…わかりません。
[左右に一度、首を振り]
ただ、貴方を喪うのは、――嫌だと。
貴方を傷付けるもの全てが、なくなってしまえば。
[伝う緋を掬われるのに、小さく震え]
主、
[ゆらり揺らぐ瞳]
穢れます。
……ま、その点は否定しねえよ。
[村一つ、と言われれば、こう返すより他はない。
自身にも、同じような経験があるが故に]
大丈夫じゃないってのも問題な気がするが……。
殺せるか、ってのはまた、穏やかじゃねぇな?
ま、真面目な話。殺ってやれん事はないがな。
[その身に、魂に、『獣』を帯びつつも。
清められた銀の剣を振るう事を厭わぬ身であれば、それも叶わなくはない。
とは、言えども]
……お前さんを殺ると、もれなく俺がそっちの従者に殺られる気がするがね。
そう、凹みなさんなって。
……ま、これにゃコツがあるからな。
時間やら何やら、ちょっとした工夫で、美味くなるもんだから、さ。
[精進、という物言いと真剣な様子に、軽い口調でこんな事をいい]
有難う
[濃い目の紅茶を受け取って、青い顔が少し笑う。]
[苦めのそれは意識をはっきりさせるのにちょうど良くて。]
…そんなに力まなくても、大丈夫だ。
[と、降りてくるクローディアの姿。]
[何か嬉しげなのはもしかしたら会話を漏れ聞いたのかもしれない。]
[払われなければ]
[口は緋に触れた侭]
[くつり]
[不意に零れた笑い声は]
[篭った音で肩を震わせる]
お前の望みは、私と相反するのだな。
私は……直にでも。
[何をとは]
[言わない侭]
……叶うなら、お前に。
[最上の望みは]
[口頭に上りかけて]
[降りてきたクローディアに、よ、と言いつつ手を振る。
妙に嬉しげな様子に、何となくため息をついて]
なんつか……平和だな、妙に。
[ぽつり、呟く。
その短い言葉は果たしてどこに、何にかかるのか]
あのとき程に、家を呪ったことは無い。
[一面の緋色]
[横たわる抜け殻の中で]
[背を緋に染めた]
[緑の髪を見たとき程には]
大丈夫では無い、ずっと前から。
……死にたくて仕方が無かったんだ。
如何考えても大丈夫では無いだろう?
[『殺ってやれん事はない』]
[其の言葉に]
[零れるのは安堵の気配で]
……其の時には。
私の正体を告げれば良い。
……私が彼から全てを奪った張本人だと。
[零される笑いに。
浮かぶは困惑の色]
…………マイルズ様?
[揺らめき、震える。
声も、瞳も、身体も]
俺に…?
[声は僅か掠れるか]
[払わずとも、穢れるからと。
もう片手を伸ばすも、触れはせず]
昼間……?
昼間、なんかあったんか?
[シャロンの言葉に、一つ瞬いて。
訝るような問いを。
昼間、馴染みの雑貨屋─ついでに、情報源としても付き合いはあるわけだが─からある程度の話は聞いたものの、そのためにこの場を離れてから、何があったかまではわからずに]
何だか…
[ふと考える]
[名前を忘れたのか聞いてないのか。]
[まぁどちらでもかわないかと思い]
犬嫌いと犬好きの間に妙な険悪な雰囲気が。
[…とても酷い覚え方だった。]
ずっと……ね。
そりゃ確かに、大丈夫じゃねーな。
[言いつつ。
ああ、正反対だな、と思う。
自分はその時から、死ぬ事を良しとできなくなっていたのだけれど。
それを告げる必然はないと、言いはせずに]
それで……切れるような、絆……か?
[代わりに投げるのは、静かな、問い]
どんな覚え方だ、それ?
[呆れたように言いつつも、誰と誰だか把握できるのは、一体どうなのかと]
……険悪……ねぇ。
[ある意味、それはそれで相反する存在同士っぽいから仕方ないんじゃ、とは。
さすがに、口にはせずに]
……ま、どっちも明らかにワケありだしなあ。
[声は直に消え]
[漸く手から口を離せば]
[其れは]
[紅のように唇を染めて]
……今は止めておこう。
其の内に……
[気付くだろうから]
[言葉は途切れ]
[口許を染める緋を甲で拭う]
[鳶色の瞳に部屋の灯が映り込み]
[其れは金色にも見えるだろうか]
[其れが『逃げ』なのだと]
[恐らくは判って居るのだ]
[耐えられない程に]
[自身が弱いのだとも]
……絆?
