[桜を見ているようで、見ていなかった。
死んだ夫によく似ている『あの人』の事が頭に浮かぶ。
史さんの遠い目は、視界の端にぼやけていた]
ふふ、史さん。完璧に覚えたわ。
[口の端をあげ、にやりと笑った。
店で笑った時よりきっと自然だろう。
なんたって、分厚い化粧の邪魔はないのだから]
ああ、芸人さん。
それでさっきあんな事……。
ああ、わかった!
飛び魚の舞ってネタやってるでしょう?
……ちがった、かしら。
[本当に薄っすらとした記憶しかなくて、
史さんの苦笑を見ると言葉尻はすぼんで*しまった*]