さん……ゼルギウスさんの事は、聞いてます。
[確かめる言葉>>106に返すのは頷き]
……うん。
まずは、みんなが無事か、確かめてから……ですね。
[確かめて、ここから出られるなら、きっと終わる──終わっているとは思うけれど。
そこにぼんやりとした不安が残っているのもまた、事実で。
終わっていなかったら──という思いが伴う微かな不安は]
……見つけて。
終わらせる。
[願うような囁き>>107に、蒼い瞳が数度瞬く。
向けられたそれは、この場で自分にできる事だと素直に思えた]
……はい。
[掲げられた蒼い竜胆。
それが意味するものは理屈よりも感覚で理解に落ちて、安堵を呼びこむ。
支えるべき存在である、というのも確かにあるけれど、それ以上に]
俺は、俺にできる事、やります。
……ライヒアルト、さん。
[信じていいんだ、という思いが生じていたから。
ごく自然に、名前を呼んでいた]
……あ。
[やり取りが一段落した所で顔を出したオトフリートの言葉>>98に、数度瞬く]
そーだ、ご飯、作らないと。
[食事を作って声をかければ、自ずと全員の安否は知れるから]
えっと……。
[どうしようか、と思うのは短い刹那。
ちゃんと休めているとは言えない状況で、切り盛りをするのは難しいから]
…………皮むきとかやってもらえると、ありがたいかも。
[言いながら、視線が向いたのはじゃがいもの方で。
了承が得られたなら黒猫をいつもの位置に下ろし、ぱたぱた、そこだけはいつもと変わらない日常のために動き出す。**]
[水差しの水で顔を洗うと、さっぱりしたふうに微笑んだ。
その顔色が昨日よりも明るくなっていることに、イヴァンは気づいただろうか。]
……あ、そうだった、夢の話。
演奏会のあった夜から、ずっと同じ夢を見ていて。
自分が寝る前に思い出すせいもあるのかな…。
夜でね。
満月に照らされて、雪の上は青く見えた。
積もった雪そのものが青いんじゃなくて…そういう色に見えているという意味で。
[問われるまま、夢について語り始める。]
[ときおり説明に困り、言葉を探して考えながら、]
雪原、なのかな?
森に囲まれた、この湖くらいの広さの場所で。
黒い染みのようなものが雪の上に点々と落ちていて、こう…全体で大きな模様というか…形?
コウモリみたいなぎざぎざの翼の輪郭になっていた。
翼の持ち主が雪原の中心に倒れていて。
ぼくは最初、それを歌い手さんだと思っていたんだけど……衣装が演奏会のときのものだったので。
でも、周囲に長い髪が広がっていた。
……顔は違っていたんだ。
[ぽつぽつと話した。]
─ 朝・廊下を歩きながら ─
[奇妙な夢の話はイヴァンをさぞ困惑させただろう。
話しながら、ビルケがおっとり構えているのを何度か横目で確認すると、ユリアンは思い切って打ち明けた。]
あのう……夢の話じゃないんだけど、
ライヒアルトさんのこと、ずっと気になってるんだ。
正直、ちょっと怖い。
ぶっきらぼうで冷たそうだしね……。
昔、兄から聞かされたかもしれないけど…母のことがあって、ぼくは村の教会へあまり通ってない…。
[馬具職人だった父の急死後、母は自分の出身地である町の教会から弔いの人手を呼んだ。
村の教会関係者には面白くなかったに違いなく。]
[その後、母が父の仕事絡みの少額の借財を踏み倒してまで、町の教会へ寄付していたことが知れ渡ると、村の教会との関係はさらに悪化。
まだ子どもだったユリアンには実感できなかったが、後を継いだ兄はいたたまれない思いを何度もしただろう。
工房を町へ移したのも、教会の意思が仕事に差し支えたためではなかったか……とユリアンは思っている。]
ぼくは教会のひとによく思われてないだろうし、
冷たくされるのも、わからなくはないけど……。
こんな状況になってみると、怖いんだ。
もし、彼が人狼だったら、と。
[真剣な眼差しでイヴァンを見上げ、答えを待つ。]
[ライヒアルトの右手首に痣>>1:37、>>1:74、>>1:147が浮かび上がったことも、
それが蒼き花>>2:52の形をしていることも、
ギュンターの遺体の前で彼がそれを見せ>>2:84、役目を明かしたことも、
ユリアンは知らない。
ユリアンの知るライヒアルトは、演奏会後、自分に通り一遍の声をかけただけで、さっさと屋内へ戻っていった>>1:31。
雪の夜という状況を考えれば、彼も寒がっていたのだろうことはわかるけれども、]
実のない声に思えて。
ぼくの返事はどうでもよかったみたいだし……。
本気じゃないというか…声をかけたという自分の言い訳のための行動だったように…。
疑い過ぎかな……でも、怖いんだ……。
[眼をぎゅっと閉じて顔を伏せた。]
[誰が人狼かという話になれば、]
イヴァンは人狼じゃないと思ってる。
それに、エーファも違うと思うよ。
モリオンがおとなしく腕の中にいたから。
庭園で見かけたんだ。
…………あれ?