私が奪っておいて、そんなことが言える筈が無いだろう。
今は未だ……彼には見えて居ないだけだ。
真実が見えれば……其処で終わる。
[緑の瞳がその色を認めれば、
僅かに彼の身は怯えを抱くか。
伸ばした手は、自らの腕を掴む]
マイルズ様…
[奇妙に喉が渇く。
それでも、]
たとえ何であろうとも。
俺は、貴方の為ならば。
[その言葉は唇から零れる]
…仕方ないだろ、特別覚えておかなければならないわけでは
[少しすねたような口調]
…犬好きの方が何か隙をうかがっているような。
なんというか…
強者の立場にいたような気もしたが。
[だからその代名詞は(略)]
……その辺りの事情は、俺の預かり知らんとこだから、なんとも言えんが。
傍目にゃ、随分としっかりした絆があるように思えるんだがね。
[そこまではごく軽い口調で。
それから]
……怖いか、無くすの。
[問いのような、違うような。
そんな呟きを、小さくこぼして]
まあ、確かに覚えててもイミねーかもな。
[それでいいのかと、突っ込みを入れる者はいないようだ]
……へえ……。
[シャロンの説明と、自身の手にしている情報と。
照らし合わせて、状況を分析]
……ま、確かに、あんまり平和じゃねーかも。
そういうものだ。
どうせ旅にすぐに出る。 動く前に。
[と言ったところで、クローディアの苦笑。]
[少し、困惑。]
…星はまだ動いてないんじゃないのか?
[しかし回答はかえらず]
…平和が良いというのに。
[彼の動作に]
[怯えの色が垣間見えて]
[薄い笑みが浮かぶ]
[何処か奇妙に歪んだ]
[其れは今にも泣き出しそうに見えるかもしれない]
[言葉には]
[何も返さぬ侭で]
……下に行こう。
明日には此処を離れる以上、挨拶くらいはするべきだろう。
[彼の横を抜け]
[階段へ向かおうと]
[触れることは]
[もう]
[出来ない]
旅に。
……そう、だな。
その方が……いい。
[呟くような言葉。
刹那、瞳は伏せられたか]
平和なウチに……な。
[言いつつ。
何かを抑えるように、右手をぐ、と握り締めて]
…?
どうかしたか?
[カルロスの言葉、様子に、怪訝そうなまなざしを]
…タバコも分煙とか言ってたのに吸いながらここに入るし。
何かあったか?
所詮、仮初だ。
[言って]
[小さな笑い声が続く]
[其れは]
[呟きを耳にした瞬間に]
[掻き消えて]
……本当に嫌な男だ。
何処まで見抜くつもりだ……
[声は何処か]
[震えていたかもしれない]
[それを捉えれば彼の表情もまた歪みを。
主とは逆に微か儚い微笑のようでもあるが]
[その表情を見るものはいない]
…わかりました、我が主。
[開かれる扉。通り抜ける身体に。
幾度目か伸ばした手は、僅か掠め]
[けれど掴み取る事は出来ない]
ま……実体験、って事にしといてくれや。
言ったろ? 色々と。経験はあるんだって、な。
[震える声に返す言葉は、僅かに自嘲を帯びていたか]
……ま、どんな選択肢を撰ぶのも、お前さんの自由だが……。
てめえの心情誤魔化すのは、後味が悪ぃ。
それだけは、言っとくぜ?
いや……なんでもねえよ。
[問いへの答えは、長い嘆息の後。
……その様子を見るクローディアは、僅か、不安めいたものを覗かせたやも知れず。
浮かぶのは、苦笑]
…なんでもないようには見えないが。
[首をかしげ。]
何か、甘いものでも食べるか?
チョコレイトならあるが。
[クローディアの様子にも首かしげ。]
[チョコレートを二人に。]
[僅かに掠める手を]
[気配で感じ取れはしたけれど]
[立ち止まることを]
[心の何処かが望んだけれど]
[足は真っ直ぐに]
[階段に続く廊下を行く]
[一瞬の躊躇いすら見せずに]
……ああ、聞いたな。
[其の後]
[何か言葉を探すような間が空いて]
[結局何も続かずに]
[零れたのは自嘲]
……どちらも本心だ。
だからこそ……性質が悪い。
ま、気にしなさんなって。
[明るい口調で言いつつ、不安げなクローディアを見やる。
星詠の少女。
彼女には、異なる色彩の瞳が見えるやも知れず。
それに対して向けるのは、その色彩に似合わぬ、静かな笑み]
……チョコ、ね。
甘いのはあんまり食わんけど……せっかくだし、もらっとくわ。
そりゃまた、なんとも……。
厄介なこった、な。
[自嘲を帯びた言葉に、やれやれと]
……俺は選べなくて、結局、なくした。
[何を、とは、言わず]
取りあえず……信じてみるのは、悪くないと思うがね。
[さらり、こう、付け加えて]
[クローディアはその笑みにも何か、どこか、少し不安を含む顔。]
[…そして何処か少し、安堵も持っているのだろうか]
まぁ別に構わないが。
…要らないなら返せ。
[ふと目を閉じ、開けば。
恐らく星詠の少女にも、いつもと変わらぬ色彩が見えるか。
不安げな彼女に、心配すんな、と唇の動きだけで伝えて]
いや、いらねーとは言ってねーって。
ありがたく、もらっとくよ。
……ありがとさん。
[告げる刹那、その表情は*いつになく穏やかにも見えて*]