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[子どもは肩にとまった小鳥を見ます。
それから、螢火を見ます。
最後に、旅人を見ました。]
黒いお花が咲くと、いのちが消えるの。
消えてしまうの、消してしまうの。
だから、かなしいの……。
[でも、と。
子どもは一度、言葉をきりました。]
……それでも、探さないといけないのが、哀しくて。
……見つけた時に、苦しかった……の。
[声の調子が少しずつ、変わってきているようでした。
子どもの声から、大人のそれへと。]
[小鳥はぴぃと鳴きました。
旅人はなんにもいわずに、こくり、こくりとうなずきます。
子供の声が変わっていくようなのに気付くと、ゆっくりと立ち上がりました。]
それは、そのひとが狼だからか。
[ことばが途切れたころに、旅人は口を開きます。]
[扉を叩く音にゼルマは我に返りました。
ベリエスの声がしています。
まだ日が暮れるには少し時間があります。
心を決めてゼルマは扉を開けることにしました。]
はいはい、ベリエス。何かと物騒だから、鍵を掛けたのよ。ちょっと待ってて、今開けるから。
[何食わぬ顔で扉を開けて中に老人を請じ入れるのでした。]
――宿――
おお、ありがたいのう。
[おじいさんはゼルマの考えなど知らないで、宿の中へと入ります]
ばあさんでも、やっぱり人狼は怖いんじゃなぁ。
[鍵の掛かっていた扉を振りかえって、おじいさんは言いました]
ああごめんなさい、こんな時だから、食事の支度は始めたばかりなの。少し待っててくれない?
[ゼルマはベリエスに上等のワインとグラスを出し、食事が出来るまで待ってくれるよう頼みました。]
[その頃、木こりは小屋の寝台で大いびき。
どんどん扉を叩く音に邪魔されます。]
……おう、どうした。
ドロテアさんが?
わかった。
[鳴らなかった朝の鐘に、村人が見つけたのでしょう。
黒い森で鳴く鴉を睨み、木こりは棺を運びます。
棺にちょっぴりのドロテアを収め、弔いの鐘が響くのです。]
[立ち上がる旅人を、子どもはじっと見つめます。]
……そうですね。
そうかも、知れません。
[次に、声が上がった時には、そこには子どもの姿はなくて。]
……信じたかったから、余計に、どうしていいか、わかりませんでした。
[『神の贈り物』の名を持つ娘が、困ったように笑っていました。]
おお、わかったわい。
[おじいさんは高級そうなワインが出て来たことに上機嫌です]
気が利くのう。
[そして、ワインをグラスに注ぎ飲み始めます]
/*
残り1時間……上、動きましたわね。
そして、見事に現実逃避から引き戻されましたわー。
あのまま、子どもモードで消滅するのもありかと思ったんですけど。
[ベリエスに待っていてくれるよう頼むと、ゼルマは裏口からそうっと抜け出して教会に急ぎました。
もしベリエスが狼なら、一対一では絶対に勝てません。
とりあえず離れたかったのです。]
どうしよう。でも、多分次はあたしだ。
[ゼルマは精一杯足を速めました。]
〔牧場に戻って、寝て起きて。
変わらず月は落ちて日は昇り、またそれの繰り返し。
人狼がひとりいなくなっても、羊たちはなんだか落ち着きない。〕
アリーにベリー、シリーにデリー、イリー、それからフリー。
……やっぱり、面倒を見るのはとってもたいへん。
〔見よう見まねでは上手くいくはずもなくて、アナは困り顔。〕
いなくなった人の代わりは、そう簡単には出来ないね。
ううん。
誰も、まったく同じ代わりにはなれないんだわ。
〔独り言みたいに、誰かに話しかけるみたいに言って、アナは丘の上で、鐘の音を聞く。どうにか羊たちを小屋へ戻して、普段通りの服を着たアナは、灯りの消えたランタンを手にして、村へと向かっていった。〕
[おじいさんは、ゼルマに言われた通りに宿で待っているようです。
ゼルマがそこを抜け出したことには気付いていません。
ワインをがぶがぶ飲んで、良い気持ちになっています]
毎日一人食われてる。
今日はドロテアさんが食われた。
だったら…爺さんは食われてねえさ。
やっぱり食った方なんだ。
[木こりは確かめる為にベリエスの家へ向かうのでした。
もちろん、そこに無残な姿などないのです。]
[旅人がひとつまばたく間に、子どもは元のドロテアになっていました。
小鳥はぱたぱた羽ばたいて、旅人の肩に戻ってきます。]
そうか。
ひとりでなやんで、辛かったろう。
[旅人は驚いたようすもなく、ただそう続けるのです。]
[教会に着いたゼルマは、鉄に似た匂いを嗅ぎました。
それは、おそらくはドロテアが無事でない証拠。
折りしも木こりがドロテアだったものとドロテアのメイド服を棺に納めるところでした。]
ドロテアは、襲われたのね?
[うなずく木こりに老婆は訴えました]
ベリエスが、宿に来ているの。今はワインを出して呑んでもらっているけど。
〔道はとってもしずかなもの。
アナは迷わず教会までたどり着く。
黒い服を着た人達がいたけれど、その数は、最初に比べて僅かなもの。
誰も、誰かの弔いのために、外になんて出たくないようだった。〕
今日の鐘は、誰のためのものですか?
〔そんなことを聞くアナに、いったい誰が答えたやら。〕
独りきりは、慣れてるつもりでしたの。
だから、きっと、大丈夫だと思い込もうとしましたけど……ダメでしたわ。
[小鳥に向けて、少し笑って。
螢火に向けて、手を差し伸べます。
娘が抱えていた部分を戻した螢火は、一回り小さくなっていました。]
[ゼルマの目指すのが教会と見て、木こりは中へと戻ります。
棺の傍らに立ち、ドロテアだったものを見せました。
老婆の問いに頷き、訴えに顔を顰めます。]
爺さんが来てるのか。
やっぱり食った方なんだな。
ドロテアお姉さん?
……牧師さまが食べてしまったのかしら。
ううん。
お姉さんは、アナとおはなししていたもの。
とっても、へん。
どうして、ドロテアお姉さんだったのかしら?
〔ほんのひとときお祈りを捧げたアナは、不思議そうな顔。
今度はどこへ向かおうか、そんなことを考えて、ひとまずはと宿へ行く。〕
[ドミニクに応えて]
そこのところは私には分からない。でも、あなたの言葉には裏が無い気がする。
あら、あれはアナ?
[老婆は自分の来た道を逆方向に行く小さな人影を指差しました]
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