時刻は少し遡る。
精霊界、翠樹王の居住地、緑の森には常と変わらぬ様子で木漏れ日が満ちていた。
「お母さまがしっかりしないからオヤジがつけあがるっていつも言ってんじゃん!
アンタ達二人、周りから何て呼ばれてるか知ってる?
『精霊界の割れ鍋に綴じ蓋』よ、恥ずかしい!」
ヒステリックな面罵を受けても、不遜に指を突きつけられても、翠樹王はただ、首を少し傾けて微笑むだけである。
そんな様子が益々腹立たしくて、
手の中でいまにも握り潰されんとしていた、赤いペンギンのぬいぐるみを地面に叩き付けた。ぼしゃり。
そば殻でも入っているのだろうか。重い音を立てて地面にめり込んだ赤ペンギンに、翠樹王の手がそっと伸びる。拾い上げようと屈んだとき、王の長い金髪が、柔らかく地面に広がった。
「リューディア。投げたら、可愛そう」
赤ペンギンをそっと胸に抱く翠樹王、もとい母親に対して、リディはかつてないほどの怒りを感じた。