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[相変わらず現実感のない風景。]
[夏の夜に咲き誇る桜、その上の子供。そしてその下に集う学生たちを遠巻きに眺め。]
あぁ…これはまだ夢よ。きっと、そう。
朝が来れば、すべては元通り。
側に、という言葉。
それに、桜色の瞳はゆる、と瞬くか。
「……ひきとめたかったの?
あの子らの清めを得られねば、あの子らに喰らわれてしまうのに。
永遠に消えてしまうのに」
続いた言葉は、やはり、楽しげな響きを帯びて。
奪われるの?
桜花は奪う者なの?
[桜の少女から感じる、相反する感情に不快を表しながら]
じゃあ、奪われないようにしないとね。
折角手に入れた力なのに、奪われるのは嫌だ。
……外。
[緩く、校門の外へと視線を向ける。ぽつりと鸚鵡返しに言葉を返して。
出られなかったと告げる相手に、やっぱりそっか、と
頭の端でチラリと思った自分には気付かないフリをする。]
…大丈夫ッスか。大分、泥まみれッスけど。
[立てます?と、ゆるり腕を差し出す。
桜の少女から響く声は、聞えているのか否か、
チラリと視線を送るだけに留め、直ぐに再び視線を逸らす]
[少女は盗ってなどいないと言う。意味など分からない。
ただ、もう戻って来ない。それだけが、]
……友梨。
[もう一度、失ったものの名を呟き、
今はもう何もない、桜の根元に目を向けた。]
[言葉の意味などわからない。
ただただ、 奪ったのはこの少女だ と。
頭の中にはそれだけが。
今はまだ、かれをころしたのが誰かとは考えられず。]
まだ……っ、言ってなかった、のに……!
[願いは一つだったのに、それもいえなかった。
にらみあげる目からは幾筋か涙が伝った。]
(悲しみと、叶わぬ願いと。)
[フユは、辺りの様子を見て
空気の匂いを嗅ぐようにして目を細めた。]
……こんな
お化け少女の話なんか聞いたってしょうがない。
[フユは踵を返した。
サヤカの横を通り過ぎるとき、軽く手をあげ
彼女の頬を打とうと平手を向けた。]
…………。
[きつく、唇をかみ締める。
桜花の言っている事は、『理解』はできていた。
魔によって死を与えられたものは、新たな魔となるのだと。
それを阻むための清めを与えられるのは、自分なのだと。
わかっていても、それでも。
大切なものを奪われた痛みは、理屈では癒せないのも、わかっていた]
……っ……。
[ぎり、と。噛み切りそうなくらい、きつく唇をかみ締めつつ。
手は無意識の内にポケットの中、ミッドナイトブルーの携帯を、そこについた小さな鈴を握り締める]
[同じように、出られぬ校門の外へと眼差しを向ける。
差し出された手にも、自らの手を伸ばす事はせずに、
首を振って、俯いた。]
…じょぶ。
[小さく、返して。]
リュウ、大丈夫かな。
もしかしたら、外なら、逆に、安全かな。
[問いかけるというよりは、そう、願うように。
地に転がっていたボールを自分の傍に寄せた]
[涙を止めることなど出来ないままに、桜から目を離す。
振り返る先に、桜の少女の視界の先に、見知った顔の数々。
だけれどどこかおかしい。
あぁ、それもそうかと思う。
ひとがしんでいるのだから。
彼女にとっては義兄が
彼にとっては、妹が
では他の皆は……?
もし失っていないのなら、とても――]
桜花は奪わないの?
[きょとんとした声で聞き返す。
それでもとりあえずの理解は示して]
なら桜花には手を出さない。
でも司はいつか絶対に喰らう。
[その存在を見極めようと、この場にいる者へ視線だけを巡らせる。
一人は多分目の前で問答を交わしているこの男。
もう一人はどこにいるのだろうか]
向けられる言葉も感情も、桜色の少女にとってはなんら感慨あるものではないらしく、その笑みは絶えない。
それでも、『お化け少女』という言葉には、何故か。
嘲るような、慈しむような。
そんな、矛盾を湛えた笑みをふい、と浮かべて。
「始まりも終わりも全て、導くのはひとの子ら。
桜花はただ、見届けて巡らせる」
吟ずるような言葉と共に、鈴がリン……と鳴って。
[殴りつけた手は、土の上。
こわばったまま握ったまま、泣いたまま。
戻した視線の先、もう、樹の上の少女は見えなかった。
ただ桜の花びらが散り、それはまるで一枚の白い布のように彼女には見えた。]
…また、消えた。
[溜息をつく。
周囲の先輩達に困惑の混じった視線を投げて。
涙を流し続けるマイコに手を伸ばしていいものか悩んで]
舞ちゃん…。
[とりあえずは、そう小さく声を掛けた]
[そっと手を伸ばす
手がゆっくりと開く
花びらに触れる
白い白い花びらは、確かに質量を持って
(いるように彼女には感じられて)]
かえして
[それはかれを?
それとも――始まりを告げてしまう前の、日常を?]
[フユが踵を返すのが見えた]
しょうがない…か。
[確かにそうなのかもしれない、話を聞いた所で、理解出来るのはただ、起こっている事態の異常さだけで、自分達を助けるつもりがある存在とも見えない。死者を輪廻に返すという言葉は、寺の子に産まれた自分には受け入れやすくはあったが、それでも…一方的な理屈に聞こえるのも確かだった]
………
[それでも、最後まで、桜花の言葉を聞いて、その姿が消えるのを見届けてから、再び視線をマコトに向けた]
[サヤカが避けようとしなければ、フユは彼女の頬に手を振り下ろして]
サヤカさん。
ぼーっとしてたでしょう。
これ。夢じゃ、無いんだよ。
[夢に逃避することなど認めないと、
ひとには聞こえない声で憑魔が囁く。]
[桜花の姿が消えた事で、相反する不可思議な感覚からは解放されるものの]
…………。
[違和感は、消えなくて。
ぐるり、見回した視線が、ちょうどこちらを見ていたヒサタカのそれとぶつかるだろうか]
──、ん。
[短く返る答えに、緩く頷いて。
差し出した腕を引っ込める。
そのまま、ポケットへと突っ込んだ。]
…リュウなら、大丈夫だと思います、けど。
いちお、探しに行きます?
[座ったままの相手に視線を合わせるように、屈みながら
ゆるく首を傾げて、問い]
舞ちゃん!
[傾いだ身体に慌てて手を伸ばす。
どうにか倒れる前に支えたものの、運ぶことは流石に無理そうだ]
天野先輩…。
[困ったように声を掛ける]
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