[音を立てながら燃える橋の向こうに、料理長の姿が見えた。誰かを探すように叫ぶような口格好で、どうやら名前を呼んでいるようだった。
その目が遠く、崖のこちら側の自分と合うと、表情はすぐさま変わっていった。人は絶望するとこんな風に表情が変わるのかと、他人事のように遠くから眺めていた。]
あんな普段出さないような声出しちゃって。
(聞こえないけど)
[溜息ひとつ。
未だ何が起こったのか要領得ていないが、事態はえらく深刻だった。
そして炎の向こう側へ逃げ延びた人へ、ひらひらと手を振った。]
ばいばーい。
[そう口を動かして、くるりと背を向けると館へ戻る。
もうここに居ても失うばかりで、得られる物は何もなかったから。]