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ええ……俺も、そのつもりで戻ってきたわけですから。
[ヒサタカの言葉に、一つ頷いて。
マイコが疑いを向けているのは感じつつ、それには気づかぬ振りをして、三階の自分の部屋へ向かう。
傷は癒えていても、体力までは回復しきってはいない……というか、食事を取っていなかったのが今更のように効いてきたのか、やや足元がふらついた]
だけど。
だからアンタを殺せなかったんだ。
アンタがいっつも馬鹿みたいに素直にものを言って、
馬鹿みたいに笑うから
きっとなんて思って、だからつい優しくなんてして
[両手をかけ、力を込める。]
もう良いんだ。
[憑魔という存在が膨れ上がる。
膨れ上がり、沸き出して、それは風のように
榎本芙由の髪を、夏なのに咲いた桜の花を揺らして吹き抜ける。]
私は憑魔だから。
ひとの願いを叶える。それが間違った方法であっても
私の願いは憑魔にとって都合が良かった。
憑魔は人を殺し喰らう
私の望んだ静寂を得る為の方法のひとつは人を殺し、殺して殺し尽くすこと
たとえそれが望んだやり方でなかったとしても
そんなことはどうでも良い。
[殺意だとか、悪意だとか
そういったものとないまぜになって、憑魔としての力は夜風の如く吹き抜けてゆく。]
お前を殺して
司を殺して
すべてを
殺す。
[マコトが自室へ向かうのを見ると、小さく安堵の息を吐いて、マイコに向き直る]
………
[暫しの間、言葉を探す。しかしかけるべき言葉が見つからず嘆息]
[部屋に戻り、はあ、と息をついて]
……元々、不安定になっていたところに、『司』の力が逆流して……かなり、均衡を失している……。
あのままだと、新たな『憑魔』にも、なりかねないかも知れない……。
[そんな呟きをもらしつつ、着替えを引っ張り出す]
……手持ちの胴着は、これが最後、か。
[そんな呟きをもらした直後。
不意に、風が警告するように、ざわ、と揺れた]
……この感じ……!
[掠めるのは、嫌な予感。ともかくも、と着衣を改め。
しばし悩んでから、ベランダへ]
[首に、圧力が加えられる。
零れる涙は、苦しさのせいか]
………っか、やろ、
よく、ねぇ、…じゃん、か…!
[憑魔としての姿を現しても尚、
呼吸がままならなくなっても尚、
声を投げかけようと。
震える手を持ち上げて、
フユの―――憑魔の手を、掴んだ。
何も変わらないように、思えた]
[手にかける力が徐々に強くなる。女子高生のそれを超えてゆく。何もかもが、時間から、空間から、腕を伸ばした距離から睨むようにしている目も既に変わっていて、その場には止めるものも居ない。]
[ベランダの端、目を凝らす。
強い、気の流れが意味するものは何か、と思考を巡らせる]
今、残っているのは……そして、今、寮にいない……のは。
[答えは、すぐにはじき出され。
直後に、聞こえた声にはっと背後を振り返る]
[匂いを辿ったのか、それとも本能の成せる業か…子犬は、ショウのいる場所に向かって、迷う事無く駆けていく]
[主を案じて呼ぶ鳴き声が、ショウの耳にも届いたろうか]
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