[悲鳴のような声は一度も上がらなかった。
だがその部屋の扉は開け放たれていたから、奥の部屋と同じ血の臭いと、何かぶつぶつと呟くような声で、異変は知れるだろう。
入ってすぐの場所にはコップが落ちていて、零れた水が床に染み込んでいた]
[椅子からずり落ちそうな不自然な姿勢は、安否を確かめる為やや乱暴に動かされた所為。
そのお陰で喉元と腹部に走る引き裂かれたような傷が、少し遠目でも確認できる。
その腕のリストバンドまで切り裂かれていたのは流石に偶然だったろうか。
過去の古傷を覗かせる未だ温かい手は、その場にいるもう1人に包むように握られていた]