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―厨房―
[浴室から戻った男がいつからそこにいたのか、話し込んでいた二人は気付かなかったかもしれない。
様子を見て声を掛けたなら、エーファは少し驚いた様子>>110で、思い出したかのように食事の仕度を始めた。
その様子を見たライヒアルトが一言言い残し厨房を離れる>>123のに]
お願いします。
俺もまだ他の人たちに会っていないから。
[そんな風に頼んで見送って、エーファが遠慮がちにジャガイモを見つめ「皮むきを」と言うのに頷いて見せた]
それくらいならお安い御用だよ。
幾つくらい剥けばいい?
[問いかけて、必要なぶんだけを一度洗って皮むきを始める。
大事な指を傷つけないよう、少し慎重ではあったけれど
纏う気配は、それとはまた違ういろを孕んでいる]
ねえ、エーファ
[ぽつり、男が名前を呼ぶ。先程までと少し違う声音で]
さっきの話、少し聞こえたんだけど……
そうか……君が
「見出すもの」だったのか。
[くつり
喉の奥で笑うような声を零し、皮を剥きながらエーファを見遣る。
どこか楽しげに口元を三日月に歪めて目を細める。
その様子は、どこか危険な物を滲ませていた。*]
[夢の話はユリアンの支度が済むまでお預け。
急かすことなく待っている間、それとなくユリアンの様子を窺った。
昨日、耳が聞こえないと言っていた時のような虚ろな瞳ではなく、顔色も調子を戻したのが分かるほどの明るさを伴っていた>>113。
風邪がすっかり良くなったのは事実らしい]
うん、聞かせてくれ。
[そうだった、と紡がれ始まる夢の話。
語られるそれに口を挟むことなく聞き入った。
同じ夢を見ていた、という言葉から始まった内容は、歌い手が襲われた後に聞いたものとほぼ同じ。
言葉を探す様子にも急かさず続きが紡がれるのを待ち聞き続けていると、以前よりも詳しい話を聞かせてくれた]
接点のない人が夢に出てくるってのも不思議な感じだよな。
思い込みもあるかもしれねーけど……それにしても、っても思うわ。
[話を聞いて、うーん、と唸ったのだが]
《ぐぅぅ》
[腹の音が思考を妨げた]
………一旦下りて飯食うか!
[誤魔化すように言って、広間へ向かおうと誘う]
[腹の音は昨夜衝動を抑えて我慢した結果でもあり、密かに顔を顰める。
また、ユリアンの話が当初と異なるものとなり、イヴァンは以前カルメンと話した計画が使えなくなったと判じた。
その判断を直ぐにはカルメンに伝えられなかったのは、空腹によりそこまで頭が回らなかったため]
それって、旅人さんは人狼だった、って意味なんじゃねーか?
ほら、『幻燈歌』でも人狼のことを「月のいとし子」って言うだろ。
[夢で自分が教えた云々はひとまず置いて、過ぎったことを言葉にしユリアンの反応を窺う。
ユリアンの夢は実に奇妙ではあったが、その話の中で困惑以外のものを得た気がした]
違うかなー、そう考えると碌に接点無いのに夢に出てきたことも説明付くと思うんだが。
[ただ、その考えに自信はなく、語気は弱いものに]
んーじゃあさ、それ以外の人はどうだ?
他に人狼じゃないかと思う奴はいる?
[そう問えば、自分とエーファは違うと思っている>>120と告げられた。
疑われていないと知ると、イヴァンの顔にも安堵の色が滲む]
モリオン? そーいやアイツいつもビルケから逃げるっけ……。
[犬は狼に連なる。
動物というものは人以上に聡い時がある。
ユリアンはそう言うことを言っているのだろう]
うん? 見たのは覚えてるのにいつ見たか覚えてねーのか?
[なんだそれ、と立ち止まるユリアンに合わせ立ち止まり、訳が分からないと言うように首を傾ぐ。
しかし直ぐ、思い当たるように声を零した]
…あ、覚えてないってことは昨日か?
[そしてまた昨日の顛末を伝えるかを悩む]
うーん……やっぱ、言っとくか。
なぁ、ユリアン。
さっきお前、寝ながら頭打ったって言ったろ。
あれさ、寝てる時じゃねーんだ。
多分頭打ったから昨日のこと覚えてねーんだと思う。
で、さ。
あー、その。頭打つ前に、な。
[記憶が無い原因を、推測ではあるが告げて。
その前のことを伝えるのに少しばかり言い淀んだ]
覚えてねーなら言わない方が良いんかなって思ったんだけど…。
でもさっきの夢の話と無関係じゃねーかもしんねーからよ。
落ち着いて聞いてくれよ。
[一つ、前置く]
………旅人さんがさ、死んだんだ。
でも人狼の手によって、じゃない。
人の手、
ユリアン、お前の手で、だ。
[夢が示した者の死が、誰によって齎されたかを告げた]
あの時のお前、何かぼーっとしててさ。
俺達の声も届いてないみたいで。
でも旅人さん刺した後、俺になんか訴えようとしてたんだ。
そん時は何を訴えてるのか上手く読み取れなかったけど、もしかして夢のこと言いたかったのかなって、さっき話を聞いて思った。
旅人さんが人狼だ、ってことを。
[そこまで言ってユリアンの反応を見る。
ところどころ、端折った部分はあるが、話を聞いてユリアンは思い出したりするのだろうか。
言わない方が良かったかなぁ、と思う部分はまだあるが、知らないままでいるのも、と思う部分もある。
告げたことがどう作用するか、イヴァンはユリアンに意識を集中させた*]
[身を案じた呼びかけは、>>*18返ってきた聲で安堵の吐息に染まる。
問いかけを返されると、少しだけ間を空けた後]
…一度、花を食べてしまったからかもしれないけれど。
辛かったわ。
[昨夜の衝動を今夜も堪えられるかと聞かれたら、多分無理だと思う。
けれど日が高く昇っている今は嘘のように落ち着いているから、イヴァンが続けて話す聲には驚きに目を瞬かせた]
そう、なの?
