[重く閉ざされた扉を見つめ、ぽつり。
その目に漂うのは運命への悲哀か騎士への惻隠の情か。
やがて駆け出して行くクロエとフーゴーを無言で見送った後、意識を近くへと戻した]
リッキー、これ片付けておいて。
[紫に変色したグラスをカウンターの奥の方に差し出して。
水とは異なるグラスの縁の乾きを悟られまいとしたのか、幸い依頼主には気が付かれることはないだろう。
リッキーから了解の返事を得ると、宿の扉が開き顔色の優れない二人が視界に入った。やがて散っていく人達の後。クロエの視線は無言で受け取った]
俺も休ませて貰うわ。
あー……部屋に来てみろ。返り討ちにしてやるぜ。
[それはまだ酒場に姿があるならアーベルと、見えない相手に向けた台詞であったか。
気休めのような言葉を残し、角部屋へと戻っていった*]