[銀によって裂かれる傷から溢れるのは、命の紅。
それを見つめる天鵞絨は、静かなまま。
その様子は、一種、異様な様相を呈するか。
刺されたウェンデルの瞳にあるのは、恐怖か怒りか、それとも──絶望か。
その何れであっても天鵞絨は揺らがず。
最後の抵抗か、首筋にウェンデルの手が伸びてきた時も、動く事はしなかった。
伸ばされた手は、服の襟を掴み、僅かにそこ乱してから、力を失して崩れ落ちる。
それによって、顕になった首筋に浮かぶのは、艶やかな朱の茨の蔦。
首を取り巻くように浮かんだその先端は、左の肩と胸の狭間に達し。
そこに、大輪の花──朱花を咲かせていた]