─ 二階・客室 ─
[屋敷の主の物言わぬ姿が見出された頃。
旅人は一人、窓辺で空を見ていた]
……朱き花は、導く者。
[ぽつり、と小さく呟きが落ちる。
旅人がそれを紡げた所以は単純で。
ほんの数か月前、同じような状況のただ中にあったから。
彼のいた『場』は、狼が他者を喰らう事によって解放された。
旅人は辛うじて命長らえ、けれど、心を壊して一人彷徨い、この地へたどり着いた。
主が朱き花を宿していると言っていたのは、錯乱する彼を落ち着かせるべく、主自らが明かしたから、というのは他者の知る所ではなく。
零した言葉が広げた波紋、その行く先もまた、誰にも知り得ぬ事。**]