[部屋の奥の…最初は窓から。と思っていたが
張り出したバルコニー。そこに通じるドアを開ける。
夜気が肌に張り付くような冷気となって己が身を包むが、それを無視して、バルコニーから下をそっと覗く。
多分ここは、主がこのバルコニーから庭園を見渡せるように造られたのであろう、大層見晴らしがいい。
……なんとも御誂え向きだ。布を外し、弓と矢を取り出しながらそう思う。
さて、この矢が逸話通りで、しっかりと造れているのならば。これは人を傷つけるものではなく、魔を滅するものだという。
といっても、それは魔が既に同化していたりすると無意味らしいが、そのような御託はどうでもいい。
単純に起こりうるのはいくつかのこと。
アーベルは死なない。魔は死ぬ。
アーベルも魔も同一の存在であった場合はどっちも死ぬ。
逸話は逸話だったらすでに無意味。
自分の造り方がおかしくても無意味。
射れなかった場合は……まあいいや。]