[イヴァンの方が衝動が強いのだろうかと、案じる思いに顔を曇らせる。
女と彼の違いは何か、もしかしたら朱花の心臓を身の内に取り込んだことで満たされているからかもしれないが]
……出来るだけ、ライヒアルトさんから離れていた方が良いわね。
[とは言ったものの、不自然に避けることも出来ないだろうと、息を落とした*]
[男は種を蒔く。疑惑の種、疑念の種を。
考えてみればいい
男がここに来た夜に橋が壊れた事
あの朝、何故わざわざ外に出て歌い手を見つけたのか
そして、ギュンターが襲われる以前に
彼が朱花だと知っていたのは誰か
不安に水を撒き、不信の種を蒔く
まだ、彼が「彼ら」を見つけていないのならば。*]
そっか。
…流石に、今日も我慢、ってのは無理だな。
[恐らくそれはカルメン>>*20も同様だろう。
昨日耐えられたのはきっと運が良かったに違いない]
あぁ、腹減ってしょーがねーんだ。
一昨日喰ったのも少しだったしな。
[案じる聲>>*21に返る肯定。
普通の食事をしても満たされない、欲求のようなもの。
それを抑え切るには危うい状態にある]
上手いこと離れてられれば良いんだけどな…。
まぁ、何とかしてみるわ。
[向こうから用がない限りは都合をつけて近付かなければ良いだけのこと。
長く傍にいなければ良いと言うのもあり、いつもの楽観的な雰囲気で言った*]
…えぇ。
昨日は我慢できるって思っていたんだけど…
[>>*22届いた聲に、苦く浮かぶ表情を伏せて隠す。
日を重ねる毎に感覚も鋭くなってきている様で、きっと今夜は戸を閉じ切っても花の匂いを嗅ぎ取れてしまうだろう。
その上で堪えられるとは、とても思えない]
…おなかは空いてないのに、花は食べたいなんておかしいわよね。
[聲を共にしている彼と現状異なるものだと知らず、呟いた]
[女が確認するより早く、飢えを訴える聲が届く。
それは女の抱えていないもの、だからこそ彼が自分よりも強い苦しさを抱えていると解り]
……大丈夫。
イヴァンのこと、信じてるから。
[自分が不安を呟いても、何も状況は変わらないから。
後ろ向きなものではなく、前を向いた本心を聲に乗せた*]
─ 厨房 ─
[名を呼んだ事で紡がれた言葉と、見えた笑み。>>122
それに、少年もごく自然な笑みを浮かべる。
祖父は名士と慕われていても、他所から来た旅人の子である自分はどうしても周囲との間に線を引いてしまっていて。
名前で呼べるようになるというのは、時間のかかるものだったから。
ごく自然にそれが出来たのが、それが齎した結果が、なんだか凄く嬉しかった]
あ、はい。
そっちは、お願いします。
[確認してくる、と外へ向かうライヒアルトを見送って。>>123
は、と零れたのは小さな息]
とりあえず、10個くらい。
余る事はないですから。
[幾つくらい、という問いにこう返し、自分は野菜籠から人参を取り出して]
……ぐぅ。
[しばし、にらみ合うのはいつもの事。最終的には頑張って皮むきを始めるのだけれど]
……え?
[そんないつもの人参とのにらみ合いが一段落した所に向けられた声。>>131
これまで聞いていたものとは違う響きに、蒼い瞳がひとつ瞬く。
黒猫が、警戒するように喉を鳴らして少年の足元にすり寄った]
……「見出す者」……って、あ、そか。
『幻燈歌』、じゃ、そういう……。
[ぽつりと呟きそれから、聞かれていたのか、と認識する。
同時に、とある可能性が過った。
『ひと』と認識で来ているのは、ふたりだけ。もしまだ終わっていないとしたら、彼もまた『可能性』の中に含まれるのだと]
…………。
[逡巡は沈黙となってその場に落ちて、それから、少年はひとつ息を吐く]
……で。
そうだって言ったら、どーすんの?
[こてり、と首を傾げる姿はどこかあどけない、けれど。
見上げる蒼の瞳には、揺らがぬ意思の光が覗く。
やり取りは短かったけれど、蒼花持つ者とのやり取りは少年に信という名の支えを与えていた。
それが、祖父に対して抱いていたものにも近しい、とは。
彼の人が朱花たるを未だ知らぬ身には、気付く由もないけれど。*]
─ →厨房 ─
[女が目覚めたのは、他の滞在者よりも遅い時間だったらしい。
部屋を出て、廊下を見回すも人気は無く。
この時間ならもう皆食事している頃だろうかと思いつつ、まずは居る可能性の高い厨房へと向かっていって]
…皆、居るの?
[中に誰がいるか確認するより先に、声をかけた*]
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