─夜の泉─[緋色の花は、夢幻の闇の中でざわめいている。 湖面は、麗しき白鳥の姫君が現れて男を魅了しそうな色をたたえていたが、無限に咲く赤い花が、その到来を阻んでいるようにも見えた。]乙女が摘む花は、このように哀しき色をしているのだろうか……いいや、違っていた。多分、違う。[などと、舞踊劇の記憶が、彼の脳裏で微かに揺れる。先ほど聴いたピアノの音色のせいかもしれない。]