― 宿一階 ―
[言葉は目に入ってくるが、理解するまで時間がかかる。
フォルカーとクロエが何やら言い合う理由が分らず、眉を潜めながら様子を見ていた。
それが殺しに発展するとも知らずに。]
っ……。
[クロエの喉にブローチが突き刺さる。
その程度の傷、と一瞬思ったが。
色を失っていくクロエに目を見開いた。
ほぼ同時に、黒と告げるフォルカーの言葉が目に入る。
立ち上がりかけて、ぐらりとした視界に再び椅子に落ちた。
ヘルムートはフォルカーの声を聞いていたか。
隠していた事を知られる事もあったかもしれないが。
なにか尋ねられかけても、今は疲れたように、椅子に深く腰掛けて動けなかった。]