いや、おかしいな、いつ見たんだろう?
[ふっと真顔になり、立ち止まった。]**
[旅人の名>>108を改めて知る。
エーファが言わなければ旅人は旅人のままだった。
誰しも顔見知りを、近しい者を、疑いたくはないだろう。
ライヒアルトもまた旅人という縁薄い者が人狼であれば、と
何処かで思い、昨夜彼の部屋へと足を運んだ。]
ゼルギウスというのか。
[人狼かもしれない、ひとかもしれない。
それ以前に、彼はゼルギウスという名の旅する者。
名を知り、個を意識すれば、心はじわりと重くなる。
ずっとこの村に住んでいる者からすれば、
己は旅人に近い存在であるのだろう。
重ねそうになるのを感じて、考えぬように意識する。
二階の廊下でイヴァンと会ったことをエーファに伝えれば、
まだ無事を確かめてないのはユリウスとカルメンと知れるか。]
[ギュンターの持つ朱の対となる蒼は、
エーファの眸の色でもあり、
瞬く双眸>>109を少しだけ眩しげに目を細め見詰める。
応えを聞けば、安堵したように表情が和らぐ。
この少年に願い託したものはきっと重い。
けれど彼なら言葉通り応えようとしてくれるだろう。
強がることに慣れていそうな彼を支えられればいいが、
もしまだ終わっておらず、人狼がいるのであれば、
ギュンターの私室で蒼花と名乗った相手の中に在ることとなり
己に残された時間は限られているのだろうと知れて。
感謝と、謝罪がエーファに対して浮かぶ。
言葉を選び悩むうち、肩書きでなく名を呼ぶのを聞き]
――……、
ありがとう、エーファ。
[自然に紡がれるのは感謝とどこか嬉しそうな微笑み。]
[オトフリートの声>>98にエーファがこたえる声>>110が聞こえる。]
では此処は任せよう。
他の者の安否と、外の様子を確認してくるよ。
[二人にそう言い残し、厨房を出て、
言葉通り、ユリアンとカルメンを探してから、
未だ氷の堤に閉ざされた外の様子を見にゆく。**]
─ ビルケ視点・回想・厨房 ─
(>>10続き)
[ビルケは指示を守って待っていた。
鼻も耳も、もはや元気だったころのようには利かない。
それでも、人間より鋭敏な犬の耳は、ときおり別室の物音を拾う。
湖の氷りつく音>>0:#3はもっと大きく、わかりやすく響いた。
ビルケは敷物の上に伏せ、耳だけを動かして周囲の様子を探る。
それほど長くは待たされなかった。
厨房の勝手口が開き、外の冷気が入ってくると同時に、若い主の姿も戻る>>13。
だが、考えごとをしていて、彼女がのそりと身を起こしたのにも気づかないふうだった。
ぶつぶつとつぶやきを残し>>14、厨房を出ていってしまう。]
─ ビルケ視点・回想・厨房 ─
[どこか慌てた様子のイヴァンがやってきて、調理中のエーファに何かを伝え>>68始める。
「ゼルギウスさん」>>72
という聞きなれない単語は誰かの名前だろうか?
エーファとの話が終わると、
「ビルケ、ユリアンのところ行くぞ」>>68と呼びかけてくるが、
イヴァンからは何か不吉な気配を感じた。
ビルケは首を傾げながら、これは何だろうかといぶかる。
数日前からこの屋敷に漂っている、匂いでも音でもない、不吉な空気。
たとえるなら、この館の地下の食料庫>>19のような、ひんやりと冷たい、閉ざされた感じの……。
ビルケはふんふんと鼻から息を押し出す。]
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