[それでも尚、選べずにいる自分がいた。隠し通すのか、開き直るのか。
嗚呼、「人狼のルールに則り、独断で処刑を執り行いました」だなんて、受け入れられるはずがあろうか。
けれど、この、人の少ない場所で、下手な嘘はすぐにバレるに違いない。
偉大なる先人は言った。お前の役職が何にせよ、自らを偽るのは最低限にしておけ、と。
よって、楠木裕樹は、途方に暮れたようにも取れる表情で、そこに立っていた。
さして遠くもない場所で、男の声>>5が響き渡るまでは。
血に濡れた上着をその場に放り出したまま、どこか浮ついた足取りで、…は声のする方へと足を一歩踏み出す。
白く濃い霧がいつやって来て、いつ晴れたのか。それさえも気にもならないほどに、浮ついた心を抱えて。**]